ENVii GABRIELLA VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

ENVii GABRIELLA『Metaphysica』

YouTubeでも話題のオネエ3人組が“欲深い”メジャーデビュー作を語る。

それぞれがエンターテインメントの世界で活躍してきたオネエ3人によって結成され、ピンヒールでのパフォーマンスやYouTubeでの活動も話題の“エンガブ”ことENVii GABRIELLAが、メジャーでは初のCDとなる『Metaphysica』を完成させた。全8曲すべて異なるジャンルで構成された本作には、アゲアゲなダンスチューンから繊細なラブソングまで欲張りに収録。多彩な音楽性を楽しめる一方で、全編を通してセクシャリティの枠を飛び越えたメッセージが込められており、何も知らずに聴くのと、背景を知った上で聴くのではガラリと印象が変わる作品となっている。リーダーで楽曲制作を担うTakassy、企画・マーケティングを担当するHIDEKiSM、振り付け担当のKamusの3人に、本作をより深く味わえる制作エピソードをたっぷり語ってもらった。

■『Metaphysica』はエンガブの歴史や姿勢が詰まったアルバムなのかなと感じたんですけど、どんなことを考えて作られたんですか?

Takassy どれか1曲でも好きになってもらえたらいいなということで、名刺代わりの意味も込めて、全曲まったく違うジャンルにしたいと思っていたんです。去年、デジタルシングルを3作リリースしたんですけど、それを踏まえてさらに全然違うものを入れていくという作業でした。

■そういうことは3人で話し合うんですか?

Takassy 3人ともお客さんが「次はこう来るだろうな」と思うものは絶対にやりたくないんです。そこでサプライズを提供して喜んでもらいたい。だから今回のアルバムもそれを詰め込んだというか。メジャーデビューしてからYouTubeを見ていただく機会も増えたんですけど、YouTubeではバラエティのようなことをやっているので、「ふざけたオカマが3人いるな」みたいな感じなんですよ。そこからCDを聴いた人は驚くだろうし、逆にCDをきっかけにYouTubeを見ても驚くだろうし。「どっちに転がっても、驚きとともに好感を持ってもらえるようにしたいね」っていう3人の共通認識はありました。

■今回のアルバムを作るにあたって、3人で話した中で印象に残っていることはありますか?

Kamus 今回の収録曲の中で、自分が新たに振り付けを作っているのが、“Ride/Reboot”と“Sorry Not Sorry”なんです。Takassyは「こういうステージングにしたらエンガブとしてよくなりそう」とか、ある程度固まった状態で曲を作って、「こういう振り付けだったら合うかもね」とか、リファレンスを送ってくれるんですけど、それを共有して2人で「わかる!」みたいなやり取りをするのが、めちゃくちゃ楽しくて。今、ちょうどその作業をしている最中なので、まだなお楽しんでいる感じですね。

■アルバムが完成して、今は振り付けは制作している段階なんですか?

Kamus はい。まだステージでは披露していないので。

Takassy 制作過程は私が中心で、歌入れする時にHIDEKiSMが入ってきて、Kamusの力の見せ所は音源が完成してからなので、今まさにKamusのターンなんです。

■HIDEKiSMさんが3人で話した中で印象に残っていることは?

HIDEKiSM 今回の収録曲は全部色が違うので、曲ごとに歌い方も変わってくるんです。「このジャンルなら、ねっとり歌った方が雰囲気が出るだろう」とか、「ここはアクセントを効かせた方がいい」とか、引き出しがないと歌いこなせない楽曲も多くて。私自身はそれがすごく挑戦だったかな。レコーディングではTakassyがディレクションしてくれるんですけど、それに応えられるようになってきたことが、私としては嬉しかったし、聴いてもらいたいところでもありますね。

Takassy 曲によって主人公が変わるじゃないですか。歌う人は同じなので、声そのものは変えられないけど、いろんなパーソナリティを演じるという意味では、歌声も少しずつ変えていけたらいいなって。

■その曲の主人公の背景みたいなものを3人で共有するんですか?

Takassy 曲についてのディスカッションは必ずやるようにしています。結成したばかりの頃は、それをせずにレコーディングして、振り付けを作っていたんですけど、やり始めて1年くらい経ってから、「え、そう思ってたの?」みたいなことが出てきて。私は「ここがポイントだよね」と思って作っていたけど、Kamusは全然違うポイントを聴いて振り付けを作っていたとか、ちぐはぐになっていた曲もあったので、ちゃんと3人で共有するようにしたんです。

■Takassyさんが2人に説明するんですか?

Takassy 歌詞を渡す時に「ここはこういう意味です」とか、注釈を入れていますね。それを2人は参考にしつつ、参考にしすぎず、自分の中で世界観を広げてもらって、最終的に3人で「ここを立たせたい」とか、「こういうステージングにしたい」とか、ディスカッションするんです。そういうプロセスを踏んで曲を作り上げています。

■その注釈付きの歌詞は、どこかに公開されたことはあるんですか?

Takassy ないです。LINEのノートで共有しています。(笑)

■それは見てみたいですね!

Kamus めちゃくちゃ面白いですよ。(笑)

■その流れで収録曲について細かくお聞きしたいんですけど、1曲目の“Finally Found You”には「生まれ付いてきたこのSexuality」という歌詞があって、自己紹介的な面もある曲なのかなと思いました。

Takassy エンガブとして出すので3人の曲ではあるんですけど、この歌詞は何年も前にその当時に知り合った、ただ1人だけのために書いたものなんです。その後メロディーが思うように浮かばなくて、そのまま保存していたんですけど、今回この曲の存在をふと思い出してメロディーやアレンジも出てきたので、完成させることができました。

■このタイミングで書いた歌詞ではなかったんですね。

Takassy はい。セクシャリティとは書いていますけど、男女の関係でも、お互いが男であり女でなければそのカップルは成立しないじゃないですか。もっと辿れば、お父さんが男でありお母さんが女であり、同じ日本に住んでいて、この時代にたまたま生まれて――そういう偶然を重ねて今の自分がいて、お互いが一緒にいる。それは性別とか人種とか関係なくて、私の生き様というよりは本当に思ったことを書き連ねていたら、みんなに当てはまる歌詞になっていたんです。ただ私は恋愛ソングのつもりで書いたんですけど、この2人は恋愛ソングだとまったく思わなかったっていう。

■僕も思わなかったです。

Takassy 聴き手によってファンに向けた曲に聴こえたり、家族に向けた曲に聴こえたりするだろうし、人だけじゃなくて物事に対して歌っているようにも聴こえる曲に気づいたらなっていて。私たちのバックボーンも踏まえて、いちばん表に出したいなっていうメッセージではあります。

■この「Sexuality」という言葉をそれぞれの何かに置き換えれば、誰にでも当てはまる曲になるのかなと思いました。

Takassy もともと「Sexuality」という仮タイトルで作っていたので、ここに「Sexuality」という言葉を使ったんですけど、ふと思ったんです。私たちはマイノリティなので、自分のことを悲観的に見がちだし、少なからず不幸気質なところがあるから、周りの方が恵まれているんじゃないかと思っちゃいがちだけど、普通の男女の恋愛でも、「あのカップルがどっちも女だったら成り立たないよな」とか思うと、そういう偶然とかの確率はみんな平等だよなって。なので、あえて「Sexuality」は残して、そういうメッセージを感じ取ってくれれば、「今いる2人が当たり前なことじゃなくて、奇跡的に成り立っているんだよ」ということが伝わると思うし、その結果、目の前にいる人を大切にしてくれればいいなって思います。

■この曲には「全て意味があると知った」という歌詞があって、悩みを抱えながらも自分の人生に対して肯定的なところが印象的でした。そこは伝えたいメッセージとしてあったんですか?

Takassy そうですね。LGBTのアーティストは「周りがなんて言っても負けないわよ」みたいな、「LGBTだからこそ強く生きていく」とか、「特別なんだ」みたいな感じで、自分を鼓舞する曲が多いんです。エンガブもそういう曲を歌ったりはするんですけど、私たちはLGBTという言葉すらなくなればいいと思ってやっていて。別に他の人と違いはないし、同じような恋愛をするし、同じような生き方をして、ツラいことも私たちだけじゃなく、みんな平等に降り掛かってくる。そういうスタンスでやっているので……なんの話してたっけ?

HIDEKiSM 伝えたいメッセージじゃない?(笑)

Takassy そうだ。(笑) よく悩み相談とかで、「学校で友達できなくてツラい」とか、悩んでいる若い子がいるんですけど、この曲に限らず、私たちの活動を通して、「学校なんてすぐ終わるし、学校を卒業してからの方が人生は長いんだよ」っていうことに早く気づいて欲しい。それに、“Finally Found You”という曲名の通り、人生は誰か1人に巡り会うだけで全然変わって見えるから。私たちもいじめられたとか、からかわれたとか、いろいろありましたけど、そういう時期を乗り越えて、こうして「オネエです!」と声高に言って、メジャーデビューまでして、今こういう状態になっている。その時はこんな未来が待っているなんて思えなかったけど、踏ん張って、踏ん張って、踏ん張ったからこそ、今ここにいるということは伝えたいので、この一文は希望が持てるようにしたかったんです。

■そういう経験をしたからこそ、今この曲を歌えている?

HIDEKiSM そうですね。この「Sexuality」というワードが、やっぱり印象的じゃないですか。オネエが言っているから、余計にそういうメッセージを伝えたいように聴こえると思うんですけど、男性ならではの悩み、女性ならではの悩み、オネエであるがゆえの悩みっていうのは、それぞれ違うけど、結局どのセクシャリティも悩みを持っている。でも、それを通して生きてきた中で、大切な人に出会えたり、大切な何かを得たりすることもきっとあるから、希望の曲でもあると思いますね。

■ちなみに、この曲に出てくる「君」や「you」は、どんな人をイメージしていたんですか?

Takassy 私はその時に付き合っていた人のことを考えて書いているんですけど、人だけじゃなく事だったり物だったり、聴く人によって全部当てはまるんだなって。それは今回のアルバムについて、いろいろ取材を受ける中で発見しました。たぶんこの2人が歌いながら想像している人物も全然違うでしょうし。

■僕は最初、「君」はメンバーのことなのかなと思いました。

HIDEKiSM 私もそう思ったの。「やだぁ、私に対するラブソング?」って。(笑)

Takassy 違うから!(笑)

HIDEKiSM 私はメンバーと、事務所やレーベルの仲間と、そしてファンの方のことを思って歌いたいなと思っていて。「Finally」という言葉には「ついに」とか「やっと」とか、そういう意味があるので、今回メジャー初のアルバムの1曲目で、こういう結果をひとつ出せたことは誰のおかげか考えた時に、思い当たる人たちがそこなんです。まぁ、自分に今彼氏がいないからっていうのもあるかもしれないけど。(笑)

Takassy メジャーデビュー前にインディーズでベストアルバム(2021年3月発表『ENGABEST』)を出したんですけど、最後の曲になっている“Follow Me Home”はメンバーのことを歌っているんです。そこからの流れで今回のアルバムが始まるイメージなので、内側に言っていたことが、メジャーになって外側に向けられた象徴の曲でもあるという位置づけなんです。