SCANDAL VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

SCANDAL『MIRROR』

HARUNA(Vo&Gt)、MAMI(Gt&Vo)、TOMOMI(Ba&Vo)、RINA(Dr&Vo)

自分たちのありのままのリアルを音楽にしていいんだなと

SCANDAL結成15周年を迎え、約2年ぶりとなる10thアルバム『MIRROR』を完成させた。今作はコロナ禍の中でメンバー一人ひとりが自分と向き合い、SCANDALというバンドのアイデンティティを深く見つめた上で出来上がった会心作と言っていい。一人の人間の内面をとことん突き詰めたものが、結果的に多くの人々の心を鷲掴みにする普遍性を帯びた傑作に仕上がっている。メンバー4人に今作で辿り着いた境地について、赤裸々に語ってもらった。

■昨年はSiM主催の『DEAD POP FESTiVAL 2021』に初出場しましたよね。僕も現場で観ていましたが、参加してみていかがでしたか?

HARUNA ものすごく手応えを感じました。SCANDALはどんなフェスでも自分たちらしいライブができるというか、どこでも闘えるバンドだなと再認識しました。

RINA SiMのメンバーみなさんがステージ袖で楽しそうに観てくれていて、ライブが終わった後もいい雰囲気で迎えてくれたので、とてもいいフェスだなと思いました。自分たちのイメージが制服のままで止まっている人たちも多くいると思うので……いろんなお客さんに届けられる場所に立てて、本当に嬉しかったです。

TOMOMI MAH(SiMのVo)さんが全アーティストのライブを袖で観ていたので、愛情深い人だなと思いました。フェスのネーミングが強いので、どういうスタンスでやるべきなのかを考えたんですけど、ナチュラルな自分たちを観てもらうことができたと思います。

MAMI SiMのライブの時、TOMOMIと一緒にMAHさんのMCを聞いていたんですけど、「泣いちゃうよね」って。フェスや音楽の未来は明るいなと思ったし、勇気づけられました。

■では、今作の話に移りたいんですが、素晴らしい作品に仕上がりましたね。今作は聴く人によって好きな曲が変わるような、とても多様性のある作品だなと感じました。

HARUNA 多様性は自分たちのバンドを説明する上でもキーになる言葉かなと思っていて、4人それぞれ作詞・作曲をするので、できる曲も違いますからね。あと、いろんなフェスやライブに参戦して、自分たちの見え方はひとつじゃないし、それを改めて自覚して認めた1年でもあったんです。今作を作る上でもそれを反映できたと思います。

■それはここ1年で自覚できた部分なんですか?

HARUNA そうですね。最初からアルバムの方向性を決めていたわけではなく、“eternal”という曲を作ったことで制作がスタートした感じなんです。もともとSCANDALというバンドの結成の経緯がダンスボーカルスクールから始まり、何となくそういう自分たちに劣等感を持っていた時期もあり、いろんなところに馴染めなくて。そういう自分たちを認められるようになり、普通のバンドとは少しルーツが違うのかなって。いろんな音楽が好きだし、どんな曲でもやってみたいし、SCANDALだから成立できることがたくさんあるなと思います。そのアイデンティティを自覚したら、SCANDALはもっと面白くなるんじゃないかと。

■自分たちのルーツに戻れたような感覚もあるんですか?

HARUNA そうですね。ただ、あえてルーツを出そうと思ったわけじゃなく、自然とそういうものが生まれたのかなと思います。

■メンバー4人でバンドの方向性を話し合う機会も増えましたか?

RINA しょっちゅうそんな話ばかりです。(笑) 15年間、ほぼ毎日一緒にいるので、嬉しさも悔しさも同時に感じて、「もっとこうすればいいかな?」「みんなと同じようにはできないよね……」みたいな。それを言葉にして、日常的に会話をしているんです。それで「なぜこんなに独特なんだろうね?でもそれが自分たちだけの輝きだよね」という部分に辿り着いて。その気持ちごと音楽になったような作品ですね。

■なるほど。

RINA それで『MIRROR』というアルバム名になったんです。自分たちと向き合った1年だったし、やっぱりコロナで時代が大きく変わる中で、それともすごく向き合って何とか音楽をやってきたので。自分たちを自分たちで肯定する音楽がたくさん書けたし、そういう意味で聴き応えのある激しい作品ができたと思います。

■激しい作品という印象なんですね?

RINA テンポが速いとか、強い言葉を並べているとか、そういう激しさではなく、自分たちと真剣に向き合って、恥ずかしいくらいそれを言葉にしたり、突き詰めて表現した音楽ばかりだから。激しいという言い方が正しいのかはわからないけど……今の4人の面白さが伝わればいいし、単純にこの4人で10枚の作品を作ってこられたことに喜びを感じます。ガールズバンドでアルバム10枚目って、あまり聞いたことがないですからね。

■確かに、10枚という数字は本当にすごいと思います。今作のタイミングでメンバーの個性や持ち味をありのまま楽曲に反映させて、アルバム名は「鏡に映った自分たちの姿」という意味なんですね。

RINA そうですね。何度もミーティングして、なかなかアルバム名が決まらなくて。メンバーとも「ワンワードでキャッチーな言葉がいいよね」と話していて。曲がどんどん出来上がるうちに『MIRROR』というワードが浮かんで、「じゃあ、その気持ちを曲にしよう」と思い、リード曲ができたんです。

■僕は勝手にリスナーが嬉しい時は嬉しい感情に応えてくれて、悲しい時は悲しい感情に寄り添ってくれる。そういう意味で『MIRROR』みたいな作品だと感じました。

TOMOMI 嬉しい!次からそれ使える。(笑)

RINA そういう意味も含むと思います。一人の人間として音楽をやって、いろんな人に届いたらいいなと思っていますからね。

■今作は色で例えると,<淡さ>を感じる作風でもあり、もっと言えば、物事の間(あいだ)を意味する<間(あわい)>を感じさせる作風なんです。ぼんやりとした揺らめく感情を真正面から捉えた一枚だなと。

HARUNA まさにそうだと思います。

RINA その感覚はすごくわかります。

TOMOMI 結末が決まった曲がないんですよね。意図してそうしたわけじゃないけど、コロナ禍があり、15年走り続けた自分たちが強制的にストップしてしまい、自分と向き合う時間も増えて、その中で生まれた感情が出ているんじゃないかと思います。結論よりも、もっと曖昧な、掴み所のない、でも多幸感のある……より人間らしいナチュラルな自分たちが表現できたなと。コロナ禍で迷っている時期もあったので、無責任なことは言いたくないし、「前を向こうよ!」と言える気分でもなかったから。

■今作は白でもなければ黒でもない、曖昧な感情を堂々と押し出した強さがありますよね。

HARUNA その状態を音楽にすることを今までやっていなくて……でも別に音楽でやっちゃいけないことはないよねって。今までは結論づけたものや、完成したものを魅せてきた気がするんです。この1年はみんな同じ感覚だったと思うんですけど、苦しかったり、迷ったりしたし、ほんとに一人の人間としての葛藤や悩みを1曲1曲に落とし込めたのかなと。

■MAMIさんはいかがですか?

MAMI これはこれって決めつけない4人だし、リンゴが好きな人の理由も嫌いな人の理由もどちらもわかるんですよ。「そんな自分たちじゃダメなのかな」と思っていたけど、そういう人間だから仕方ないというか。(笑) 全部を受け入れられるから、不思議なアルバムを毎回作っているなと思います。今回はそれを隠さずに音楽にできたと思うし、コロナ禍の中でギリギリのメンタルで出来た作品なので、すごくヒリヒリした感じもありますね。

■ヒリヒリですか?

MAMI 曲にもよるんですけど、コロナになった直後は全く曲が作れなくて。何とかメンタルを立て直した時に作ったのが“eternal”なんです。出来上がった時に、達成感よりも「よく頑張ったな」と思えたんですよ。これからも苦しんで粘って何とか音楽を作らなきゃいけないのかと思ったし、でも自分たちの新しい可能性も見えて、ポジティブな気持ちになれたから。自分で聴いてもいろんな感情になる作品ですね。

■新しい可能性が見えたというのは?

MAMI 自分たちのありのままのリアルを音楽にしていいんだなと。「ポジティブなことを言わなきゃいけないのかな」とか、余計な考えを取っ払えたし、別にそこまで頑張らなくてもいいんじゃないかと思って。年齢を重ねたこともあるだろうし、改めてここからだなと思います。

■何だかちょっと無敵感が出てきましたね。

全員 ははははは。(笑)

■“eternal”の「ひとつになった痛みと喜び 怖くてもまた鍵を開けてく わたしの姿をみててよ」の歌詞はめちゃくちゃ力強いじゃないですか。

RINA それは自分のたちの歌を書こうと思ったから。今まではそういうことも思わなくて、人の歌を書きたいと思っていたんですよ。

■人の歌を書きたいとは?

RINA 自分の気持ち100%ではなく、誰かの音楽になれるような歌詞を書きたいと思っていたんです。でも世界の状況が変わり、活動の仕方も変わり、久々に立ち止まって、大人の女性としてのライフスタイルを送ったんです。お家でご飯を作って、夜6、7時には食べるとか。普通のこともたくさんできた1年なので、それも大きかったんです。バンドでツアーを回って、好きと言ってくれる人たちに音楽を届けて、こういう最高な生活を送り続けたいと思う自分と、たまにバンドってなぜこんなに脆いんだろうと弱さに直面しちゃうこともあったから……それをちゃんと音楽にしようと。それで強いんだけど、儚いみたいな曲ができたんじゃないかと思います。だからこそ、4人で支え合って作品を作ろうと思えましたからね。

■“愛にならなかったのさ”は、かなり踏み込んだ歌詞ですよね。男性、女性で共感の度合いが分かれそうですが。

MAMI さっき女性のライターさんはすごく共感できると言ってくれて。これは男性の意見が楽しみな曲ですね。

■男性視点で言えば、「私がいなくたって なんとかなるだろうし」の歌詞は一番言われたくない言葉です。(笑)

MAMI へー!でも一緒に曲を作ってくれたアレンジャーさんもずっと怒っていました。(笑) その感想が面白いですよね。この曲は“アイボリー”のメロディと同時に浮かんで来たもので、ギター一本でも弾き語りできるけど、バンドサウンドでストリングスを入れたアレンジにしたいと思ったんです。“アイボリー”が先にできたのでアレンジはすごく悩んだんですけど、打ち込みを含めて割りとシンプルだけど、ラグジュアリーでいい感じのバランスでアレンジできたなと思います。

■“愛にならなかったのさ”は、10代のバンドには書けない大人っぽい楽曲ですよね。

HARUNA ああ、それはそうかも。

MAMI 確かに。