熊木幸丸(Vo)
自分の表現を信じ続けることに価値がある。ポジティブ思考の裏側に潜む素顔に迫る
「世界中の毎日をおどらせる」をテーマに掲げるLucky Kilimanjaroが、2018年11月のメジャーデビュー以来では初のフルアルバムとなる『!magination』をリリースする。これまで同様に本作でもポジティブなメッセージを発信し続け、「自分の表現を信じ続けること自体に価値があるっていうことは歌いたい」と語るフロントマンの熊木幸丸だが、意外にも彼自身は悩むことも多いと言う。「人間は落ち込むことも不安になることも絶対にある」という熊木は、どのような思考を経て本作を完成させたのか。その素顔に迫った。
■メジャーデビューしてからは聴いた人が前向きになれる歌詞を意識しているそうですが、今作はどういう気持ちで作られたんですか?
熊木 バンドのコンセプトが「世界中の毎日をおどらせる」ということもありますが、僕らの音楽を聴いてくれたみんなが、より豊かな人生を送れるようになればいいなと思って曲を書いていて、それは今回も基本的には変わっていません。ただ今回に関しては、たとえば僕のアイディアと誰かのアイディアは、どっちが優れているとかではなくて、それぞれが違う内容を持っているから、それをちゃんと発信してほしいという気持ちがありました。そうすることで、それがまた違う誰かとくっついて、新しいものが生まれたり、おもしろい世界ができるなと思うんです。自分の表現をすることで、その人の幸せにもなるし、世界の豊かさにもつながるんだっていうくらいの大きいテーマ感で最初は作っていました。
■1曲目の“Imagination”にアルバムとしてのメッセージが詰まっているのかなと思いました。
熊木 アルバム全体としては、新しいことをやることに対してポジティブになってもらいたくて、それをいろんな視点から伝え続けているんです。この“Imagination”はアルバムの要約というか、いい前書きっぽくなっていると思います。
■アルバムで最初にできた曲は?
熊木 最後の曲になっている“ロケット”ですね。この詞を書けたことが、このアルバムを作ろうと思ったきっかけになったと思います。Lucky Kilimanjaroはどういうバンドであるべきなんだろうみたいなことに迷って、曲を書いても書いてもしっくりこなかった時期があったんですけど、そういうことは何も考えずに、自分がかっこいいと思うものを一回完成させようと思って作った曲なんです。そういう経緯もあって、自分のなかで大事な曲になったので、その感覚を伝えたいなと思ったのがスタートでした。曲順を最後にしたのも、聴いたあとにお客さんが何かを始めるきっかけになればというメッセージを込めました。
■「見上げたら暗雲だけど/その先で君の星になるよ」という歌詞は、実体験でもあるんですね。
熊木 そうですね。それまで自分でそう思ったことはなかったんですけど、自分にとっても救いになった曲というか。
■ポジティブな歌詞が多いので、あんまり悩むイメージがなかったんですけど、実際はどうなんですか?
熊木 だいぶ悩むタイプだと思います。そもそも僕の歌詞は「暗くなることって、あるよね」という前提があって。人間は落ち込むことも不安になることも絶対にあるけど、それに対処する方法を知っていればいいなと思うんです。僕だったら、暗い気持ちになったらゲームをしたり、映画を見たりして、別の感動や喜びを入れることで、「どんな苦しみだったんだっけ?」みたいな感じで、過去のものにしちゃうんです。それが僕の手法なんですけど、誰かにとってLucky Kilimanjaroの音楽が、そういう役割を持ってくれたらいいなと思っていて。ゆえにポジティブに見えますが、僕自身はすごく悩むタイプです。(笑)
■どういうことで悩むんですか?
熊木 自分がやっていることは正しいと思っているけど、それが人に伝わるのか不安になったり。それは雨が降るみたいな感じで、突然やってくるものだと思っていて、そうなること自体は仕方ないと思うんです。普段は明るく見える人でも、暗いタイミングは当然あるだろうし、そのタイミングをどう乗り越えるか、その方法を持っているかどうかが大事なんじゃないかなと。
■誰かに相談するとかではなく、自分のなかで解決するタイプなんですか?
熊木 悩みの種類にもよりますよね。たとえば、次の曲が売れるかどうかって、出さないとわからないじゃないですか。友達に相談しても「いい」って言われるけど、エビデンスとしては弱いし。(笑) 僕は本をよく読むので、本を読んで「こうすればいいんだ」「こういう考え方があるんだ」って思うことは多いです。だから自分の中で考えて解決することが多いかもしれない。
■わりと理論派というか。
熊木 そうですね。根拠をはっきりさせたいタイプです。
■曲作りにおいても、こういうほうが売れるとかの根拠を持って作るんですか?
熊木 僕は音楽理論に明るいわけではないので、自分の気持ちいい感覚を信じて音を組み立てるようにしています。それに慣れちゃっているということもありますけど。いまこういうのが流行っているからとか、そういう感覚はないかもしれないです。
■自分に響くかどうかが根拠になる?
熊木 そうですね。特に音楽に関しては、必ずしも再現性があるわけじゃないですし。絶対的にデータのほうが正しいものは見ますけど、いままでの成功例を僕がたどっても、同じことができるかと言われたら微妙なので、そこは切り分けて考えています。
■そういうことを歌っているのが“RUN”かなと思いました。「根拠がないからこそ そこに新しい価値を信じてる」って。
熊木 同じような例は見つからないけど、自分はいいと思っている。それはその見つかっていない状態こそが根拠になっているんじゃないかなって。前例がなかったからといってやめてしまうと、つまらなくなっちゃうし。
■この曲は「解像度は上がらない 見に行くしかないよな」という歌詞が特に素敵だなと思いました。
熊木 僕もここ気に入っています。(笑) やってみないとわからないことのほうが、いまは多いなと思うんです。いろんなものが流行ったり、廃れたりするけど、変わっていくスピードが速すぎるし、複雑すぎるし、もう調べている時間がないというか。根拠を集めていたら終わっていたみたいなことがあるから、自分で見に行くしかない、やってみるしかないなって。