THE COLLECTORS VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

■続く“サンセットピア”が「無欲」という感じなので、“もっともらえる”が際立ちますね。

加藤 “もっともらえる”は“GOD SPOIL”に近くて、「自分たちが働いた分ちゃんともらえてんの?」みたいな、「当たり前のものを当たり前にもらえているか?」という曲なんです。消費税10%抜かれているけど、それは本当に当たり前なのか?をもう一度クエスチョンするというか。だから欲張りの歌じゃなくて、「自分の分を誰かが持って行ってないか?」っていうものなんです。

■確かに若者は生まれた時から消費税があるから、それが当たり前になっています。

加藤 「それは違うんじゃない?」って疑問を持って欲しい。だから歌い出しから「満足するように教えられてきたけど、満足しないって決めたら何が起こる?もっと貰えるんだよ!」っていう、そういう歌です。

■そして“サンセットピア”ですが……。

加藤 舞台は千葉県の稲毛海岸です。僕は大学が津田沼だったので、その頃に友達と車で走ったりしていて。稲毛海岸には日本では珍しい桟橋が最近出来たんですけど、「若い頃にこんなのがあったら、ここで彼女とお茶でも飲んでたなぁ」と思い、書きました。

■ウン十年越しのデートなんですね。加藤さんは内地生まれですが、身近に海があったんですね。

加藤 空想ばっかりの曲って好きじゃないんですよ。だからインタビューを受けた時に「サンセットピアは稲毛だよ」ってちゃんと言えるようにしたい。ザ・ビートルズの「ペニー・レイン」だって実在の通りがあるじゃないですか。ビートルズがやったことを自分でもやりたいんです。

■その次の“イエスノーソング”も元となったエピソードなどがあるんですか?

加藤 元は無いんですけど、コロナ禍の閉塞感が「アレやっちゃダメ、コレやっちゃダメ」の「NO,NO,NO」ばかりだったので、それにもう飽き飽きしたというか。「YES,YES,YES」って言って、行けるところまで行きたいなっていう気持ちになりました。

■加藤さんはイエスマンですか?

加藤 僕はNOばかり言っています。(笑) でも世の中にこんなにNOが多くなっちゃうと、なんでもいいからYESって言った方が次に進むかもしれないじゃないですか。

■コロナ禍で苦しかったことってありますか?

加藤 2019年までは毎年2回くらいイギリスに行けていたんですよ。現地に行くとスーパーマーケットのポップがカッコよかったり。そういうものが全てヒントなんですよね。それが必要だったんですよ。そこに出会えていないのがキツい。インプットが足りなくなって、アイデアが浮かばなくなるから厳しいです。

■ところでバンドの中で一番のイエスマンは誰になるのでしょうか。

加藤 ベースの山森(山森“JEFF”正之)かなぁ……何でもやってくれる。あいつがイエスマンだ。(笑)

■その次の“負け犬なんていない”は、誰かに向けて歌っているような感じがしましたが?

加藤 誰かというよりも、ギターの古市コータローがライブで必ず1曲歌ってくれるので、コータローくんの曲を作りたいなと思って。彼は兄貴肌なキャラなんですよね。それで「負け犬なんていない!」って、昭和っぽい感じで作ったんです。

■昭和っぽいですね。久々に「負け犬」という言葉を聞きました。(笑)

加藤 もともとはドラマ『アメリカン・ゴシック』で、登場人物が心を病んでセラピーを受けている時、セラピストに渡されたテープから「負け犬なんていない、ゆっくり勝てばいい……」って、ずーっと流れているシーンがあったんですよ。これはいいぞと思って。(笑)

■それ聞いた後に歌詞を読むと印象が正反対です。気を取り直して、各曲にアルバム内での立ち位置はあるのでしょうか?

加藤 3月の武道館ライブが終わってから制作に入り、7月にはレコーディングが始まったので、3ヵ月くらいで曲を揃えなきゃいけなかったから、立ち位置を考える余裕は無かったです。頭の中に浮かんでくる曲を形にして、「これは面白そうだ!」ってものを仕上げていく作業をしていたら、アルバムが出来上がっていました。

■コンセプトアルバム系ではないということですね?

加藤 コンセプトアルバムなんて全然考えていなかった。ただ、“黄昏スランバー”で始まって“ヒマラヤ”で終わったら何か妙なコンセプト感があって、それが不思議だなって自分でも思っています。

■密な時間で作ったから時代を切り取ったような形になったのでは?

加藤 そうですね。「2022年に起こったこと」をメインで歌いたいなって思っていました。その時起こったことが一番リアルで、自分を刺激するじゃないですか。そこだと思うんですよね。

■そして次の曲の“長い影の男”……長い影の男って誰なんですか?

加藤 それは言えないんです。レコード会社に強く止められていて……。触れたらやられます。(笑)

■ちょっとアニメソングっぽいですよね。「黄金バット」や「妖怪人間ベム」みたいな。

加藤 ベースで始まって不気味な印象があるからじゃないかな?1980年代のエコー&ザ・バニーメンとか、U2のデビューしたての頃とかは、パンクからニューウェーヴに移行する時で、ベース&ドラム&歌みたいなのがよくあったんですよ。それはアンチ・アメリカン・スタジアムロックというか、派手でリアルじゃないものに対するアンサーだと思うんです。当時二十歳の自分はそれをすごくカッコ良く感じていたので、それを思い出した感じです。

■最近は派手なサウンドが多いですからね。

加藤 最近の曲は飽きさせないようなアレンジが多いじゃない?その真逆をやってみたくて、わざとそうしました。古いやり方でも新鮮に感じることがあるので、それを試してみたかったんです。

■11曲目の“アサギマダラ”、これはチョウチョの名前ですよね?

加藤 チョウチョです。海を渡る蝶がいるのは何年も前に知っていたのですが、最近では地球温暖化になり、何となくね……。僕が小さい頃、車はすごい排気ガスを出して走っていました。そういう事は良くないからどんどん有害なガスが出ないように規制がかかって、それを自動車メーカーがクリアしているわけです。

■そうですね、環境に配慮するようになりました。

加藤 自動車ではハイブリットなものを作れるんだから、地球温暖化の原因が工場の排気や火力発電所のガスだとしたら、それももっとハイブリッドなものを作れるんじゃないの?と思うんです。その努力をしないで次に行こうとしてない?と。それがヒントになって、「あんなに小さい蝶が海を越えられるんだったら、僕たちももっとできるだろう」と歌っています。

■ああ、皮肉っぽい曲なんですね。

加藤 今あるものを変える必要はないと思う。電気自動車はバッテリーを作る時に温室効果ガスを出すし、今走っている車が全部電気自動車になったら絶対に電気も足りなくなるのに、火力発電は使えない。じゃあ結局は「誰かがウランを売りたいんじゃないのか?」と考えて。「今あるものでどうにかできることは絶対ある、できないことはない!」というのを、この歌で言いたかったんです。

■そしてラストソングの“ヒマラヤ”ですが……MVに映っていた青いバラは何か意味があるのでしょうか?

加藤 ヒマラヤには青いケシが咲くんです。ケシって大麻のモトだったりするでしょ?でもケシは買えないから、イメージさせるために努力したところがあります。

■この曲自体にも「青いケシ」っぽいところがあるのでしょうか?巡礼者というイメージは60年代ロックの印象がありますが。

加藤 この曲では60年代のサイケデリック・ロックの、ドラッグで演っている方も聴いている方もトリップしている「あの時代」を、箱庭的に作りました。みんな人生の意味を探して、スピリチュアルなものに救いを求めていたのがサイケの時代です。幻覚や幻想を見る中で、そこにヒントや答えを求めていたんだと思います。それが東洋の神秘であり、インドにあるって当時のロックミュージシャンは思っていたんだろうね。

■最後に37周年の活動の予定を教えてください。

加藤 僕らのやることって変わらないじゃないですか。アルバムを出して、ツアーを回って、ライブをやって……それがもっと自由にライブができるような時期が来るまでやり続けなきゃダメだろうし。2年に1枚アルバムを出していかないとダメだと思います。

Interview & Text:安藤さやか

PROFILE
1986年初頭、THE WHOやPINK FLOYDといったブリティッシュ・ビート・ロックやブリティッシュ・サイケ・ロックに影響を受けた加藤ひさし(Vo.)と古市コータロー (G.)が中心となって結成。翌87年11月にアルバム『僕はコレクター』でメジャーデビュー。2014年3月末、ベースの山森“JEFF”正之が正式に加入。2017年、サポートとして参加していたドラマー古沢”cozi”岳之がメンバーとして正式加入。2022年3月13日、35周年記念公演を日本武道館で開催し、圧倒的なステージングでファンを魅了。11月23日、通算25枚目のオリジナルアルバム『ジューシーマーマレード』をリリース。同日より全国8都市を廻る『THE COLLECTORS Live Tour 2022 “Lick the marmalade!』を開催。2023年には、2度目となる12ヶ月連続のクアトロ・マンスリーライブの開催も決定。
https://thecollectors.jp/

RELEASE
『ジューシーマーマレード』

COCP-41913
¥3,300(tax in)

日本コロムビア
11月23日 ON SALE