Bialystocks『第一回単独公演 於:大手町三井ホール』ライブレポート@大手町三井ホール

有機的な演奏で穏やかに情景を浮かび上がらせた一夜。

10月2日(日)、Bialystocksが『第一回単独公演 於:大手町三井ホール』を開催した。映画監督でもある甫木元空とピアニスト菊池剛の2人によって、元々は映画の劇伴のために結成されたユニットであるBialystocks。どの楽曲でもそうだったが、メロディやリズムといった一部分を曲中で共通させながら、他の楽器のフレーズやリズムが少しずつ変化していく彼らの楽曲は、時の流れによってもたらされる、ゆったりとした変化を感じさせるよう。一方でライブ幕開けの楽曲“All Too Soon”にて見られた、グランドピアノで奏でられるジャジーなソロは、段々と白熱することで楽曲に急激な流れをもたらし、心地いい緩急を作り上げる。くぐもったシンセサイザーの音色から続く“花束”では、甫木元はファルセットを使いこなしながら透明感のある歌声を披露し、それと対比するように輪郭のはっきりした演奏が奏でられる。感情があふれ出るような力強いプレイというわけではないが、エネルギーが内包されているのを感じる演奏が聴き手の感情を昂らせていた。

“またたき”では「あなたと二人で あなたと喜びも悲しみも分かち合ってさ」の一節で急激なクレッシェンドを効かせ、せりあがるパワーに言葉の熱を詰め込んでいく。その後にブレイクを挟み、元のテンションに落ち着くドラムと歌声の静謐な印象も圧巻だ。日本語ののどかな語感が強調される“Emptyman”では黄色の照明が灯り、陽気なカントリーサウンドで祝杯があがるような賑やかな空気を作り上げる。次々と柔軟に変化する楽器や音のバランスが情景や場面の転換を思わせ、オーディエンスに様々な景色を見せるようにして楽しませていった。

 “光のあと”の後、映像を挟んで暗いニュアンスのアルペジオから“フーテン”へ。悲哀を漂わせながら1人語りのように抑揚を付け、歌詞の諦観を歌い上げていく。ステージ上が様々な色に照らされ、サイケデリックに雰囲気を変える“コーラ・バナナ・ミュージック”では、照明の色彩だけでなく、ベースが率いる音像でも空気をがらりと変化させる。柔らかい歌声がコーラスと混ざり、ウォーキングベースやブラシを使ったドラミングも優しい“あいもかわらず”、雪が舞うようなしっとりとした歌声とソウルフルな抑揚を聴かせた“Winter”、感情的に叫ぶような、そしてむせび泣くようなギターが感情を付与した“ごはん”と続く。演奏の魅力や展開の多様さはもちろんだが、その中心で圧倒的な存在感を放つ、話すように細かな抑揚と艶やかな声質を持つ甫木元の歌声が楽曲に妖艶な魅力を与えていた。

また、ホールという会場も彼らの音楽にぴったりであった。多彩な抑揚によって1曲の中でも楽器のバランスを自在に変化させるBialystocksの楽曲。パワフルな演奏の際は、低音から高音までバランスよく響き、音数が減った時にはその変化を繊細に反映するといったように、Bialystocksの音楽が織り成す波を忠実に反映していた会場との相性のよさも、心地のいい空間を作り上げていた要因であったはずだ。そんなライブは、流麗で力のあるピアノを聴かせた“I Don’t Have a Pen”、ジャジーな“差し色”など、次々と繰り出される楽曲によって展開していく。力強さのある声色で届けた“Nevermore”では、終盤で高らかな歌声を響かせ、「あなたとまたどこかで会える気がする」という歌詞を爽快に歌い、余韻を残した。

アンコールの拍手が鳴り響く中、ステージに下りたスクリーンにてメジャーデビューアルバムの発売とツアーの開催を発表した彼ら。祝福の拍手に包まれながら2人が再登場すると、ステージ後方の黒幕が開き、一面の窓が東京の夜景を写す。そんな景色をバックに、エレガントなピアノの音色と艷やかなボーカルで“日々の手触り”を優雅に披露した。高級感のある演奏の後には、この日唯一のMCも。「こんなに多くの人に集まっていただいて、正直驚いています」と甫木元が話すと、次の曲について「さよならって歌詞が出てくるんですけど、さよならって大切な人に向けて言う言葉かなと思っていて。この曲は父が亡くなって作った曲なんですけど、とは言っても今日は『今後ともよろしくお願いいたします』という意味を込めて」と語り、バンドメンバーとともに“夜よ”を披露。熱を帯びた歌声で奏でる、再会を誓うようなナンバーでこの日の公演の幕を閉じた。

Text:村上麗奈
Photo:白井晴幸

https://bialystocks.com/

『第一回単独公演 於:大手町三井ホール』@大手町三井ホール セットリスト
01. All Too Soon
02. 花束
03. またたき
04. Emptyman
05. 光のあと
06. フーテン
07. コーラ・バナナ・ミュージック
08. あいもかわらず
09. Winter
10. ごはん
11. 灯台
12. Thank You
13. I Don’t Have a Pen
14. Over Now
15. 差し色
16. Nevermore

Encore
01. 日々の手触り
02. 夜よ