明日に向かって少し希望を、今日にバイバイするツアーファイナル。
6月27日(土)、台風に伴う悪天候に見舞われた東京の地下、Zepp Shinjuku(TOKYO)。青い薄霧に包まれたステージは、ふと暗闇に包まれる。耳元でバチバチ弾けるノイズに、アナログテレビ風の画面へ映し出された波止場、発電所、寂しい町の景色。信号機の下で響く「バイバイ」の呼応に、場違いなほど明るい「そんな時はポップしなないでがいれば大丈夫!ぜ~んぶ上手くいくよ!」の声。ムーディーな音楽が流れ始まると、バンドを引き連れ、赤と銀の衣装を纏ったかめがいあやこ(Vo&Key)とかわむら(Dr)が登場し、フロアからは歓声が上がった。「──私はこの夜を科学する」ポップしなないでのワンマンツアー『”Bye, Bye, Bye!!”』ファイナル東京公演は、静けさを伴った詩の朗読からタイトルコールに繋がって、“この夜を科学する”の演奏が始まる。ラグジュアリーな歌声を存分に響かせながら不意に囁くセリフは「この夜を科学する」。青いライトがかめがいとかわむらを切り取り、ライブハウスは一瞬でふたりの世界に染め上げられる。人差し指を突き上げ踊る“UFOを呼ぶダンス”に、光の円が宇宙を作る“支離滅裂に愛し愛されようじゃないか”。かわむらのドラムは歌に溶け込み、かめがいはあどけない少女から酒場の歌姫まで声色を変化させて、赤い袖をひらめかせ金魚の如く音の海を泳ぐ。

「みなさま本日は改めましてようこそ、ポップしなないでだー!今日は足元が悪い中辿り着いてくれて、どうもありがとうございます!」オープニングを終えて悪天候の中ライブに足を運んでくれたファンへ感謝を伝え、ハンドマイクを持ったかめがいが歌う4曲目は“ネコ占”。カラフルな背景には自由気ままな猫たちが映し出され、観客の視線を奪っていく。ミラーボールに毒々しいまでの原色が反射して乱舞する“あかるい秘密結社”ではサウンドがキャンディのように弾け、ギターソロの激しさにシンバルを叩くかわむらの熱量も上がる。ゴージャスなピアノから激しく流転する曲調を踊りこなす“魔王様”に、パステルカラーが包む“夢見る熱帯夜”。かめがいの透明な歌声は汗ばみ始める季節の湿度を突き破り、激情を剥き出しにしながらとろけていく。7曲を終えて、今回15カ所を巡ったアルバム『Bye』のリリースツアーを振り返るふたりは、「東京で活動しているから東京はホーム感がある気はするけど」と語るも、「まあ、どの会場でもそう言ってきたね」と笑い合う。その「ホーム感」の由来は観客の微笑みから来ているものかもしれない、と言いながら、ライブは“衛星十七号”へ。大地を踏みしめるように力強くピアノを鳴らし、シンプルな照明の中、ふたりきりで世界を作っていくかめがいとかわむら。流れのままに“ロケットダンサー”を歌うと、「さてみなさま、ミュージシャンというのはみなさまが思っているより繊細な生き物でございます!」の声と共に「ミュージシャンに言っていいこと〇×クイズ」がスタート。スクリーンの中の可愛いイラストに合わせ、ちょっと棘がある〇×クイズを繰り広げると、電子音の渦巻きの中、かめがいはポップな毒気を含んだ“大反論”を軽快なリズムで歌い上げる。

「えー本日、2026年6月27日、今日は空も怒りに満ちた日でした。ここまで来て偉すぎる!おまえら全員まとめて救いに来たぜー!」勢いに乗ったかめがいは、その咆哮と共に“救われ升”をドロップ。バンドサウンドの中に歌声が溶け込んで、サビのコール&レスポンスではバンドとオーディエンスの境目も曖昧になり、個が混じり合って、透明になって行く。一転、ベースソロと歓声の中に始まる“暴露”では、激しいロックミュージックの様相を帯びた。MCになると、Zepp Shinjukuという会場に立てることの素晴らしさを語りつつ、「ケータリングで事前にお願いしていたサラダがなぜか届かなくて、結局スタッフさんが汗だくになって買いに行ってくれた」ことを明かすかめがい。弁当を食べようとするスタッフやサポートメンバーに「このあとサラダが届くからね!先に食べてていいの?これからサラダ来るよ?」とふれ回っていたかめがいの姿は、かわむら曰く「サラダが無いとお弁当が食べられないと主張する激ヤバアーティスト状態に見えた」そうだ。また、ライブの開催すら危ぶまれたこの日の台風接近について、サポートメンバーが晴れ男・晴れ女だったことにより予定通り開催できた、と喜ぶふたり。ただし、かわむらは自身が所属する別のバンドではいつも雨が降り、野外フェスに出演した際にはずっと雨が降っていたことを語った。

そこからバックスクリーンはノイズと共に寂れた海辺の団地を映し出し、アルバム『Bye』に収録されている“或る夏の続き”冒頭を再構築したピアノが鳴り渡る。そんな景色から歌われるのは“竜とランタン”だ。ポップスとファンタジー、幻想と現実が入り混じる瞬間。“パラレル”では力強いピアノの旋律が解けてバンドサウンドが花開く。そこから拍手の間も与えず“幸福な通電”に流れ込み、花に包まれた幸福な終末世界の真ん中で柔らかな袖を広げるかめがい。時を遡るように“さよならアンドロイド”へ続けば、バンドはどこか無機質な歌詞とは裏腹に生々しい人間の音を紡ぐ。ピアノの音と呼応して色彩が輝けば、“エレクトリック修羅”で夢想の未来から現実世界へ打ち上げられるオーディエンス。それでも音楽の魔法は解けず、観客は疾走感の中で腕を振り上げる。怒涛の並行世界を行き来して、かめがいは集まったファンへ感謝を語り、「こういう日があることがわたしにとってのご褒美です。今ここに立っているみんなはわたしにとってのヒーローでございます」と微笑む。「みんなが明日に少し期待してこの会場を出られますように」優しい言葉と共に、“spice”でちょっと上手くいかない日々を歌うかめがい。ステージに星が散ってミラーボールがきらめく中、ギターソロをきっかけに歌声とドラムは一気に激しさを増した。「夢のような時間にもバイバイを言わねばなりません!それがどんなお別れであっても、わたしは笑顔を浮かべるのです!We are ポップしなないで!」ラストスパートにかかり、かめがいはドレスを蹴り“愛はこんなに哀しいんか”と“ロックンロールシネマ”を歌い上げる。群像劇めいた背景に、疾走するピアノとドラム。高らかなギターと駆け抜けるベース。煌めきと笑顔に満ちあふれて、ライブの時間が過ぎ去っていった。

アンコールで再登場したふたりはまず、通販番組さながらの流暢さでグッズを紹介する。それから、かわむらは「ライフステージ等も変わっていって、どんどん焦らされるような人生の中では、音楽はかなり後ろめたい職業。好きでやってたらこんな大ごとになってしまったのだが、横を見れば同じものを好きな人がいるというのが音楽の一番良いところ。(今日の光景を見て)これだったら音楽やっててよかったなと思います。ありがとうございます」と感慨深げに話すも、話の途中の「ありがとうございます」をサポートメンバーが曲の入りの合図と勘違いしてしまうハプニングが発生。そんなところもポップしなないでらしい。改めての「ありがとうございます」から“よ~いどん”、そして“スチーム・スチーム・アドレナリンジャンキーズ”でめまぐるしく会場を沸かせたポップしなないでは、鳴りやまない拍手に応えて「しょうがないなあ」とふたりだけで再登場。「みんなSNSに『ポップしなないでがWアンコールやってくれた!』って書くんだよ?」と冗談めかしつつ、静寂と甘やかな歌声とが作る“フルーツサンドとポテサラ”でしっとりライブを締めて、「バイバイ、また会おう!」と走り去っていった。余韻を残さず、明るく、笑顔で。その後ろ姿はきっと誰かの希望となり、目覚めたい明日を作る。6月の雨の夜、新宿の地下では、幸せに満ちた秘密集会が確かに行われていた。
Text:安藤さやか
Photo:かい(@akaikai_69)
ポップしなないでワンマンツアー『”Bye, Bye, Bye!!”』@Zepp Shinjuku セットリスト
01.この夜を科学する
02.UFOを呼ぶダンス
03.支離滅裂に愛し愛されようじゃないか
04.ネコ占
05.あかるい秘密結社
06.魔王様
07.夢見る熱帯夜
08.衛星十七号
09.ロケットダンサー
10.大反論
11.救われ升
12.暴露
13.竜とランタン
14.パラレル
15.幸福な通電
16.さよならアンドロイド
17.エレクトリック修羅
18.spice
19.愛はこんなに哀しいんか
20.ロックンロールシネマ
ENCORE
01.よ~いどん
02.スチーム・スチーム・アドレナリンジャンキーズ
W ENCORE
01.フルーツサンドとポテサラ







