ポップしなないで VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

ポップしなないで『美しく生きていたいだけ』

かめがいあやこ(Vo&Key)、かわむら(Dr)

ポップしなないで「ケツイがみなぎった」ニューアルバムとツアーに向けて

ポップしなないでが12月8日にニューアルバム『美しく生きていたいだけ』をリリース。約1年ぶりとなるアルバムは、タイトル通り支離滅裂な歌詞が炸裂する“支離滅裂に愛し愛されようじゃないか”から、かめがいが作詞・作曲を担当した“記憶”まで全8曲で構成。フルアルバムを経たポップしなないでが今描きたいものが詰まった作品となっている。今回はポップしなないでの二人にインタビューを敢行。多くの楽曲を作るかわむらと、幅広い表現力を持つかめがいの互いの能力に対する信頼が浮き彫りになった。

■昨年11月にフルアルバム『上々』をリリースして、今回の『美しく生きていたいだけ』はその次のアルバムとなります。今までと違った意気込みみたいなものはありましたか?

かわむら そうですね。前回のフルアルバムは、初期の“魔法使いのマキちゃん”が入っていたり、その時々で新しくやっていたものを混ぜこんだり、作っている感覚としても集大成的な作品だったんです。集大成を一回やり切った後で、今回は「じゃあ次は何をやろうか」っていうイメージがすごく大きい作品だなと思っています。

■かめがいさん、アルバムが完成した感想を教えてください。

かめがい かわむらくんも言ったんですけど、前作のフルアルバムには昔からあった曲を入れたりして、その時点でのベストアルバム的なものを作ったと思うんですよ。それでポップしなないでが作る音楽はもう崩れないだろうと、自分たちの音楽は自分たちのものに少しずつなってきているって思えたので、今回は新しい音を入れたり、新しい挑戦ができた1枚になったと思っています。

■アルバムを見てまず気になったのがジャケットなんですが、これはどういうイメージからできたものなんですか?

かわむら このジャケットは漫画家の今井大輔先生に描いていただいたものなんです。ポップしなないでは、音楽をやる上で無力感とか残酷さに向き合うっていうのが根底にあると思っているんですけど、今までの我々は照れ屋な部分もあって、それを隠しがちだったと思うんです。でもこのアルバムについては、アルバムタイトルから、ジャケットから、その他のアートワーク含めて、さらけ出しつつちゃんと美学を守れるようなものを作りたくて。

かめがい そうだね。「今井先生にお願いしたいね」ってなった時、ジャケットのイメージがお互いに出来上がっていて。もちろんこの絵が浮かんでいたわけではないんですけど、白いジャケットに女の子がいてっていう絵のイメージを二人とも持っていたんです。今井先生にそれをお伝えして、描いてきてくださったものがドンピシャであり、さらに想像の上をいく素晴らしいものなので、本当に自分たちも気にいっています。

■アルバムタイトルはどのように決まったんでしょうか?

かわむら アルバムタイトルが決まったのは遅くて。タイトルを決めてアルバム制作していたわけじゃなくて、アルバムの曲が割りと出揃ってきた段階で「タイトルはどうしようか?」っていう話をしたんです。

かめがい 曲自体は多分出そろっていて、タイトルはまだ悩んでいたよね。

かわむら それで、ライブとかを積み重ねていくつか印象的なライブを経たりして、さっきかめがいさんが言ったように、自分たちの音楽が固まってきて「今自分たちはこういうものなんだな」って思った時に、元々ツアータイトルにしようと思っていた『美しく生きていたいだけ』をアルバムタイトルにした方がいいんじゃないかって急に思って、かめがいさんに言ったんです。そうしたら、かめがいさんも「私も今そう思ってた!」って。それでその場で決まりました。

かめがい そうなんですよ。この「美しく生きていたいだけ」って言葉が“tempura”っていう曲の歌詞に出てくるんですけど、私がとにかくこの歌詞が大好きで、「何かに使いたいね」っていう話をしていたんです。そこから「ツアータイトルにしようか」っていう話になっていて。すごく自分たちの中に残っている言葉だったので、アルバムタイトルにできて嬉しいです。

かわむら なんかようやく追いついたというか、そういう感じではあります、アルバムができあがるにつれて。

かめがい このタイトルで「もう不足なしだね」っていう。

かわむら そういう強度があるのかなって思いました。

■今回のアルバムでは8曲目の“記憶”が、かめがいさんの作詞・作曲ですけど、それ以外はかわむらさんが作詞されることがほとんどじゃないですか。それをかめがいさんが喋るように歌っていきますが、制作の時に曲のテーマだったり、思っていることのすり合わせみたいなことはされるんですか?

かめがい あんまりしたことないかもね。

かわむら 自分は結構歌詞がすっと出てくる方なんですけど、すっと出てくるものが、かめがいさんが歌うのが前提というか。気持ちの違いがあったら「これどういうこと?」とか「これちょっと歌いにくいかも……」っていうのがあると思うんですけど、少なくとも今までの制作ではそこまでないですね。微調整はありますけど。

かめがい かわむらくんが仮歌を歌ったものを送ってくれるので、大体のイメージも伝わるんです。私がそれを咀嚼して、ここは歌じゃなく喋りみたいにしたいとか、自分で歌っている中であったら勝手にやるんですけどね。それで「やめて」とか言われたことは今のところないですね。嫌じゃなかったみたいで。(笑)

■この制作体制になるまでには試行錯誤もしたりしたんですか?

かめがい 割りと初めからこのやり方だよね?

かわむら 歌詞とかサウンドの全体的な音像とか、「こういう曲がやりたい」っていうのがたくさん出てくるのが自分なので。自分が曲のビジョンを考えることが多いので、ピアノと歌のアレンジだったり、実際に演奏してもらう部分を一緒に合わせてやってみる、みたいな感じです。

かめがい かわむらくんが歌詞も含め、曲の原案を作ってくれて、一緒にスタジオで合わせつつ、「ここはこっちの方がいいね」みたいなのは臨機応変にやってきてるよね。

かわむら そうですね。

■かめがいさんの声色の幅がすごくポップしなないでにおいての特徴だとも思うんですけど、この歌い方はどうやって習得したんですか?

かめがい 特別なことをしたとかではなくて。例えば家で親と喋っている時と、赤ちゃんに対して喋っている時と、怒っている時って全部声色が違うじゃないですか。私はその声の幅が広いだけだと思います。歌った時の感情とかで自然となっているっていう感じです。なので、少なくとも最初から「ここでこの声を使い分けて」っていうのは考えていないです。

■編成としては二人組でドラムとピアノボーカル、でも音源にはギターもベースもいたりするじゃないですか。そういう編成について考えていることはありますか?

かわむら 今までは自分たちのピアノとドラムと歌でデザインすることに結構重きを置いていたというか、面白いなと思っていました。でも、自分たちの本質がピアノとドラムのデザインだけにあるわけではないなっていうのは、すごく感じていて。それは提供曲を作ったりとか、大きな会場でライブをした時に、「これをやってもちゃんと自分たちの音楽が生まれるんだ」って実感した出来事が、3月とか4月とかにあったからなんですけど。それもあって、音源制作では自分たちのピアノとドラムっていう音はもちろんありつつ、「自分たちの音をどう音源にしていくか」っていう部分でベストを尽くしているような感じです。

■今回はボーカルのエフェクト感だとか、楽器の取り入れ方だったりとか、これまでと違う印象もありましたが、そういう思いを踏まえて挑戦したんですか?

かわむら 元々自分はシカゴのハウスがすごい好きで。そういう音像は新しく取り入れたっていうか、ずっとやりたかったんです。ちゃんと自分たちのルーツを消化した結果というか。もちろん音は初めてやったことなので挑戦ではあるんですけど、心情的には「やれて嬉しい」くらいの気持ちですね。

■“支離滅裂に愛し愛されようじゃないか”は歌詞が面白いですね。同じ言葉が続いたり。

かわむら この曲を作るにあたって、サウンド的な部分よりかは精神的な部分でタイトル通り「支離滅裂、はちゃめちゃでも大丈夫でしょ」っていう。気持ちのままに何やってもいいってわけじゃなくて、「ちゃんと自分が思っていることに素直になって、しっかりその場その場で自分の気持ちを大切にしようよ」っていう気持ちで作っています。

■かめがいさんは歌詞をもらってみていかがでしたか?

かめがい 最初は意味わかんないまま歌っていたかもしれないです。歌い方の話もありましたけど、この曲を歌っている時は、特にその場の感情で歌っていることが多くて。一貫してここからここで感情が盛り上がってっていうタイプの曲ではないんです。今ふと思ったんですけど、ころころしたラップみたいなところとかはこういう声でいつも歌うとかいろいろあるんですけど、結果的にそれが“支離滅裂に愛し愛されようじゃないか”っていうタイトルとマッチしていますね。

■アルバムの1曲目としてもいろんな顔を見せていて、自己紹介じゃないですけど、そういう感じもします。1曲目にした決め手はあったんですか?

かわむら まあ、「これしかないな」って思いました。(笑)

かめがい キラーチューンなんで!

かわむら 一番始めに聴いて欲しい曲だなっていう。

かめがい そうですね。結構ポップしなないでらしくもあり、って感じだよね。アレンジも結構凝ってやってるし。

■“支離滅裂に愛し愛されようじゃないか”は勢いがある一方、“SG”はバラードですごく情景が浮かぶ歌詞ですね。

かわむら “支離滅裂に愛し愛されようじゃないか”は、ポップしなないででやるのを前提に「こういうことやったら面白そうだな」っていうのを詰め込んだ曲なんですけど、“SG”は、このバンドだからっていうよりは、「こんな曲をやりたい」みたいな感じで作った曲で。歌詞も見てもらえばわかるんですけど、すごい一行一行大切に進んでいくような曲だと自分は思っているんです。ポップしなないでが表情を隠すためにやる言葉遊びを、一旦やらずに作るっていうのを考えました。あとは音楽をやっていた友達が軒並み辞めていったり、違う形に切り替えたり、「売れたい」って言っていた友達が「もう売れるとかっていうのはないのかな……」と言っていたこととか、そういうことを考えたりもしていて。「いいよね、ポップしなないでは」とかって言われた時に、「どうだ!」っていう気持ちよりも、寂しい気持ちの方が強くなったっていうのがあって。それで作ったのがこの曲なんです。