Lucky Kilimanjaro VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

Lucky Kilimanjaro『!magination』

■節々に熊木さんの考えが反映されているなと思うんですけど、実体験を基にした歌詞も多いんですか?

熊木 どういうことを伝えたいかは、自分のなかから出てきているなと思います。ただ、自分のなかの感覚をどう言い換えればわかりやすくなるかということで、フィクションを使ったりはしますね。

■たとえば“350ml Galaxy”は、具体的なワードがたくさん出てきますよね。

熊木 この曲は飲み会に行かずに帰って、でもちょっと今日は疲れたな、明日がんばらなきゃな、とりあえずコンビニでお酒を買って、駅から家まで歩く間で一杯やるかみたいなストーリーなんです。僕自身は家に帰ってから飲むタイプなんですけど、たまに最寄り駅から歩く10分くらいで、飲みながら帰ることもあるんですよ。たまにしかやらないから、ちょっとワクワクして。

■「新商品の9%/うずらの燻製と一緒にレジへGO!」という歌詞がありますけど、実話なんですか?

熊木 ファミマのうずらの燻製が好きなんですよ。(笑) おつまみってちょっと高いじゃないですか。おにぎりの倍もするのかよみたいな。でも、その贅沢している感じも含めて、日々のワクワクを僕の曲でより増強できたらいいなと思ったんです。

■「新商品の9%」も、よく飲んでいるんですか?

熊木 「99.99」っていうお酒があるじゃないですか。あれがけっこう好きで。他のお酒でもよかったんですけど、9%のほうがちょっとした自暴自棄さというか、日々のやりきれない思いとか、がんばってる感じとかが出るかなと思ったんです。

■500mlじゃなくて350mlにしたのにも理由があるんですか?

熊木 500mlだと見境なくなってるかなって。(笑) この曲は金曜日じゃなくて、水曜日あたりを想定しているんです。だから、次の日をおろそかにしないでほしいなっていう想いがあります。

■なるほど!てっきり350のほうが語呂がいいからなのかなと思っていました。

熊木 それもなくはないですけど、はじめから350にしようと思っていたので、僕の中の自制心みたいなものが出ていたのかもしれません。(笑)

■リードトラックは“Drawing!”ですよね。この曲は1億総批評家になっている現代に対してのアンチテーゼも入っているのかなと思いました。

熊木 そうやって自分の作品を見られてしまうことにリスクを感じて、自分の表現をやめちゃうのはもったいないなと僕は思っていて。これだけなんでもオンラインの時代になっているから、そういう現状は仕方ないと思うんですけど、「評価されないかも?」とか不安な気持ちは一回置いといて、自分の表現をしてほしいっていうのを書いた曲です。

■熊木さん自身は、そういうのを気にするタイプなんですか?

熊木 ずっと自分が成長途中というか、未完成のまま表現し続けている感覚があって。表現は変わっていくものだから、完成なんてしないと思うんですよ。それはわかっているんですけど、不安になると「自分は誰かにとっていいものを作っているのかな?」みたいな感情が出てくるんです。そういう意味では、自分で自分に歌っているような面もある曲で。やっぱり自分の想いが100%正しく伝わることはないと思うから、もう評価とかは気にしないでいいんじゃないかなって。

■それこそ「思うようには伝わらない/思うようには完成しない/でもそれがやめる理由にはならない」と歌う“ロケット”の話ですよね。

熊木 そうですね。伝えようとはするけど、伝わらなかったことを落ち込んでもしょうがない。そういう意味ではアルバム全体として、自分の表現を信じ続けること自体に価値があるっていうことは歌いたい。

■それを歌うことで、自分にも言い聞かせるというか、自分も勇気をもらうというか。

熊木 それはありますね。ずっと歌っていると、どんどん自分のなかにも刷り込まれていくんです。書いている途中は、どうしても「本当にそうかな?」って思っちゃうこともあるんですよ。でも、自分が歌って、お客さんに届いているのを見ると、それが自分のなかで確立されていく、より強化されていく面はあります。

■そういう部分でボーカリストとして意識していることはありますか?

熊木 僕はトラックを作ってから、メロディーを乗せる前に詞を書くタイプなんですけど、それは言葉をちゃんと人に伝えたい、ライブでも何を言っているのかわかるようにしたいからなんです。だから難しい言葉を使わないようにしているし、意味をすっと理解できるように倒置法とかも使わないようにしていて。できるだけ一文で言葉が入ってくる歌詞がいいなと思うので、そこはかなり意識していると思います。

■わりと平熱で歌っている印象があるんですけど、歌詞だけを見ると、ものすごいエモーショナルに歌っていてもおかしくないと思うんです。

熊木 そこは最終的に平熱な感じが好きだったというか。でも、今作はエモーショナルに歌うよりも、言葉を丁寧にやさしく伝えようっていう意識はあったかもしれないです。「こうなんだ!」じゃなくて、「こうじゃない?」っていう余裕みたいなものがほしかった。そこはいい意味で力を入れずに歌えたのかなと思います。

■それと個人的に“DO YA THING”の「自分が笑うために/誰の笑顔が欲しいのか考えてみる」という部分が好きで。僕は今年で40歳なんですけど、30代半ばくらいから、もう自分のためにがんばるのは無理だなという気持ちが湧いてきて。特に子供がいる人は、より強く感じるんじゃないかなと思ったんです。

熊木 僕は別に結婚しているわけじゃないですけど、人間は人に与えることが幸せなんじゃないかって、徐々に感じるようになったんです。そう考えると、めっちゃ妻のために尽くす人も、子供のためにお金を使う人も、誰かのために自分の趣味を顧みない人も、なるほどなぁと納得できて。