■そうそう、先ほどのお話にちらっと出ていたのですが、ジャケ写のことも伺いたかったんですよ。なんともいえない不思議な雰囲気のイラストですが、幻の1stのジャケ写を描いてくれた人の作品なんですね?
汐田 そうです。実際には今のレーベルに所属するまでの全作品をその同級生に描いてもらっていました。それで、今回『nostalgic lovers』の構想が上がってきた時点から、ジャケットのイラストも久々に戻すべきだなということで、4~5年振りに依頼したんです。あの時は無償でやってくれていたので、僕としてはちょっと「恩返し」じゃないですが、そんな気持ちもありました。当時、お礼にフレッシュネスバーガーを奢ったりとかはしたんですけどね。ギャラは払えないけど、フレッシュネスならマクドより高いから、「ちょっとこれで勘弁してくれ」って。(笑)
■それにしても、同級生からの縁っていいですね。
汐田 そうですね。普通に友達としては会ってきたんですが、作品の話をちゃんとするのは久々やったんで、お互いがこの数年間でやってきた努力の結晶みたいなものが1個の作品になればいいなと思いました。今回は久々に会って、目の前でジャケットのイラストを描いている様子をずっと見ていました。以前は地元のライブハウスでライブと個展を一緒にやるという、めっちゃ前衛的で、だいぶ攻めたこともやっていたんですけど、周りがついてきていない感じになっちゃって。(笑)
■確かにちょっとお互いの作風も違いますもんね。
汐田 そうそう。でも、今やれば逆にまた面白いかなと思うくらい、「その時」を一緒に過ごした仲間のひとりです。今作は歌詞カードが広げられる形になっているんですけど、僕的にはそっちに描いてある絵の方が特に気に入っていて。それは本当にフィジカルで、現物を手に持った方が楽しめるものなので、そこも現物を買ってほしい理由の一つかなという感じがあります。
■そして“君と星座の距離”ですが、この曲は今、聴ける媒体ありますか?
汐田 無いです。あるとすれば、当時無料配布のコンピレーションアルバムみたいなものに参加した時の音源ですかね。いくつか参加したのは覚えているんですけど、それを持っていたり、持っている人に借りたりしないと聴けない曲ですね。僕も現物は今、手元に無いです。
■じゃあ、だいぶレアな曲ですね。その割にはライブで披露される度「ヤバい!」と反応があるようですが?
汐田 この曲が1番、バイハンの高校時代を彩る代表曲やったんです。この曲ができてから、初めて「ライブって僕らだけで演奏するものではないんだ」という喜びや驚きを感じられたので。曲中、2Aのところで自分の声にオートチューンがかかっているんですが、当時は全体的にオートチューンがかかっていたので、その名残りとして、あえてアレンジとして残しています。この曲のおかげで高校生活、すごく楽しくバンドをやれたのかなという気がします。
■1stミニアルバムからは“自論文”が収録されていますが、この曲を選んだ理由はあるのでしょうか?
汐田 特別な何かがあるわけじゃないのですが、今作の「各自主制作盤から1曲ずつ」というルールで入れています。1stからは会場限定のEP『生理的に好き』で“透明になった”という曲を再録しているんですが、「今作にも1stから何か入れられるなら入れた方がみんな嬉しいよな」ということで、“自論文”が選ばれました。
■“熱帯夜と遊覧船”は、「バイハンってこんなバンドだったんだ?」という感じがしました。この曲は抽象的ですが、具体的にはどんなことを歌った曲なんですか?
汐田 その当時、「恋愛モチーフじゃないと誰も共感してくれないし、全然聴く耳を持ってくれない」みたいなところがあって。「じゃあちょっと恋愛もののようにも取れて、恋愛じゃないようにも取れるものを入れたらどうなるの?」というのが、作曲のきっかけになりました。ファンと僕らの意思疎通が取れていない会話と、当時付き合っていた彼女と喧嘩している感じと、そういうものを全部一緒に書いてみたら、あんな感じになりました。
■初めて聴いた時には若干のボカロっぽさも感じました。
汐田 それ、すごい言われます。ボカロ音楽みたいなものに直接的な影響は受けていないと思うんですが、米津玄師さんとか、ヒトリエとか、ボカロPが「アーティスト」になっていった時の音楽は聴いていたから、結果的には影響を受けたのかもしれません。直接ボカロを聴いていたわけじゃないけど、間接的には聴いていたし。
■言ってしまえば、ボカロは「自分の世代の音楽」ですからね。古い音源を聴いてギターソロにシビれたのですが、ギターソロは新しいバージョンにも残っていますか?
汐田 残っていますが、変わっています。
■尺は一緒ですか?
汐田 一緒なんですけど、チョーキングで「泣きのギター」みたいな感じがありつつ、前の雰囲気もちゃんと残っています。僕らは新しいソロに慣れすぎていて、もう以前のソロがどんなものだったのか思い出せなくなっていたのですが、この間久しぶりにメンバーと昔の音源を聴いた時、「あ~!」となったんですよ。でも数秒後にはもう新しく録ったソロが頭の中で鳴っていて、完全に塗り替えられましたね。「これ(新しいバージョン)が正解だ!」とはっきりなってんねんなという感じがして、それが嬉しかったです。過去のものを褒めていただくのはもちろん嬉しいんですけど、未来に向かってアップデートしたものが馴染んでいるって、すごくいいことだと思います。
■さて、ここから東名阪公演を皮切りに、今年もまたライブの1年になっていくと思いますが、みなさんに楽しみにしてほしいことは?
汐田 いっぱいあるんですけど、まずはワンマンライブがあります。それで、3月には「秘密蜂蜜フェス」という自分たちのフェスがあって、去年は大阪のBIGCATで2ステージ制、1日でやったのですが、今年は2日間やることになりました。でも、楽しみにしてほしいというより、僕が一番楽しめるかどうかの1年かなという感じがしています。自分がどれだけ自分にワクワクできるのかが、みんなにも繋がっていくのかなと思っていまして。
■アーティストが楽しそうなライブは、見ていても楽しいですもんね。
汐田 そうですね。どんどん上に昇って行くのは誇らしいことではありながらも、どこかで現実を見てしまったり、物事を縮小して見てしまう癖がついていたなと反省したりもしました。でも今年、『nostalgic lovers』を出すというのはある意味、一度ゼロに戻る感覚なんです。10年間積み上げてきたけど、自分の目標として「11年目は1年目」という感じでやりたいのがあって。「人のこと、人のこと」といっぱい思ってきたし、これからもそれは変わらないんですが、何より自分がどれだけ自分を面白がれるか、期待できるか、ワクワクできるかで、それに対して何ができるのかというところが、今年のポイントというか、キーな気がしています。
■最後に、新春の取材ということで、今年2025年に成し遂げたいことを教えてください。
汐田 あんまり言いたくないけど、言っちゃうかな……。免許を取りたいです。(笑)
■免許?車の?
汐田 車です。僕以外のメンバーはみんな免許を持っているんですが、なんかもう、自分には無理だってあきらめていたんですよね。というのも僕、集団授業が怖くて。それが無ければ多分もっとすんなり免許が取れると思うんですが……。今年で26歳になるんですけど、心が小学生のまま大人になった感じでして、恥ずかしながら、2024年は初めて歯医者の治療を完走できた年になりました。(笑)
■でも、わかります。歯医者って1本1本治療するから途中で都合がつかなくなって、辞めちゃうことってありますよね。(笑)
汐田 そう。今までずっと完走できなかったんです。つい途中で逃げてしまっていたんですよ。それぐらい苦手なんです。みんなからしたらほんま小さいことなんでしょうけど、僕にとってはかなり大きな1歩なんですよ。「歯医者に行けたぞ!自分から予約したぞ!」みたいな。そういうこと1つ1つがライブに繋がっていると思うんですよ。「歯医者にも行けない男が何を言えるんだ」みたいなトコ、あるじゃないですか。
■まぁ、確かにそうですね。(笑)
汐田 だけど、逆に僕は歯医者に行けない人の気持ちがわかるので優しくなれるし。ただ、1歩踏み出すことを辞めると、やっぱり人間って終わるなと思うんですよ。
■そうですね。
汐田 でも、これで免許を取れなかったらガッカリしちゃうんで、「免許を取る」という目標も、「ギリギリ今年の12月に教習所に行けていたらOK」くらいの気持ちでいます。宿題は提出期限ギリギリまでやっているようなタイプだったので、6月~7月になっても全然焦る気はないですね。僕には12月まであるので。この1年どういう風に過ごせるかという目標みたいな感じです。
■先ほども仰っていましたが、それこそ本当に1歩1歩音楽に繋がることだと思いますよ。歯医者の予約できないやつが歌うロックと、歯医者の予約できるやつが歌うロックは違うでしょうし。(笑)
汐田 僕の中では大きく違います。自分の中でひとつひとつ、こういうちっさなちっさな成功体験をどれだけできるかで、1年の「見出し」が増えていくというか、今年起こったことの中で太字で書けることが増えていく感じがします。これに限らず、ちっちゃいことをいっぱいできたらもう最高やなと思います!
Interview&Text:安藤さやか
PROFILE
FM802のヘビーローテーション、FM大阪のPOWER PLAYをはじめ多数の全国テレビ・ラジオ局のパワープレイを獲得し、SPACE SHOWER TVのit!、ROCKIN‘ON JAPANのNEW COMERなどに選出。2024年5月に1st Fullアルバム『ソフビ』でメジャー進出。「この曲は誰?」とShazamでも多く検索されて、Billboard JAPAN Heatseekers Songs TOP 20にも2週連続ランクイン。オーディエンスを巻き込み熱いライブパフォーマンスが話題を呼び、「OSAKA GIGANTIC MUSIC FESTIVAL 2024」、「Talking Rock! FES.2024」、「FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY」等の大型フェスにも初出演!平均25歳。今、勢いに乗る若手ロックバンド。
https://byebyehand.com/
RELEASE
『nostalgic lovers』

デジタル配信リリース
CEG-99〜100
日本コロムビア / No Big Deal Records
2月5日 ON SALE
※1月18日〜会場限定にてパッケージ版EP『nostalgic lovers』(CD+DVD)リリース