音山大亮(Vo&Gt)、さなえ(Key)、バンバ(Gt)、
変幻自在な超絶技巧、「クセ強」ナンバーをポップに紡ぐPachaeの世界観。
pachaeが6月12日にニューシングル『非友達』をリリース。pachaeは音山大亮、バンバ、さなえによる大阪発のハイブリッド・シティーポップバンドで、音山大亮がDTMで制作した楽曲をバンドで演奏するという形式を採っている。3人は2024年4月にシングル『チョウチンカップル』でメジャーデビュー。今回の新曲『非友達』は、6月11日のライブで初披露されたPachae流の失恋ソングで、リズム隊には須藤優(Ba)、河村吉宏(Dr)を迎えている。今回のインタビューでは音山大亮とバンバの2人に、バンドの来歴から楽曲についてのこだわりを訊いた。
■pachaeは2024年にメジャーデビューを迎えたばかりということで、まずはご来歴から伺っていきたいと思います。バンド結成までにはどういった経緯があったのでしょうか?
音山 僕が夜の公園で弾き語りの練習してた時に、当時のドラムが「終電を逃した」とかで、ベロベロに酔いながら騒いでいたんです。それで、なんでか声をかけられて、友達になって……僕は嫌だったんですけどね。(笑) 後日「ドラムをやっているところ見に来てよ」と言われてライブを見に行ってみたら、それが死ぬほど上手かったんです。すぐに誘って、2人でバンドメンバーを1~2年かけて集めました。今はそのドラムはバンドから抜けちゃって、今の3人でやっている感じです。
■公園での出会いをきっかけに結成されたバンドだったんですね。それ以前には専門的な音楽教育を受けていたりはしますか?
音山 僕は大阪芸術大学の短期大学部にギターで入りました。
バンバ 僕はスーパーパンピーなんで、誰にも何も教わることなくやってきました。自分で言うのもあれですが、よく頑張りました。
■そうなんですね。ちょっと気になっていたんですけど、バンバさんのお名前の由来ってなんですか?
バンバ 本名は全く違うんですが、漢字で書いた時に「バンバ」とも読めるんです。
音山 僕が勝手にそう呼びました。(笑) メンバーは覚えやすい呼び名が良かったから、呼びやすいあだ名をつけていって、彼の場合はそれが「バンバ」だったんです。
■2人は何をきっかけに音楽を始めたのでしょうか?
バンバ 僕は単純です。もともと音楽は好きだったんですけど、カッコよくギターを弾いているミュージシャンの姿とか見ているうちに、「これくらいやったら自分にもできるやろ」というかなりナメた思考でギター始めました。
■よくある「モテたいからギターを始めた」の変形みたいなパターンですね。(笑)
バンバ そう。あの頃は、手軽にカッコよくなれそうなアイテムやと思っていました。(笑)
音山 僕はもともと小学校の間だけピアノをやっていたんです。当時はクラシックがあんまり好きじゃなかったんですけど、演奏はすこぶる上手くて。(笑) 今よりホントに上手かったから、親バカな家族から「ピアノが上手いならギターも絶対に上手くなる」という理由でギターを買ってもらいました。まぁ実際は全く弾けなかったんですけどね。(笑)
■でも、何かきっかけがあって本格的に弾き始めたわけですよね?
音山 押し入れに入れつつも、毎日5分くらいは触っていたら、2年くらいかけてちょっとずつ弾けるようになっていました。高校の最後にはエレキギターを買っています。
■「1日5分でも触る」って大事なんですね。
音山 1日5分あれば2年で全人類がギターを弾けるようになります。(笑)
■いいことを聞きました。(笑) 2人が一番衝撃を受けたアーティストは誰ですか?
バンバ 僕はandymoriです。小2くらいの時に“革命”かなんかのMV見て「ビビビ!」となって、そこから音楽の虜になっちゃいました。
音山 僕はMr.Childrenですね。衝撃度で言うとTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTとボカロですけど、もっと遡ったルーツはテツandトモだと思います。
■ここでテツandトモの名前を聞くとは思わなかったです。(笑) なぜテツandトモなんですか?
音山 なんでだろう……?(笑) あの“なんでだろう”ってすごくいい曲なんですよ。それにあの歌詞を落とし込めているのがすごいというか、いい曲になっているのが凄い。あと、CDにはインストゥルメンタルも入っているんですけど、“なんでだろう”のインストゥルメンタルってマジのアコギ1本じゃないですか。それがすごく斬新でした。なんの曲かはわかんなくなっちゃうんですけどね。(笑) そういう意味でも衝撃的でした。
■“なんでだろう”のCDを買った人と初めて会いましたよ。(笑)
音山 初めて自分で買ったCDが“なんでだろう”なんです。次がミスチル。(笑)
■最近で言うと、どぶろっくとかもお好きですか?
音山 今ちょうど、どぶろっくの話もしようと思ってました。すごく音楽をしているなって思います。あんな歌詞は書かれへんし、メロディもいいし、ピッチとかもいいし。
バンバ 『あらびき団』に出ていた頃のどぶろっくがマジで最高やったね。もう今はテレビでは絶対に流せない、ホントに可愛くない下ネタだった。
■下ネタ系は地上波で流せないようなネタが一番面白いんですよね。(笑) ところでpachaeはDTMで制作した楽曲をもとにバンドアレンジされているそうですが、なぜDTM音源をそのまま出さずにバンドで演奏するのでしょうか?
音山 「そこにバンドがあるから」です。(笑) バンドが組めなかったらひとりでやっていたかもしれないと思いますけど、みんな姿形があるので、人がやっている方が上手いも下手も面白いかなっていう。あと、pachaeの曲は演奏が上手くないと絶対に弾けないので、そこはひとつの個性かなと思っています。あんまりバンドで弾きやすいように落とし込んでいないですからね。
■他のメンバーからすると、音山さんの作る曲は弾きにくいですか?
バンバ 弾きにくいです。(笑)
■少し難しい質問になりますが、「pachaeの音楽を作る3本の柱」は何だと思いますか?
音山 わ、めっちゃムズい質問だな~!(笑) でも「ムズ(演奏の難しさ)」は絶対にあるな。あとはなんやろ?考えたことなかった。「歌詞」にはこだわっている。みんなが書かないようなことを書きたかったりする。みんなが避けていることをあえて言いたいです。みんながなかなか歌詞にしない真理を突きたいと思っています。思想はつよく。
バンバ あと1個はなんやろな……?自分らしく?
音山 まぁ自分らしくはいたいよな。
■自分らしくって難しいですよね。どんな所が自分らしさだと思いますか?
音山 日本人って、すごく「同調」する国民性なんですけど、僕はそれについて思うことがあるんです。自分は日本ラブなのですが、海外に行っていたこともあるし、海外の友達とか、海外に住んでいる日本人の友達とかも多いし。僕自身は日本でやっていきたいんですけど、そう思えなくて海外に出て行った人たちのことも知っているから、日本には良い所も悪い所もあると考えています。その悪い所が助長されるような世の中になってきているから、「自分」を持って、好きに動ける人間が増えたらいいなと思います。
■なるべく空気を読んで社会に溶け込まなきゃいけない……みたいな風潮を感じますよね。
音山 僕は好きに生きているから、そういう僕を見て元気を出してほしいです。でも「元気を出して!」という曲を書きたいわけじゃなくて、僕らを見て、曲を聴いて勝手に元気になってほしい。曲に依存させたくはないんです。
バンバ 僕は「pachaeのバンバ」として振舞っています。あんまり自分らしさを大事にしようとは思っていないのかも。本来はひとりの時間の方が好きなタイプやけど、生きてるとそれだけじゃない部分もたくさんあるので……ハジけたい。うん、ハジけたいです!
音山 pachaeの三本柱は「ムズ」「つよ」「ハジけ」で行くか。(笑)
■「ムズ」「つよ」「ハジけ」ですね。にしても、お話がだいぶプログレ寄りになってきましたね。(笑)
音山 それをポップに落とし込んでいます。(笑)
■4月にはシングル『チョウチンカップル』でメジャーデビューされましたが、メジャーデビューしたことで変わったことはありますか?
音山 あんまり変わっていないですね。「意識はより高くしていきたい」と思ったくらいですね。メジャーシーンではインディーズと違うことがいっぱいあるんですけど、だからといって自分自身が違うことはしたくなくて、今ここでやるべきことを全力でできたらなと思います。
■丸くならないですか?
音山 いや、丸い気持ちでいます。(笑) 曲に対しては多分尖っているタイプではないです。チームでやっているプロジェクトなので、メンバーやスタッフの意見はしっかり聞きたいし。思想は尖っていると思うんですけど。
■ツッパらないってことですね。どうして「メジャーに漕ぎだして行くぞ!」という曲に“チョウチンカップル”を選んだのでしょうか?
音山 あえてこの曲を選んだというわけじゃないんです。今までの曲よりも覚えやすくてキャッチーで……みたいな部分を表現したいとは思っていましたけど。いつも通りというか、「たまたまこれがメジャーデビュー曲になった」みたいな側面があってもいいかなと考えていて。これまでもこれからも自分たちが良いと思った曲を発表していきたいし。今後“チョウチンカップル”を「メジャーデビュー曲」として育てられたらな、くらいには思っていても、デビュー曲としてこだわることはなかったです。
■楽曲としてこだわった所はどんな部分ですか?
音山 元々“チョウチンカップル”は男女の曲だったんですけど、いろんな形で解釈できるように落とし込みました。ただの恋愛として受け止められて終わるよりも、いろんな解釈があった方が楽しいかなって。完全な恋愛曲じゃなくて、どんな捉え方でもいいんです。聴いてくれるリスナーさんの数だけ曲の世界が広がってくれたらいいなと思います。
■それにしても、チョウチンアンコウがモチーフの曲って珍しいですよね?
音山 最初は「深海みたいな所にいる、めっちゃ陰キャの男女が出会って、どちらかがどちらかを照らして、2人とも浮上していく」みたいなイメージがあったんですけど、そこからいろいろ変わってきて、「誰かに引っ張られて、まだ知らない世界についていく」という形になりました。その相手は恋人じゃなくても、親友でもいいし、なんならバンドとかでもいいし。なのでチョウチンアンコウのモチーフについては最初の名残が残っているだけですね。(笑)
■なるほど。その名残が良い味を出しているんですね。チョウチンアンコウって、メスがオスを吸収して繁殖するから、「なんでこの歌詞のモチーフにするんだろう?」と不思議だったんです。
音山 僕もそれを調べたんですよ。調べたらめっちゃブサイクな魚やった。(笑) めっちゃブサイクだから、好きなゲームのキャラを訴訟されない範囲でパロディしてチョウチンアンコウにしてジャケット写真用に描いてみたんですけど、すぐ却下されましたね。(笑)
■ちょっと諸事情あった模様ですが……。(笑) でも、素敵な曲に仕上がりましたね。
音山 歌詞では韻を踏むことをだいぶ考えました。「ぬらり」みたいな言葉を死ぬほど出しましたね。辞書開いても「ぬ」の所って「ぬるり」「ぬらり」くらいしか無いじゃないですか。だから「ぬらりひょん」は「来た!」って感じで、「ぬらり」入れて「ひょん」を使う感じで2番のAメロに入れました。
■MVも公開されていましたが、撮影はいかがでしたか?
音山 楽しかったな。
バンバ 楽しかった。裏方さんもいっぱいいて。
音山 最後まで何する人なのかよくわからへん人とかも結構おったよな。(笑)
■直接映像にはかかわらない人たちもいますよね。(笑) そして6月12日には新曲『非友達』がリリースされましたが、こちらも面白い曲でした。作曲する時はいつもどこから作られるのでしょうか?
音山 暇でパソコンに向き合ってる時は同時に全部作る時もありますけど、弾き語りで作ることもあります。最近は別々に作ることが多いですね。歌詞とかメロディにはかなりのストックがあって、結びつける作業をすることもありますし。
■“非友達”の場合は?
音山 この曲は楽器から作りましたね。pachaeっぽい曲を作りたかったので、難しいアレンジを先に作って、このアレンジでギリギリ歌えるかどうかのメロディをはめて、それから歌詞を考えました。
■変拍子というほどではないですが、フレーズ感の独特さが印象的な楽曲ですよね。
音山 歌うことを考えていたら、こういう感じにはならないです。(笑) 僕にとっては普通のリズムだったので、普通に作っていったんですけど、歌う段階になって冷静になると「何やっとるんやろうな……」みたいになりました。(笑) 最後のサビに入る前に僕とギターだけになるところとか、「誰が弾けるんだろう?」と思っています。
バンバ ライブで弾かなあかんねんな……。ほんまにどうしようかな。(笑)
■ライブでぜひ聴きたいな。(笑) この曲のギターリフがカッコいいです。
音山 このリフは僕が作りました。どこかで聴いた洋楽の一瞬流れたセクションで、同じ音を何拍か弾いているのを聴いた時に「超カッコいい!」と思って。「これからの時代はコレや!」と思ったんです。
■少ない音やコードで魅せる曲っていいですよね。
音山 大学の授業でも「1コードだけで曲を作る」という課題が出たことがあったんですけど、僕以外できていなかったです。今回の曲ではコードは移り変わるけど、大きく見て2音ぐらいがいいんじゃないかなと思っていて。最近はそういう攻め方ができているバンドってあんまりいないんじゃないかな?という所もpachaeっぽいし、そこはちょっと意識して作りました。