■1曲目がその新曲のひとつ、先ほどお話に出た“BEST”ですね。
NakamuraEmi はい。この曲はベストアルバムのお話をいただいたときに作りました。自分ではなかなか言うことができない「BEST」という言葉。聴いてくれる人が少しずつ増えていって、応援してくれる人、曲を大事にしてくれる人がいるから、「BEST」ってつけられた曲、これはもう感謝の気持ちです。デビューのときの『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST』は、最後に“七夕”という曲を入れたんですけど、あれはデビューする前に支えてくれていた人たちへの言葉で、今回はデビューしてから出会った人たちへのお手紙みたいな感じで書きました。
■ベストアルバムの1曲目に“BEST”って曲を入れられるって素敵だなと思ったし、それがみんなへの感謝の気持ちっていうのがすごくEmiさんらしいなって。
NakamuraEmi いやいや、もう本当に聴いてくださるみんなのおかげなんです。こんなきっかけでもなければ書けなかったことでもあるし、だから本当に感謝しかないです。
■“東京タワー”は……「Emiさん、何があった?」って…。
NakamuraEmi 「どうした!?」って感じですよね。(笑)
■そうそう。(笑)
NakamuraEmi これはもうすごく悩んでいるときに書いたんですけど、自分ってダメだなとか、才能ないのかなとか、そういう変なループに入っちゃって。がんばらなきゃいけないって答えはわかっているから、誰かに相談する必要もないし。でも涙が止まらなかったり、なんかもう「うわぁー!」ってなったりして。スカイツリーも綺麗なんですけど、キラキラした夜景の中で東京タワーってぼんやりとキャンドルみたいな暖かさがあって大好きなんです。それで、そのどうしようもなかったときに何を考えたのかわかんないですけど、東京タワーに向かっていて…上っていました。(笑)
■ふふふ、そうだったんですね。その変なループに入っちゃった原因、ダメだなとか、才能ないなとかを考えちゃったのは、具体的に何かがあってのことだったんですか?それともいろんなことが蓄積されてのことだったんでしょうか?
NakamuraEmi 完全にそのときに悩んでいることがありました。いつも胸にあるものをそのままアルバムで吐き出していて、そのときも大きいテーマというか、そういうものが頭と身体の中にはあったんですけど、それを曲にするにはまだちょっと早いというか、まだ言葉にしきれないっていう想いがあって。でも“BEST”に続く新曲を作りたい。じゃあいったんそれは置いておいて、自分の中にあるまた別のものを吐き出して、カワムラ(ヒロシ)さんに聴いてもらったら、「うーん……」って感じで。初めてだったんですよ。基本今まではどの曲も「いいね、いいね」って言ってもらっていたので。
■なるほど。
NakamuraEmi 「うーん……なんだろうな……なんか伝わってこない…」みたいなことをおっしゃっていて、それが5~6曲続いたときに、「あ、もうわたしダメなのかな…?」とか思っちゃって。それで、ぐちゃぐちゃな気持ちで東京タワーに上って、夜景をぼけーっと見ながら、「板チョコみたいなビルが」とか、「ビー玉みたいなヘッドライトが」とか、いろいろ思いながら、これは歌詞になるなって携帯にメモっていて。またそういう自分に引いて。(笑)
■わかります、わかります。
NakamuraEmi こんな綺麗なもの、美しいものを見に来たのに、仕事につなげている自分を「うわぁー!」って。でも自分が今100%で曲を作らないと、たぶん誰にも伝わらないんだってカワムラさんに教えてもらったというか。やっぱり上辺だけじゃダメなんだって。上辺なつもりなかったんだけど、「もう本当の100%じゃないと」と思って、そのまま書いて。いつもはこういう問題があったら、解決してから曲を終わらせるんですけど、この曲に関しては、解決する時間もなく、そのままを書いて。「つらくて東京タワーに行った」「綺麗だった」って。こんな曲は初めてかもしれないですね。
■だからすごくリアルに伝わってきたんだと思います。カワムラさんにお聴かせしたら?
NakamuraEmi 「めっちゃいいじゃん!」って。(笑)
■やっぱり。(笑)
NakamuraEmi 「マジですか?」って、めちゃくちゃ嬉しかったですね。
■それまでに書いていた曲、カワムラさんが「うーん」っておっしゃった曲というのは、ご自身ではどう感じていらっしゃったんですか?
NakamuraEmi 自分の中のアイテムを引っぱり出したって感じですね。女性として、結婚のこととか、いろんなテーマに沿って自分が感じたこととか、映画を観て感じたこととか。一応自分の中から出てきているものなんですけど、でもやっぱり何か言葉というか、重みが足りなかったのかなって。プラス、ベストアルバムも強い曲を押しこんだので、その中でちゃんと闘えるものっていうことで、判断してくれていたのかなって感じました。
■悩んで、悩んで、辛かったでしょうけど、結果素晴らしい曲が出来ましたね。
NakamuraEmi 本当に、良かったです。
■“ふふ”はどういった経緯で書くことになったんでしょうか?
NakamuraEmi 女性に特化した番組を制作されている「LaLaTV」さんが、Zeppのライブを観てくださって、わたしが幼稚園の先生をやっていたっていうことをMCで知って、11月がちょうど虐待防止活動の時期だったので、「そこに合わせて曲を作ってもらえないか」というお話をいただいたところから始まりました。そこからオレンジリボン運動をしている事務局さんとか、支援センターとかで親御さんたちから相談を受けている方や、そういう方たちを指導している方たちのところをカワムラさんと一緒に回ってお話を聞いて。
■テーマがテーマだけに大変だったんじゃないでしょうか?
NakamuraEmi 難しいし、正直言って避けたいテーマだなって。しかも自分が子育てをしていたり、お母さんならまだしも、わたしはそういう経験もないので…とは思ったんですけど、障害を持っている中西麻耶ちゃんに出会って“N”という曲を書けて、自信ももらえていたので、何か自分の視点から書ける部分があるかなと思って。やってみようと受けました。
■実際にお話を聞いてどういう印象でしたか?
NakamuraEmi めちゃくちゃ難しいこととか、法律のこととか、吐き気がするような話もいっぱい聞かせてもらったんですけど、結果、どこの方も「声の掛け合いなんだよね」って言っていて。本当にそこなんですよね。子育てってそれぞれの感覚もあるし、特に今はスマホの時代で、ひとりで子育てをできる状況でもあって。どんどん個になっていく中で子育てをしているから、結局はそういう声を掛け合うことって大切なんですよね。
■確かにそうかもしれないですね。
NakamuraEmi 例えばバスで赤ちゃんが泣いちゃっても、「あら、かわいい赤ちゃんね」って一言言うだけで、お母さんもホッとできたり、公共の乗り物に乗っても大丈夫なんだって思えたりするじゃないですか。もちろんあたりまえのことなんだけど、今は厳しい声や心ない言葉が飛び交うこともあるので、声を掛けてあげること、その一言で環境が変わっていくし、そこまで気持ちが大変になっているお母さん、お父さんというのは、もうSOSを出すような状況じゃないから、周りの人が声を掛けてあげることが大事だってみんなおっしゃっていて。じゃあそこでわたしに出来ることはって考えて、書いていきました。
■ここにいるよ、ちゃんと見ているよって伝えてあげるだけで安心しますよね。
NakamuraEmi ね。そういう人になれたらいいなって思うし、今回これをきっかけに教えてもらいました。
■歌詞に出てくるコンビニのエピソードは……?
NakamuraEmi あ、実際の話で、地元の厚木のコンビニで。(笑)
■素敵なおばちゃん!(笑)
NakamuraEmi 嬉しいですよね、こういうの。なので、お母さんとかはなおさらだろうなって。本当に一言で変わるだろうなって思いますね。