安田レイ VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

安田レイ『Not the End』

「不安感」や「孤独感」、「無力感」に襲われた時、この歌が道を示してゆく。

安田レイ通算15枚目となるシングル『Not the End』が、2月7日に先行配信、2月24日にCDリリースされる。“Not the End”は、日本テレビ×Hulu共同製作ドラマ『君と世界が終わる日に』の挿入歌。カップリングに収録される“amber”は、映画『おもいで写眞』の主題歌へ起用中。2曲の魅力を、安田レイにじっくり語ってもらった。

■“Not the End”は現在、日本テレビ×Hulu共同製作ドラマ『君と世界が終わる日に』の挿入歌として流れています。この楽曲が生まれた経緯から教えてください。

安田 ドラマ「君と世界が終わる日に」の挿入歌をお願いしたいというお話をいただいたところから、制作はスタートしています。歌詞は自ら手がけました。その際に、ドラマのプロデューサーさんと監督さんから内容についてのお話を事前に聞かせていただいて、その時点で上がっていた数話分のドラマの台本も読ませていただきました。その上で、私が日常の中で感じていた想いを重ね合わせ“Not the End”の歌詞を書き上げました。「君と世界が終わる日に」は、ゾンビによって日常が奪われていくお話なんですけど、台本を読みながら感じていたのが、私たちが生きているこの世界もドラマに描かれている物語と同じだなということ。もちろん私たちはゾンビと戦っているわけじゃないけど、コロナという見えない敵と戦っているわけじゃないですか。しかもこの2つの事柄に共通していたのが、先の見えない日常に身を置いた時に感じる「不安感」や「孤独感」、「無力感」。ドラマに登場する人たちが抱えている心の闇は、そのまま今の私たちが日常で感じている想いと同じなんです。それが“Not the End”の歌詞を書く上でのきっかけになりました。

■今も世界中の人たちが終息の見えない日々を送り続けています。レイさんご自身、今も続いているコロナ禍の日々をどのように受け止めているのでしょうか?

安田 昨年すごく感じていた自分の気持ちを一言で表すなら、「孤独」です。昨年は今以上に「人に会えない」、「人に会えないから自分の感情を伝えることができない」、「人に会えないから、お互いの気持ちを交わすこともできない」という日々が長く続いていました。コロナ禍以前の私は、「大好きな仕事であり、最も自分らしさを出せる<表現>の為だったら何でも手放せる」と思っていました。だけど、人と会えなくなったことで「もし大切な家族や友達を失ってしまったら、私はどうやって生きていけばいいんだろう……」と、一人部屋の中、孤独を覚えながらそんなことばかり考えていました。そんな考えを巡らせる日々が続いた中で、「私にとって一番必要であり、大切であり、失いたくないのは<繋がり>なんだ」ということに気付けました。同時に、「大切に思える人たちと、私は一緒に生きたい」とも感じていました。その気持ちって、ゾンビに襲われる環境の中、今の状況からどうやって抜けだせば良いのかさえわからない、それでも「本当に大切に想う人と一緒に、こんな絶望しかない世界でも生きていきたい」と願う『君と世界が終わる日に』の登場人物たちと重なる想いなんですね。そこに気が付いたからこそ、私はコロナ禍で感じている今の気持ちと、ドラマに描かれた世界観や登場人物たちとの想いを重ね合わせて、この歌詞を書きました。

■どんな状況下へ置かれようと、人との繋がりこそが何よりも大切だということですね。

安田 歌詞の中で「怖くても守りたいよ 君との優しい明日を」と書いたのも、その「君」を、ドラマに出てくる響(ヒビキ)と来美(クルミ)の関係性と重ねて合わせてもいいし、この歌を聴いてくれた人にとって大切な「君」と重ね合わせてもいい。「誰かと一緒に今を守りたいし、乗り越えたい」という想いを、“Not the End”を通して伝えたかったからなんです。なので、「人との繋がり」を意識しながらこの歌詞を書きました。

■レイさんにとって2020年は、「孤独」を感じることの多かった年になっていたんですね。

安田 「孤独」もそうですけど、「いろんな価値観や考え方の変わった年」と言った方が正しいかも知れません。友人と会えない淋しさもありましたけど、何よりファンのみなさんと直接会う機会を持てなかったし、今も持てていないことが何よりも大きな淋しさでした。ファンのみんなと直接会ったのは、昨年2月に行なったコンサートが最後で、その後、シングル『through the dark』をリリースしましたけど、いつもならリリースに合わせて各地へ足を運び、みんなと直接触れ合えるし、コンサートを行うのが当たり前の活動でした。それがコロナ禍以降はすべて奪われました。もちろん配信を通してのコミュニケーションや、配信ライブもやりましたし、配信イベントにも参加して歌うこともしてきました。その姿をみんなも観てくれていたし、みんなと繋がっているのもわかってはいましたけど、自分の目にその姿を直接焼き付けることは一度もありませんでした。私にとって一番の活力は、みんなを前にして歌うこと。それが出来ない淋しさは本当に強かったです。

■その環境は今も続いていますが、もどかしい気持ちは強いですか?

安田 強いですね。今も「孤独感」も「不安感」もあるし、現状を自分一人の力では何も変えられないことへの「無力感」もあります。今も一人で考えることは多いけど、昨年はとくに一人で自問自答し続けることが多かった。そこで感じていた「孤独感」も、この歌詞を通して伝えています。

■なるほど。現状もまだみんなと会えるような状況ではないですからね。

安田 終わりの見えない日々を送る中で、積み重なる負の感情のスパイラルもそうですが、ただネガティブなだけではなく、「暗闇と希望や光」というバランスも意識した上で“Not the End”の歌詞は書いています。それを一番表現したのが、サビに記した「この手は 繋ぎ合うため」と「二人は この身に迷う」の部分。私たちが日々生活している今の社会の中、まだコロナの問題は解決したわけでもないし、今も終わりの見えない毎日が続いています。それでも「今の環境に陥っているのも、何かしら意味があってのこと」、「今を乗り越えたら、きっと光にたどり着ける」と自分に、そしてみんなにも言い聞かせたかった。歌の中では現状を解決していないし、答えも出していません。だからこそ、「今を乗り越えよう」という想いを記しながら、この歌を締めくくりたかったんです。

■個人的に胸に響いた歌詞が、「昨日のごめんねも 明日のありがとうも いつの日か燃え尽き なくなる前に」の一節でした。その表現に、「過去でも未来でもなく、今、お互いに強く心を結びあっていく姿」を感じました。

安田 今までの私は「また今度会った時に伝えればいいか」という、ライトな気持ちで生きていたんですけど、なかなか人と会えない環境へ陥ってからは、「今、芽生えた感情を伝えられる時に伝えなきゃ、次がいつかなんてわからない、今、伝えられるなら伝えたい」という気持ちに代わりました。そういう想いをこの一節に映し出しました。

■重厚な曲調というのもありますが、レイさん自身の歌声が生々しいといいますか、感情を剥きだしのままに歌いあげていますよね。その歌声が、インパクト強く胸に飛び込んできました。

安田 “Not the End”はサビ歌始まりという理由もあって、冒頭から強い言葉で胸に抱えている想いを表現したいなと思ったことから、この冒頭の英詞が生まれたんですけど、私自身も、強い言葉の力に導かれるまま感情を露に歌い始めました。始まりの一節に、「私を奪って行くの」という言葉を書いたのですが、普段の生活では使うことのない言葉を書いたのも、本当に自分の日常が奪われ、自らの価値観さえ変えてしまった現実があったからこそで。そういう大きな変化を、強い言葉や感情的な歌声を通して伝えたかったんです。

■冒頭の話にも繋がりますが、“Not the End”の歌詞は、ドラマ『君と世界が終わる日に』の物語とリンクする表現も多いですよね。

安田 そこにはいろんな想いや仕掛けを施しています。例えば、「あの日の約束 変わらずここにあるよ」は、第一話で出てきた、響が来美にプロポーズしようと決意して出ていくシーンから繋がった言葉で。途中に「風が吹き 響き合うと」と書いた一節も登場しますけど。「響き合う」の響きとは、主人公の響のことなんです。“Not the End”自体が、ヒロインの来美ちゃんの目線で書いているので、『君と世界が終わる日に』の物語にも重なるいろんなワードを隠しているんです。そこもぜひドラマを追いかけながら見つけてもらえたら嬉しいですね。

■コロナ禍の心情と、ゾンビが出てくるような世紀末な世界を舞台にしたドラマの世界とを重ね合わせ歌詞を書く。それはすごく大変な作業だったんじゃないですか?

安田  決して楽ではなかったです。私が“Not the End”の歌詞を書く上で心がけたのが、世の中の人たちみんなが感じている痛みなどを、自分の言葉でしっかり代弁していくこと。だから、「これっ!!」という納得のいく表現が見つかるまで、何度も書いては消してを繰り返しやってきました。だからこそ、ドラマからこの曲が流れてきた時に、現実とドラマの世界の両方がしっかり重なる歌として響いてきたから、すごく安心しました。

■先程、歌で結論は出さなかったと言っていましたけど、今の環境を捉えたら、「出さない」というよりも「出せなかった」というのが素直な気持ちでしょうか?

安田 そうですね。今もまだ世の中自体に終息という結論は出ていないし、今も答えを見いだそうと模索している毎日が続いています。なのに、曲だけハッピーエンドにしてしまうのも違うなと思いました。それよりも、「その答えは何かわからないけど、でも希望を持てる続きがきっとあるよ」と、想いを投げかけたかった。そう思ったからこそ「この手は 繋ぎ合うため」や「二人は この道に迷う」という言葉を記して、この歌を終えたわけなんです。