ミステリー作家・佐藤青南とのコラボ楽曲で見出した新境地。
Neontetraが新曲“たからもの”をリリース。ミステリー作家である佐藤青南による書き下ろし短編小説と、宮崎あみさによるその朗読、そして小説を受けて制作した楽曲の3軸で展開される“たからもの”。書き下ろし小説は、これまで受験応援ソングや、ボーカルのセイカの出身地である太宰府のテーマソングなどを書いてきたNeontetraのイメージを覆すようなシリアスなテーマとなっており、そのテーマをあえてポップに昇華した楽曲とのギャップも楽しむことができる。
今回はNeontetraのセイカ(Vo)とヒデユキ(Ba)の2人にインタビュー。彼らの出会いや結成秘話から“たからもの”の制作での苦難、今後への思いまで、たっぷりと語ってもらった。
■まずは結成の経緯を教えてください。
セイカ 大学の軽音サークルで一緒だったんです。すごくライトなサークルで、毎月のサークル内ライブごとに「やりたい人がやりたい曲ごとに集まってカバーをやる」みたいな感じだったんですけど、その中で「オリジナル曲がやりたいね」という話になって、そのための固定バンドを同級生4人で組んだのが結成のきっかけでした。
■固定メンバーでバンドを組もうというのは、お2人のどちらかが誘ったんですか?
セイカ それがもう辞めちゃったメンバーが発起人で。(笑) ギターのメンバーがいたんですけど、その人が女性ボーカルでオリジナル曲をやりたいということで、我々が誘われました。バンドあるあるかもしれないですけど、誘われた側が残るっていう。(笑) 誘った人は今も音楽業界にはいるんですけどね。
■それぞれの第一印象は覚えていますか?
セイカ ありますか?
ヒデユキ 最初のセイカさんの印象というと、サークルの新入生歓迎会の時に居酒屋で後ろに座っていた人ですね。「どうも……」って言って、すぐに会話が終了したのを覚えています。(笑)
セイカ (笑)
ヒデユキ 実は僕はサークルにどっぷりという感じではなかったんですけど、セイカさんは結構毎日部室に行くような感じだったので、サークル活動を頑張っている人だなという印象でした。(笑)
■固定バンドを組む前に、カバーバンドで一緒に演奏したことはあったんですか?
セイカ それがないんです。それこそ結成を呼びかけたギターの子とはそれぞれ一緒にバンドをやったことがあったという感じで。なので、ヒデユキくんの最初の印象もそんなに覚えていないんですよね……。サークルにもあまり来ないし、「誰だろう?この人……」みたいな。(笑)
■お2人のルーツとなる音楽や、サークルでカバーしていた青春の音楽というと?
セイカ 私は小室哲哉さんが大好きで、今作っている音楽でもサビはキャッチーなものを作ろうと決めているんですけど、それも小室さんからの影響というか。私の中では小室サウンドが自分の拠り所ですね。
ヒデユキ 僕も音楽になじむきっかけは小室さんの音楽だったり、90年代の曲たちでした。そこから一歩踏み込んで楽器に触れようと思ったのは、GLAYさんとか、L’Arc〜en〜Cielさん、LUNA SEAさんといったバンドブームがきっかけでした。
■90年代のメインストリームの影響が大きいんですね。それは今の音楽性にも影響を与えていますか?
セイカ そうですね。私たちの一番の共通点は、良いと思う楽曲が似ていることだと思うんです。曲を作る時もいくつか選択肢が出た時に、同じものを選ぶことが多くて。なにが良くてなにが悪いかの判断基準が似ているのかなと思います。その点は、Neontetraが長続きしている要因のひとつかなと。(笑)
■ちなみに調べていて気になったんですが、ヒデユキさんは「法律家ベーシスト」なんですか?
ヒデユキ そうなんです。元々、小さい頃から弁護士を目指していて。まさか将来的にミュージシャンとしてメジャーデビューできるとは思っていなかったので、ずっと司法試験の勉強は続けていたんです。そうしたら音楽活動も並行しつつ司法試験にも受かったので、そういう肩書きにしています。(笑)
セイカ Twitterでたまにお悩み法律相談とか受けているよね。
ヒデユキ そうだね。
■どうして弁護士を目指そうと思っていたんですか?
ヒデユキ 中学生くらいの時から思っていたんですけど、当時の塾の先生が早稲田大学の法学部にいて、司法試験を目指していると言っていたんです。その話を聞いているうちに、たくさんの会社を助けられる存在って中々ないと感じて、「弁護士って素敵な職業だな」と思うようになったんです。でも今はなぜかアーティストとしてここに座っているっていう。(笑) 将来的にはアーティスト兼司法試験合格者として情報番組のコメンテーターなんかもやってみたいですね。
■中々いない立場なので、すごく貴重ですよね。
ヒデユキ そうですね、そこで面白いと思ってもらえればいいなと思います。
■さて、今作“たからもの”は小説と朗読、そして楽曲の3軸で楽しめる作品になっています。どんなきっかけから一連の企画が立ち上がったのでしょうか?
セイカ コロナ禍になって、ライブができなくなったりする中で、音楽そのものだけじゃなくて、もう少しエンターテインメントという大きい括りで考えて音楽を届けられないかなと考えるようになったんです。ただ自分たちが作りたいものを作って届けるだけではなくて、音楽プラスアルファで楽しんでもらえないかと考えたんです。そう思った時に、耳だけでなく目も使ってひとつの世界観を楽しめるエンターテインメントを提供できないかなと思ったところから、今回のプロジェクトが始まりました。
■なるほど。そうだったんですね。
セイカ 私たちのデビュー曲“時の旅人”は福岡県太宰府のイメージソングなんですが、その時に岡崎琢磨先生というミステリー作家の先生とコラボしたり、岡崎先生が書かれている小説の世界観をイメージした“純喫茶”という曲を作っていたり、今までも小説は私たちの音楽にすごく近い存在だったんです。その時に挑戦した、小説の世界を音楽にするという試みがすごく好評だったので、それのアップデート版というか。今回は佐藤青南先生に1から書き下ろしてもらう形でスタートしました。
■今作の軸となる小説を書き下ろしてもらうにあたって、なにかテーマやキーワードは提示したんですか?
セイカ なにも提示しませんでした。むしろ「先生にお任せします」とお話しして。佐藤先生はミステリー作家の先生なので、「自分がやるからには今までのNeontetraにない世界観のものを書きたい」とおっしゃってくださったんです。それで出てきたのが結構重いテーマだったので、かなりびっくりしましたが……。「これ、どうしよう……?」みたいな。(笑)
■小説も読ませていただいたんですが、小説を読む前と後で楽曲の聴こえ方が異なるのが新鮮でした。このテーマを元に歌詞を描いていくのは難しい作業でもあったと思いますが、曲作りはどのように進められたんですか?
セイカ 先生に小説をいただいてから、曲調も歌詞もすごく悩みました。小説から受けた印象のまま曲を作ると、壮大なバラードに重い歌詞が並ぶような曲になっていたと思うんです。でも私たちがこのテーマを誰に伝えないといけないのかを考えた時、若い人にこのテーマについて考えて欲しいなと思ったんですね。となると、楽曲で重いテーマを押し付けることはしたくないなと思って。曲は曲として、さらっと聴けるものにしたいと思いました。なので、みなさんが聴きやすいようなテンポ感やサウンドで作って、その中で例えば「さよなら」という歌詞が出てきた時に、「あれ?」って思ってくれた人が「小説を読んでみよう」と思ってくれたら嬉しいなと。
■ヒデユキさんはこの小説を読んでみて、どんなことを感じましたか?
ヒデユキ さすがミステリー作家の先生だなと思う構成でした。まず読み物として魅力的な作品だと思いましたし、それと同時に「これを曲にするにはどうしたらいいんだろう?」とも思って。「難しそうだな」と感じたのが正直なところです。セイカさんも言っていた通り、小説をいただいてから曲の方向性をどうするか、話し合う期間が結構あって、実際に着手するまでにも時間がかかったんです。最終的に決まった楽曲以外にもサンプルで何曲か作ったり、いろんな選択肢を考えながら完成形に辿り着きました。
■作詞には佐藤さんも参加しているんですね。
セイカ そうなんです。一緒に作らせていただきました。佐藤先生は実は元々ミュージシャンの方で、今でもギターを弾いたりしているみたいなんです。なので、どうしたら音楽として良くなるのかを念頭に言葉を選んでいきました。
■ある意味、ミュージシャン同士のコラボのような?
セイカ そうかもしれませんね。(笑)
■朗読に関しては、読み方のリクエストなどはあったんですか?
セイカ 朗読を担当する宮崎あみささんに対して、最初は佐藤先生から「自由に読んでください」といったような感じだったんですけど、先生の方から、「ここはこういう感じで読んでみて」という要望が出てきまして。宮崎あみささんは女優もされていますし、ご自身のラジオ番組でも絵本の朗読をされていたとのことで、すごく上手に世界観を汲んで読んでくださいました。収録は結構スムーズに終わりましたね。