ライブハウスの夜明けに乾杯する熱狂と歓声のライブ。
抑圧の下の煮え切らない日々を耐え、ライブハウスの未来を信じ続けたバンドだからこそ手に入れられる景色がある。輝かしい管弦のSEと手拍子に乗せて登場したバンドメンバーの眩しそうな視線がフロアを見回した時、「今から素敵なことが始まる」という予感が胸を満たした。
オメでたい頭でなにより(以下:オメでた)が4月4日(火)、東京・新宿LOFTで『ワンマンシリーズ「大寿祭」』を開催した。オメでたのライブといえばフロアを揺るがす大歓声と笑い声、息の揃ったコールに飛び跳ね揉み合う観客の姿が象徴的なものだったが、コロナ禍ではそれらも制限され、物足りなさを訴えるファンの声も多かった。しかし声出しも解禁された昨今、SNSには期待と喜びの声が溢れつつある。満を持してデビュー5周年記念日である2023年4月4日に開催された本公演。静かにライブを楽しみたいファンのために「デリケートゾーン」が設けられることは、転じてライブハウスにこれまで通りの日常が戻ってきつつあることを示している。
開演の時を迎え、ひとりずつ登場したバンドは眩い閃光の中であいさつ代わりに“鯛獲る”を叩き付ける。天井バトンを掴むケレン味たっぷりな赤飯(Vo)の仕草ひとつひとつに煽られるフロアの歓声は最初こそ控えめだったものの、ぽにきんぐだむ(Gt&Vo)の「今日は遠慮しなくていいんだぜ!声出して行こう!」の掛け声に合わせて盛大なコールが響き渡った。続く“踊る世間もええじゃないか”では光線の中でタオルが舞い踊り、そこから千切れ飛ぶ繊維がスモークと混ざり煌めくその様に赤飯が思わず笑みをこぼす。「4月になってもよ、いつまで経ってもよ、雛祭りでいいじゃないの!」と呼びこまれた“あられ雛DANCE!!”では、mao(Ba)とミト充(Dr)の盤石のリズムに背中を預けてツインギターが高らかに鳴り渡る。「今日はとことん汗かいて、ハッピーになって、バカになって帰れよ!」超満員のフロアを見回すオメでたは、メジャーデビューからの5年間のうち半分以上の年月をコロナ禍と共に過ごしてきた。コロナ禍前からモッシュやダイブが起こらない「デリケートゾーン」を導入しているオメでたの「(観客たちにとって)嫌なことひとつないようにしたい」という言葉からは、自らの愛する音楽シーンをよりたくさんの人に心から愛してもらいたい、そしてこれからもこのライブハウスという居場所を守っていきたい、という真摯な想いが伝わってくる。赤飯は観客を煽りつつ、その視線はいつもどこか真剣で、だからこそ観客はバンドの先導に身を任せられるのだろう。それでも「コロナ禍以降に初めて来た人!」という問いかけに大声で「はぁい!」と即答したファンへ「おまえ絶対前から来てるでしょ!?」とツッコむのは忘れない。
給水所が設けられていることも説明して、ライブのチュートリアルを終えると、赤飯の「寿司になる準備はできてるか~?」の呼びかけに応えて左右二手に分かれるフロア。上手側がシャリ、下手側がネタと名付けられたこの日の“wosushi~ウォールオブ寿司~”で、観客は思うままに身体をぶつけ合う。“超クソデカマックスビッグ主語”では、赤と青の鮮烈な照明を味方につけてフロアの熱狂を操っていく。また、この日は新曲“一富士二鷹サンライズ”も披露された。「いち・に」「サンライズ!」「ウィー・アー」「サムライズ!」のコール&レスポンスを練習して打ち出されたその曲は、全編にわたって観客のコールを要求する、まさにコロナ禍の収束を象徴するかのようなもの。古き良きロックンロール調の324(Gt)のギターソロが軽快に鳴り響けば、初披露の楽曲にもかかわらず、サビに観客の歌声が混ざる。「オレら腐ってもロックバンドなんで、内側に流れる熱いものがあるんで!お前らの覚悟も見せてもらっていい?」と、そんな赤飯の煽りにフロアが拳を突きあげると、意表をつくように“推しごとメモリアル”のイントロが呼びこまれる。色とりどりのペンライトが揺れる中、どこか毒気も含むアイドルボイスで赤飯があざと可愛くキメれば、ステージは一瞬にして地下アイドルのショーケースの気配を纏う。赤飯、ぽにきんぐだむ、324、maoがいそいそと楽器を置いてステップを刻むサビも可愛らしく、サビを終えて大急ぎで楽器を担ぎメタルバンドに噛り付く4人の姿はまさに「推せる」様相である。
この日のギターソロでは、324が客席からツインギターの相手を募集。立候補した観客のハヤト君は、ふんわり膨らんだ風船ギターを抱え、フロアに作られたサークルの中で324とのギターバトルを繰り広げる。緑色のペンライトが波のように揺れる最中、壮麗なギターサウンドが降り注ぐ様は圧巻だ。ハヤト君を拍手で称えた赤飯は、先日行われたメタルフェス「KNOTFEST JAPAN 2023」で上半身裸の屈強な男たちが作るサークルピットに飛び込み、背が高い外国人たちの肘鉄を頭に喰らって退散したという思い出を笑い混じりに語る。ぽにきんぐだむはデビュー5周年を迎えた思いや、ライブハウスに行くということを批判された日々、コロナ禍でも歩みを止めなかったから掴めたもののことを語り、温かな口調でバンドが進む道を選んでくれた観客への感謝を述べる。そして繰り出された“NO MUSIC NO LIFE”では、コロナ禍の日々を強烈に揶揄しつつ、バンドの現在地を示す。クールな色気で魅せるぽにきんぐだむと大見得切って艶やかに歌う赤飯、ふたりの個性が重なって生まれるエネルギーのうねりは、メンバーの姿が影絵となる“HAKUNA MATATA”に繋がり、ますますフロアを熱狂の渦に引き込んでいく。その勢いのまま“ふわっふー”に流れ込むと、付き上がる拳の波の中を泳いでいく人の姿が。天井すれすれを爪先が掻けば、声音の違うヴォーカルの掛け合いが風圧めいた音の洪水の中でぶつかり合う。それを見詰めるバンドの笑顔は、激しい照明の点滅の中でも目に焼き付いた。
「オレたちの反逆は始まってる!ここから全力出してくぞ!」との赤飯の叫びに呼びこまれた“ザ・レジスタンス”に頭を振って応えるフロア。激しいモッシュの中、今ここに集まったみんなを称えるようなピースサインを渡る人の影。真っ赤なライトに照らし出されたステージは燃えているようだった。ヒートアップしたフロアを眺め、赤飯は「アツいですね、めちゃくちゃアツいですね……まるでお風呂屋さんみたいですね!」と冗談めかし“スーパー銭湯~オメの湯~”をドロップ。maoのベースの小技がよく映え、激しく降り注ぐスモークがミストサウナの様相を帯びる中、赤飯とぽにきんぐだむも客席へ飛び込んでいく。輝かしい時代の空気を孕む ギターソロや、緻密に組み上げられたドラムのビート。ロックバンドとしての正統なカッコよさと可笑しさ、そのふたつをワガママに取り入れて、フィナーレへ向けバンドは疾走する。
「次がラストの曲じゃい、全力でかかってこい!」「わしらとお前らで作ってる光景が、オメでたい頭でなによりです!」ハウリングの中にシャウトを溶かした赤飯の導きで、ラストナンバーの“オメでたい頭でなにより”が高らかに歌われる。ヘヴィなサウンドに歌謡曲風のメロディ、ポップスの軽快さを混ぜ込んで、ライブハウスの楽しさの全てが詰め込まれた夢のようなひとときは過ぎていく。満員のフロアに温かな照明が降り注ぎ、バンドサウンドが静かになった瞬間には観客の歌声だけが響く。それを眺めるメンバーの柔らかな笑顔がピースサイン越しに輝けば、歌声はいっそう強くなっていく。「ずっとやりたかったこと」と赤飯がフロアに降りればサークルピットが形作られ、その声に煽られてラインダンスもスタート。思うままに客席を泳ぎ回った赤飯が「不慣れなヤツが集まるとこうなるんだぜ」「でもこれからどんどん屈強なサークルに変わっていくでしょう!」と叫べば、観客は声を上げてそれに応える。
「ここに集まった全てのバカヤロウども!愛してるぜ!」激しい光の点滅と耳鳴りの向こうの雨音のような拍手の中で、ライブは終わっていく。バンドはこの「大寿祭」を日本武道館に持っていくことを観客に誓い、次なるライブとして5月14日(日)に東京・町田 The Play Houseにてミト充の生誕祭を行うことを予告して、ステージを去って行った。しかし自然に発生した観客のシンガロングに応えてオメでたが再登場。324は「うるせー!黙れー!」と怒鳴りつつ、満面の笑顔を浮かべている。「我々も5周年!ライブハウスの夜明けに乾杯して帰りますか!」と披露されたのは、“乾杯トゥモロー”だった。「あんだけ騒いどいてまだ騒ぎたいクソッタレども!わしらの未来に乾杯しようぜ!」ステージで振られる柔らかなフラッグがフロアから突き上がる親指を撫でる中、イタリア語で「乾杯」のコールを高らかに叫ぶ観客たち。夜が明ければみんなそれぞれが日常に帰る、その前の奇跡のようなほんのひとときが過ぎていく。華やかなサウンドとカメラのレンズが曇るほどの熱気に彩られて、笑顔が弾けるライブは飛びぬけるように明るい旋律の中で幕を下ろした。
Text:安藤さやか
Photo:ゆうと。
『ワンマンシリーズ「大寿祭」』@新宿LOFT セットリスト
01. 鯛獲る
02. 踊る世間もええじゃないか
03. あられ雛DANCE!!
04. wosushi〜ウォールオブ寿司〜
05. 超クソデカマックスビッグ主語
06. 一富士二鷹サンライズ
07. 推しごとメモリアル
08. NO MUSIC NO LIFE
09. HAKUNA MATATA
10. ふわっふー
11. ザ・レジスタンス
12. スーパー銭湯〜オメの湯〜
13. オメでたい頭でなにより
ENCORE
01. 乾杯トゥモロー