Lucky Kilimanjaro VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

■“山粧う”の「秋高し その下 煌々と/色づく御身 現れた 明明と」という歌詞などは、「突然ぶっ込まれたな」という感じがしました。

熊木 そうそう。(笑) ここのラップっぽい曲調も含めて、キリっとした感性が壊れて行く感じを出したかったというか。この言葉と、このフロウと、このトラックで、「この人よくわからないな、何を考えているんだろう?」みたいな、自分の中の新しい感じ方に気付いて貰えればいいなと思い、こういう言葉を使いました。「御身」が英語っぽく聴こえたりとかもカッコいいかなって。

■ここは耳で聴いたらこの漢字に変換できないですよね。(笑) 狙ってそう作っているのでしょうか?

熊木 日本語はあまりリズミカルな言語ではないと思っているのですが、英語は非常にリズミカルです。僕が好きな洋楽は当たり前にそのリズムを使いこなしているのですが、日本語でそれを表現するとなると、難しい部分が出てきます。だけど、いかに日本語のカッコよさを保ったままリズミカルに聴かせるかは研究していますし、それこそ「色づく御身~」はそういうキャラクターが出ている部分かなと。

■「煌煌と」なんて単語はなかなか一般的なポップスでは使われないので、アニソンっぽさもありました。

熊木 ある種の「中二病っぽさ」もあり、それこそ「アバウト」が好きだった頃をずっと続けている感じです。14歳から32歳までずっと同じ。(笑)

■同級生に読まれたら恥ずかしいやつですねコレ。「あいつまだアバウトしてるのか!」みたいな。(笑) 変わったタイトルでいうと“掃除の機運”にも惹かれます。どういう時に思いついた曲なんですか?

熊木 帰り道とかで「帰るのダルいな~、今ビールの機運じゃね?」と友達を誘ったり、「機運」という言葉を結構使うんです。それも「アバウト」と一緒ですね。(笑) “掃除の機運”は「自分が引きずっているものを捨てる」という作業をいかに気持ちよくやるか、捨て去ることの痛快さみたいなものをどう表現するかという曲で、「さよなら」に対して、切なくするのではなく「捨てま~す!」というポジティブな感じにしました。

■現代的ですね。(笑) お掃除ソングとして聴いた時にも、「ぴえんな記憶もばよえーん」辺りで「掃除に飽きてゲームし出しちゃった……」という感じがして、面白かったです。

熊木 「ばよえ~ん」は『ぷよぷよ』で画面のパズルをたくさん掃除した時の呪文なんです。その感じがこの曲と合うし、痛快さみたいなものもあって、「もうこれしかない!」と思いました。ここはウチの妻(大瀧真央/Syn)がCVしているんですけど、「ゲームからサンプリングしているんじゃないか?」と思うくらいすごくモノマネが上手くて、「権利関係大丈夫か?」と心配になるくらいの仕上がりです。(笑)

■熊木さんのセルフライナーノーツを読んだ時、“掃除の機運”で「90年代のラブソング風に……」とあったのですが、個人的にそれを感じたのは“辻”でした。山下達郎感というか。

熊木 「fall in love」ですからね。(笑) 90年代のハウス感が好きなのもあり、“辻”ではそれを自分の表現として落とし込みたいなと思ったのもあります。「辻」は交差点という意味なんですけど、よくアニメとかで食パン咥えて走っている子が誰かとぶつかる場所でもありますよね。この曲ではそういった「ドキドキするものには準備しないままぶち当たり、ぶち当たってからコミュニケーションを取っていく」ということを歌っています。

■「fall in love」は「恋」の表現ですが、曲で歌っていることは恋に限らないんですね。

熊木 「fall in love」は、今「fall in love」と歌うのがカッコいい!というフィーリングで入れました。言葉に勢いがありますよね。「恋に落ちる」という単語なんですけど、むしろ「パアッ」て上がるような感じもして。それこそ山下達郎さんのおかげなのかもしれないですけど、そこがすごく好きで、歌詞を何回書き換えても「fall in love」だけは変わりませんでした。

■でもタイトルは「fall in love」ではなく、「辻」と。(笑)

熊木 そうそう、「fall in love」じゃないんです。(笑) そういうことじゃない、それは僕に刺さらない。(笑)

■今作でいちばん時間がかかった曲と、逆にすぐにできた曲はどれですか?

熊木 早くできたのは“掃除の機運”です。これはお酒飲みながらセッションして作った曲なので、「いつの間にかできていた」という感じです。(笑) 僕は「このアイデアで行こう」となるまでに時間がかかります。一度決まれば肉付けはすぐにできるのですが……。それでいうと、“またね”と“闇明かし”はコンセプトの組み立てをカッコよくしたかったので、「本当にこういうトーンなのか?そういう空気感なのか?」というところを、時間をかけて練りました。

■ゼロから1を作ることに時間がかかって、2から99まではスムーズにできる……という感じですね。

熊木 そうですね。紆余曲折はするもののゴールが見えているので、あとはそのゴールをいかに自分の引き出しから出していくかです。ゼロから1の段階で「何を表現しよう」というのが苦しむ部分ですが、そこが面白い部分でもあります。

■音源を作る時に一番時間をかけるところは?

熊木 「声」ですかね……。歌詞だけでは伝わらない部分を、声の表現やアーティキュレーションでつけようと思っていて、そこの着地点を探すのに時間がかかります。歌は特に「みんなが聴いてメインに感じる部分」なので、どういうふうに落とし込むかに時間を使うし、できないこともあるから、その中でどれを選び取るかは楽しいけど苦しい作業ですね。

■熊木さんがこれまで聴いてきた中で「こんな曲、自分には書けない!」となった曲はありますか?

熊木 それはたくさんありますね……。そのアーティストのスタイルを含めて、プリンスの“パープル・レイン”は絶対に無理って思いました。どれだけ歌が上手くなってもできないというか、他の人が歌っても成立しないと思います。“パープル・レイン”を聴いた時は、「こんなアーティストが出てくるなんて……アメリカふざけんなよ」と思いました。(笑)

■「その人にしかできない音楽」に惹かれるんですね。

熊木 「その人」が出ていて、かつそれがちゃんとした芸術になっているもの。楽曲を含めて、そのバランスが成立しているという……。「曲の方がいい」のではなくて、「アーティストの存在があった上で曲も最高」という状態を作られるとお手上げです。

■今作のアルバムでは、アウトロもいいですよね。

熊木 入れなくてもいいなと思いましたし、今でも思っているんですが、大学のサークルから続いているバンドなので、「この空気感」が魅力だと思いますし、みんなと共有できる「笑顔」の部分だと思います。この後ライブでみんなとコミュニケーションを取る準備を示すという意味でも、自分たちのキャラクターをおまけ程度に入れてもいいのかなと。アルバムの後半、憂いている部分に対してのまとめ役として機能するんじゃないかなと考えてもいましたが、最終的にはノリで入れました。(笑) 「隠しトラック」が好きなので、そこから影響を受けているのかもしれません。

■隠しトラックは、まず「隠しトラック」って文字列に惹かれますよね。(笑)

熊木 今はもうトラックリストに出ちゃいますけど、昔は「なんかアルバムがなかなか終わらないな……?」という感じで出てきたりして。バンドの二面性みたいなものを感じるのも好きです。このアルバムだからこそ、このアウトロが合うと思います。

■今作には“闇明かし”で「闇を明かす」という表現がありましたが、明かせる範囲の熊木さんの闇を教えてください。

熊木 僕は自分の楽曲が好きですけど、自信はなくて。「この曲じゃみんなとコミュニケーション取れないかもしれない……」という部分が大きくなることがあります。ライブでも、「ライブの主人公をみんな(観客)にできなかったらどうしよう……」とか。そういう夢も見ますし、全く歌詞が出て来なくて、お客さんがしらけている夢とか。(笑)

■現実ではそういうハプニングも笑って終わりなんですけどね。(笑)

熊木 そうそう。(笑) 実際に歌詞が飛ぶこともありますし、ライブの空気の中ではそれも楽しめますが、そういう夢は見るんです。不安が常にあるからそれを明かすことで、不安な自分を一歩外において見られるようになるのが大事なんだと思っています。居場所を作れたり、曲自体が居場所になればいいなと思って作った曲なんですが……闇だらけです。(笑)

■アルバムの後半、「闇感」が増して来たなって思いました。(笑)

熊木 自分の暗い部分を救ってくれるのがダンスミュージックですし、それがダンスミュージックの良さだと思います。今回のアルバムでは、より自分の「暗さ」に対してカラリストを与えてくれる作品を作りたいなと思ったので、こういう曲は大事だと思いましたし、こういう曲でこそみんなで踊って「楽しいんだけど泣いている」状態を作っていきたいんです。ダンスすることでわだかまりが無くなることを目指しています。

■“地獄の踊り場”では「寄りかかれるベース」という歌詞がありましたが、熊木さんの寄りかかれるベースは奥様ですか?

熊木 何でしょうねぇ……。当然妻の存在は制作において支えになっていますし、メンバーやスタッフもそうだですけど、環境すべてがベースになっています。でも、そうですね、妻とご飯を食べてお酒を飲んでいる時間が、自分の生活のベースになっていますね。

■同じバンドにいても、結婚すると変わるものですか?

熊木 ずっと付き合っていましたし、一緒に住んでもいたので、大きな変化はなかったんですけど、潜在的に「結婚したんだな、自分」という心持ちで、歌詞の書き方が変わったんだろうなとは思います。“越冬”とかで、現在の生活を歌ったりはしていますけど、どこが変わったのかは自分では認識できていないんですよね。

■具体的な指摘は難しいのですが、歌詞の感じが変わった気がしました。最後に今作で最もこだわったポイントを教えてください。

熊木 フィーリングで踊って欲しいと思います。説明的じゃなくて、心で感じるままに踊って欲しいというところを大事にしたので、「この曲はこういう意味だから」じゃなくて、自分の経験のまま感じ取って、受け手のまま踊ってくれるようにこだわりましたし、そういうふうに楽しんでもらいたいです。

Interview & Text:安藤さやか

PROFILE
同じ大学の軽音サークルで出会った6人で結成。彼らが自ら考案し、掲げる「世界中の毎日をおどらせる」というバンドのテーマは、Lucky Kilimanjaroの音楽性と精神性を如実に反映した言葉である。2018年にEP『HUG』でメジャーデビュー。その後、2020年にはメジャー初のフルアルバム『!magination』を、2021年にはメジャー2ndフルアルバム『DAILY BOP』をリリース。2022年3月、3rdフルアルバム『TOUGH PLAY』をリリース。アルバムを引っ提げたバンド史上最大動員の全国ツアー『Lucky Kilimanjaro presents.TOUR “TOUGH PLAY”』のファイナル公演をパシフィコ横浜で開催。同年7月、『ファジーサマー』を発売し、LINE CUBE SHIBUYA がファイナルとなる『Lucky Kilimanjaropresents. TOUR “YAMAODORI 2022”』を開催。2023年4月には、4thアルバム『Kimochy Season』のリリースと、豊洲PITでの2daysをファイナルとした全国ツアーの開催も発表されている。
https://luckykilimanjaro.net/

RELEASE
『Kimochy Season』

MUCD-1513
¥2,970(tax in)

dreamusic
4月5日 ON SALE