BiS VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

BiS『KiLLiNG IDOLS』

明日を生きるきっかけに。過激アイドルが新作に込めた諦めない気持ち

昨年も積極的に新曲をリリースするなど、コロナ禍においても独自の手法で発信を続けてきたBiSが、全国流通盤としては2021年第1弾リリースとなるEP『KiLLING IDOLS』を完成させた。激しいサウンドの中に、今を生きるためのメッセージが無数に詰め込まれた本作は、「いつだって変われる」「絶望してからの方が努力できる」「諦めそうになったら休んでいい」など、楽曲から感化されたメンバーが次々と前向きな言葉を発するほど力強く背中を押してくれる。チャントモンキー、ネオ・トゥリーズ、トギー、イトー・ムセンシティ部の4人に、メンバー作詞曲も含む全6曲を解説してもらった。

■BiSは去年も新曲をたくさん出されていましたけど、コロナの影響はいかがでした?

チャント いきなりライブが無観客になったり、ツアーが中止になったりして、一度は「止まった」と思ったんですけど、すぐ新曲の制作に入って。それからは暗いニュースが流れがちだけど、どんどん音楽を届け続けたいという気持ちで活動していました。

イトー いろいろ制限はあったものの、ライブさせていただける機会もあったし、リリースもできたし、本当にありがたいことだなと思いました。ゲリラリリースをさせていただいたのも、この状況下だから楽しんで見つけて欲しかったというか。

トギー 「インターネット上のどこかにあります」という形で、新曲をゲリラリリースしたんです。みんな店舗に行けない状況だったので、オンラインでしか買えなくてもワクワクしてもらいたくて。楽しんでもらえていたらいいなと思います。

■じゃあ、気持ちが落ちることなく活動できていた感じですか?

トギー 落ち込んじゃう時期はありました。特に最初の自粛期間は、このまま何年もライブができないんじゃないかと思って、本当に先が見えなくて。ただ、その少し後に、渡辺さん(所属事務所・WACK代表の渡辺淳之介)とスタッフさんとメンバーでZoomミーティングがあったんですけど、その時に今やるのは落ち込むことじゃなくて、いつかできるはずのライブを見据えて準備することだなと思ったんです。それからはライブのために筋トレしようとか、前向きに考られるようになりました。

ネオ コロナ前より成長したと思ってもらえるように、個人でも家でできることをやったりして。それプラス、いつもより自分と向き合う時間もあったので、改めていろいろなことを考えることができました。

チャント コロナをきっかけに活動を辞めてしまう方もいましたけど、他人事じゃないなと感じて。一人だったら落ち込んだままだったと思うんです。でも、4人で話すと気づかされることがいっぱいあって。そのおかげで今も続けられているのかなと思います。

■普段から4人で話すことは多いんですか?

チャント はい。他愛のない話ばかりですけど……。

トギー だいたい食べ物の話です。(笑)

ネオ そういう時間が心の安らぎだったというか。「この感じ、いいわ〜」と思っていました。(笑)

■仲間がいるっていいですね。本題の新作の話ですけど、BiSは今の第3期になってから、ハイペースでリリースしてきたと思うんです。その中で今回はどういう作品になったと感じていますか?

ネオ このタイトルもそうですけど、曲調も含め、本当に面白いなと思って。まさに『KiLLiNG IDOLS』っていうことを感じさせる楽曲が揃っているなと思います。

トギー 曲調はバラバラなんですけど、歌詞を見てみると、全部心に寄り添ってくれたり、優しく背中を押してくれたりしていて。

イトー ハッとさせられたり、気を引き締められたりする曲ばかりなんです。コロナ禍でライブができなくなったことは、自分たちの中で衝撃的だったということもあって、「いつまで続けられるのかな?」みたいな歌詞があると、改めて「今を大事にしなきゃ」と感じて。この曲たちのおかげで、歌うために「あるべき自分たち」っていうのを見させてもらえました。

■今日は収録された6曲を解説して欲しいんですけど、まず1曲目の“HiDE iN SEW”は初の英語曲ですよね。

トギー 最初、全部カタカナで歌詞が送られてきたんですよ。そのまま読めば英語っぽい発音になるということだったんですけど、それだと意味がまったくわからなくて。(笑) だから「英語も欲しいです」と言って、送ってもらって、翻訳してやっと意味がわかりました。

■翻訳してみてどうでしたか?

トギー 心にグサッときて、動けなくなったというか。これが日本語だったら伝わりすぎて歌えなかったかもなと思いました。作詞は渡辺さんなんですけど、BiSの第1期からやってきた渡辺さんの心の奥底を書いたような曲になっていて。ハッとさせられるし、がんばろうって思えるし、めちゃくちゃいい曲です。

■「どんなに大変でもやらなきゃいけない」みたいなメッセージが詰まっているのかなと思いました。

トギー そうですね。「スーパーマンじゃない」という歌詞(I am not superman and satisfied too less.)があって。天才じゃないからこそ、努力が大事というか。自分は特別じゃないとわかってからの方が努力できる。だから、がんばろうって思えるんです。

■「自分は無敵だな」と思っていた時期もあるんですか?

トギー もちろん。(笑) 歌い出しの「When I was a kid, there was nothing I couldn’t do.」を翻訳したら、子供の頃はなんでもできる気がしていたみたいな意味で、本当にその通りだなと思って。それが大人になるにつれて、こんなに何もできないんだって。最初は絶望したけど、それを知ってからの方が、理想の自分に近づく努力ができているなと思うんです。だから知ることはすごく大事。でも、子供の頃の無敵な気持ちも素敵だったなと思います。

■僕は歳を取るにつれて、日々何かを諦めているなと感じるので、いろいろ考えさせられました。他のみなさんはどうですか?

チャント トギーが歌詞のことを言ってくれたので、違う話をしようと思うんですけど、普通に聴いたらエモい曲じゃないですか。でも、松隈さん(サウンドプロデューサーの松隈ケンタ)がレコーディングの時に、たとえばトギーに「couldn’t doのところをジュンジュンジュンと歌ってみて」とか、「rememberedをリメンビョンと歌ってみて」とか言っていて。ティ部も「マラハハ(matter how hard)」を間違えて「マハラハ」と歌ったのが、そのまま使われてたりとか。

■そうだったんですね。全然気づかなかった。(笑)

チャント 歌詞をそのまま歌うというよりも、ちょっとした遊び心が散りばめられているんです。あと、松隈さんがギターソロを弾いてくださって。3期BiSでは初めてだったので、すごい嬉しかったです。

■帰ったら改めて発音にも注目して聴き直します。2曲目の“COLD CAKE”は、静かなラップから一気に激しくなる不思議な曲です。

イトー 共感する部分が多いなと思っていて。「何度も言えるチャンスが/あったんだ」とか、本当にそうだなと思うんです。言おう言おうと思っていたのに、先延ばしにしちゃって、チャンスを逃してしまったり、言えないまま爆発してしまったり。自分が原因なのに解決しないままで、「その時はそうだったから」みたいな言い訳をしちゃったり。そういう自分が今も昔もいるなと思って。

■誰にでもありますよね。

イトー この曲はそういう自分から早く変わりたいなと思わせてくれるんです。それと「子供の頃 好きだった言葉を思い出して今は/夢を見ていた頃の自分で/さぁ始めよう」という歌詞があるんですけど、私は子供の頃の方が好奇心旺盛だったし、それこそなんでもできると思っていて。BiSになりたいと思った時の気持ちを思い出させてくれる、初心を忘れないようにさせてくれる曲なんです。

トギー サビの最後で「始めよう」と歌っているんですけど、今からでも遅くない、今日からでも始めようと思えて。子供の頃に見ていた夢って、大人になると「絶対叶わないのになぁ」とか思っちゃうんですけど、やってみたら叶うかもしれないじゃないですか。決めつけてしまっていたなと最近気づいて。子供の頃の夢を、大人になった今、もう一回追いかけるのも悪くないなと思うので、本当はやりたいことがあったという人に響いたらいいなと思います。

チャント 私は歌詞が届いたら、いつもバーって一回読むんですけど、今回は字だけで号泣しちゃいました。なんか、ずっとモヤモヤしたものがあって、なんでモヤモヤするのかわからなかったんですよ。それが急に言葉になって現れた感じがして、きっと自分のモヤモヤはこういうことだったんだって。それで読み終わった頃には、涙でマスクがびちゃびちゃになっていて。(笑) たぶん自分では言葉にできなかったと思うので、これを言葉にできる渡辺さんは改めてすごいなと思いました。

■ずっと思っていたことが言語化されたんですね。3曲目の“GOiNG ON”は青春感あふれる曲で、これもメッセージ性の強い歌詞ですよね。

トギー 「もしも輝けるとしたらきっと/一瞬しかないかもね」とか、「もしも願い叶うことがあるなら/一回しかないかもね」とか、心のどこかでは思っていたけど、こうして歌詞にされると、改めて気が引き締まります。本当に今は今しかないから、それを大事にしなきゃなって。

■「恥ずかしいことなんていっぱいしてきたけど」という歌詞がありますけど、思い当たる節はありますか?

チャント 私は最近、顔出し前のツイッターを見たら、すごい恥ずかしくなりました。

■それは世の中に公開されているものですか?

チャント されています。「うわ、黒歴史!」と思って。(笑)

ネオ うちは渡辺さん作詞の曲だから、渡辺さんが今までしてきたことが頭に思い浮かんで。

チャント あー、そっちね。

■初期BiSで全裸MVを撮ったとか、ライブで臓物を投げたとか、過激なことをいっぱいしてきて。でも、それがあるから今があって……、いいこと言いますね!

ネオ ふふふ。ありがとうございます。

■ちなみに、この曲はずっとガヤみたいな声が入っていますけど、デモの時点からあったんですか?

トギー ちょっとだけ入っていたんですけど、10倍くらいになりました。(笑) レコーディングの時に「騒いで!」って言われて、みんなでマイクを囲んで、曲を流しながら騒いだんです。それぞれ騒ぎ方にも個性があるんですよ。

チャント 4人いるから「イエー!」だけだと埋もれちゃうので、「フォー!」と言ってみたり、ミニオンみたいな声で「ワァー!」と言ってみたり。

ネオ 逆にひたすら連呼したり。

チャント いろんな種類のガヤがあるので、楽しんでもらえたら嬉しいです。

■ただ騒いでいるだけじゃなかったんですね。(笑) 4曲目の“I ain’t weak maybe..”はネオさん作詞ですけど、WACKのグループはアルバムを出す時に、全員全曲の歌詞を書いて、いいものだけ採用されると聞きました。今回も全員6曲分の歌詞を書いたんですか?

イトー 今回は2曲だったと思います。

トギー 渡辺さんが「これは俺が書く」と言った曲が多くて。でも、それだけ思い入れが強いということだと思うので、嬉しいです。

■その中で“I ain’t weak maybe..”は、ネオさんの歌詞が採用されて。自分のことを書いたんですか?

ネオ そうですね。これを書いていた当時の気持ちです。

■「間違いだらけで/未完成人間だ」と思っていたんですか?

ネオ 完成って思っちゃいけないと思っている部分があるので。これは常に思っているというか、忘れてはいけない部分ではあるかなと思っています。

■「僕は絶対弱くないから 大丈夫」って、自分が弱いと思っているから書くと思うんです。

ネオ そうですね。最初は「君」って書いていたけど、渡辺さんに「僕」に直されて。本当は私も「僕」って書きたかった部分はあるけど、たぶん恥ずかしくて勝手に「君」に変換していたんだと思うんです。僕は絶対弱くないと思いたいみたいな。そうやって自分に思い込ませる感じですかね。

トギー 「翼がもしも生えてたら/今すぐ遠くに/逃げてゆくのだろう」とか、もしツイッターに書いていたら、すごいマイナス発言だと思うんですよ。だけど歌詞だったら、後ろ向きな前向きに聴こえるというか。「それでも生きたい」っていう気持ちが伝わってきて。言葉では人に言えなかったり、表現できなかったりするけど、こうやって歌詞では自分の気持ちを表現できて、だからこそ伝わるものもあると思うし、いろんな人に響くんじゃないかなと思います。