Lucky Kilimanjaro VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

熊木幸丸(Vo)

移ろう季節に変化を重ねて。熊木幸丸が語る「世界中の毎日をおどらせる」音楽の作り方。

Lucky Kilimanjaroが4月5日(水)に4枚目のアルバム『Kimochy Season』をリリース。春夏秋冬それぞれの季節を歌う心地よいダンスミュージックは耳に心に心地よく、ループの中にかすかな酩酊感を伴って流れていく。今作のテーマとして据えられているのは「変化を乗りこなす」。四季の移ろいを世間の変化と重ねて紡がれる色とりどりの言葉やサウンドは、再生ボタンを押したすべてのリスナーの何気ない日常を彩ることだろう。
インタビューでは、熊木幸丸に「世界中の毎日をおどらせる」音楽の作り方と、音楽の所在地を訊いた。

■Lucky Kilimanjaroのライブでは観客が踊っている姿が印象的ですが、今、ライブの主役はアーティストなのでしょうか?観客なのでしょうか?

熊木 ダンスミュージックという文化においては、両方とも主役というか……今僕がやっていること(音楽や演奏)がゴールじゃなくて、みんなと一緒に踊って、エネルギーがあふれ、それが自分に還元されてくる状態が「良い」と思っています。「主役が誰か?」という問いの答えは「空間」ですね。

■Lucky Kilimanjaro(以下:ラッキリ)においては、双方のコミュニケーションで作られる「空間」が主役ということですか?

熊木 そうですね。コミュニケーションが主役(メイン)かなと思っています。舞台から投げてみて、観客から返ってきて、熱が上がって、「今日は良い1日でしたね、明日もがんばりましょう」といった感覚でライブをしています。

■ちなみに「あの人は曲聴いてないだろ!」みたいな観客を見つけることはあるんですか?

熊木 僕としては「聴いてなくても良い」んです。少なくともお客さんはお金を払ってそのライブの空間に来ている人ですし、その人なりの「この空間を消化する方法」があるはずなので、僕たちのライブはそういう自由さがあるべき空間だと思っています。逆にゾーンに入っている人を見かけたらちょっと嬉しくなることまであるかもしれない。(笑) そういう状態を引き出せていることが嬉しいですね。

■この言葉を聞いてライブに行ってみようと決める人もいるかもしれませんね。(笑) ところで熊木さんの曲は「どこ」からできていくのでしょうか?

熊木 アイデア段階では、ちょっとしたメモだったり、日々気になったことや考えていることを紙などに書くようにしていて、そこから「コレを表現するためのサウンドが欲しいな」と、ドラムの打ち込みを始めたりします。全体のサウンドで言えば、ラッキリの曲は1フレーズのループのレイヤーを変えて展開を作っていくのが主なので、曲のテーマとなるワンループを決めるのが最初の作業になりますね。

■ニューアルバム『Kimochy Season』の第一印象ですが、「曲名が変わっている」でした。“Kimochy”のタイトルは何故ローマ字なんですか?

熊木 “Kimochy”は、とにかく気持ちイイ曲を作りたかったんですけど、「気持ちイイ」とか「Feel Good」って書くと、なんか気持ちよくなくて。(笑) 英語表記っぽくしているのは、こっちの方が僕の思っている「気持ちイイ」に近いのでこうしました。深い意味があるわけじゃないです。

■感覚的なところなんですね。

熊木 フィーリングで選ぶ部分と理詰めで選ぶ部分がどっちもあって、そのバランスを考えることでどちらも活きてくると思っています。そこはすごく大事にしているというか、バランスを考えるのが好きですね。

■だからこそサウンドや単語ひとつひとつが輝いているように聴こえたのかもしれません。

熊木 結局サウンドって言語化しきれないと思っているので難しい部分でもあるんですけど、「なんかこのサウンドの「温度」だよね」というものがあって、常にそれを楽曲内に入れるようにこだわっています。

■熊木さんにとって、サウンドは「温度」ですか?

熊木 一番感じるのは「温度」と「空間感」かな……。「どれだけ煙が焚かれているか」みたいなところや、「不快感なのか、心地よさなのか」みたいな「空気のクリア度」なんかを感じていることも多いかもしれません。

■ところで、近頃ネットでは「歌詞を語るヤツは音楽を語っていない」といった意見がバズることがありますが、ラッキリは歌詞を語って良いバンドですか?

熊木 いいんじゃないですかね。(笑) 僕は自分の音楽の受け取られ方についてあまり固定して欲しくないと思っていて。歌詞を聴かなくてもいいし、深い所まで読み取ってくれてもいいんです。でも歌詞を深く読み取っても、僕の心の中まではトレースできないと思っているので、結局はみんなが受け取った時の化学反応なんですよね。曲はその人の人生とクロスオーバーするものだと思っているから、結局、聴き方はなんでもいいんです。僕も歌詞を聴かない曲もありますし。

■まあ、結論を言ってしまえば「歌詞を聴くかは曲による」ですからね。

熊木 そうですね。歌詞で聴くべきとか、音楽で聴くべきとか、決め込むこと自体が音楽的ではないとも思いますね。いちばんズルい言い方かもしれませんけど。(笑)

■アルバムの話題に戻りまして、1曲目の“一筋差す”は唐突に始まる感じがして驚きました。

熊木 この曲はトップギアで入れるようにしています。今までの作品は徐々にアガっていくような感覚がありましたが、今回は1発目からみんなを「おどる」モードにさせたいと思い、「このアルバムはおどるアルバムですよ」と伝わる曲にしました。コンセプトの話を最初にするより、まず「準備体操するか!」みたいな。アルバムのコンセプトの「季節」という部分を出しつつも、「まずはみなさん乾杯しましょうか!」という感じで、シンプルさを突き詰めています。

■でもシンプルな割りにはバックサウンドが不協和音じゃないですか?

熊木 サンプリングで作っているのですが、コードで括れないものが表現したかった「冬のサウンド」に合っていて、気に入って使っています。

■熊木さんは冬が嫌いなんだなというのは、今作を聴いてよく伝わってきました。(笑)

熊木 嫌いです。(笑) 冬は自分のペースで動けないというか、強制的な世間のペースにのまれる部分があって。スタートも変な遅さがあって気持ち悪くて……。僕はせっかちというか、やりたいことをずっと回したいタイプなので、冬は嫌いですね。生まれは冬なんですけどね。(笑)

■ところで今作は、冬、春、夏、秋と季節が推移していきますが、なぜ冬の所に“Kimochy”があるのでしょうか?

熊木 “Kimochy”自体は季節感を意識した曲じゃないのですが、この曲をどこに入れようかとなった時、冒頭に「冬が嫌い」という曲を入れ過ぎて「嫌いモード」がすごいことになってしまって。(笑) 「変化を歌う」というテーマが説教臭くならないように、もっと気持ちよく聴いて欲しい所もあって、「“Kimochy”は“一筋差す”の次にいるのが正解だろう」ということになりました。楽曲たちが明確に季節ごとに分類されているわけじゃなく、なんとなくの流れを表現している感じです。

■ところで私は「お酒」にまつわる曲が大好きなのですが、ラッキリにはお酒の曲が多いですよね。なぜですか?

熊木 僕もお酒が好きだからですね。(笑) ご飯食べてからお酒を飲む時間や、飲みながら音楽聴いて踊る時間が好きです。そういうものをみんなにも味わって欲しくて。

■今作のお酒にまつわる曲ですが、“咲まう”がとても印象的です。冒頭の歌声はどうやって作っているのでしょうか?

熊木 “咲まう”は、まさに「お酒を飲んで喋る時間がめっちゃイイ」という曲です。冒頭は自分の声のピッチを上げて作っています。割りとシンプルですね。

■余談ですが、“咲まう”の歌詞にある「針の落ちる音より/ジェットエンジンの音より」って、IMAXの紹介CMの文言ですよね?

熊木 そうです!(笑) 映画が好きなので、歌詞に入れたら面白いなと思いました。

■この曲のセルフライナーノーツに「あえて上手くないギターテイクを採用した」とあったのですが、ライナーノーツを読んでいない人は「なんでこんな下手くそなテイクを?」と思うかもしれませんね。

熊木 そういう人は既に術中にハマっています。(笑) それによって今の音楽の面白くなさが浮き彫りになるので、「しめしめ」と思います。この曲では、カフェ的な所で友達とお酒を飲みながら「ちょっと弾いてみるか」と思った時に弾いたようなギター、というのを意識していて、本当はラフ用に録ったテイクなんですけど、何回やってもラフのテイクを越えられませんでした。(笑) 後に録ったテイクの方が上手なんだけど、自分が思っている曲のニュアンスには全然合わなかったんです。

■わかります。酔っぱらって弾いた時のギターが完璧なわけがないと思います。

熊木 そんなもんですよね。基本的にフィーリングが一番なので、いかに丁寧に弾けたかっていうのは意味が無いんです。

■今作の中では“千鳥足でゆけ”もいいですよね。このドンドコしたイロモノ感というか、ヘンな感じがすごく好きです。“咲まう”は日本酒ですが、“千鳥足でゆけ”は何のお酒ですか?

熊木 何のお酒だろうなぁ……?(笑) 歌詞の途中で、僕らがよく行っていた「酔の助」という居酒屋(※現在は閉業)が出てくるんですが、そこではひたすらレモンサワーを飲み続けていましたね。「ガンダーラ」というチーズを焼いたピザみたいなのがあるんですが、それがすごく美味しくて。それを食べながら「昨今の音楽はよぉ~!」とか、「今の音楽は尖ってねぇんだよな……」的な、大学生らしい話をしていました。(笑) そういうエネルギーを込めた曲ですね。

■あ~、尖り方は感じます。(笑)

熊木 危なっかしい尖り方というか。(笑) お酒を飲んでいる時の、次の日はちょっと恥ずかしくなるだろうという熱量を出したくて。歌詞もサクサクっと書いて、そのまま使ったりしています。

■韻を踏むというより、無理やり入れ込む感じでしたね。(笑)

熊木 韻を合わせちゃうと「頭が良い感じ」になっちゃうので。(笑) 僕はそれが好きじゃなくて、「あっ、なんか気持ちいいと思っていたら韻が合ってたんだ」と思うくらいが丁度いいです。逆に「ここは合わせた方が気持ちよくなるな」という所は考えています。

■熊木さんの曲には固有名詞がたくさん出てきますが、固有名詞は入れなくても作詞はできるじゃないですか。その中で、なぜ固有名詞を入れているんですか?

熊木 今回の収録曲は固有名詞が減った方です。(笑) 固有名詞ってすごくキャラクターが強いんですよ。たとえば今回出てくる「つるぎのまい」は『ポケモン』の技なんですけど、僕がポケモン好きだから使ったというのもありますし、「つるぎのまい」は攻撃力をひたすら上げる技なんですが、そういう点が楽曲に合っていて、カラーリングがぴったりなので使いました。これを固有名詞以外の言葉で表現しようとするとエネルギーが下がります。

■確かにこの部分、パワーがありました。

熊木 “またね”にも「カップヌードル」という固有名詞を使っているんですけど、カップヌードルを深夜に食べた「強い記憶」があるから、それを変に「カップラーメン」にしちゃうとちょっと弱いんです。固有名詞が持つキャラクターを上手に使おうと思っています。

■「越冬」「背骨」「咲まう」「山粧う」など、珍しい単語がよく出てきましたが、こういった意外性ある言葉はどこから出て来たのでしょうか?国語の教科書とかを隅々まで読むタイプですか?

熊木 中学生の時に「アバウト」という言葉が僕の周囲でブームになり、その言葉が僕の中では衝撃的にカッコよかったんです。(笑) それで、そんな感じの言葉をとにかく調べようと思っていた時期がありました。そういう感覚がずっとあるのかもしれないです。

■そういう言葉を探して、ストックしておいて使うのでしょうか?

熊木 そうですね。気になる言葉を見つけたら即調べます。「こういうコンセプトで書きたい」には全然合っていないですけど、僕の中のどこかで繋がっているので、たくさんストックします。タイラー・ザ・クリエイターもそういうことやっているらしくて。実際、彼は曲と全然関係のないタイトルを「カッコいいから」とつけたりしています。カッコいい言葉はそれだけでもキャラクターを持っていて魅力的なので、特に日本語でカッコいい言葉はたくさんメモるようにしていますね。

■中学生の頃から持ってきたメンタルなんですね。(笑)

熊木 ずっと「アバウト」から変わってない。(笑)