町あかり VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

町あかり『総天然色痛快音楽』

■今の時代はもしかしたら暗い歌が多いかもしれませんね。

 そうですね。そうやって時代ごとの歌を比べて見てみるのも面白いですよね。昔と今の違いを見ることで、今生きている自分を俯瞰して見ることもできるのかなと感じているんです。今を生きることに必死になっちゃうって、辛いことや苦しいことで頭がいっぱいになることってあるじゃないですか。でも違う時代のものを見て自分の今の状況と比べたら、私にも幸せなことがあったなとか、辛い時代があっても良い時代、悪い時代を繰り返しているものなんだなと考えることができるようになって、少し心を軽くさせることもできると思っているんです。

■町さんは今回のアルバムでもそうですが、本当にたくさんの楽曲制作を手掛けていらっしゃいますよね。そのアイデアの源泉はどこにあるのでしょうか?

 考えすぎちゃう時は、お散歩したり、映画を観たり、音楽と全然関係ないことをして、煮詰まらないように気をつけています。それがアイデアが出てくるようになる土壌を作ってくれているのかなと思います。

■“MINITSUMA”は「身につまされる」という単語からきたタイトルだと思いますが、そういうワードのアイデアも「いったいどこから出てくるんだろう?」と驚かされます。

 私も「身につまされる」なんて普段使わない言葉なんですが、この単語を知った時に「わかる!身につまされることある〜!」と、すごい共感があったんですよね。思いもよらない言葉とか、初めて聞いた面白い言葉をメモして曲作りしているので、もしかすると映画を観たりするのがアイデアの源泉になっているのかもしれないです。私は「男はつらいよ」が大好きで、本も書いたぐらいなんですけど、昭和を知るための映像資料みたいな感じで楽しんでいるんです。当時の文化や寅さんの言動から、思いもよらない言葉が「ぽん」と出てきて、楽曲制作のためのいい刺激になります。

■知らない言葉や初めて聞く言葉って、ちゃんと身構えていないと耳を通り抜けていくものだと思うのですが、町さんは聞き逃さずに楽曲制作の糧にしてらっしゃるんですね。

 そうなんですかね。(笑) お母さんとおしゃべりしていて、知らない言葉とか面白い言葉が出てきた時に「今の言葉ってなに?」って聞いたり、メモして調べたりっていうのが習慣になっているのは感じます。そういう無意識の行動が楽曲作りに活かされているのかもしれないですね。

■たくさんの作品を公開している町さんですが、作品を作る原動力や原体験が何かあるのでしょうか?

 もともと絵を描くことが好きで、小学生の頃から自分のイラストに文章をつけて絵本にして、学校に持っていっていたんです。友達に「読んで!読んで!」ってせがんで学級文庫にも置かせてもらっていました。(笑) キャラクターを作ったり、お話を作ったりするのがもともと好きだったんですよね。そういう絵本作りの延長線上に曲作りがあって、自分が作った曲を「聴いて!聴いて!面白くない?」って、みんなにすすめたくなっちゃうんです。そういう幼少期の気持ちを今も持っているからこそ、曲作りがいつまでも続くんだと思います。

■ストーリーを作るのがもともとお好きだったんですね。すると楽曲制作においても歌詞作りを先行することが多いのでしょうか?

 メロディー作りと歌詞作りは同時に発想していることが多いように思います。今回の収録曲でいえば“怒んないから言って”とかは、「怒んないから言って」の語感と一緒にメロディーが浮かんできていましたね。

■発想力のすごさは町さんの持ち前のクリエイティブ力によるものなんですね。

 昔からものを作るのは大好きでした。今回のジャケットも私が作った衣装で撮影をしていて、イラストも私が描いたものなんです。衣装は布にアクリル絵の具と特殊な溶剤を混ぜてデザインを描きました。衣装作りは黙々と自分で行うんですけど、それがすごく楽しいんです。私、喋り言葉で上手く伝えるのが苦手なんです。だから作品で思っていることや想像していることを伝えようとしているのかもしれないですね。

■「面白いから見て!」という気持ちで曲作りをされているとお話されていましたが、そういうピュアな気持ちで楽曲制作をしているからこそ、どの曲も心地よく、楽しい楽曲になっていらっしゃるんだろうなと感じます。

 そう言ってもらえたら嬉しいですね。作ったもので「面白い!」って言ってもらえるのは素直に嬉しいです。私もエンタメって楽しくて、面白いものですよね。だからこそ作品に没頭して嫌なことも忘れられる。私もエンタメが大好きですし、エンタメに毎日救われているんです。だから「私の作ったものが誰かの救いになっていたらいいな」という気持ちもあります。

■何かにハマっている人を描いた楽曲に、収録曲“あなたシンパ〜オタクより愛をこめて〜”がありますよね。今のお気持ちを描いた楽曲であったりするのでしょうか?

 私のことというより、「こういう人っていっぱいいるんじゃないかな?」と思って作った曲ですね。NHKの「ねほりんぱほりん」っていう番組があるんですが、その番組に羽生結弦くんのファンの女性たちが特集されたことがあったんです。ファンの女性たちはみんな愛情を持って羽生くんを尊敬していたんですね。「羽生くんが頑張っているんだから、私も頑張って生きよう!」みたいな、そういう思考になることが「すごいな!」と思って、その関係性に感動したんです。羽生くんはアスリートだから調子がいい時も悪い時もある。でもどんな状態でも応援したいとおっしゃっていて、その考え方に感動しました。そういうファンの方の深い愛情を表現したいなと思って作った楽曲なんです。

■今回のアルバムは『総天然色痛快音楽』というタイトルですが、どんな思いでこのタイトルにされたのでしょうか?

 アルバムってテーマをもとに作られることが多いと思うんですけど、私が今回作ったアルバムは、いろんなジャンルのものをたくさん作って、共通するテーマなどは特に設けずに収録曲を選抜したものです。だから、アルバムタイトルを決めるのは大変でした。最終的に『総天然色痛快音楽』というタイトルにしたのは、私がこのアルバムをバラエティ豊かでカラフルでポップで楽しい楽曲が詰まったものというイメージを持っていたからです。いろんなキーワードを考えて、いろんな組み合わせを試して最終的にできたタイトルでした。それから、昭和歌謡曲の奇天烈さ、「なんじゃそりゃ?」と思うところに私が憧れて制作した楽曲たちなんだよということを伝えられたらいいなと思って「痛快」と表現しています。

■オリジナルアルバムのリリースが決定しましたが、今後も何か新しいことをされる予定はありますか?

 オリジナルアルバムを今後も作っていきたいですし、私の作った曲を歌ってもらうことも好きなので、いろんな方に歌ってもらえるよう、曲作りをしていけたらなと思っています。それからワールドワイドに活動したいなとも思っていまして、今年に入ってから英語の歌詞で歌った曲を配信リリースしているんです。歌謡曲が持つ大衆音楽としての側面が一番憧れている部分なので、自分の作った楽曲もそうなって欲しいなという野望があります。(笑)

■最後に読者の方に向けてメッセージをお願いします。

 今回のアルバムは24トラック入っていて、いろんな立場のいろんな人のことを想像して作りました。全ての楽曲を好きと言ってもらえたら嬉しいですが、全部じゃなくても収録曲のどれかが「私これ好きだな」って、ヒットしてくれたら嬉しいなと思います。このアルバムを聴いて、みなさんの心に刺さる推し曲を見つけてもらえたらいいなと思います。

Interview & Text:高橋未瑠来

PROFILE
作詞・作曲・編曲をひとりでこなすシンガーソングライター。東京都出身。2010年からライブ活動を開始し、今年で活動12年目となる。「一度聴いたら頭から離れない」と称される個性的な楽曲が特徴。2015年6月24日、メジャー1stアルバム『ア、町あかり』をリリース。その後も「リスペクトするアーティストから曲を頼まれた」という設定で勝手に曲を書き下ろしたコンセプトアルバム『あかりの恩返し』など、コンスタントにアルバムをリリース。2020年に青土社から書き下ろし書籍「町あかりの昭和歌謡曲ガイド」、2022年に「町あかりの『男はつらいよ』全作品ガイド」を出版。その他、アーティストへの楽曲提供、衣装制作、イラストデザイン、紙芝居制作、コラム連載なども行う。
https://mcakr.com/

RELEASE
『総天然色痛快音楽』

COCP-41773(CD)
¥3,300(tax in)

日本コロムビア
6月29日 ON SALE