TAL WILKENFELD VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

タル・ウィルケンフェルド『ラヴ・リメインズ』

数々のレジェンドのベースを担ってきた女性名ベーシストが待望の歌唱アルバムをリリース!

ジェフ・ベックやエリック・クラプトン、オールマン・ブラザーズ・バンド等々のロック/ポップスの大御所を始め、ジャズ界の巨匠チック・コリアやハービー・ハンコック等々…。これまで数多のロック~ジャズのレジェンドたちのサポートベースを担ってきた、若き天才女性ベーシスト、タル・ウィルケンフェルド。自らも2007年にソロリーダー作『トランスフォーメーション』をリリース。ジャズ~フュージョン~ファンキーさを主体とした音楽性を中心としたインストだった同盤では、彼女の楽曲のクリエイトセンスやベーシストでのフレキシブルさとその超技巧も堪能できた。
それから13年。今夏発売のセカンドアルバム『ラヴ・リメインズ』では、その音楽内容も一変。タル本人歌唱による歌を中心にロックバンドを基調とした完全なシンガーソングライター然とした作品へと移り変わっていた。元々このような音楽性も素地にあり、いつかは実現したかった上で制作された同盤。来日公演を控えた彼女を直撃。今作までの経緯や作品内容、そして今後を伺った。

■いよいよ4年ぶりの来日公演ですね。

TAL そうなんです。なので今はすごくワクワクしていて。以前の来日の際は自分の作品もまだリリース前だったんですが、今回はアルバム(セカンドアルバム『ラヴ・リメインズ』)リリース後のライブでもあるので、その辺りのリアクションもすごく楽しみではあります。

■特に今回のアルバムは歌が中心の作品ですからね。前作のアルバムとは全く趣向が変わった中、反響やお客さんの反応にも興味があります。

TAL 1枚目はいわゆるインストゥルメンタルだったし、ジャズやフュージョンの路線でしたから。それに対して、今回はその真逆とも言える歌が中心だし、音楽性もかなり違っていて。そういった面ではどんなライブになるのか、お客さんはどんな感じで受け入れてくれるのかもすごく楽しみなんです。

■ちなみにどうして前作から今作のような音楽性への移行を?

TAL 13年も前ですからね、前作は。(笑) やはり当時は私も音楽を突き詰めている最中で、どうしてもそれがテクニックや技巧をどんどん追求していく方向性となり、あのような作品が生まれたんです。でも、私が幼い頃に聴いていた音楽は、今の私の作品の音楽性に近いものであって。やっていくうちにやはり歌で物事を伝えたくなり、歌や作曲そして作詞面へと移行していったんです。

■では今回は元々やりたかったことが出来たということですか?

TAL そうなんです。

■すごくシンプルで原始的な方法論での伝え方もファーストアルバムとは対照的で驚きました。

TAL 歳をとるにつれて、音を減らすことによって「より真意を伝えられる」そう思えてきたんです。もちろん今作でも、もっと複雑な音を奏でることも可能ではありました。でもそれよりも作詞家として、自分のストーリーを伝えたい気持ちが大きくあって。なので、自然と今の音楽性になっていったんです。いわゆる、より歌やメロディによる伝え方の重要性に気づいたというか。

■その「伝えたくなった自分のストーリー」をもう少し詳しく教えて下さい。

TAL 今回のアルバムでフォーカスしたのは「愛と喪失」でした。この『ラヴ・リメインズ』というタイトル自体も「愛が残る」という意味を持っていて。それは、いわゆる失くしてしまった愛もあるけど、残った愛もある。または、まだ続いている愛もあったり…。その辺りのテーマを私なりに表してみたんです。

■ところで、どうして今回はその辺りを表したくなったんですか?

TAL 私はこちらの東方の宗教観や考え方、仏教的な教えに非常に興味を持っているんです。向こう(アメリカ)でも禅寺に通ったりしていて。そこで内省や自分を突き詰めていくうちに、「結局愛というのは、自覚を突き詰めたものなんだな…」と気づいたんです。なので、このアルバムに入っている曲たちはどれも失った愛等をテーマにはしていますが、希望もその中には含ませているものばかりで。このアルバムでは自己を認識することで痛みとリンクするだけでなく、第三者的な目線で自分自身を見つめ返すことが出来る。そんなテーマもあったりするんです。

■確かにどの曲からも、ストーリーテラー的な俯瞰性と自己を見つめ直す内省性の同居と共存を感じます。

TAL まさにそこなんです。その辺りに気づいてもらえて嬉しいです。

■とは言え、オーストラリア出身でアメリカ在住のタルさんが、そのような仏教的概念をお持ちであったのには驚きました。

TAL 特に仏教だけに偏っているわけではありませんが、東洋的な宗教概念というか、その辺りですね。それぞれが各々異なった教えを説いていますし、それぞれ違った意味で私に影響を与えてくれました。どの考え方もすごく良いとは思っています。

■そもそもそれらの東洋的な宗教概念との出会いは?

TAL 父でした。16歳の時に彼が私に仏教を紹介してくれて。そこから数年後にアメリカに渡った際に瞑想を始めたんです。そんな中、レナード・コーエンと出会って。彼も禅に傾倒していたので、彼に従事して禅の瞑想も始めたんです。

■今、レナード・コーエンという名前が出てきて大変驚きました。というのも、タルさんの作品を聴いた際に、すごく彼の顔や音楽が浮かんできたんです。

TAL 一番好きな作詞家でもありますし、友情も含め、すごく強い繋がりがあったので、彼を失ってしまったのはすごく哀しいことでした。彼の死が私に本当の死というものを教えてくれ、それに対して考えるきっかけを与えてくれたんです。

■ちなみに今回の来日では瞑想をしにお寺に行ったりしたんですか?

TAL これからします。大阪ライブの翌日はその為にスケジュールを開けています。