SpendyMily VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

どこがアングラで、どこがポップスなのか、その線引きは理解しているつもりなんです。

2020年に結成されたバンドとは思えない「破格の新人」と言えるだろう。SpendyMily(スペンディーミリー)が4thデジタルシングル『Distance』をリリース。メインストリームで堂々と闘えるポピュラリティを備えつつ、マスロックやポストロックなどの影響下にある演奏は聴き応え十分であり、これからの未来を期待された有望トリオの登場だ。今回は初登場ということもあり、結成からルーツ音楽、そして注目の新曲について、松永瀀、yukirie、平井文のメンバー3人に話を聞いた。

■バンド結成の経緯は、2020年にSNS上で松永さんが声をかけたことが始まりなんですよね?

松永 そうですね。バンドをやりたくて、Twitter上にyukirieくんがいて、彼独自のギタースタイルに魅力を感じたんです。

■それはどんな動画だったんですか?

yukirie ギターをメインにして作ったオリジナル曲の演奏動画ですね。弾いているところを撮って投稿したものです。

■ただ、星の数ほどそういう動画は上がっているじゃないですか。その中でも惹かれた理由は?

松永 星の数ほどある中で、彼はでっかい星だったから。というのも、「いいね!」もたくさん付いていたんですよ。それで見つけやすかったんですよね。

yukirie 僕も沢山の人に観てもらうように投稿時の文章や画角、秒数も考えて。Twitterで1分以内にすると繰り返しで流れるのでその辺りはかなり意識しています。

松永 あっ、そうなんや。動画からパッションが伝わりましたからね。

■では、平井さんはどういう経緯で?

yukirie 僕が誘いました。もともと音楽的な趣味が共通していまして、残響レコード、ハードコアとか……ちょっとアングラなものにお互いシンパシーを感じていて。それで、松永くんにこういうドラマーがいて、絵も描けるし、映像でも独特なセンスがあるからと。

■実際に、平井さんはSpendyMilyのMVを手掛けているんですよね?

yukirie MVもジャケットも彼女が作っていますからね。

松永 じゃあ、3人で会おうと。

yukirie 僕は友達も少なくて、言わなくてもいいことは言わない方なのですが、会ってみると、彼はお喋りで明るいし、前向きだし、自分の歌に対しても自信を持っていることがすぐに伝わってきました。

松永 僕は最初2人が怖かったですね。喋りかけても、「……」みたいな。ただ、話し始めるとこの人たちは本気で本物を目指しているんだなと。パッションが一致しているなと。

平井 私は最後に入ったんですけど、言いたいことをあまり言えない性格なのですが、yukirieとはもともと仲が良かったから安心しました。

■3人で話した時にどんな音楽をやろうと?

yukirie 具体的に「こういうバンドをやろう」という話にならなくて。3人が好きなものを尊重したいから、ジャンルレスと言うか。

松永 僕ら3人が曲を作ったら、ジャンルレスになるし、ジャンルレスがいいなと。

yukirie 枠に捉われたくないと言ったらありがちですけど、そういうものを目指したいなと。ヴォーカルやドラムに関しても何も言わなくて、好きにやってくださいって。そうすることで枠組みから外れようという意識を持ってやっています。

■ベースレスのトリオ編成というのも珍しいですよね?

松永 「そっちの方が面白そう」みたいな。「3人でも行けるやろ」って。それがこのバンドの個性になるのかなと。

yukirie 直感ですね。ライブでは打ち込みの同期を流す手法も取れるので、ベースがいないことに特に支障はなくて。「バンドという形態に捉われず、自由にやろう」というスタンスもそこに表れているのかなと。

■今回の新曲“Distance”を含めて、過去曲もすべて聴かせてもらいましたが、2年前に結成したバンドとは思えないクオリティの高さです。以前にも音楽活動はやっていたんですか?

松永 いや、僕は全然していなくて。バンドも人生で初めてです。

yukirie 僕もバンドはまだ早いかなという気持ちもあり、ギターをもっと上手くなりたいなと思っていて。Twitterでオリジナルの演奏動画を出していたんですが、松永くんから話をもらった時は正直嬉しくて。新しい挑戦をしたいと思ったから。

平井 私は高校の頃から掛け持ちでバンドをやっていて、yukirieから誘われた時も普通に働いていたので、音楽自体を辞めようと思っていたんです。最初はロックバンドで、次はインストバンド、あと、プログレバンドもやっていました。バンドで言えば、Syrup16g、POLYPHIA、toe、mouse on the keys、Sleep Party Peopleとか。

■被るところもあるかもしれませんが、メンバー3人それぞれの音楽ルーツというと?

yukirie もともと凛として時雨が好きで。同時期に9mm Parabellum Bullet、Nothing’s Carved In Stoneも聴いていて。特に凛として時雨はイヤホンで聴いた時に音の広がりがすごくて。ミックス・エンジニアもTKさんが担当しているんですけど、彼が思い描く音の輪郭が僕の中で新しく、今まで聴いたことがない衝撃的な体験だったんです。それから曲作りの面でも大きな影響を受けていますね。TKさんのソロも誰が聴いても「彼の音だ!」とすぐにわかる個性を持っているし、そのスタイルにも影響は受けました。あと、the cabs、toe、それからハードコアでkamomekamomeとか……ご存知ですか?

■もちろんです!元ヌンチャクの向さんが始めたバンドですね。

yukirie はい、めちゃくちゃ大好きで。他にakutagawa、3cmtour、それから海外に派生して、OLD GRAY、LOMA PRIETA、DAITROとか。あと、POLYPHIA、CHONも好きですね。

■CHONは2020年2月に来日していますよね。観に行きましたよ。

yukirie あっ、僕も観に行きました。(笑) あと、UNPROCESSEDのマニュエル・ガードナー・フェルナンデス(Gt)に今はすごく影響を受けていますね。

■では、平井さんは?

平井 私はSyrup16g、RADIOHEAD、the cabsの中村さんのドラムに衝撃を受けて。それからよりアングラなバンドに行きました。あと、mouse on the keysの川崎さん、toeの柏倉さんの演奏動画をひたすら観ていました。

■松永さんは?

松永 宇多田ヒカルさんが大好きで。声の独特な震え方とか、僕の気持ちいい部分を揺さぶってくれて、一番スッと入ってくるんですよ。宇多田さんに憧れているので、ルーツと言えばルーツですね。あと、OWL CITY、Bobby Caldwellはレコードを買って聴いています。

■楽器陣はアンダーグラウンド嗜好なので、そっちに音楽性も寄りそうですが。SpendMilyの楽曲はオーバーグラウンドを目指しているような、メジャー感のある曲調に仕上がっています。その辺はどう分析されていますか?

松永 どこかで意識しているところはありますね。アングラに足は付けているけど、そこまではのめり込まないぞって。

■地下のライブハウスというより、スタジアムやアリーナとか、大きな会場が似合う楽曲ばかりだなと感じます。ポップであること、キャッチーであることは意識されていますか?

yukirie バンドをやり始めた頃に、「新しいことをやろう」、「自分が苦手なこともやろう」、という気持ちがあったから。それがサウンド面にも表れているのかなと。アングラなものを知っているからこそ、どこがアングラで、どこがポップスなのか、その線引きは理解しているつもりなんです。意図的にアングラなものは遠ざけているところはありますね。