ストレートなサウンドに4年分の人生を塗り込めたニューアルバムを熱く語る。
MOROHAの5枚目のアルバム『MOROHA V』が、6月7日にリリース。コロナ禍の最中に日本武道館単独公演を行い、ライブハウスに会場費を先払いするツアーを実施してきたMOROHA。前作のリリースから4年、UKのテクニカルなギターとアフロの生々しいMCが絡み合うスタイルはそのままに、壊れかけた家族の有様を赤裸々に綴った“ネクター”をはじめとする10曲には、4年分の「人生」が塗り込められている。インタビューでは楽曲制作の裏側や、音楽に対する熱い思いが語られた。アフロとUKの二人に話を訊いた。
■少し前に友人から「MOROHAマジ良いよ!」と勧められ、直後に今回の取材の依頼を頂き運命を感じました。その時に紹介された曲がまさに“ネクター”だったんですよ。この曲名って、当時よく飲んでいたジュースが由来なんですか?
アフロ そうではないんですよ。“ネクター”の曲の中にもあるように、祖父は酒を飲んでいると荒れてしまう人で、家族はボロボロになったわけなんですけど、そんな爺ちゃんも病気になり、もういよいよ具合も悪くなって「手の施しようがないから、悔いが無いよう好きなもの食べて、飲んでいいよ」っていう風にお医者さんから言われたんですね。
■ありますよね、そういうの。
アフロ それで、爺ちゃんに「お医者さんから好きなもん飲んでいいって言われたから、お酒買ってこようか?」って言ったら、爺ちゃんはか細い声で「もう酒はいいわ。ネクター買ってきてくれ」って。それを聞いて、「あんだけ酒飲んで取り憑かれた人が死の間際に飲みたいものはネクターなんだな……」と思って。それは爺ちゃんの残悔にも聞こえたし、もしかしたら酒を知る前の爺ちゃんが好きだった飲み物がネクターなのかもしれない。その出来事がすごく印象深くて“ネクター”ってタイトルにしたんです。
■なるほど、腑に落ちました。
アフロ これまでは家族について良いことを歌って来たけど、今回はリリース前に家族に聴かせなきゃと思いました。姉ちゃんには案の定「こんなのは家族の恥だからやめてくれ」って言われて。でも俺も人生かけて自分の生きざま書いてるから、これを引っ込めるのは自分の中で筋が通らないから、「両親に聴かせてダメって言われたら諦めるけど、良いって言われたら出していい?」みたいな感じで交渉して、まずは姉ちゃんにOK貰って、母ちゃんも「大丈夫だよ」って。
■それで最後にお父様に聴かせたんですね?
アフロ 曲中で親父の後悔が色濃く描かれているので、大丈夫かな?と不安に思いながら聴かせてみたんです。そしたらそのパートに差しかかった時、親父は深く頷いて、曲が終わった後に「いい曲だな」って。「歌詞は平気?」って聞いたら「俺はもっと酷いことをしてきた自覚があるから、これくらいなんてことない」って言うんですよ。ただ「1個だけお願いがあるんだけど……」とも言われて。
■お願い?
アフロ 親父に曲を聴かせた時はタイトルが“ネクター(仮)”だったんですけど、「このタイトルのまま出して欲しい」と。亡くなる間際の爺ちゃんが「ネクターが飲みたい」って言ったことは親戚中が知っているんです。みんなでネクターを買いに走ったから。爺ちゃんが酒を飲まなくなった最後の時間をネクターで共有したって思い出があるから、このタイトルのまま出して欲しいって。「この曲は爺ちゃんに対しての負の感情を歌にしているけど、“ネクター”ってタイトルならきっと俺(アフロの父)の兄弟達も、お前が爺ちゃんに対して愛情があったことをわかってくれると思う」と。それがあって、“ネクター”ってタイトルで出すことになったの。
■この曲で「家族、家族」と繰り返してるのは、事実を言っているんですか?それとも自分に言い聞かせているんですか?
アフロ 自分に言い聞かせているっていうのもあるし、まぁ音楽だからあくまでリフレインっていうところで気持ちよく聴こえるようにって思いもあるし……どういうつもりで書いたんだろうな。パっと歌って、「これで気持ち良いし、しかも深く言葉が入ってくるからこれで行こうぜ」ってなったと思います。
■UKさんは隣で聞きながらどう思いますか?
UK 繰り返している理由はどうでもいいと思います。どういう思いで歌っているかっていうのは、自分が「そうありたい」って思っている姿なんだったら、その通り歌ったらいいと思っていて。ギターとか曲っていうのは思いを昇華して伝えるためのものなので、伝えてあげたいなって。
■寄り添っていますね。ところでアフロさんが考える「ポエトリーリーディング」と「ラップ」の違いって何でしょう?
アフロ 個人的な見解ですが、ポエトリーリーディングの場合は紙を見て読み上げるのもありだと思っています。あとはビートに対しての解釈があるかどうか。拍に対して気持ちよく言葉をハメるって意識があったら、それはラップと呼ぶこと多いかなと。でもね、ポエトリーリーディングがラップを包括しているって言う人もいるし、ラップがポエトリーリーディングを包括しているって言う人もいるし。だから、これは信仰みたいな話ですね。作曲する時にどう解釈、すみ分けをすれば自分の頭で理解できて表現できるかって次第で、みんな答えが違うんだとと思います。
■なるほど……。内容とリズム、どちらが先に立つかという所が違うんですね?
アフロ 「ビートに対して音楽でグルーヴを作るぞ」っていう意識があったら、それはラップになると思う。それで、「曲」に落ち着かせるためのものが「かけ合わせ」であって、相乗効果で生まれるものが音楽だと思っているんです。ポエトリーリーディングは言葉が前面にあって、その後ろで音楽が鳴っている。その分、言葉に集中して聴ける印象かな。でも、俺らがやっているのはもうちょっと音楽と詞が横並びっていう感覚です。
■お二人はどっちがどっちに合わせているんですか?
アフロ 俺はライブの時、思いっきり自分のことしか考えないです。
UK 俺は歌しか聴いていないです。
■ということは、ギターが歌に合わせているんですね。今回のアルバムの感想を一言でまとめると「特濃の豚骨ラーメンを腹いっぱい食べた感じ」でした。(笑) ご本人的に一言で言うとどんなアルバムになりましたか?
アフロ 「10曲できて、ようやく出せるぜ」かなぁ。俺たちはコンセプトを持ってアルバムを作るって感じじゃなくて、とにかく一生懸命曲を作って、10曲溜まったらようやくアルバムになる……という形でやっているので、アルバム全体を一言で表すのは難しいんですよ。でも1曲1曲聴いていくと「あの時こういう気持ちだったから、こういう曲ができたんだな」って思うから、前回のアルバムから今回のリリースまでの間の時間を「ギュッ」と濃縮した、心の動きがよくわかるものになったなと思います。
■全曲を通して聴いた時に、“スコールアンドレスポンス”ではエロ動画を観ていて、“命の不始末”ではイチモツを握っているじゃないですか。ココで伏線が回収された感じがしました。(笑)
アフロ すぐ夜の営みのことを歌ったり、ひとりですることを歌ったりするから、UKから「多すぎ!」って言われたこともある。
UK やりすぎ!(笑)
アフロ でも「普段みんなが言わないようなことも言っちゃうぜ」的な演出って正直、幼稚なやり口だからあんまり頼っちゃいけないよね。
■身につまされる思いです……。
アフロ こういうのってテレビで流れている「耳触りの良いものに対しての反抗」みたいなフレーズだったりするじゃん。そういう描写って超たやすいじゃん。たやすいってことは、わかりやすいってことじゃん。でも、それによりかかっちゃいけないな……っていう気づきのタイミングだったりして。とはいえ性は生だから難しいよね。
■話は変わって、収録曲を聴いていて疑問に思ったんですけど、MOROHAが目指す「テッペン」ってなんですか?
アフロ いっぱいあるんだよなぁ。紅白にも出たいと思うよ。あとは……やっぱこう、だんだん自分たちが大きい所でワンマンライブとかするようになるとさ、良い意味でも悪い意味でも自信を持つよね。でもライブハウスで名もなきバンドの演奏を見て、「これ俺たちよりすごいんじゃないの?」って思っちゃう時があんのよ。
■ありますよね、そういうこと。
アフロ そういう時に「でも俺らのが売れてるし」って考えが頭に過っちゃったりするの。その瞬間に本当の「負け」がやって来るわけ。自分たちが信じてたものをへし折ってまで自分の優位性を保とうという心が働いたら、それはもう完全なる「負け」なんです。そういうことを思わずに済むくらい堂々と演奏して、他の音楽に対して「すごいものはすごい」と認めて、「もっと頑張ります」って姿勢でいられることがチャンプの姿。チャンピオンに向かっていく正しい道のり、チャンプロードだと思います。UKくんはどう思う?
UK チャンプは優しさを兼ね備えている人だと思います。音楽っていうよりは人として。表面的には見えない優しさを持っている人っていうのは、傷を負った分、人に優しくできるっていうのもあるのでは、まぁ優しい人がテッペンかなって思います。
■MOROHAって批判されたりもするんですか?
アフロ するよ。でも「哲学が合わない」って批判は嬉しい。聴いて受け止めた後に「俺の生き方とは合わないから好きじゃない」って言われるのは、高評価と同じぐらい嬉しい。そうじゃなくて「声が嫌い」とか、「これってただ喋っているだけなんじゃないの?」とか、そういうのはずっとあり続けるし。最近ではちょっとずつメディアに出たりすることで、俺らのこと「良い」って言ってくれる人が増えて来たからか、ずっとMOROHAの悪口を言っていたTwitterのアカウントとかが大人しくなっていたりするのよ。
■それはすごい!でも「嫌いなら嫌いを貫けよ!」って感じもしますよね。(笑)
アフロ でもその人がそれ(批判)を本当に心からどうしても言いたかったら言うべきだと思う。「音楽やめた方がいい」「やめちまえ」っていうDMが来たりとかするんだけどさ、それもどうしても言いたいことだったら、ちょっと偏ったことだけど、俺には全然言っていい。ただ俺らはそれ以上に「ありがとう」って声をたくさんもらっているから、悪口を言う人の個人の意見で音楽やめさせるのはすっごい難しいことだと思うけどね。
■ヒップホップって他の音楽ジャンルと比べて批判する文化みたいなものもありますしね。今まで言われてきた中で1番びっくりした言葉とかはありますか?
アフロ 一番傷つくのは「インストが欲しいです」。単純に「俺いらない」って言われてるので。
■まぁ「生音のカラオケで歌いたい!」って人なのかもしれませんよ?(笑) そうそう、気になっていたんですが、“俺が俺で俺だ”のMVに映っている新聞投書ってガチのやつですか?
アフロ そう!ガチのやつ。小学5年生の頃のものなんだけど、おじさんが取っておいてくれたの。「20年後の僕」ってテーマなんだけど、これ保存されていた新聞投書が出て来た時、ちょうどその「20年後」が迫っていたから、「うわゴメン!全然夢叶ってないわ!申し訳ない!」って思ってね。
■「自分から自分への手紙」って名曲が多い主題ですが、この曲は描かれているシチュエーションが生々しいですよね。歌詞の中のアフロさんって結構強気じゃないですか。いつも強気だから強気なんでしょうか?
アフロ 「そういう風に生きていきたい」っていう願いかも。ラッパーは「リアル」って言葉使うじゃん。「これが俺たちのリアル」ってやつ。あれは多分、 自分たちが本当にやってきたことや、思っていることを列挙することを「リアル」って言っているんだと思うんだけど、そういう意味だと俺のラップはリアルじゃないと思う。俺は「こういう自分になりたい」って願いをラップにしていることが多いから。
■どちらかというと理想の姿に近いんですね。
アフロ “チャンプロード”なんか特にそう。武道館公演が終わって「なんか、やりきっちゃったね」みたいな気持ちがあったから、「そうじゃないだろ、もっと奮い立て!」って気持ちで、「こんなメンタルになりたい」って思いで書いたの。それをライブでやった時に「自分の声で発して、それを自分の耳で聴いている」っていう状況ってね、結構強烈なんだよね。自己洗脳が入ってくる。ツアーでずっと歌っていたら、そういう歌詞に描いているような気持ちになってきたし。
■つまり日常次元の自分より、少し上の自分ということですか?
アフロ 若干どころじゃないよ!
■そんなお二人が「これは敵わないな……」って思った同業者はいますか?
アフロ いるよ!いっぱい!いるけど「俺に起こった出来事を書けるのは俺しかいない」って思うと、俺の同業者っていないんですよね。だから、自分を出し尽くすしかないし、それを成すことが1番ハードルが高いはずだって思う。「あの人に負けない」と、「自分を出し切ること」のどっちが大変なの?って聞かれた時、前者の方が大変って答えたら、自分より「あの人」の方が上だって認めることになるじゃない。だから、願いを込めて「自分と戦うことの方が大変」であって欲しいのよ。
UK スポーツとかと違って、音楽って表現の仕方に正解が無いですよね。ハンマー投げで室伏に勝てるかって言ったら絶対無理だし、サッカーではメッシに勝てないし。だけど、音楽においては表現が違えばボブ・ディランにも忌野清志郎にも勝てる。だからジャンルというか、テッペンがいる所には挑んでない節があるかもしれません。そういう意味では無敵かもしれないです。(笑)