町あかり VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

町あかり『それゆけ!電撃流行歌』

今の時代にリンクする2020年っぽいアルバム

70年代~80年代の歌謡曲を愛するシンガーソングライター・町あかりが、昭和初期、戦前戦後の流行歌をカバーしたアルバム『それゆけ!電撃流行歌』リリース。平成生まれ、昭和歌謡育ちの彼女が、激動の時代に愛された流行歌を歌い、そこから感じたこととは――2020年だからこそフィットするこのアルバムについて話を訊いた。

■カバーアルバムを作ろうと思ったきっかけは何だったんですか?

 去年の10月頃、お世話になってるギタリストの方のお店でミニライブをやらないか、というお話をいただいたんですけど、そのお店が横浜にあったので、せっかくだからその方にギターを弾いてもらって横浜にちなんだ曲をカバーしようということになったんです。私は70年代~80年代の歌謡曲が好きなんですけど、そこでその頃の曲をやるのはどうかな?という気持ちがあったので、もうちょっと古い“上海帰りのリル”や“港が見える丘”をカバーして歌ったら、こんなにいい歌があったんだということに気づいてしまって。 

■その時に初めて聴いたんですか?

 はい。それまでは流行歌って遠い時代のものだし、全然聴いたこともなかったんです。でもそのライブの時からいろいろ調べて、聴いていくうちにどんどん面白くなっていって。そのあと年末に何度も出させてもらっているクラブのイベントがあって、そこでもカバーを歌ったら面白いかなということで“青い山脈”や“丘を越えて”を歌わせてもらったんですけど、“丘を越えて”はイントロと間奏が長いので、その間に切り絵をやったんですよ。

■町さんがですか?

 インチキ切り絵なんですけど。(笑)

■え?(笑)

 イントロと間奏で私が切り絵をするんですけど、前もってカッターできれいに「平和」という文字を切って、それを額に入れておいて、最後にそれを出すっていう。(笑)

■ふふふ、面白いことを考えましたね。

 その時は“港が見える丘”と“憧れのハワイ航路”も歌ったかな。そういう曲を切り絵のパフォーマンスと一緒にやったら、「町あかりが流行歌を歌うのも面白いね」って、主催の方に言っていただいて。その方がその日のライブを録音してくださっていたので、いろんな方にその時の音源を送って聴いていただいて……そこから流れ流れて「アルバム作りましょう!」ってことになり、今回のカバーアルバムを作らせてもらいました。

■選曲はご自身でされたんですか?

 するにはしたんですけど、何もわからないし、調べるにも膨大過ぎて。

■膨大過ぎますよね。

 なので、いっぱいある曲の中から戦時中の要素がないものがいいかなと思い、戦前、戦後の流行歌を100曲くらい選んでいただいて、そこから1曲1曲聴いていって、バリエーション豊かになるようにピックアップしていきました。本当はもうちょっと少ない予定だったんですけど、「あれもいい、これもいい」って選んでいったら、結構な曲数になってしまって、結局15曲になっちゃった感じです。(笑)

■実際に歌ってみていかがでしたか?

 なんとなくは知っているという程度でちゃんと聴いたことはなかったけど、曲もいいし、メロディもいいし、歌詞もいいし、歌ってみたら楽しいし、やっぱりいい歌だなって感激しました。でもやっぱり難しいんです。普段は自分で曲を作っているんですけど、自分の作る曲とは全然違うし、聴き馴染みもないし。だから、いろんな方がカバーされているものを聴いてみたり、とにかくいっぱい研究しましたね。いろいろ歌ってみて、それを録音して聴いて、「この曲はもっと囁くように歌った方がいいかな?」とか、とにかくたくさん試したりして。これまでそういうことはやったことがなかったんですけど、今回は曲も作っていないし、歌に力を注がなきゃということで、研究にいっぱい時間をかけました。

■特に難しかった曲は?

 最初の3曲、これは難しかったですね。この3曲は無心でまっすぐ歌いたいなと思ったんですけど、今まで自分がやってこなかったことだし、普通に曲が難しいんですよ。明るいものにしたいからとキーを上げるとかなり無理があるし、でも下げてしまうと暗くなっちゃうから、無理があっても限界まで上げたらやっぱりすごく難しくなっちゃって、本当に苦労しました。

■この3曲はアレンジが斬新でびっくりしました。

 気づいたらこうなっていたという。(笑) いろんな方にアレンジをお願いしたんですけど、私のアルバムでアレンジしてくださったことがあったり、関わりのある方たちにお願いしたので、信頼しておまかせしたらこうなっていました。(笑)

■アレンジと歌のギャップも面白いですし。

 アレンジがこうなったから、逆に私は超まっすぐに歌ったら面白いかなと思って、めっちゃ真剣に歌ったんですよ。感情を込めてとかではなく、ただまっすぐ歌おうって。だから、もしかしたら何時代の曲なのかわからない感じになっているかもしれない。(笑)

■そこが不思議な感じでまた面白いです。

 アレンジはこうでも曲自体は現代現代していないし、不思議な感じはあるかもしれないですね。“東京チカチカ”は、歌詞から時代の様子が見えたりはするけど、時代を感じさせないし、“風は海から”は、私めっちゃ気に入っているんですけど、古めかしい感じもないし。“とんがり帽子”には普通に励まされたりもするし、この時代はこの時代のツラさもあったと思うけど、今は今でこの時代にはないツラさもあるじゃないですか。そういうところは今の時代とリンクしてるというか、共感できる部分もあるんじゃないかなって。

■確かに、今の時代とリンクする部分はありますね。

 ちょうど5月~6月に制作してたこともあって、“とんがり帽子”にはめっちゃ励まされたんですよ。そういう意味でも古めかしくない、2020年っぽいアルバムになったなと思います。混乱期に生まれた1枚、みたいな意味も含めて。