Ochunism VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

■ところで、なぜ「自分だけの居場所」が、自分の部屋などではなく「ガラガラのクラブ」なんでしょうか?

凪渡 それも矛盾のひとつなんですよね。実際、動画のコメントにも来たんですよ。「自分の部屋じゃダメなの?」って。でも、それじゃダメなんだというのがこの曲の根幹にあるんです。クラブという場所は音楽が爆音で鳴り響いていて、みんなが踊っても許されるような場所じゃないですか。ちなみに僕はクラブに行ったことがないので、これは「クラブに行ったことがなくて、クラブのことを何も知らない僕ならではの、クラブのイメージ」が含まれています。クラブはめっちゃ踊れる場所で、そこで踊れるようになりたい自分がどこかにいるけど、そうはなれないんですよ。だって人混みが苦手だから。なので、「ガラガラのクラブに行って、爆音で音楽が鳴っている中で踊りたい。」そういう矛盾なんです。

イクミン だってこれ、クラブに通っている人が書く歌詞じゃないもんな。(笑)

■ああ、確かに。言われてみれば……。(笑)

凪渡 実際、すごく言われたんですよね。「クラブじゃなくてもいいんじゃない?」とか、「らしくないよ?」って。でも、僕は逆にここで「クラブ」と言うからこそちぐはぐさが表現できると思うんです。

■そもそもこの「ガラガラのクラブ」という情景のイメージもいいですよね。

凪渡 ありがとうございます。ただね、この曲を出した時に、SNSでめっちゃギャルっぽいお姉さんが「なんか~、ガラガラのクラブで踊りたいって歌が流れて来たんだけど~、クラブなめんな!」と言っているのを見たんですよ。(笑) その発言が「頭の中で思い描いているギャル」すぎて。(笑)

■そのエピソードがあって曲が完成されたような気もします。(笑) ドラムとしてはどう聴いてほしいですか?楽器担当は特にテクニックを聴いてほしい方が多いと思いますが。

凪渡 作曲の時にイクミンに、「ちょっとここのドラム考えておいて」とひとりにして、そのあいだ僕はスマホを触っていたんですけど、戻って音源を聴いてみたら、いろんなことを詰め込みまくっていたんですよ。(笑) メロディを食っているところもあるし、現実的にライブのことを考えたら難しすぎるし。最終的には僕がいろんなところを削ぎ落としたりもします。

■そぎ落とされるのも受け入れていらっしゃる?

イクミン もう全然受け入れられます。それで結局、歌が活きてくるので。Ochunismはテクニックより「歌」のバンドだと考えています。「飛び出して飛び込んで」というところとか、敢えて言葉を繰り返すのがいいですよね。こういう凪渡のセンスがすごい。それを補強するようにテクニックを入れたくなっちゃうんですけど、僕はシンプルなビートでいきます。歌を聴かせたいので。

凪渡 僕はこの曲の1サビ前のフィルがめっちゃ好きですね。

イクミン そこにはこだわりましたね。今まではスタジオでその時に叩けるものを……という感じやったんですけど、ちゃんと歌を聴きつつ、他のトラックも聴きながらフィルを考えたので、聴きやすいけどちゃんとカッコいい感じになっていると思います。

■イクミンさんは叩いたものを打ち込む派ですか?それとも打ち込んだ譜面を叩く派ですか?

イクミン 打ち込んだ譜面を叩く派ですね。だから実際には叩けなくてめっちゃ練習することもありました。「これ、ホントに叩けんの?」みたいなやつもあるんですけど、なんとなく叩けています。(笑)

■そういうのありますよね。次の曲“I Need Your Love”は、“GIVE ME SHELTER”と正反対の作り方をしているのが面白いですね。思いっきり「君」の存在がいて、レトロですよね。

凪渡 この曲はよく「レトロ」とか「平成っぽい」、「懐かしい」と言われます。僕もメンバーも80年代の音楽育ちというところが潜在的にあるので、自然とちょっと懐かしい方向に進んでいっちゃうのかも。実を言うと、この曲では懐かしさを減らしていったんですよ。最初はBPMも今より20くらい遅くて、ドラムも全部打ち込みじゃなく叩いていて。でも、「やっぱりもっと今っぽくしようぜ」ということで、今風のサウンドが好きなokadaと一緒にビートを選んで、がっつりビートが主役な感じで、BPMも上げていきました。

■この曲はいわゆる「チルい」曲ですが、チルっぽい曲に必須な要素はなんだと思いますか?

凪渡 あんまり考えたことないんですけど、あえて言うなら「チルっぽさ」って、日常や生活に溶け込んでいることだと思うんですよね。だから必須要素というと、個人的にチルっぽい曲には環境音を入れたくなります。音楽そのものより、景色やシチュエーションが先に来るイメージです。

■確かにこの曲は冒頭でシチュエーションが明示されていますもんね。お二人はチルアウトに必須なアイテムってありますか?

イクミン お酒です。

■スッと出て来ましたね。凪渡さんは?

凪渡 僕はめっちゃ苦手なんすよね、チルアウト。落ち着きもないし、頭の中もずっと騒がしいタイプなんですけど……落ち着いているのは静かにお菓子を食べている時くらいかな。

■凪渡さんの感覚もわかります。その次の曲の“Ride On!!”はスピード感もあっていいですね。

凪渡 「EPの中にこういう曲があった方が絶対に良い!」ということがあって作った曲なんですが、ボーカルも2テイクとかで録りました。
歌詞と曲も同時に出てきて、そのまま仕上げていったぐらい。結構ノリとバイブスな曲なんです。

■ちょっとレトロさもありつつ最新の音楽な感じもあって、贅沢で好きでした。

凪渡 僕らもこの曲で一皮むけた感じがあります。一皮むけつつも、音楽を始めた頃の「純粋に、ただ音を楽しむ」みたいな所に戻った感じです。僕自身すっごい考え込みすぎちゃう癖があるので、そういうところも乗り越えられたのかなと。

■今までにバンドが乗り越えた壁の中で、1番大きかったものはなんですか?

凪渡 壁か~。実は、今まで壁という壁にあんまり当たってきてないんですよ。すごく恵まれてて、すごいスピード感でいろんなことが進んでて。逆に、メンバーみんなの姿勢が「戦う者の姿勢」じゃなかった時期が難しかったですね。前作からの1年半は、それと向き合う時間でした。やっぱりみんな、声を大にして言わないと伝わらないことがあったり、しっかり自分の気持ちや心を発信していかないと届かないじゃないですか。一方で発信することはやっぱり怖いし。でも、僕は否定することが自我の始まりとか、自己表現の源にあると思ってるんです。

■イヤイヤ期的な?

凪渡 そうそう。芸術や表現活動ってまさにそれで、その恐怖と戦い続けないといけないんですよね。そういうところが壁になって、この1年半はそれに対してみんなで向き合ってきました。突破できたのは“GIVE ME SHELTER”のおかげかもしれません。

■シェルターがあるからこそ出ていける場所もありますよね?

イクミン 僕も壁という壁じゃないんですけど、メンバーのことを理解する部分で苦労しました。僕は人との間に壁を作ってしまうタイプで、簡単には取り除けないんですが、そこで1番でかいのは凪渡の存在でしたね。凪渡って特別な存在で、最初は正直すごくビビっていたんですよ。アドバイスもしてくれるんですけど、そこからも遠ざかっていました。でも凪渡が“GIVE ME SHELTER”の歌詞を書き始めた時から、凪渡のことをひとりの人間として理解できたんです。それが他のメンバーにも広がっていって、みんなも悩んでるんだな、自分だけじゃないんだな、やっぱりバンドってみんなで一緒に作るもんなんやなと思えるようになりました。それが一番大きいですね。

■EP最後の曲は“I Wanna Rock”です。「足りないものが僕を作ってんだ」という歌詞がすごくいいです。どこから出て来たフレーズなのでしょうか?

凪渡 なんやっけなぁ。(笑) まずワンフレーズが浮かぶタイプではあるんです。“GIVE ME SHELTER”だったら「ガラガラのクラブ」やし。“I Wanna Rock”も「足りないものが僕を作ってんだ」だったと思います。でもその記憶が薄いな……。どうだったっけな。

イクミン 僕は覚えていますよ。一緒にいた時に、凪渡が急に「やっぱ足りないものが俺らを作ってんねやで!」と言い出して、その後に曲ができたんです。このEPの中での僕の一番大きい気付きが「足りないものが僕を作ってんだ」って歌詞で、ほんまにそうやなと思ってます。結局それが自分やし、そういう部分に人の本質が出るというか。

凪渡 ないからこそ、そこに道があるってことやね。これはホントに僕個人の気持ちとしてもそうですし、Ochunism自体にもそう言えるし、足りないものがOchunismやし。足りないものがある音楽でも、無いものねだりをするんじゃなくて、それで戦うんだ……と前向きな姿勢があります。

■この曲もそうですが、Ochunismの曲には美しい風景描写が度々ありますね。こういった綺麗な風景描写にルーツはあるのでしょうか?

凪渡 あります。これはもうまさに、僕が1番辛かった時期が中学生の頃だったんです。今でこそOchunismを始めて、少しずつ言語化することが上手くなったと思っているんですが、当時は先輩に喋りかけられても黙っちゃうタイプで、「ちょっと変わっているヤツ」みたいな感じになって、生きづらさを感じていたんですよね。その頃、学校からの帰り道に堤防があって、めっちゃしんどい時はそこを自転車で走りながら、めっちゃ遠くを見ていたんです。遠くを見て、当たり前の幸福に縋っていました。当時は幸せのハードルを下げていました。そうじゃないとやっていけなかったんです。あの頃が今の自分を作っているみたいな感覚があると思います。

■この曲のラストにはまさにその感じが詰まっていますね。ちなみにお二人は今の自分に何が足りないと考えていますか?

凪渡 いっぱいありますよ。(笑) もう足りないものだらけやけど、言うなら「勇気」です。やっぱり未だに臆病になってしまう自分がいて、ビビって流されてしまう瞬間もあるんです。元々は逆に全くブレーキを踏まないタイプだったので、誰にでも思ったことを全部言っちゃう人間でした。それでいろいろと苦しい思いをしてきたんですが、その時は自分がなんで苦しいのかわかっていませんでした。でも、Ochunismを始めてわかっちゃったんですよね、「こうしなければ苦しまなくて済むな」ということが。その代わりに今は、ちょっとずつ恐れるようになってしまいました。生きやすくはなったんですけどね。

■そういうこともありますよね。

凪渡 でも今は、それも理解した上で勇気を持って言うことがまだできていない自分もいるなと思います。それはステージでもそうですし、これからもっとそういうところも強くなりたいなって。その一方、弱いまま歌詞にしていけたらいいんだろうなとも思うんです。

イクミン 僕も「勇気」なんですけど、「自分自身を出す勇気」が足りていないと思います。ライブに出た時にはすごく快感で、すごく楽しいので、それが常に出せるようになりたいですね。

■これからライブもたくさん予定されていますが、初めてOchunismのライブに来る方に向けて、どう楽しんでいただきたいですか?

凪渡 こういう時、今までは「自由に楽しんでください」とか、「好きなように楽しんでください」と言っていたんです。でもそれってある意味一番残酷なんじゃないかと最近気づきました。これから初めてOchunismのライブに来る人に言いたいのは、あくまで前提としては「自由に楽しんでいい」と思うんですけど、どうすればいいかわからない人は、僕に任せておきなさい……ということです。そういうことをちゃんと言えるようになってきた自分がいるんですよね。リラックスして、Ochunismが作り出す音源とはまた違うその日だけのアレンジとか、気持ちを込めて歌う声に身を任せてほしいなと思います。

イクミン ライブに来てくれる方々はOchunismの音楽が好きで来てくれると思いますし、僕らもただただライブ自体を楽しみたいと思っています。それを見てお客さんが何を感じ取るかも自由やし、もうとにかく楽しんでもらえたらいいなというのが1番ですね。楽しんでください!

Interview & Text:安藤さやか

PROFILE
2019 年関西で結成。ありのままの気持ちを曝け出した歌と、独創的でジャンルレスな音楽を融合させる。メロディアスな歌からテクニカルなラップまで登場する幅広い楽曲は、決して枠にとらわれない、ストレンジダンスロックバンド、Ochunism(オチュニズム)。
https://ochunism.com/

RELEASE
『Strange,Dance,Rock』

配信デジタルリリース
https://ochunism.lnk.to/SDR

UNIVERSAL SIGMA
5月14日 ON SALE