ポップしなないで『合言葉はトキメキツアー』ライブレポート@恵比寿LIQUIDROOM

メジャー初のツアー完走!トキメキ溢れた最終日レポート。

4月22日、ポップしなないで『合言葉はトキメキツアー』、東京公演。メジャーデビューアルバム『戦略的生存』を掲げて行ったツアー最終公演は、音楽に対する真摯な姿勢と楽曲への思いが滲み出たライブであった。会場は恵比寿LIQUIDROOM、チケットは見事ソールドアウト。歓声に迎えられながら登場したかめがいあやこ(Vo&Key)とかわむら(Dr)、そしてサポートの面々とともにライブは“でいだら”、“衛星十七号”で幕を開けた。今作のアルバムの中でもひときわスタイリッシュな“でいだら”を、バンド編成の魅力を活かしたグルーヴィーな演奏とともに1曲目に配置したのにはポップしなないでの新境地を感じさせる。そして序盤からなにより驚いたのは演奏の進化だ。これまでもかめがいの多彩かつ高らかな歌声と安定感のあるかわむらのドラムは我々オーディエンスの心を昂らせてきたが、この日の彼らは一味違う。かめがいのボーカルは今まで以上にソウルフルで、殻を破ったような吹っ切れた表現力が伸び伸びと炸裂していたし、イントロの変わり目で空気を変えるように切れ味良く合流するかわむらのドラムからもそこはかとないパワーを感じさせる。メジャーデビュー後初ツアーというタイミング、ある種の覚悟なのか自信なのか、はたまたこのライブにかける思いなのか。これまでとは明らかにパワーアップした演奏に序盤から胸が高鳴る。「合言葉はトキメキ」、間違いない。

「ちょっとみんな、どうする?どうしよっか……どうすんの?」と、かめがいの芝居がかった呟きから“どうすんの?”に続く。電車の到着アナウンス風の語りから“地獄快速”、「ああ、生きづらい、生きづらい。……シャーッ!」で“メデューサ”といったように、この日は随所でかめがいのセリフをきっかけに演奏を始めるという演出があったが、これによってポップしなないでの音楽性がより引き立ったように感じる。かわむらの書く歌詞はそれぞれ固有の色や物語があり、1曲ごとに完結した世界を持ち合わせている。そんな楽曲を連続して披露するライブにおいて、かめがいの語りは楽曲ごとの世界観をスムーズに繋ぎ合わせる役割を担っていた。そうして披露された楽曲たちは、有機的なバンドサウンドとともにユーモアのあるポップしなないでの世界を鮮明に描き出し、オーディエンスを没入に誘っていく。

サビでの景色が開けるような高揚感が心地いい“月の踊り子”、終盤に向け高まっていくバンドの演奏が一体感を感じさせた“地獄快速”と、バンド編成のポップしなないでの魅力が溢れる楽曲が続き、ライブは中盤へ。サポートメンバーは山内かなえ(Gt)、カワノアキ(Ba)、ミツビシテツロウ(Mp)というお馴染みの面々。バンドの阿吽の呼吸を感じさせるグルーヴが会場を揺らす。かと思えば、ここで「お前ら全員まとめて救いに来たぜ!」というかめがいによるロックな煽りから、2人体制で演奏する“救われ升”へと展開する流れも痛快である。ミニマムな編成ゆえの伸び伸びとした演奏もパワフルさに磨きがかかっており、それまでバンドサウンドでの魅力に圧倒されていた分、2人体制でのダイナミックな演奏が映えているのも見事だ。終盤では自然と合唱が湧き上がり、音楽でコミュニケーションを取りながら会場の熱は高まっていく。

MCをはさみライブ後半に差し掛かると、ピアノとドラムそれぞれの気迫が光る“火花”から、“Creation”、“魔法使いのマキちゃん”と、ポップしなないでを長年支えてきた楽曲を朗々と披露する。バンドメンバーを呼び込み、「みんなの心をひとつにする合言葉は……」というかめがいの呟きから、「合言葉はトキメキ」と歌い始める“UFOを呼ぶダンス”では、会場のボルテージも最高潮へ。フロアはカラフルな照明で華やかに彩られ、間奏ではミツビシが操るUFOもステージに登場、かめがいが銀テープを発射するバズーカで撃ち落とすという賑やかな演出も。リズム隊の演奏に乗せて上機嫌に跳ねる歌声もたまらない。

ラブレターとして届けた“支離滅裂に愛し愛されようじゃないか”、のどかなサウンドスケープが会場を覆った“初夏それから”、“wani no kuchi”と続いた後、かめがいはMCにてポップしなないでのライブについてこう語った。「ライブとか、日々の嫌なことを忘れて楽しむっていう人もいると思うんだけど、実は私、嫌なことを忘れられないタイプなんですよ。特にポップしなないでの音楽って、日々の嫌なことを思い出したりしない?(笑) 日々生きている中で、自分だけの悲しいことや辛くなっちゃうことが全員あると思うんだけど、ライブを見ながらそれが渦巻いちゃう人もいると思うのね。ライブが終わってもそれはなくならないし、続いていくんだけど、それでも同じ時間を共有してほんの少しでも気持ちが楽になったらいいなと思うし、現実を忘れられる人は最高だし。私たちは前向きになりたい音楽をやっているつもりです。事態は大きく変わらないかもしれないけど、帰り道、来た時よりもほんの少しだけでも上を向けていたらいいな」。その言葉の後披露された“夢見る熱帯夜”では、そんな日々の支えになるような強度のある演奏が響く。さらに「本当にありがとうございました!また必ず、必ず会いましょう!その日までみんなの魂が転がり続け、願わくば少しでも幸せな日々でありますように!」という言葉とともに本編最後に演奏されたのは“ローリンソウル・ハッピーデイズ”。ポップしなないでが紡ぎあげる人間賛歌に、ひたすら背中を押されるエンディングであった。

アンコールにて、グッズ紹介に加え8月5日に行われるワンマンライブの告知を挟み、「人生って、勝ち負けとか考えること多いじゃないですか」と話し始めるかわむら。「人生に勝ち負けとかないだろって言う人も多いんですけど、正直あると思っているし。勝ち負けがトータルでプラマイゼロとか、そんなことないし。ただ、なんで我々が負け続けてもずっと音楽をやっているか、そもそも生きているかっていうのは、負けてもみんなで進んでいくのがすごく素敵だなと思っているから。我々には音楽しか得意なことはあまりないので、それでみんなが集まってくれるのがすごく嬉しいです。みなさんに救われております」。そんな言葉の後、熱っぽく演奏した“SG”は、紛れもなく日々を生きぬく人々へのアンセムだ。その後、オーディエンスの熱烈な拍手によってWアンコールに応えると、“丑三キャットウォーク”でいよいよ本当の大団円を迎えた。

この日の演奏、演出、2人の言葉は、これからの日々の支えになってくれるような温かくパワーのあるものだった。そんな幸福なライブを作り上げたポップしなないでのこれからの歩みが楽しみでたまらない。

Text:村上麗奈
Photo:かい

https://popsnnid.com/

『合言葉はトキメキツアー』@恵比寿LIQUIDROOM セットリスト
01. でいだら
02. 衛生十七号
03. どうすんの?
04. 月の踊り子
05. 地獄快速
06. メデューサ
07. 救われ升
08. 火花
09. Creation
10. 魔法使いのマキちゃん
11. UFOを呼ぶダンス
12. 支離滅裂に愛し愛されようじゃないか
13. 初夏それから
14. wani no kuchi
15. 夢見る熱帯夜
16. ローリンソウル・ハッピーデイズ

ENCORE
01. 不登校少年少女のエチュード
02. SG

W ENCORE
01. 丑三キャットウォーク