中山麻聖&石田法嗣 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

映画『轢き逃げ』

■いちばん苦労したシーンはどこでしょうか?

中山 けっこう全部大変だったんですけど、轢き逃げ事件が起こるまでの秀一というのは冒頭の数分間しかないので、そこで秀一という人の印象が決まると思ったら、いちばん最初のセリフ、一言目のセリフがむずかしかったですね。

■あー、たしかに。そうでしょうね。

中山 「怒ってる?」って聞かれて「怒っちゃいないよ」って、その「怒っちゃいないよ」だけで、この二人の関係性が見えちゃうとも思ったし。監督もやっぱりいちばん最初の運転のシーンはすごく大事だとおっしゃっていたので、何百回とあの言葉は発しました。「怒っちゃいないよ」の「お」の字の大きさはどれだろう?って、誰も気づかないような、誰も気にしないような細かいところで、「そこ?」って言われるかもしれないですけど、そこがむずかしかったです。

石田 僕も全部って言いたいんですけど、いちばん最初の車に乗り込むところと、アクションシーンと取り調べのシーンですね。車のシーンは、自分で自分の首を絞めちゃって、あのシーンは一連で撮っていて、セリフの順番を間違えちゃったんですよ。でも、もう無意識だったんでそのままいったら、スクリプターの方が間違えていたって言うから、「え?撮り直しですか?」って聞いたら、「順番がズレただけだから大丈夫」って言ってもらえたんですけど、どこを間違えていたのかもわからないし、何がなんだかわからずに、ひとりでパニくってテンパっていたんですけど、結果OKだったっていう。(笑)

■慌てているシーンだったので、それがうまく出ていて良かったのかもしれないですね。(笑)

石田 あれは素です。素でヤバいってテンパっています。(笑)

■あはははは。いろんなみどころがあると思うのですが、いちばんのみどころを教えてください。

中山 この映画は、どの登場人物に感情移入するかでまったく印象が変わってくると思うんです。僕は秀一でしかまだ観られていないんですけど、加害者や被害者遺族、それを追うもの、追われるもの、いろんな視点によって、作品の印象が変わってくると思うので、いろんな人の視点に立って何度も観ていただけたら、さらに楽しんでもらえるんじゃないかと思いますね。

石田 登場人物それぞれの生き方、選択の仕方、巻き込まれた人、加害者になった人。この映画ではその全部がバランス良く描写されていると思うんです。なので、一方的ではなく、被害者の心理、加害者の心理、そういうのを観てほしいですね。そして最終的にどこにいくのかっていう意味では特に最後、ラストシーン、あれにはぐさっときますね。

中山 あの二人のシーンね。

石田 うん。それと、あなた(麻聖)の手紙。あの手紙の中に入っているんだよね。

中山 入っているね。

石田 そのあとそれぞれがどうやって生きていくか、もう帰ってこないけど、妥協というか、許していかないといけないところもあるじゃないですか。そうしないとまた負の連鎖が起こるから、どこかで止めないといけない。だから、あの手紙と二人の掛け合いを観ていると、そうだよなって思うし、実際にこういうことって起きているんだよなって考えさせられますよね。もちろんこれはフィクションですけど、限りなくリアルに近いところで観てくれる方がどう思うか、いろいろと感じてもらいたいですね。

■それぞれの人にそれぞれの許しがあって、そうしなければ前に進めないのはわかったうえで、自分が秀一だったとしたら、あのような手紙が書けるだろうか?許せるだろうか?っていうことをすごく考えてしまいました。

石田 僕も最後の手紙のようなセリフは出てこない。うん、出ないですね。早苗さんのセリフであったじゃないですか、たぶんあんな感情、あれと同じだと思います。許せないですね、むずかしいけど。

中山 何が普通なのかわからないけど、たぶんそれがいちばん一般的だよな。自分の中に罪悪感というか負い目があったから、秀一ってたぶんそういう人なんですよね。僕はまだ秀一でしか観られていないから、むずかしいところです。自分だったらって考えると許せない部分もあるし、やっぱり許さないと前に進めないっていうのもあるし、でも人間だからなって部分もあるし。そういうところがすごく細かく描かれているんですよね、この映画は。ほんとにすごいですね、こうやって話をしていると、あらためてそう思います。

■それぞれの想いが渦巻いていますよね。

中山 そういう意味でも、さっき法嗣も言っていたんですけど、フィクションだけどすごく身近な出来事で、もしかしたらこれと似た境遇にあった方もいるかもしれないということも含め、もし自分がこの映画に登場したらどういう判断をするのか、どういう選択をするのかということを深く考えてみるきっかけになる作品なので、一度ここで考えていただけたらなと思います。僕自身、実際にハンドルが握れなくなってしまったんですよ。轢き逃げのシーンの撮影のとき、実際にその場にいて、観て感じたので。プライベートでもよく車は運転するんですけど、それ以来、もしかしたらっていう気持ちが自分の中でものすごく大きくなってしまって、ちょっと怖くて握れなくなったりしたんです。なので、いろんな人にいろんな影響を与え、そこから考えるきっかけになればなと思います。

石田 とにかく劇場で観てほしいです。もうそれだけですね。いろんな感情がある中で、あとはもう映画を観てくれた方に委ねたいと思います。

Interview & Text:藤坂綾

PROFILE
中山麻聖
1988年12月25日、東京都出身。04年に映画『機関車先生』でデビュー。12年に主演映画『アノソラノアオ』が公開され、14年には「牙狼<GARO>-魔戒ノ花-」(TX)でTVドラマでも主演を務める。主な出演作に、「江~姫たちの戦国~」(NHK/11)、「美女と男子」(NHK/15)、「警視庁ナシゴレン課」(EX/16)、「べっぴんさん」SP(NHK/17)等。2019年主演映画『牙狼〈GARO〉-月虹ノ旅人-』が公開予定。

石田法嗣
1990年4月2日、東京都出身。子役としてデビュー。映画『カナリア』(05/毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞受賞)に出演し、SPドラマ「火垂るの墓-ほたるのはか-」(NTV/05)で主演を務める。その後、2回の海外留学で視野を広げ、2019年は今作以外に『空母いぶき』『スウィート・ビター・キャンディ』など4作品の公開が決まっている。

作品情報
『轢き逃げ -最高の最悪な日-』

5月10日(金)全国公開
監督・脚本:水谷豊
出演:中山麻聖、石田法嗣、小林涼子、毎熊克哉 / 水谷豊、檀ふみ、岸部一徳 ほか
配給:東映
©2019映画「轢き逃げ」製作委員会
http://www.hikinige-movie.com/

STORY
ある地方都市で起きた交通事故。一人の女性が命を落とし、轢き逃げ事件へと変わる。車を運転していた青年・宗方秀一、助手席に乗っていた親友・森田輝。二人は秀一の結婚式の打合せに急いでいた。婚約者は大手ゼネコン副社長の娘・白河早苗。悲しみにくれる被害者の両親、時山光央と千鶴子。その事件を担当するベテラン刑事・柳公三郎と新米刑事・前田俊。平穏な日常から否応なく事件に巻き込まれ、それぞれの人生が複雑に絡み合い、抱える心情が浮き彫りになっていく。彼らの心の奥底に何があったのか?何が生まれたのか?その悲劇の先に、彼らは何を見つけられるのか?