CYANOTYPE VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

CYANOTYPE『PORTRAITS』

海宝直人(Vo)、小山将平(Gt)、西間木陽(Ba)

CYANOTYPEが作りあげたのは、「1曲1曲の中へ丁寧に主人公の人物像を描きだした肖像画=ポートレイト」のような作品。

ミュージカル界の至宝と謳われる海宝直人を中心に、ベンチャーズバンド「bcv」でも活動している小山将平と西間木陽の3人により誕生したCYANOTYPE(シアノタイプ)。彼らが、約2年ぶりとなる新作ミニアルバム『PORTRAITS』をリリース。「別れ」をテーマに据えた曲たちを、石塚知生 / 宮野弦士 / 賀佐泰洋(SUPA LOVE) / 長谷川大介(SUPA LOVE)の4名がサウンドプロデュース。10月9日には、行徳文化ホールで久し振りのコンサートも決定。CYANOTYPEが作り上げたミニアルバム『PORTRAITS』の魅力を紐解いた。

■1stアルバム『MONTAGE』から数えて約2年、待望の新作ミニアルバムが発売になりました。海宝さん、普段は舞台を中心に精力的に活動していますが、その合間を縫っての制作という理由から完成までに時間を要してしまったのでしょうか?

海宝 それもありますけど、以前は舞台の仕事と上手くバランスを取りながら、定期的に制作やライブ活動を行なっていました。それが、昨年のコロナ禍以降はまったく出来なくなってしまった…。

小山 最後にCYANOTYPEとしてライブをやったのが、2020年1月だったからね。

海宝 その年の3月からコロナ禍によって世の中の状況が一変したので、その少し前までライブ活動はコンスタントにやっていましたが、そこからはライブ活動を止めざるを得なくなりましたから。他の方々もそうでしたけど、僕らもいろんな予定が変更になり、やりたくても出来ないことがいろいろと増えていきました。

西間木 こればっかりはしょうがないですからね。

海宝 ただ、1stアルバムの『MONTAGE』で得た手応えを踏まえ、そこから次のステップをどう進めていこうかという話はコロナ禍前からしていました。その後に発令された最初の非常事態宣言下時期以降、水面下で楽曲制作を進めて、いろんな楽曲を溜め込んでいました。結果、あの時期以降から作り始めた曲たちの中で西間木くんが掲げた一つのテーマを元にまとめあげたのが『PORTRAITS』です。

■歌詞には一つのテーマを貫きながらも、幅広い曲調を表現していますよね。1stアルバム『MONTAGE』も多様性を持った音楽性が魅力でしたが、その幅広さや表現の深さをより突き詰めたのが『PORTRAITS』という作品になった印象も受けました。

西間木 サウンド面での多様性こそ、このバンドの特色ですからね。CYANOTYPEを結成したばかりの頃は、「このバンドのカラーをどうしようか」と3人で悩んでいました。その理由はメンバー3人とも音楽性の趣向も幅広いし、多様性を持ったスタイルに挑戦していける器用さを持っていたからこそ、一つの枠に収まることを良しとしなかったんです。そこから「海宝くんの歌を活かすという軸だけはブレることなく、それぞれが表現したい音楽性を素直に表現してこそ、CYANOTYPEらしさが出るんじゃないか」という話になり、そこからは枠にとらわれることなく音楽を表現していくようになりました。それを一つの形にまとめあげたのが、1stアルバムの『MONTAGE』だったわけです。そこに3人とも確かな手応えを感じていたからこそ、その後3人で「1stアルバムでつかんだ手応えや可能性をもっと広げていこうか」と話し合い、それを具現化したのが今回の『PORTRAITS』になります。

ミニアルバム『PORTRAITS』は作品として何かテーマはありますか?

西間木 それまでに制作していた多くの楽曲の中、作品全体を統一するテーマを設けようということで選んだのが「別れ」をモチーフにした歌たちでした。ただ、そのテーマで楽曲をまとめあげたところ、海宝くんに「重い歌詞ばかりになりそうだから、明るい表情の歌も入れないか」とアドバイスを受け、そこで追加したのが、作品の冒頭を飾った“キャラメル・シティ”になります。

■この作品は4人のサウンドプロデューサーを起用していますが、その楽曲に似合うアレンジを深く煮詰めた曲たちを並べた印象を覚えました。

西間木 まさに狙いはそこでした。たとえば“紬 -tsumugi-”だったら、オーケストレーションを用いた楽曲アレンジにしたいという構想が最初からありました。だったらその手のアレンジが得意なアレンジャーさんにお願いしようと話をして、実際にお願いをしました。収録した6曲ともすべてそのスタンスで取り組みました。

小山 CYANOTYPEというバンドの面白さが、どんな多様性を持った表現をしても、結果的に「CYANOTYPEらしいよね」という色に染まること。たとえばの話「うちらはパンクロックが好きだ」というのであれば、どんな多様性を持った楽曲でも、必ずパンクロック色を入れることで統一感を出していくし、そこに聴いた人たちも反応を示していくわけじゃないですか。だけどこのバンドは今回のミニアルバムの中でも、バラードからシティポップまで多様性を持って表現しているんです。普通だったら「一体何をやりたいんだ?」という散漫な印象を与えてしまうんですけど、1曲ごとの世界観を突き詰めて、より多様性を深めた形を取って一つにまとめあげると「やっぱCYANOTYPEだよね」となるのは、海宝直人という明確な色を持った歌声がどの楽曲をも染め上げてくれるからなんです。それをわかっているからこそ、自分たちも自由にそれぞれの楽曲の表現を深めていけるわけなんです。そこを踏まえた上での面白さを言うなら、海宝直人はその曲に似合う様々な表現をしているけど、それはいつもミュージカルなどの舞台劇で歌っている海宝直人とはまったく異なるスタイルばかりなんです。その表現力の深さや多様性、何より信頼があるからこそ、どんどん冒険していける楽しさがこのバンドにはあるんですよ。

■“紬 -tsumugi-”の歌詞の冒頭は「僕の命の価値とは?」という歌い出しですが、“届かないラブレター”では「届かないラブレター 今は想いを紡ぐだけ」と綴っているように、西間木さんの書く歌詞は、言葉のインパクトや重みをとても重要視している印象を受けました。

西間木 今回は「別れ」をテーマに据えたこともあり、言葉が持つインパクトをより強く意識した面はあったと思います。先ほどコロナ禍以降に制作を始めたという話もしましたが、僕らもそうですが世の中にはいろんな別れを経験してきた人たちも多いと思います。そういう人たちの心に少しでも寄り添えたら…ということから楽曲を作り出して、結果的に「別れ」というテーマを持った曲たちを並べることで、その色を強調したわけですけど…。“紬 -tsumugi-”を題材に説明するなら、「僕の命の価値とは?」という表現自体、最初は「重すぎるかな?」と思いました。そもそも命に価値を持たせること自体が間違っていることかも知れない。でも、実際にいろんな別れを経験したり、そこで憂う感情を持った時に、そことしっかり向き合いたいと僕は思ったんです。正直、もっと柔らかい言葉に逃げることは出来ました。でも、そこをしっかり受け止め、伝えていく上では、重い言葉にさえも真正面から取り組んだ結果、言葉の重みの強い曲たちが並んだ印象はあると思います。だから海宝くんが「重いだけではなく明るい曲を」と言い出したんだろうし、その気持ちもわかりますから。(笑)

■中には“間違傘”のような、傘の視点で歌詞を描写しています。なぜ傘の視点なのかの理由も、歌詞を読み解くとその傘には大切な人との想い出があったからというのが見えてきます。シリアスな内容をトリッキーな表現を用いて多少コミカルに描写することで、聞き手の興味をグッとつかんでいく。その表現も面白いなと感じました。

西間木 そこまで読み取ってもらえたのは本当に嬉しいです。ここでは傘を題材にしましたけど、世の中にあふれているモノであるほど、そのモノ自体にどんな大切な価値があるかは理由を知らない限りわからないし、考えも及ばないじゃないですか。ここで題材にした傘だって、持ち主にとっては大切な想い出があるから絶対に失いたくないものだけど、中にはその背景など知ることもなく、安い傘だからと勝手に持ち去ってしまう人も実際にいます。確かに説明がなければ、その傘がどれほど大切なものなのかなんて当人以外はわからない。だからこそ、僕はモノの価値観とはどういうことかを歌の中へ投影したかったんです。加えて、僕自身が使えば使うほどモノに愛着を持ってしまう理由もあり、そういうところにも「別れ」をテーマにした物語を書きたくなったというのもありました。ただ、どの楽曲もそうですが、歌う時はとくに歌詞の説明はしていません。海宝くんから「これはどういう想いなの?」と聞かれた時は、その想いを懇切丁寧に伝えますけど、基本は歌い手や聞き手の想像で楽しんでもらえた方がいいなと思っているので、どの楽曲も捉え方はお任せしています。

海宝 僕自身が役者でもあるので、相手の意図をどう読み解くかというところに、面白さや自分の表現欲求を重ねていくところがありますから。中でも西間木ワールドは独特な表現や世界観も多いので、読み解く楽しさがある。実際にファンの方々の間でも、「この主人公は生きてるの?それともすでに亡くなっている?」という論争さえ起きるくらい、いろんな受け止め方が出来る内容ばかりなので。それを読み解く面白さも、CYANOTYPEの音楽性の特徴の一つですから。僕も役者としていろんな戯曲を自分なりに読み解いて表現してきましたけど、さすがに傘の気持ちになって演技をしたことは今まで一度もなかったです。(笑) まさかの新しい領域に今回は踏み込ませてもらえました。