「高い声を出すためには楽しくあればいい」、原曲キーで挑んだカバーアルバムを語る。
ウォルピスカーターがカバーアルバム『ひとのうた』をリリース。2012年10月10日に初の「歌ってみた」を投稿以来、ハイトーンボイスを武器に「歌ってみた」やオリジナル曲をリリースし、ファンを魅了してきたウォルピスカーター。活動10周年を迎えた記念となる本アルバムは、初のカバーアルバムであり、初めてファンのリクエストに応えたアルバムにもなった。「高音出したい系男子」との異名の通り、原曲キーでリクエストに挑んだ今作は、ウォルピスカーターだからこそできたチャレンジであったと言っても過言ではないだろう。
年々声域を広げ、更なるハイトーンに挑戦し続けるウォルピスカーター。そもそも何故高音に興味を持ったのか、原点となるボーカロイド曲はなんなのか。今作へのこだわりなどとともに、ウォルピスカーター本人にたっぷりと話を訊いた。
■今作は10周年記念アルバムということですが、10周年を振り返ってみていかがですか?
ウォルピスカーター 特に大きな節目を迎えたような気はあまりしないですね。気が付いたら10年みたいな感じです。
■ウォルピスカーターさんが歌に興味を持ったのは、どのタイミングだったんですか?
ウォルピスカーター 中学生の頃ですかね。人に褒められたのがきっかけだったんですけど、それまで自分の歌が上手いとか、自分の声がいいみたいな認識は一切なかったんです。人に言われて「そうなんだ、じゃあやろうかな」くらいの感覚でした。
■当時はまだ高音を極めていこうという気はなかった?
ウォルピスカーター 全くなかったです。そもそも10数年前は高い声の認識って1オクターブくらい違ったんじゃないかな。なので全然そういう思いはなかったですね。
■それこそボカロとかが出てくるようになって、高い声の認識も高まってきて、それからということですか?
ウォルピスカーター ボカロが出てからも、僕ら男性はキーを下げてオクターブ下で歌うのが当たり前のようなものでしたから、ボカロ曲を歌い始めた頃は高い声はまだ意識していなかったんです。歌い初めて1、2年経った時だと思うんですけど、高い声を好んで出すコミュニティみたいなのがあったんですよ。そこに触れてしまって、触発されてっていうのが大きいですね。
■ボーカロイド曲にはまっていくきっかけとなった曲や、ボカロPなどはいるんですか?
ウォルピスカーター 僕は高校3年生の時に「歌ってみた」を始めたんですけど、それ以前はそこまでボカロ曲は聴いたことがなかったんです。ニコニコ動画も見たことないくらいだったので。当時は軽音楽部に入っていたので、友達から「今こんなのあるんだよ」って教えてもらって、そこから聴き始めました。一番最初は“ブラック★ロックシューター”とか、Neruさんの“アブストラクト・ナンセンス”、“東京テディベア”を教えてもらったのが出会いだったと思います。
■そして今作ですが、ファンから募ったリクエストの中から10曲を収録しています。リクエストで1枚アルバムを作ることになった経緯はどのようなものだったんですか?
ウォルピスカーター これは単純に今まで僕がリクエストを受けてこなかったからなんですよ。本当は無視をしてきたという言い方が多分正しいです。(笑) やっぱりアーティスト側が出したいものと、ファンが求めるものが一致しない瞬間ってあるじゃないですか。僕は結構その乖離が大きくて。「それを無視し続けてきたツケをどこかで清算しないといけないな」と思っていたので、「これを機にみなさんの鬱憤を晴らしてあげましょう」ということで、今回の企画になりました。
■無視してきたのには、なにか理由があるんですか?
ウォルピスカーター みなさんが歌って欲しいと思う曲って、その時々で一番売れている曲だったり、その時を席巻している曲が多いんですけど、僕はあまり流行を追えないタイプだったので、流行り廃りに関係ない曲を好んで聴いていたんです。なので、「こういう曲が流行っているんだ、でも今僕は歌いたい曲あるし」と思って、一旦置いておいた結果、もう二度と出てこないっていう感じだったんですよね。(笑)
■いつもご自身が歌っている曲はどんな基準で選んでいるんですか?
ウォルピスカーター 僕自身がボーカルだからというのもあると思うんですが、楽曲の中では一番メロディを大事にしていて。とにかく好みのメロディであるかどうか、歌いたいと思うメロディラインがあるかどうか。これだけですね。
■今作の10曲のラインナップを見てみて、いかがでしたか?
ウォルピスカーター まぁ……そうだったんだっていう。(笑) いろんな世代の曲が出てきて、年代ごとの鬱憤があったのかなと思いますね。
■リクエストの数も尋常じゃないくらい来たそうですね。
ウォルピスカーター すごかったですよ……。僕は直接集計には関与していないんですけど、スタッフさんから悲鳴があがって。(笑) 今回好評だったのであれば、第2弾、第3弾とやっていきたいと思うんですけどね。僕は歌うだけで苦労しないので、集計するスタッフさんが頷けばですけど。(笑)
■リクエスト曲を原曲キーで歌うというのは、普段とは違う大変さもあったと思います。プレッシャーなどもありましたか?
ウォルピスカーター これまではリクエストに一切答えていなかったがゆえに、「こういう曲あるんだ」と思ってもらうというハードルを越えればいいだけなので、結構好き勝手に歌っても許される状態だったんです。でも「これを歌ってください」って言われているということは、リクエストした人の中には、僕がこう歌っているというイメージがあるわけじゃないですか。そこにきちんと沿えないと「解釈が違うな……」みたいに思われてしまうので、その辺をどう予想してすり合わせていくかっていうのがすごく大変でした。
■ファンの理想をどう解釈して当てはめていくかという?
ウォルピスカーター そうですね。自分もそうですけど、脳内で勝手に再生される声っていうのは誰しもあるじゃないですか。今回の企画としては、そこにきちんと沿わないといけないなと。
■今回選ばれた曲は、ウォルピスカーターさんとしても既に知っている曲たちでしたか?
ウォルピスカーター はい。一応全曲知ってはいて、何曲かは昔録音して挫折したり、既に動画として投稿していた曲もありました。
■挫折した曲というのは?
ウォルピスカーター “銀河録”です。昔録音して、本当に無理だったので挫折しました。(笑)
■では今回はリベンジだったんですね。ちなみに今回一番苦戦した曲を挙げるとしたらどの曲ですか?
ウォルピスカーター 一番苦戦したのは、“Fire◎Flower”ですね。これは低くて……というか、特別低いわけではないんですが、僕が低い歌を歌い慣れてなさすぎて、声の出し方が分からなくて苦戦しました……。
■低い音に苦戦というのは意外ですね。
ウォルピスカーター 高い声って出すだけでいいので、出るか出ないかのハードルを越えればおしまいなんですよ。でも低い歌はきちんと上手く歌わないといけないので、越えなきゃいけないハードルが2段も3段も上がるので。非常に苦しかったですね。
■そうなんですね。“Alice in 冷凍庫”はすごく高いので、特に最後のサビは聴いていても驚きました。これを録っていく作業はいかがでしたか?
ウォルピスカーター これもしんどかった記憶しかないですね。(笑) というかこの曲、ボーカルの場所が少ないと思っていたんです。オケがループで続いていくので、ループを聴いている時間が長い分、ボーカルが少なく感じるんですけど、最後のサビって40秒くらい連続で歌うんですよ。中々40秒も連続で歌う区間があることって少なくて。録る前は歌うところが意外と少ないなって思ったんですけど、いざ録ってみたらすごく多いみたいな。予想外の苦しみがありました。
■聴いているだけじゃ中々わからない、歌ったからこその苦しみですね。
ウォルピスカーター そうですね。まだ終わらないのか……っていう。
■ウォルピスカーターさんは曲によって声色もかなり変わりますが、ロック系の“未来少年大戦争”はどんな風に歌っていったんですか?
ウォルピスカーター 声色とかは特に考えずに歌いましたね。この高さだと声色の選択肢もいろいろあるんですよ。あと、こういう曲は慣れ親しんでいるというか、高校時代にバンドを組んでいたこともあって、ロックは僕の中に既にあるものなんです。なので、自然体で歌ったような記憶はあります。
■ロック系の曲はバンド経験にルーツがあるんですね。軽音楽部時代に原点となったバンドはいるんですか?
ウォルピスカーター 難しい質問ですね。僕は元々J-POPがやりたかったんです。スピッツがすごく好きで、バンドでスピッツがやりたかったんですよね。でも軽音楽部の高校生って、誰もスピッツをやってくれないんですよ。(笑) 最終的には多数決で丸め込まれて海外のメタルバンドのコピーをやっていました。(笑)
■そうだったんですね。声色の話も出ましたが、今回で言うと“ワールド・ランプシェード”や“煮沸消独”、“ドナーソング”などでは、中性的な声が印象的でした。ウォルピスカーターさんの活動初期の「歌ってみた」では、あまり聴けなかった歌声でもあると思うんですが、これは自然と習得したものだったんですか?
ウォルピスカーター どうなんでしょう?僕は結構無意識にやっていますね。元々の声質が高くなってくると、勝手に女性的な成分を含んでくるので、あまり練習みたいなことはしていないです。ただ、どうやらそういう声が受けがいいっていうのは知っているので。(笑) 「多分この曲はこういう声色で歌って欲しいんだろうな」みたいな。それに沿って出していったっていう感じです。
■“銀河録”は先ほど一度挫折したともおっしゃっていましたが、今回の録音ではいかがでしたか?
ウォルピスカーター 思ったより上手くいったかなと思います。この曲に関しては、声の出し方がいつもと違うんですよ。普段は喋り声を上げていった声をベースに高い声を出しているんですが、“銀河録”に関しては、ファルセットをベースに高い声を出していて。これは結構限界の中で見つけた声ですね。ギリギリに追い詰められて出た声が、そのままはまった感じだったので、追い詰められた割りには上手くいったなと思います。
■追い詰められながらの録音だったんですね。
ウォルピスカーター 追い詰められましたね……。追い詰められすぎて大晦日によくわからない動画をTwitterに挙げたりもして……。(笑)
■録音したのは年末年始の時期だったんですか?
ウォルピスカーター 録音自体は12月に入ってから開始していったんですけど、一番最初に着手した“Fire◎Flower”の録音に時間を取られちゃったんですよね。その1曲だけでスランプになったとまでは言わないですけど、なんか分からなくなっちゃって。“Fire◎Flower”に、2、3週間時間をかけちゃったんです。そのせいで締め切りがどんどん厳しくなっていきました。