中山麻聖&石田法嗣 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

映画『轢き逃げ』

轢き逃げ事件に巻き込まれたそれぞれのこころの物語

水谷豊監督第2作となる映画『轢き逃げ-最高の最悪な日-』が、5月10日全国公開となる。事故と事件とそこに巻き込まれた人たちの奥底に潜む感情、いわゆる自分でも理解しがたい人間の真の姿がここには描かれ、観るものにさまざまな問いを投げかける。誰にでも起こりうるストーリーの中、“これから”を生きていくためにそれぞれが選んだ道とは――物語の鍵を握る秀一役の中山麻聖と、輝役の石田法嗣の二人に話を訊いた。

■役に対する印象と、そこから役作りをどのようにされていったのか教えてください。

中山 初めて台本を読んだとき、複雑な想いがとても繊細に描かれていたので、これを表現するにはどうすればいいんだろうという気持ちがありました。でも最初の本読みのとき、監督から「自分の価値観にあまり固執しないでフラットにいてほしい」とおっしゃっていただけたので、「秀一はこうだから」という決め込みみたいなものは特にせず、とにかくフラットな状態で現場に挑むことを心掛けました。自分のフィルターを通すとどうしても違うものになってしまうので、それは極力避けるようにしましたね。

■フラットな状態で現場に入り、お芝居する際に迷いなど出てこなかったですか?

中山 あまりにも秀一と一緒にい過ぎて、自分の考えなのか秀一の考えなのかが途中でわからなくなってくることもありました。でも、もし違ったら監督に違うとおっしゃっていただけるので、僕はもうそのまま真っすぐにいきました。だから現場では迷いはなかったですね。どうすればいいか考えることはありましたけど。

■石田さんはいかがですか?

石田 台本を読んだら輝がとんでもないキャラだということに気づいて、まずはそれをどうやって自分の中に入れていくかを考えたんですけど、これはある程度自分で役を作っていって、本読みのときに監督に見せるしかないと当日を迎えたんですけど、それがことごとく違っていたんですよ。(笑)

■監督の輝像と違ったということですか?

石田 はい。監督の思っている輝と僕の思っている輝も違ったし、たぶん僕のアプローチの仕方もあったと思うんですけど、「輝はこうだ」って完全に自分で決めつけていっちゃったんです。「もうこれしかない」みたいに固執し過ぎてしまっていて。なので、監督に「ここはこう変えていこう」と言われても全然直らなくて。そのとき監督から自分の殻から出て、視野を広げて役作りをしていったほうがいいと言われました。それで「キャラクターを作るのではなく、こういうふうにアプローチしてみて」って細かく説明してくださって、やってはみるんですけど、もう僕はパニくっていて全然できなくて…。(笑)

中山 そうだね。(笑) お互いいっぱいいっぱいでしたね。

石田 緊張しまくってひーひー言っていて。でもやらないとダメなんで、やっていたらどんどん沼にハマり、2回目の本読みのときもやっぱり違って…。でもちょっとは良くなっていると言われ、3回目に全員での本読みのときに、「なんとか光が見えてきた」って言われて。あー、なんとかスタートに立てたなと。(笑) そこからは現場で監督と話をしたり、(中山)麻聖と話したりして、決めていった感じです。

■3回目で光が見えたと言われたときのご自身での手応えというのは?

石田 手応えとかは全然なくて、安心ですかね…。1回目の本読みのときからごはんが食べられなくなっていて、もう水しか飲んでいなくて、体重が2キロか3キロくらい減ったんですよ…。

中山 痩せたよね。

石田 どれが輝なのかわからないし、どうやっていいのかもわからないし、もう何も見えなくなってしまって。「どうしよう、どうしよう」って思っていたところで「光が見えた」と言ってもらえたので、すごく安心しましたね。その一言でがんばれるって思いました。

■相当苦労されたんですね…。

石田 (中山)麻聖も日に日に頬がこけていってたんで、「こいつも一緒だな」って、それもちょっと安心しました。(笑)

中山 鏡のような存在だなってね。大勢の中で二人だけ同じ顔していましたから。(笑)

石田 監督は現場でも実際に演技をしてくださったりして、僕は助かりましたね。ほんとに何も見えなくなっていたんですよ。そんな中でこうだよって常にガイドしてくださって。隠れて「監督、ありがとう」ってずっと思っていました。(笑)

■逆にそれがプレッシャーになってしまったりしませんでしたか?

石田 なりました。(笑)

中山 監督が演じてくださったものを次に演じるのはプレッシャーになりましたね。

■そういった中で、役と一体になれた瞬間やシーンはありますか?

中山 あー、僕はあまり意識ができていないですね。

■先ほど秀一とずっと一緒にい過ぎた、とおっしゃっていましたしね。

中山 ずっと秀一なのか自分なのかがわからないような感じでした。撮影が終わったあとに(石田)法嗣と二人でごはんに行ったりしていたんですけど、いま思うと、それも秀一として輝を欲していたのかもしれないなって。一緒にいたい、いてほしいという想いがあったのかもなって、そんな気がしますね。

■なるほど。石田さんは?

石田 僕は、初日に遊園地のシーンを撮ったんですけど、海に飛び込むところがすごく楽しかったです。

中山 あはははは。楽しかったシーンじゃん。

石田 あれすごく寒い時期だったんですよ!だから海も冷たくて、「ほんとに飛び込むの?」って感じだったんですけど、監督が入ってって言うからね…。(笑) 入る直前におもしろかったのが、麻聖の目がヤバくて、「なんかこいつ違う」みたいな目になっていて。(笑) 俺ももういかなきゃって飛び込んだのがすごく楽しかったです。あれが最後だったんですよね、楽しいシーンの。

中山 そうだね。最後だったし、笑ったね。

■お二人でごはんに行かれたときは映画の話をされたんですか?

石田 あまりしなかったですね。初日が終わったあとはハンバーグを食べながら、「あのシーンどうしようか」みたいな話はして。

中山 遊園地のシーンのとき、台本にはないシーンを撮ることになって、監督がその場でセリフを付けてくださって、「あ、こんなこともあるんだ」って、まったく思いもしていないことだったので…。その日のハンバーグはとても時間を掛けて食べました。(笑)

石田 不意つかれたよね。現場でいきなりセリフを付け始めたから、「え?嘘でしょ?どうしよう」って。

中山 「もしかしたらこの先もこれなのか?」っていう、びくびくとわくわくみたいな。(笑)

石田 俺はびくびくだけだった。(笑) でもそのあとはそういうのなかったよね。

中山 あのあとはなかったよね、初日だけ。

■じゃあお二人ではあまり相談やアドバイスみたいなものはせず?

中山 輝から見た秀一の印象を聞いたりとか、その逆だったりはあるんですけど、「ここはこうだよね」っていう、今後の相談みたいなものはなかったですね。「今日言われたことってこういうことだよね?」っていう複習みたいな話し合いとか、あとはまったく芝居には関係のない話とか、ハンバーグの横にあるブロッコリーおいしいね、とか。(笑) 他愛もない話をしていました。