ゆいにしお VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

ゆいにしお『tasty city』

確かに歌詞に出てくる主人公たちはこじらせまくっていると思います。(笑)

「渋谷系サウンド×リアルな歌詞で注目」「NEO渋谷系シンガーソングライター」という言葉に、ひっかかった。10月5日に、メジャー第一弾アルバム『tasty city』を発売するゆいにしお。同作品を通して彼女の人間像を探ったところ…。

■ゆいにしおさんの楽曲には、“チートデイ”の曲ような、会社員だからこそわかる心情を記した内容や、会社で働く人たちの心理などもいろいろと映し出されています。ゆいにしおさん自身、会社員経験があるのでしょうか?

ゆいにしお 私は今も音楽活動と平行しながら会社員としても働いています。おっしゃられたように、私が書く歌は会社員だからこそわかる内容も多いです。女子会での会話が歌詞の発想の元になることが多いのもその理由の一つですね。友達と居酒屋でくだを巻きながら愚痴を言ったり、聞いたりしていることがヒントになるなど、友達との恋バナが尽きない限り、ヒントは生まれ続けそうです。(笑)

■“スポットライト”に記された、フラれた女性の「今夜上書きされたい」の言葉は、まさにそういう感じですもんね。

ゆいにしお 私は今25歳なんですが、年齢的に結婚をする子もいれば、仕事に充実を覚えている人もいます。中には恋人と別れてしまい、また新たな出会いを求めている人もいたりと、いろんな人生の過渡期を迎えているんです。だから、そういう話題も自然に多くなるんだと思います。

■しかも、会社員だからこその視点というところが、よりたくさんの人たちの共感を得やすいのかなと感じました。“チートデイ”のような社内不倫の歌は、その環境にいる人たちほど理解が深まる内容ですよね。

ゆいにしお 確かに。(笑) さすがに不倫経験も、実際に不倫をしている友達もいませんけど、不倫しそうになった友達がいて、その気持ちを聞いた時に、「不倫の曲を書くのも面白いかな…」と思ったのが“チートデイ”が生まれたきっかけでした。不倫っておおっぴらに自慢はできないけど、「自分の中でその思いを宝物のようにしている人もいるのかな?」と想像を巡らせて、もし不倫している人がいるなら、そういう人たちにも届いて欲しいなと思って書きました。

■別れた彼氏と偶然思い出の地で鉢合わせしたところ…という“Rough Driver”など、社会人が普通に生きている中で経験するような歌がゆいにしおさんの曲には本当に多いなと感じています。

ゆいにしお 身近な題材の方が、聴いてくださった方たちも共感しやすいだろうなと思って、そこを意識して書いている面もありますからね。

■以前から身近な題材を元に歌詞を書いてきたのでしょうか?

ゆいにしお 最初の頃は、自身の実体験を元に書くことが多かったんですけど、だんだんと経験も枯渇してきて…。(笑) 今では想像を巡らせて書くことがほとんどです。ここに至るまでに私は“角部屋シティ”、“She is Feelin’Good”、“うつくしい日々”と、3枚のミニアルバムを発売してきました。1枚目の時は、ほぼ実体験を元に書いていましたけど、2枚目以降からは、ヒントを得た物事から発想や妄想を広げて書いた内容がほとんどです。

■アルバム『tasty city』での実体験と妄想の割合はどのくらいですか?

ゆいにしお アルバム『tasty city』に関しては、私や友達の実体験が半分、妄想が半分くらいですかね。ただし、実体験といえど、個人情報をダイレクトに歌にしてしまうことはさすがにしていませんよ。(笑) その発想の元に、新たに物語を作り上げています。その上で、「別れた友達がハッピーになれますように」という願いを込めて、それを歌の中で実現させるなどの書き方もしています。なので、完成した歌はどれも妄想話にはなりますね。

■新たな恋を上書きしたいと願う“スポットライト”は、そんな願いを込めた歌になるわけですね?

ゆいにしお 友達が恋バナ中に「今夜上書きされたい」と言ってきた時に、その言葉がとても印象的だったことから、その言葉をヒントに新たに話を作りました。

■“スポットライト”を聴いた時、その恋に悩んでいる子は“スパイスガール”にも出てくる女の子なのかな?と勝手に想像してしまいました。

ゆいにしお 「この曲とこの曲は繋がっていますか?」って聞かれることが多いんですけど、自分ではぜんぜん意図していなかった場合が多いです。「この曲の子が、この曲ではこういう経験をして」と、聴く人がそれぞれに想像を巡らせていってくれるのが、私の楽曲の面白さでもあるんでしょうね。私もその言葉を聞いて、「あっ、そういう風にも見えるんだ」と発見することもあります。(笑) 中には、作った時期も意図も異なるけど、たとえば“ワンダーランドはすぐそばに”と“suitcase”のように、結果的に繋がりを持ったように聴こえる歌もありますしね。

■そうだったんですね。面白いですね。

ゆいにしお 実は、先にリリースしてきた3枚のミニアルバムは、「上京した女性がいろんな恋を経験し、ステイホームのような時期を経ながらも、一人で生きていこうとしている」そんな一人の女性の姿を描き出した3部作になっています。でも、今回のアルバム『tasty city』は、曲どうしの繋がりをまったく意識することなく、1曲ごとに「どういう物語を作ろうか?」と向き合いながら生まれた曲たちを並べました。それでも一つの物語を持ったような作品にも見えてくる。もしかしたら、無意識のうちにそういう風に曲を作っていたのか、そういう風に思わせる曲を得意としているからなのか…?。偶然とはいえ、そうやって聴いていただけるのも嬉しいし、それも『tasty city』の魅力なのかも知れません。

■いろんな曲が繋がって見えてくるのも、25歳という年齢だからこそ揺れ動く思いがどの楽曲にも記されているから…とも、想像を巡らせてしまいました。

ゆいにしお それはあったと思います。25歳という年齢は、四半世紀を生きてきた記念の歳。25歳を題材にした“mid-20s”の歌詞の中に「四半世紀に心をこめて cheers」と書いたように、同世代女子たちに、「よくぞここまで生き延びてきたね」とエールを送る気持ちを歌にしています。この年齢だからこそ感じ、思う内容が、どの曲たちからも見えてくるのも、根底にその意識があるからなんでしょうね。

■ゆいにしおさんも、未来の自分について不安を覚えることが多いのでしょうか?

ゆいにしお 「この先どうなるんだろう?」とは夜な夜な考えてしまいますけどね。私の場合、そのモヤモヤを楽曲にして解消しているところはあります。

■今も会社員を続けているのは、創作活動をしていく上でも大切な経験になっているからでしょうか?

ゆいにしお そこは大きいです。正直、時間のやり繰りの大変さはありますけどね。私の性格上、時間があればあるだけダラダラしちゃうし、締切が近づいて慌てて取りかかるタイプだから、むしろ今の自分にはその忙しさが良いバランスになっています。それに、それぞれのお仕事が良い刺激にもなっていますからね。

■ゆいにしおさんは25歳でメジャーデビューしましたが、ここに至るまでに焦る気持ちもありましたか?

ゆいにしお 活動を始めたのが19歳の時で、あの当時は「23歳頃にはメジャーデビューしているぞ!」くらいの気持ちでいましたけどね。(笑) 21歳や22歳の頃の私は、なかなか思うような成果をあげられずに焦る気持ちもありました。そう思ったら予想以上にデビューまでの時間はかかりましたけど、自分が創作活動をしていく上での磐石な土台を作り上げてからのデビューと考えたら、今のタイミングがベストだったのかなとも思っています。

■“CITY LIFE”の中でも歌っていますが、変わりゆく自分に対しての不安はありますか?

ゆいにしお 変化というのは当たり前に生活の中にあることのように、その変化もポジティブに楽しめたらいいなと思っています。というのも、私の家の家訓が「笑う門には福来る」なんです。「どんな環境でも笑って楽しもう」という家族の元で暮らしてきました。たとえば、台風が来た時も、「せっかく家族全員が家にいるんだから、みんなでゲームをしよう」「周りの家はみんなシャッターを締めているから、大きな音を出しても聞こえないし、楽器を弾きながらみんなで歌おう」と、一見ダウナーな環境や状態にあっても、その中で楽しみ方を見つけては楽しんできました。上京して一人暮らしを始めてからは、スランプに陥ったり、一人考えを巡らせていく中でネガティブになってしまうことなどもありました。だけど、東京でもマネージャーを含め、ゆいにしおを取り囲むスタッフたちはみんなポジティブな人たちばかりで。(笑) マネージャーに「つらいことも思い出になるんだから、楽しんでいこう」とメッセージをもらった時は、「確かにそうだなぁ」という気持ちになり、スランプを脱したこともあったので、とても恵まれた環境の中で過ごせています。