■みなさん好みが分かれていて面白いですね。そして今作の“すき、きらい”ですが、みなさんはどんな解釈をしましたか?
もな 最初に音源をいただいた時、ドラマ「ディアマイベイビー~私があなたを支配するまで~」のオープニングテーマというところで、このドラマの曲として歌わせていただくからには、物語に寄り添い、「マネージャーと新人俳優と……」という解釈を持ちたいと思いました。でも、MVの監督さんは、“すき、きらい”をファントムシータの曲としてとらえて、「アイドルがひとりのファンに対して抱く特別な感情の曲」として解釈してくださったんです。自分たちの中にいっぱい表現を持っておくのは良いことだと思うので、解釈自体は各々に任せていいと思っているのですが、MVはそういったストーリーになっています。アイドルなのにファンのひとりに対して特別な感情を抱いてしまって、相手の方は自分に振り向かないアイドルのことが好きだったのに重い感情を向けられてしまったから、ファンでいるのをやめようとして、それに対してアイドルである私たちは「ずっと一緒って言ったよね?!」と迫って。MVを撮った時には、こういう捉え方もできるんだなと気付き、より深く、いろんな方面で楽しめる曲だなと思いました。
■今作を歌う上で表現が難しかったところや、練習したところはどこですか?
美雨 全員で歌う「Baby Baby Dear my Baby」のところですね。個人パートやセリフはそれぞれの解釈や表現でみんな頑張っていたのですが、全員で合わせるところは、みんなで合わせるからこそ苦労しました。歌い方も難しかったですし、みんなでひとりの標的をガッと追い込むような表現をしたくて。最初から最後にかけて、どんどん狂っていく曲なので、サビの全員で歌うところは逆に綺麗にして、それによって狂気を際立たせたかったのですが、それが難しかったです。
もな 私と百花が一緒に歌っているサビ前の「後悔があるのなら早くこうしたかった」のところですね。私は百花の主旋律に対して裏を這うような高い音で、ピッタリじっとりとくっついてハモっているのですが、ここはいきなり音が消えて、静かな空間に声しか響いていないような感じになるんです。そこの細やかなニュアンスというか、高音の絶妙に気持ち悪い響き方のところを表現したい気持ちがあり、そこがハマればすごくブワっとなる所なので、より丁寧にじっくり歌いたいなと思いました。
百花 私は自分のパートの「もっと締めて~」の所です。主軸となるものは大体決まっていて、そこから深く考えて行って、「こういう歌い方の方がいいかな?」「これだと狂気が伝わらないかな?」と試行錯誤しました。ここは練習して、こだわった部分です。
凛花 私は今回、あんまり引っかかるところがありませんでした。あえてひとつだけ挙げるとすると、「苦しいね」「痛いよね」「悲しいね」「辛いよね」と並んでいるところの、「痛いよね」というところです。ここが私のパートなのですが、自分としては、小さい子どもに「痛いね、痛いよね」みたいに語り掛けるニュアンスで歌いたい気持ちがあったんです。だけど、そういう歌い方を普段からしていなかったというか、声質も相まって高圧的な歌詞の歌割りが多く、親身な歌詞をあんまり歌ってこなかったので苦労しました。
■声質は長所でもありますが、難しいところですよね。今回、歌い方や表現方法などでプロデューサーさんなどからアドバイスされたことはありますか?
美雨 Adoさんは最初から「こうしてくれ、ああしてくれ」と言うのではなく、私たちが「こうしたいんですけど、どうしたらいいですか?」と聞いた時にアドバイスをしてくださるんです。アドバイスの仕方もメンバーによって変えてくださいます。私は感覚派なので、「ここはもっと短めに」「長めに」と言われても、わかんなくなってしまうんですよね。そういう時にAdoさんは「メンヘラになってみてください」や、「セリフのところも役になり切って」とアドバイスしてくださるので、感覚でやり切ることができました。
もな これまでの曲では「レコーディングでこういうことをしたい!」という気持ちや、歌い方を持ってやっていたのですが、この“すき、きらい”はどうしたらいいのかわからなかったんです。自分がやりたいことはわかっていたのですが、メンバーがどう出るんだろうとか、いろんな表現方法があり得るから、どれを選べばいいんだろうとか。そこに悩んでAdoさんに相談したら、「私がもなさんにこうしてほしいとか、メンバーの中でこうしろというものは本当に無くて、もなさんがしたいことをしてほしい」と言っていただいたんです。この曲には同じメロディが4回続くところがあるのですが、私は3番目に歌うことになっていて、導入でもオチでもないし、微妙な立ち位置で。盛り上げるべきなのか、落ち着くべきなのか、そこに悩みAdoさんに相談すると、「そのままでいいんだよ。ファントムシータはメンバーが各方向に個性を伸ばしている人たちの集まりだから、『自分はこうだからここはわきまえて抑えよう』じゃなくて、もなさんのやりたいように一度歌ってみるといい」との言葉をいただきました。私たちが持っているものを尊重した上で、それを伸ばしていく方向のアドバイスをしてくださるので、本当にありがたいなと感じています。
百花 この曲に限らず、私は具体的なアドバイスをいただくことが多いんです。たとえば「暗い場所で、こういう情景で、こういう気持ちで……」という感じ。そうするとすごく自分の中に景色を思い浮かべながら歌うことができて、とてもやりやすくなります。たまに「こういうふうに歌ってください」とAdoさん自身が歌ってくださることもあって、レコーディングの時はその声をインプットして出していきつつ、それだけだといけないし……と思いながら頑張っています。レコーディング動画がYouTubeに上がっているのですが、改めて見ると「なんて贅沢なんだろう」と思います。
凛花 私も結構具体的に教えていただいています。ただ、情景の話よりも「ここはちょっとビブラートで伸ばしてみて」「あと2秒伸ばして」「ここは短く息を吐き切って消して」みたいな方向性ですね。その通りにやってみると、自分がやりたいことに近づくんです。そういう引き出し方を尊敬していますし、Adoさんもいろいろ考えていつつ、私たちのやりたいことを優先してくださるのですごく嬉しいです。
■メンバーによってアドバイスを使い分けるところは、さすがAdoさんですね。さて、活動開始からようやく1年が経ちましたが、次の1年で身に着けたいスキルはなんですか?
美雨 私は筋肉をつけて、パフォーマンスも体力もダンスも歌も全部タフになりたいです。
もな 魅力を伸ばしたいです。色濃いメンバーだからこそ、スキルを上げることもそうですが、個性をもっと伸ばしたいです。トゲを伸ばしていきたい。
凛花 精神力ですね。何事にも怯まず、根性を持ってやりたいです。
百花 私はホラーの表現をもっと突き詰めたい。今までもみんなから刺激を貰うことがあったのですが、これからもっともっと伸ばして、さらに突き進めていきたいなと思います。
■最後に、これから始まる国内ツアーに向けて、ファンのみなさんに期待してほしいことを教えてください。
美雨 今回のツアータイトルは『フレイム・メドゥーサ』。メデューサは見た人を石にしてしまう怪物なのですが、私たちのパフォーマンスでみなさんを圧巻して、目が離せないくらい、石になってしまうくらいの衝撃を与えたいと思っています。久しぶりの日本でのワンマンライブなので、楽しみにしていただけたら幸いです。
もな ファントムシータを通して、改めて「日本のアイドル像ってこれだったよね」「これがアイドルにふさわしい存在だよね」みたいな感覚を、みなさまの心の中に呼び戻したいです。幻影として存在していたいと思いながら、これがスタンダードになればいいな、そのきっかけになればいいなとも思っています。
Interview & Text:安藤さやか
PROFILE
歌い⼿Adoがプロデュースするレトロホラーアイドル。英語表記『Phantom Siita』/漢字表記『怪忌蝶』。現代のアイドルを「蝶」とするのなら、ファントムシータはそんなアイドル業界にとっては異端な存在である「蛾」。怖いとわかっていても⼿を伸ばしたくなるような、恐ろしくて、美しい。「アイドル」という⾔葉に相応しいアイドルになって欲しいという願いが込められている。誰かにとっては新しく、誰かにとっては懐かしい。本当の⽇本のアイドルがここにいる。
https://phantomsiita.com/
X:https://x.com/phantomsiita
YouTube:https://www.youtube.com/@PhantomSiita
Instagram:https://www.instagram.com/phantom_siita_official/
RELEASE
ファントムシータ
メジャーデビューシングル
『すき、きらい』

初回生産限定盤(CD+DVD)
TYCT-39292
¥3,000(tax in)
通常盤(CD)
TYCT-39294
¥1,500(tax in)
ユニバーサル ミュージック / Virgin Music
7月9日 ON SALE