頑張っても報われない人へ捧ぐ応援歌に隠された過去
ソロアイドル兼アニソンシンガーとして活躍中の上月せれなが、アニメ『爆丸アーマードアライアンス』エンディング曲となるシングル『Higher and Higher』をリリースした。実は3年前から温めていたという本作は、アニメを見ている人たちにはもちろん、「頑張っても報われない」と感じているすべての人に響くであろう明るく元気な応援歌。過去には「ソロアイドルだけ無視された」こともあると語るなど、グループアイドル全盛の時代に、文字通り孤軍奮闘している彼女だからこそ、強い説得力を持って歌える楽曲になっている。常に笑顔を絶やさず「心配されるようなことは言いたくない」という彼女に、少しだけ涙の部分も明かしてもらいつつ、作品への想いとアイドルとしてのポリシーを語ってもらった。
■上月さんは年間200本もライブをされてきたそうですけど、今年は思うように活動できなかったんじゃないですか?
上月 そうですね。まったくライブをできない時期もあったんですけど、今は少しずつライブができるようになってきていて。まだ元通りの生活ではないですけど、今年はCDも2枚出せて、2枚ともアニメのエンディング曲になったので、あんまり暗くなる年ではなかったかなと思います。
■じゃあ、モチベーションが落ちることなく1年を過ごせた感じですか?
上月 そんなこともなかったですよ。みんなと会うということが、人生の中で本当に幸せで、いちばん楽しい時間だったので、それを奪われてしまったことはツラかったし、自分が思っていた以上にダメージがありました。でも、最近はまた会えるようになってきたので、ツラい時間はずっと続くわけじゃないんだなと感じています。それに私が前向きじゃなくなったら、みんなの気持ちも沈んでいっちゃいそうなので。
■さすがアイドル、素晴らしいですね!ニューシングルの“Higher and Higher”は、アニメ『爆丸アーマードアライアンス』のエンディング曲ですけど、どういう経緯でタイアップが決まったんですか?
上月 もともと3年前からライブでは歌っていた曲なんです。毎回すごい盛り上がるし、ファンの方から「CD化してほしい」とずっと言われていたんですけど、「絶対にアニメタイアップを付けたい!」という想いがあって、そのチャンスをつかめるまで温めていました。
■リリースせずに温めていたんですか?
上月 そうなんです。そんな中でこの曲が候補になっていると聞いて、実際に選んでいただけて、本当に嬉しかったです。だからアニメのために書き下ろした曲ではないんですけど、アニメで流れているバージョンは、ちょっと歌詞が変わっているんです。所々にアニメと関連する言葉を入れたり、より前向きな歌詞になっていると思います。
■歌詞は応援歌的な要素が強いと思うんですけど、どういうきっかけで作られた曲だったんですか?
上月 新曲をもらう時は、いつもその時の私に当てはまる曲になることが多くて。この時も自分に言われているような、私からみんなにも言っているような歌詞だなと思った記憶があります。
■「君が見ててくれるから 何も怖くない!」とか、アイドルとファンの関係を歌ったようにも解釈できますよね。
上月 そう言っていただけて嬉しいです。でも、誰にでも寄り添える応援ソングになっていると思います。
■この曲は「頑張っても 頑張っても 報われない時だって」という歌い出しで始まりますけど、思い当たる節はあるんですか?
上月 えー!細かいことを言ったらたくさんあると思います。大きなことで言ったら、表では言えないような話もありますけど……これはなんて答えるのが正解ですか?(笑)
■無理やりひねり出さなくてもいいですけど、たとえばソロアイドルは、グループに比べるとファンを集めるのが大変じゃないですか。単純に考えると、グループは5人いたらソロの5倍のファンを集められるので。そういう部分は頑張っても報われにくいところかなと思うんです。
上月 人数的なものを言ったらそれはありますけど、私は長く活動させていただけている方だと思いますし、慕ってくれる後輩も増えてきたので、そんなに報われないなと感じることはないですね。ただ、活動を始めて3〜4年くらいまでは、いないもののように扱われるというか、「私いるんだけどなー」みたいなこともありました。楽屋裏でソロアイドルだけ無視されるみたいな。
■そんなこともあったんですね!
上月 そういう時は報われないというか、ツラいなとは思いました。
■一人だと気づかれにくいっていうのもあるんでしょうけど……。
上月 その時はしっかりいたんですけどね。(笑) でも、ライブで負けているとは思っていなかったので、そんなに落ち込むことはなかったです。
■ソロだと舐められやすいんですかね?
上月 どうなんでしょう?アイドルの世界もどんどん変わってきているので。今はツラいことがあった時に言うタイプのアイドルもいますけど、私は一緒に悲しんで欲しくないので、基本的にはみんなの前ではニコニコしていて。ずっと明るいところだけを見ていて欲しいです。
■ファンの人たちから「もうちょっと弱音吐いてもいいんだよ」とか、言われないですか?
上月 そんなに言われたことないかも。(笑) ファンの方とは楽しい話しかしないので。みんなも「ここに来たら嫌なことを忘れられるね」とか言ってくださるし、私もそういう空間にいたいので、いつもハッピーな現場です。
■でも、その影では涙を流すことも?
上月 結構泣いているとは思います。でも、みんなの前に出るとヘラヘラしちゃうんですよ。
■それをファンの人たちは知っているんですか?
上月 知らないと思います。見せたことはないですし、見せるつもりもないですし。
■「影ではこっそり泣いてるんだよ」みたいなことも言わないんですか?
上月 言わないです。心配されるようなことは言いたくないので。
■じゃあ、今は普段言わないことを言っている感じですか?
上月 そうですね。だから、上手い感じで書いてください。(笑)
■“Higher and Higher”には「涙は夢に近づく強いパワー」という歌詞もあるから、影で泣いている方が説得力があっていいんじゃないですか?
上月 はははは。(笑) 確かにそうですね。
■カップリングの“Re:voice”についても聞きたいんですけど、どういうきっかけでできた曲なんですか?
上月 もともとは4月に予定していたワンマンライブで披露するために制作していたんですけど、コロナの感染拡大で中止になって、制作も止まっちゃったんです。最初に聴いた時から素敵な曲だと思っていたのですごいショックだったんですけど、7月に生誕祭を開催する時にもう一回やろうという話になって、ようやく完成した曲です。
■紆余曲折あったんですね。
上月 はい。それに「私のこと知っているのかな?」っていうくらい、私のことを歌っているような歌詞なんですよ。たぶん私だけじゃなくて、アイドルみんなに当てはまるところがあったり、誰もが共感できる歌詞もあると思うんですけど、「ほんとの私を届けたい」とか、「ここで生きていくと決めた その日から 進むだけだよ」とか、すごい好きなんです。
■そこが自分の姿と重なる?
上月 アイドルをやっていると、「これはしちゃいけない」とか、「こうあるべき」とか、たくさんあると思うんです。特に日本はそういう圧が強いと思いますし。でも、最近はいろんなアイドルが出てきたじゃないですか。本当に自分がやりたいことを貫く方とか、ザ・アイドルを守り通している方とか。私がアイドルを始めた時は中学生だったんですけど、もう今は成人もしていますし、昔から見てくださってる方の中には、すごい変わったなと感じている方もいると思うんです。でも、人は成長するものなので、今の私を、本当の私を見ていただきたいなって思うんです。そういう曲なのかなと思って歌っています。