THE COLLECTORS VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

加藤ひさし(Vo)

甘くて苦いサイケデリックな色彩で描く、加藤ひさしが見た「2022年」のこの世界。

THE COLLECTORSが11月23日にニューアルバム『ジューシーマーマレード』をリリース。ポルノスターへの淡い恋を歌うタイトルナンバーを持つ今作は、ペイントされた裸の女性が描かれた印象的なジャケット写真に惹かれながらも、ウクライナ侵攻や環境問題を歌う楽曲が並ぶ、サイケデリックなサウンド感の作品となった。2022年の出来事を書き綴るニュースペーパーのような今作。「賛否が無いものって面白くない」と考える加藤ひさし(Vo)はインタビューで、リアルを歌う楽曲の真意と隠された意図を語った。

■どうすれば私もモッズになれますか?

加藤 モッズは1960年代前半にイギリスで流行ったカルチャーです。徴兵令が無くなり、若者たちが好き勝手やる風潮になった時、大人に反抗する中でアメリカの黒人音楽を聴いたり、身体にぴったりのスーツを着たり、朝までクラブ遊びをしたり、ドラッグをやったり、スクーターで走り回ったりして……というのがモッズなんです。だからならない方がいいと思いますよ。(笑)

■なるほど。私も明日からぴったりしたパンツを履こうと思います。(笑) さて、今回のニューアルバム『ジューシーマーマレード』ですが、コンセプトは何ですか?

加藤 1967年~1968年くらいに、サイケデリック・ロックっていうのが流行ったんですよ。中学生の頃からあの不思議な音楽の感じが好きなんですけど、今回はなんとなく時代的にサイケがぴったり来ていて。

■それは現在の2022年に、ということですか?

加藤 そうです。クーラ・シェイカーってバンドが久しぶりにアルバムを出したんですけど、一聴したら「これ1967年の音楽なんじゃないの?!」って思うくらいレイドバックしていたんですよ。リアム・ギャラガーの新譜も1968年のザ・ビートルズみたいで。彼らがそういうものを発表しているってことは、みんなもそのムードを「新しい」と感じているのかなって思ったんだよ。そういうサイケデリックなムードを持ったアルバムがあってもいいのかなというのが、今作のコンセプトですかね。

■今作の1曲目は短い“黄昏スランバー”ですが、これはどういった意図で収録された曲ですか?ラジオのオープニングSEみたいだなって思ったんですけど。

加藤 まさにそういった感じですね。本当は“ジューシーマーマレード”から始まりたかったんですけど、この曲はイントロが無い静かめの始まり方で。だったらイントロダクションというか、ムードがある感じで始まった方がいいんじゃないかな、それならアカペラの曲がいいんじゃないかと思い、作業が結構進んでから“黄昏スランバー”を作りました。

■“黄昏スランバー”は、全体的な流れを構想した上で作った楽曲だと思っていました。

加藤 即興で作った感じを“ジューシーマーマレード”に繋げてみたらいい感じになったので入れました。この曲は完全に後付けです。(笑)

■タイトル曲“ジューシーマーマレード”ですが、調べてみたら「ポルノスターの歌を歌うなんてとんでもない!」みたいな反応が散見されました。

加藤 そういう反応はあるでしょうね。ジャケットを見て貰っても、女性のヌードにペイントしています。1960年代後半にはボディ・ペインティングが流行りました。その象徴の中には「性の革命・解放」みたいなのがありますが、それも含めてサイケデリックなイメージがあって。

■そのイメージはわかります。

加藤 でもまぁポルノスターに恋する歌って、男子にとっては普通なんですよね……。そこに関して、女子は違う嗜好を持っていると思うんですよ。だから嫌がる人もいるんだろうな。

■実際に批判の声は届きましたか?

加藤 ありましたよ。「ジャケットがもう嫌!」っていうのも。そこは人によるから、「ポルノスターのことを歌わないでくれ」っていう人もいて普通だと思います。批判は全然オッケーです。賛否が無いものって面白くないですよね。

■歌詞に出てくるコニーっていうのは誰ですか?

加藤 僕が二十歳くらいの時に好きだったコニー・ピーターソンっていう実在のポルノ女優です。やっぱりこういう歌をフィクションで書きたくないから。リアルに「コイツが好きだった」っていうのが無いと面白くないじゃないですか。CDのブックレットにもコニー・ピーターソンって記載したんですけど、みんな検索したらエロい……えらいことになるんじゃないかなって。(笑)

■今のは噛んだんですか?わざとですか?(笑)

加藤 ダブルミーニングです。(笑)

■レモンでもチェリーでもなくマーマレードなのは何故ですか?

加藤 ジャムって子どもが塗るイメージがあるじゃないですか。でもマーマレードは「甘いけど苦い」ので、ちょっと苦手なヤツが多いでしょう?そういった意味ではポルノ全体が、男子にとってマーマレードなんじゃないかなって。苦いのも好きみたいな、むしろ苦いのも食べたくて食べているみたいなね。

■ちょっと背伸びした感じもありますよね。

加藤 そうそう。そういうイメージです。

■そんな“ジューシーマーマレード”から“GOD SPOIL”に流れ込む構成が不思議です。

加藤 だって日常の中で人間っていろんなことを考えるじゃないですか。そういうこと(ポルノのこと)を考えている人もいれば、株価のことや政治のことを考えている人もいるし。戦争のことだって考えるだろうし。

■“GOD SPOIL”は、神様を信じている曲ですか?信じていない曲ですか?

加藤 信じられない曲。天国は誰も知らないけど、ウクライナで地獄は見れるじゃないですか。だから「誰かのために死んじゃいけない」って歌です。自分のためだけに生きる。それは卑怯かもしれないし、逃げることかもしれないけれど、生きていなかったら意味が無いですよ。

■この曲には「ゴスペル」が出てきますが、ゴスペルはウクライナやロシアで信仰されている宗教では歌われませんよね?意図的なものですか?

加藤 意図的です。戦争へ行くことを正当化する宗教を僕は信じないです。無神論者なので。いろんな意味でこの曲を書きました。ただ一つ言えるのは、どんな宗教を信じていようが、どんな主義だろうが、目の前の戦争で人が死んでいることだけは事実なんですよ。だから誰かのために死んで欲しくない。自分のために生きて欲しいです。

■こういうストレートに社会問題を歌う曲って減っていますよね、最近。

加藤 SNSとかで叩かれるからかなぁ?いい方法があるんですけどね。僕はSNSを全くやっていないんですよ。だからどこが燃えようが意識の外です。(笑) SNSにはいいところもあるけど、悪いところの方が多いような気がします。

■そして4曲目の“パレードを追いかけて”に入るわけですが、このパレードって何のパレードですか?

加藤 ゲイパレードです。何年か前、僕が台湾に家族旅行へ行った時に、アジア最大のゲイパレードに遭遇して、空港からホテルまでタクシーが全然動かないことがありました。でも、そのパレードがまぁ楽しそうなの。今は差別を受けているゲイの方もいらっしゃるだろうし、いろんなことが変わっていくだろうけど、ひとりだけじゃないから。まずはそういうパレードの中に行けば「ひとりじゃない」ってことを確認できるんじゃないかって思います。

■サウンドが華やかでレインボーな感じがします。普遍的に見える歌詞ですが、ゲイパレードと聞いて「ハッ」としました。

加藤 「そんな考えをしているのは君だけじゃない、もっとたくさんいるよ」って歌にしたかったから、歌詞の中に「レインボーフラッグ」って言葉を入れたりするのは止めました。もともとはそうしたかったんですけどね。

■そして“裸のランチ”ですが、アルバムの中でも異質な感じがしたのですが?

加藤 “裸のランチ”と“ヒマラヤ”は、2021年にリリースしたBOXに入れていたので、今作制作時には既にあった曲なんですよね。だから仕上がっている音も少し違います。

■タイトルの“裸のランチ”ってどういう意味ですか?

加藤 タイトルはビートニク詩人・バロウズの小説から取ったものです。ドラッグの幻覚をそのまま綴ったような作品。楽曲はそれと全く関係なくて、コロナ禍ですごく規制が多かったので、誰でも「もう裸になってやる!」みたいな気持ちになったりするじゃないですか。その一瞬を歌いたかったんです。良いタイトルじゃないですか。「裸」ってワードが「解放」をイメージするので、それにかけて作ってみたんですよ。

■まず「裸」と「ランチ」を組み合わせることが無いですしね。

加藤 「裸のディナー」より「裸のランチ」の方がいいかなって。夕方には正気に戻っているからね。

■バンドサウンドがカッコいい曲ですが、バンドに新しいメンバーを迎える時に大事にしていることはなんですか?

加藤 メンバーひとりひとりには「その人のリズム」があります。同じ譜面でもノリが合わなかったりするので、それを合わせて行くのがお互いの作業なんです。この人は早めだから、自分も早めに弾く癖をつけていく。そうやって行かないと息が合わないですよね。長年やっていると、夫婦みたいになってぴったりくる。巧い人を入れたからって息が合うわけではないんです。

■なんだかザ・フーみたいですね。

加藤 ホントにそうですよ。ザ・フーは一番のお手本です。合ってないけどむしろ良い。辻褄合わせてくるところが良いじゃないですか。

■そして“裸のランチ”から“もっともらえる”に流れた時に「欲望」を感じます。コレクターズって、詞が先にできるタイプですか?

加藤 いえ、全く逆です。歌詞がないままレコーディングスタートです。歌入れの日付から逆算して歌詞ができます。追い込まれないと何もできない。(笑)

■エンジニアさんがびっくりしますね。(笑)

加藤 だから、レコーディング開始時には誰も何の曲かもわかっていない。(笑) 元々洋楽好きだから、歌詞があろうがなかろうがアレンジはどんどんできちゃうんですよ。後から「ああ、歌詞どうしようかな……」って。

■加藤さんは詩人のイメージがあったので意外でした。

加藤 不思議とできちゃうんですよね……。それが才能なんでしょうね。(笑)

■“もっともらえる”みたいな詞は、最近の人が書かなくなってしまったようなものに思います。

加藤 そうですね。これは80年代とかのビート・ファンク・バンドって言いますか、ああいう連中が得意としている所をもう一回やりたいという気分でやりました。この曲は録っている時、「どこまで速くできる?」って話になって。そしたらえらい速くなっちゃったんですけど、「それ意味あんの?」という事になって。やっぱり「丁度いい速さにしよう」ということになりました。

■若かったらそのまま突っ走っていたかもしれませんね。

加藤 昔のパンクバンドは速ければ速いほどよかったから。(笑)

■速いほど技術も誤魔化せますからね。

加藤 そうそう。(笑) でも「聴いてもらうにはこれくらいの速さだな」となりました。