May J. VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

May J.『DRAMA QUEEN』

歌い上げるスタイルを封印。自分と向き合い生まれた新境地の4ヶ月連続リリースを語る

この7月でデビュー15周年を迎えたMay J.が、5月から4ヶ月連続でリリースしている配信シングルで新たな挑戦に取り組んでいる。プロデューサーにyahyelの篠田ミルを迎えた一連の楽曲では、歌い上げるMay J.を封印し、サウンド面でも世界的なトレンドを取り入れて大胆に変化。歌詞のテーマに関しても、デビュー当初は音楽のことで何度もぶつかったという父親について、自身も大きな被害を受けた誹謗中傷について、そして世界的な運動が起きているBLM(Black Lives Matter)について、素直な心情が綴られている。「イメージを守らなきゃいけないと思っていた」という彼女が、「とことん自分のための曲」を作った理由とは?最近は本名の橋本芽生に由来する「はしもっちゃん」として、YouTubeでの活動も話題になっているMay J.に、ありのままの気持ちを語ってもらった。

■4月からYouTubeで「May J.のはしもっちゃんねる」を始められて、だいぶ素の姿を披露されていますけど、周りの反応はいかがですか?

May J. 前は「アーティストだし、ちょっと話しづらいかな?」みたいな感じで接してくる方が多かったと思うんですけど、最近は「はしもっちゃんですね!」みたいな感じでフレンドリーに接してもらえることが増えて、私自身もしゃべるのがちょっと楽になりました。

■はしもっちゃんがコミュニケーションに役立っている?

May J. そうですね。はしもっちゃんの話題から入ると、すぐに打ち解けられて。YouTubeを始めてよかったなと感じています。

■今後の動画も楽しみにしています!今日の本題は5月からリリース中の4ヶ月連続シングルについてですけど、どういう経緯で始めることになったんですか?

May J. 去年、ステイホームの時期に入る直前に「来年はデビュー15周年だし、やっぱり新しい音楽に挑戦したい」という気持ちがあって、そのタイミングでavexさんを介して篠田ミルくんとお話しする機会があったんです。その時に私は「洋楽っぽいかっこいいサウンドのものを作りたい」と話したんですけど、正直、私のファンの人たちが聴き慣れているものとは違うから、ずっと挑戦したいと思ってはいたけど、踏み出せなかったんですね。でも、ミルくんは「メイさんのやりたい音楽をやりましょうよ」と言ってくれて。

■それは「自分の好きなことを出していくべき」みたいな意味だったんですか?

May J. それもありますけど、あとは時代の流れも変わってきたと思っていて。最近は歌唱力を活かすような曲をみんな聴かなくなってきていて、実際に私自身も聴くことが減っているんです。それがいちばん大きかったかもしれない。もっとみんなが聴きやすい曲。歌に集中して聴く音楽じゃなくて、歌も音と一体になっているような、声も楽器みたいな曲を作りたいなと思ったんですよね。

■とはいえ、May J.さんは歌唱力を全面に出すスタイルで名を馳せてきたわけじゃないですか。

May J. そうなんですよ。そのイメージを守らなきゃいけないと思っていたんですよ。だけど、その概念から一度離れてみようっていう。

■違うスタイルでやりたい気持ちは、ずっとあったんですか?

May J. ありました。ただ、「やったらみんなどう思うんだろう?」みたいな恐怖で、ずっとできないままだったんです。そこを今回、思い切って踏み出してみました。

■篠田さんもMay J.さんのことを歌唱力のあるシンガーという認識で見ていたと思うんですけど、どういうディレクションがあったんですか?

May J. どこを出したいとかじゃなく、押し付けがなかったです。私がやりたいことを引き出してくれて、レコーディングでも私がやりたい方面に近づけるように、自然に押してくれた感じでした。私も歌い上げないようにメロディーを考えたり、レコーディングでも抑えて歌ったんですけど、ミルくんからは「もっとウィスパーでいいよ」「しゃべるくらいでいいよ」って。私は放っておくと「うぇー!」って歌い上げちゃうので。(笑)

■そうなんですね。(笑) この4ヶ月連続リリースの楽曲は、どれもMay J.さんのパーソナルな経験から生まれていると思うんですけど、そういうテーマに関しても篠田さんと相談したんですか?

May J. それも自然な流れで、ミルくんのツイートとかを見ていると結構自由な発言をしていて、それに私も勇気をもらったというか。私が世の中に伝えたいこと、知って欲しいことを、自分の音楽で示していくべきなんじゃないかなと思って。今まではラブソングとか、みんなが共感できるようなことを歌うことが多かったけど、せっかく音も変わるし、それとは違うことを歌いたかったんです。それに去年、ずっと家にこもっていたから、自分自身と向き合う時間も長くて、その中でBLMもあったし、誹謗中傷でいろんな事件もあったし、考えることがすごいあったので、この機会に自分が感じていることを出してみようと思ったんです。

■そのできあがった曲について、ひとつずつ触れていければと思うんですけど、最初にリリースされた“Rebellious”はご自身の経験を基にした曲ということで合っていますか?

May J. そうですね。“Rebellious”はメロディーが切ない感じなので、自分が歌って今すぐにでも泣けるような内容にしないといけないなと思ったんです。それで考えてみたら、やっぱりお父さんのことだったんですよね。ちょうどその時期は、お父さんに癌が見つかって、治療していて。もしかしたら死んでしまうかもしれない。そういう経験をしたので、やっぱりそれが自分にとっていちばん刺さることで。お父さんとはいろんな長い歴史があったんですよ。(笑)

■説明がいらないくらい歌詞から伝わります。(笑)

May J. 今は大好きなんですよ。大好きなんだけど、やっぱり昔はウザいと思うこともあったし、音楽が好き同士だからこそぶつかるところがいっぱいあって。当時は言われたことを素直に聞けなかったんです。

■誰にでもありますよね。

May J. すごく怒られたんですよ。「コードの勉強しなさい」とか、「ピアノをもっとがんばりなさい」とか。それが大人になって、コードを知らないとスムーズに作曲できないとか、だんだんわかってきて、「あぁ、お父さんごめんね」っていう。そういう後悔の気持ちと、やっぱり癌になったこともあるから、残された時間で今までの埋め合わせじゃないですけど、一緒に楽しく過ごしたいなって。その両方の気持ちですね。

■お父さんに反発していたのは、いつ頃の話なんですか?

May J. 13歳とか14歳とか。オーディションを受け始めて、18歳でデビューするくらいまでですね。

■最近の話じゃなくて安心しました。(笑) お父さんはこの曲のことを知っているんですか?

May J. まだ直接は言っていないんですけど、いろいろ書いたりしているから、たぶん知っていて。なんか恥ずかしくて「これ、お父さんのことだよ」って言えないです。(笑)

■お父さんからも何も言われていないんですか?

May J. 何も言われていないです。でも、曲は聴いていて笑顔でした。(笑)

■でも、「消えてしまえばなんて思ってた」とか、結構強烈な言葉ですよね。

May J. 瞬間的に思っちゃうんですよね。いっそいなくなった方が楽になるんじゃないかって。そんなふうに思ったことに対してあとから後悔するんですけど。みんなそういうことないですか?

■ほとんどの人は一回はあるでしょうね。自分が間違っていたと思ったきっかけはあったんですか?

May J. ちょこちょこお仕事とかで不便だなと思った時に、少しずつ感じるようになってきて。数年くらい前から。

■割りと最近じゃないですか。(笑)

May J. そうなんですよ。(笑) 30代になってからかもしれない。本当にそう思うようになったのは。それでお父さんが愛しく思えるようになりました。でも、本当に「ごめんね」と思うのは、たぶん自分に子供ができた時ですよね。きっとそうしたら初めて親の気持ちがわかるから。だから、今もまだ全然わかっていないんだと思います。

■時間が経てば経つほど意味が理解できる曲なんでしょうね。続いて6月にリリースされた“Can’t Breathe”ですが、誹謗中傷との向き合い方について歌われていて。これも実体験から生まれていると思うんですけど、ネットで叩かれていた時期がありましたよね。

May J. ありましたねー。

■それを思い出しての曲になるんですか?

May J. 思い出してというよりかは、その頃に受けた傷が癒えることはないんですよね。気にしないようにしても、テレビの生放送で歌う時とか、誹謗中傷を書く人たちの姿が見えちゃうんです。その人たちが見ているかもしれないと思うと、一気に息ができなくなって歌えなくなる。それがずっと治らなくて。だから、その傷は癒えないものだけど、その傷と向き合っていかなきゃいけない。そのことを書きました。

■思っていた以上に重い話で、どう触れていいか悩むんですけど……。

May J. ほんとですか?(笑) ウィスパーボイスで軽く語りかけるように歌っているし、サウンドもダンサブルでカッコいい感じだから、その辺はバランスをとったつもりなんですけど。

■それはもう、上手く付き合っていくしかないんですか?

May J. そうですね。普段はめちゃくちゃ明るいんですよ。でも、こういう誹謗中傷って、誰にでも起こりうるじゃないですか。書いている側は軽い気持ちだと思うんですけど、受け取る側は何気ない言葉でも残っちゃうんですよね。それをわかって欲しいなって。そう言っても、たぶんわかってもらえないんだけど、みんなに考えてもらうきっかけになればいいなと思って歌いました。

■時間が経って、多少は上手く付き合えるようになっているんですか?

May J. 全然付き合えない。(笑)

■よくそれでYouTubeできましたね。(笑)

May J. YouTubeはどうでもいいもん。(笑) 言い方は悪いですけど。どうでもいいと思うことがプラスなんですよね。どうでもいいと思えたら、自分らしくなれる。だから大事な場面になるほど、そういうのが出てきちゃうんですよね。

■歌に真剣だからこそ?

May J. それはいろんな捉え方がありますよね。自分をもっと大きく見せたい気持ちがあるから、そうなるのかもしれないし。いろんな先輩に訊いたんですよ。「こういうふうになりませんか?」って。そうしたら、歌う前になると緊張するとか、吐きそうになるとか、みんな少なからずあったんです。それで口を揃えて言うのが、「期待されているとは思わない」ということ。「誰も自分に期待していないっていう気持ちで挑めばいいんじゃない?」って。