みなさんが寝室で過ごすいろんな夜に合う1曲が、ここから見つかれば嬉しいなと思います。
2021年12月にメジャーデビュー曲『YOLU』を、2022年2月には『スニークプレビュー』と、2作連続配信リリースを続けてきたanzu。「音楽だけではなく、ジャケットのアートワークやミュージックビデオの制作など、さまざまな表現を自ら手掛けるDIY系ミュージシャン」と語るように、少数精鋭のチームで創作活動を行っている。「エレクトロニカとアコースティックが融合したサウンドと独特のチルボイスで、日常の中の移りゆく景色や生活していくなかですれ違う小さな傷、日々の機微などを紡いでいく」という、anzuの音楽性を現した言葉。その通りの世界観が、4月13日に配信リリースになるミニアルバム『Bedroom Pop』には描き出されていた。anzuが提唱する「Bedroom Pop」とはどんな音楽性なのか。その謎を本人の言葉を通してお伝えしたい。
■anzuさんは、エレクトロニカとアコースティックを融合した浮遊感を持った音楽性を魅力にしていますが、以前はアコースティック色の濃いスタイルでしたよね?
anzu そうでしたね。もともとエレクトロな音楽も好きだったんですけど、私自身がDTM(デスクトップミュージック)へ多少は携わりながらも、そこまで学んでもいなかったので、本格的に取り入れてこなかったことから、以前は生音中心で歌を届けるのがスタンダードな形でした。だけど、次第にDTMの世界にのめり込み、自分でも納得のいく形でエレクトロな要素を取り入れていけるようになったことから、それを次第に音楽性にも反映し始めました。それが、ここ数年の私のやり方になっています。
■エレクトロといってもバキバキな音ではなく、アンビエンスやチル的な音楽性なのもanzuさんの特色だと感じています。
anzu そこまで陽気な性格ではないので。(笑) どちらかと言うと気持ちが内側に向いてるといいますか、気候で例えると「すごく寒いところの景色に溶け込むような音楽」が好きですし、そういう音楽を好んで表現している面も強いと思います。
■浮遊感を持ったサウンドも特徴的ですが、胸に秘めた想いをいろんな表現を用いながら、想像を巡らせる形で届けているところもanzuさんの特色になっていませんか?
anzu 私以外の方々からは、よく「表現が遠回し」とか「歌詞の意味がわかりづらい」と言われることが多いです。もちろん、ストレートに想いを表現していくスタイルも挑戦しがいのあることだと思いますけど、私が求めたい音世界との相性を考えた場合、ニュアンスを持った表現がしっくり来るなと感じています。だから、想像を巡らせては読み解くことに面白さを求めていく歌詞を好んで書くんでしょうね。
■今作『Bedroom Pop』の1曲目を飾った、先行配信リリース中の“YOLU”。この曲の中でanzuさんは、自らを輝きの弱い四等星と表現しています。一等星ほどの輝きを放てないから憧れの人の横にはいられないけど、でも四等星なりの輝きを放ちながら、憧れの人にアピールという、対誰かではなく、自分自身が1等星にはなれない、でも四等星なりの想いを描いていますよね?
anzu まさにその通りです。私は一等星のような立場にはなれない性格で。だから、一等星ではなく四等星の立場として歌にしていきました。むしろ、そこがanzuの特色だと思います。
■物語の中では、主人公ではなく脇役だけど、でも脇役だって当人にとっては主人公であるわけですよね。anzuさんはそういった立場で表現していくことが多くないですか?
anzu 多いですね。以前にも「私はけっして主人公ではない。たとえ脇役であろうとも、その立場でも幸せは見つけていける」と歌に書いたことがあります。私自身が日常でそう感じてしまうことが多いから、そういう歌詞を好んで書いてしまうんでしょうね。私と同じような想いを心に抱えている人たちって、世の中には意外に多いと思います。一等星として輝く人のことを羨ましいと思いながら、でも私は四等星として生きていく。そういった気持ちを共感してもらえたらいいなと思います。
■続く“ブルーアワー”を聴いた時、自分を四等星として認めている人の揺れ動く日々の感情を書いた歌にも思えました。
anzu “YOLU”と“ブルーアワー”を作った時期も、当時の気持ちも異なりますけど、ミニアルバム『Bedroom Pop』へ収録した楽曲すべて、「夜」が似合う曲たちとして作りあげたので、そこに共通項もあるし、結果的にですけど、“YOLU”と“ブルーアワー”が繋がりを持った物語として聴こえてくる面もあるなと私自身も感じています。“ブルーアワー”で心がけたのが、サウンド面でのローファイ感で、その音に合わせて、歌詞でも気だるそうな感情を抱える主人公を登場させ、「いろいろあるけど、明日もやってくるからね」と表現をしています。この曲はあまり音の主張が強すぎない、むしろBGMになり得る歌ものを心がけました。
■その気だるさがむしろ夜に聴くと心地よいんですよね。
anzu 歌が入ることで自然と楽曲自体に強さは生まれるんですけど、ことサウンドだけを聴いたら、「Bedroom Pop」という言葉がとても似合う、その空間へ溶け込むような音楽を目指しました。歌詞についても、想像の余地を持った言葉が多いかと思うので、そこは聴いてくださった方がそれぞれ自由に想像を巡らせていただけたらなと思います。
■ミニアルバム全体に漂うのが、アンビエンスやチルなエレクトロ/アコースティックな音楽ですが、唯一“DMN”は不思議な躍動感を持ったダンサブルな楽曲になっていますよね?
anzu “DMN”は、私の中ではチャレンジとして生まれた曲でした。これまで速い曲調の楽曲をほとんど作ってこなかったから、そういう曲にしようと挑戦しました。アップテンポな音の上に、いかにゆったりとした歌を乗せるかも心がけました。結果、今のanzuの音楽性の中に一つ新鮮なアクセントを入れる機会にもなりました。しかも“DMN”を作ったことで、私自身いろんな新しい可能性を見いだせたので、つかんだこの感覚を発展させていくのも有りかなと思っています。
■“DMN”は、ぜひMVを見てもらいたいなと思います。あの映像はかなりシュールでした。
anzu そうですよね。(笑) “DMN”のMVを作る前にも、私は“YOLU”や“スニークプレビュー”のMVを作りました。この2曲のMVは、anzuの世界観が好きな方にはどっぷり浸ってもらえる映像を目指したのですが、“DMN”のMVは、anzuのことをあまり知らない人にも楽しんで見てもらえる作品作りを心がけて制作したんです。そこからあのインパクトを持ったイラストの女性が次々と増殖しながら踊るように映し出される映像を作りました。
■基本はシュールなダンスを見せる女性が、時に増殖しながら次々と映し出される形ですけど、2回ほど関係ないキャラクターもその中へ紛れるように一瞬映し出されますよね?あの遊び心もめっちゃシュールで好きです。
anzu あの映像、実は2回じゃないんですよ。全部で5回登場します。(笑)
■えっ、そうだったんですか?!
anzu 結構細かく作っているので、5回登場するシーンをすべて探し出すのは難易度高いと思います。(笑) あのキャラクターは歌詞に出てくる「ジョセフ」で、ジョセフを探せ!というゲームとして見ていただく形でも楽しめる映像になっています。
■なぜ日常を切り取った風景の中へ、あのシュールな動きを見せるイラスト姿の女性を重ね合わせたのか、その理由が気になります。
anzu 以前、描いたイラストをtwitterに次々とアップしていた時期がありました。その理由は、文字の場合、自分の意図していた思いとは異なる捉え方や解釈が広がることがあるじゃないですか。しかも、強い言葉を言えば言うほど、いろんな人たちがいろんな言葉を寄せてくる。でも、それがイラストになると、いろんな想像を巡らせながらも、みんなほっこりしてくれるし,どんな人でも楽しんでくれる。だから、あえて文字ではなく描いたイラストを載せていた時期がありました。
■そうだったんですね。
anzu その時の経験をヒントに、MVにイラストを投影することで、観ていてほっこりしてもらえるんじゃないかと思って。しかも“DMN”という楽曲がアップテンポでダンサブルな曲調だから、女性がシュールな踊りをしていると面白いかなと思って描きました。MVに登場する女性は、今回の作品用に生み出した新しいキャラクターです。