ぽおるすみす(Vo)、中屋智裕 [THE PINBALLS](Gt)
プレイする側の人間って、人生の中でひとつは絶対に発明をしなきゃいけない。
INNOSENT in FORMALが10月、11月と、2ヵ月連続で配信リリース。10月19日にリリースされた『EVERYBODY』、11月16日に配信される『slow』は、どちらも活動休止中のバンドであるTHE PINBALLSのギタリスト・中屋智裕を迎えて制作。かねてよりINNOSENT in FORMALが憧れていたバンドでもあるTHE PINBALLSのメンバーを迎えた2曲は、楽曲の雰囲気は違えど、どちらも熱のほとばしる楽曲となっている。
今回はそんなコラボレーション作のリリースを記念し、INNOSENT in FORMALのボーカルのぽおるすみすとTHE PINBALLSのギタリストである中屋の対談を決行。2作の制作過程や、互いの持つミュージシャン論やこだわりについても熱く語ってもらった。
■INNOSENT in FORMALはTHE PINBALLSに憧れて今の事務所に入ったという話を聞きました。憧れたきっかけからお伺いしてもいいですか?
ぽおる タワーレコードが賞レースみたいなのをやっていたことがあって、その賞レースで優勝したのがTHE PINBALLSだったんです。そこで初めてTHE PINBALLSを知って、当時はYouTubeが盛んだったので、YouTubeで結構音楽を聴いていたんです。そこで“十匹の熊(テンベア)”っていう曲のミュージックビデオを見たんですけど、それが激渋だったんですよ。「なんだこの渋いバンドは!」と思って、そこから新宿MARZでやったライブを見に行って。カッコよすぎてバンドメンバーにも聴かせたら、全員どハマりして。それが憧れたきっかけです。
■その後、実際に2つのバンドが知り合うきっかけというと?
ぽおる うちのバンドのギター・CANDY MANがTHE PINBALLSのライブを見に行って、打ち上げに忍び込んだかなにかでコンタクト取ってきたんですよ。(笑) 中屋さんにコンタクトを取ったのか、他のメンバーの方にコンタクト取ったのかはわからないんですけど。それで今所属しているNo Big Deal Recordsのオーディションがあるっていうのを知って、「ちょっと応募してみよう」ということになって。“Footloose”を自分たちでレコーディングしたバージョンのミュージックビデオも丁度撮っていたので、それを送ってみようと。そのオーディションではライブ審査もあったんですけど、その時ちょうど近くで打ち合わせしていた中屋さんもそれを見に来てくれたんですよ。そこで「初めまして」でしたね。無礼なことをしなかったですかね……?大丈夫でしたか?
中屋 大丈夫だよ。(笑)
■中屋さんはその時のことを覚えていらっしゃいますか?
中屋 自分のバンドの打ち合わせでマネージャーと昼頃に渋谷で話していて、その後「ライブ見に行くんだ」っていう話をしていたから、暇だったし「着いていく」って言って。それで行ったんです。当時のぽおるは髪が長くて、「こいつなんだろうな……」って思って見ていて。でも印象は割りと良くて。(笑) というか、なんかぱっと見で覚えたんですよね。曲を覚えるとか、ライブがどうとかじゃなくて「ぱっと見た瞬間に覚えられるのはすげぇな」と。面白いバンドだなと思いましたね。
■そして今回のコラボに至った経緯っていうのは、ぽおるさんがお願いしたかったと?
ぽおる そうです!ラブコールを送らせていただいて。今回の曲を作る前に、No Big Deal Recordsの周年イベントでギターを弾いてもらったんです。僕たちの“日向が少ないこの街で”っていう曲があるんですけど、「中屋さんのギターを入れて是非やりたい」とお願いしたらやってくださって。そこでもう中屋さんのギターなしじゃいられない体になっちゃって。(笑) その後にワンマンライブにも参加していただいたりとか、結構ライブではコラボさせていただいて。3回くらいコラボしていますよね?
中屋 うん。
ぽおる また直近のNo Big〜の周年イベントでも弾いてくれたので、そうなってくるとどんどんとスパンが短くなってきて。(笑) 「ここまで来たら一緒に曲作りたいな」ってなったので、オファーをさせてもらったっていう感じです。
■中屋さんはライブに参加して、一緒にステージに立ってみていかがでしたか?
中屋 楽しくやらせてもらいました。他人のライブというか、自分がメインのライブじゃない時って、そんなに気を張っていなくてもいいというか。だから割りと楽しいんですよね。(笑)
ぽおる わかります。フィーチャリングのステージっていいですよね。
中屋 すごく気が楽。やってやんなきゃいけない感はそんなにないっていうか。
ぽおる それはコラボの醍醐味でもありますよね。ステージに中屋さんが入ると、明らかに聴いている人たちのリアクションも変わってくるんですよ。やっぱりギター1本の重みというか、人1人の存在感の大きさを感じましたね。
■INNOSENT in FORMALとしては、昨年コラボ曲を収録したアルバム『INNOSENT 3 ~High purity Mixed juice~』をリリースしていますが、今回のコラボはその流れも汲んでいたりするんですか?
ぽおる 前回の流れを意識したっていうことはなかったですね。前回のアルバムは全曲フィーチャリングでやったんですけど、思っていたよりもカロリーを使ったので、「当分はコラボ作品は作らないでいようね」っていう話をしていたんですよ。でも気がついたらコラボしていましたね。(笑) やっぱりバンドで曲を作る楽しさとか達成感も当然あるんですけど、バンド以外の人を招いての作品作りって、また違う達成感があって。山を越えた後の、乳酸が溜まった体でめっちゃ息切らしている気持ちよさみたいなのがある。それは今回、中屋さんと曲を作った後も自分の体に感じたので、「誰かと曲を作るっていいな」って改めて思いました。
■どういう流れで曲作りを進めていったんですか?
ぽおる 元々デモを作って送ったんでしたっけ?
中屋 デモを送ってもらったね。
ぽおる 結構雑なデモでしたよね……。
中屋 雑だった。(笑)
ぽおる 本当にすいません……。大体今の音楽をやられている方って、パソコンで打ち込んでデモを作ったり、実際に楽器を弾いてDAWの中に音を入れて重ねて作るみたいな感じだと思うんですけど、僕らはスタジオに入って、iPhoneを1個置いて「ジャーン」ってやって、それを録音したものを「中屋さんデモできました!」って送ったんです。(笑) その後に中屋さんもスタジオに来てくださったりもして、何回もスタジオに入って。今回は結構僕が難産だったので、だいぶ中屋さんをお待たせしちゃったんですけど……。
■難産だったのは2曲ともですか?
ぽおる 2曲ともですね。「こんなに産むのって苦しかったっけ……?」って思って。
■それは自分のバンドだけで完結しないから、ということもあったんですかね?
ぽおる それもあるかもしれないです。やっぱり自分のバンド以外の人とやる時はプレッシャーは感じやすいのかもしれないですね。今回は憧れの中屋さんとやるってなった時に、もう「マイベスト尽くさないとな」と思って苦労しました。だから、歌とか歌詞が完成したのは本当にレコーディングの直前とかでしたね。
■中屋さんはデモをもらった時はどういう感想を抱きましたか?
中屋 「わかりづらいな……」と。(笑) なので、もう実際にスタジオに行ってっていう作業をやりつつっていう感じでしたね。
ぽおる スタジオに来てもらった時も中屋さんを待たせちゃう時間があって……。つたない感じで、すいませんでした。
中屋 全然問題ないよ。俺もちゃんとしてないから。(笑) なんかちゃんとしてる人っているじゃん。スタジオに来る前からちゃんと構築してから来る人みたいな。俺もそういうタイプじゃないからさ。
ぽおる そうなんですか?意外ですね。
■一緒にスタジオに入って、話し合いながら詰めていくという感じだったんですか?
ぽおる そうですね。要所要所で中屋さんの意見とかを聞きつつ。でも中屋さんは、僕らが制作していく時に優しく見守ってくれるタイプの人で、僕らがガジャガジャやっている中で、中屋さんがずっと譜面を見ながら聴いているんですよ。それでしばらく経って、そろそろ良い感じにまとまってきたなと思って、「中屋さんどうですか?」って聞いたら「うーん、いいんじゃない」みたいな。「ただ、もっとここをこういう風なアレンジにした方が……」みたいな感じで、僕らのやりたいことを尊重しつつ、他の考えもあるよねっていう。だから一緒に制作してみて、すごく丁寧な方なんだなって思いましたね。優しさの塊な人だなって。
■一緒にスタジオに入って作るにしても、バンドと溶け込む形で作っていくやり方などもあると思いますが、中屋さんが客観的なやり方を取ったのにはどういう理由があったんですか?
中屋 まずバンドメンバーじゃないので、当たり前ですけど制作事情を知らないから。人としては会ったこともあるし、バンドとしても知っているけど、このバンドがどういうものをやりたいのかとか、「本人たちが真ん中に持っているものって何だろう?」っていう。まずそこを出していかないとバンドってやっている意味はあんまりないと思っていて。バンドである必要がないというか。なので、そこを探る作業からでしたね。
■それを探ってみて、中屋さんは改めてINNOSENT in FORMALにどういう印象を持ちましたか?
中屋 今までリリースしてきた曲でいろんなことをやっていたりするんだけど、実際スタジオに入ってみて思ったのは、「割りと馬鹿な子たちなんだな……」っていう。(笑) 例えばガチガチにDTMができてもよさそうなんだけど、思っていたよりも全然アナログだし、僕もアナログなのでやりやすいんですけどね。だから、思っていたよりロックバンドなんだなというか、泥臭い感じなんだなって。
ぽおる 全部探られたみたいっすね。(笑) まぁでも見せ合いですからね、コラボって。
■“EVERYBODY”と“slow”、タイプの違う2曲が揃ったと思いますが、先に構想があったんですか?
ぽおる 構想はありました。音楽的な方向性としてはロックンロールな色が強い曲をここに来てもう一度やってみようと思ったのと、リリックの内容についても、自分の中ではある程度テーマみたいなのはありました。
■どちらも熱い歌詞ですよね。
ぽおる 熱いっすね!結構汗かきましたね。
■それこそ中屋さんのギターも相まって熱い言葉が出てきたのかなと思ったんですけど、そういった影響は感じましたか?
ぽおる もちろん影響はありました。曲作りの最終段階まで歌詞が中々進まなかったんですけど、中屋さんのギターが入ったデモができたくらいから徐々に書けるようになっていって。今回の制作で改めて自分自身のことで思ったのは、鳴らされている音に影響を受けて歌詞とかメロディーって出てくるんだなっていう。当たり前なんですけどね。あとはやっぱりロックンロール色が強い曲は滾るなって。それはやっぱり言葉とかメロディーに出てきたんじゃないかと思います。
■中屋さんのギターが入ったものが返ってきたのを聴いて、具体的にどういう昂ぶりや感情を感じましたか?
ぽおる ギターって曲に対して色をつけるというか、雰囲気をブーストさせる楽器でもあり、自分の感情を全部引っ張り出してくれるような音でもあるなと感じて。中屋さんのギターを聴いて、自然と体が揺れたり、感情が揺れるのを感じたんです。それで歌詞が出始めたっていうことを考えると、「ギターっていうのは人を動かすエネルギーがある楽器なんだ」って思いましたね。あと、これは僕以外の人たちも感じると思うんですけど、中屋さんのギターは聴くと一発で「中屋さんのギターだ!」ってわかる。ギターを通したこの表現力はすごいなって思いました。今まではずっとTHE PINBALLSでの楽曲として聴いていたので。どこにいても埋もれないキャラの濃さを感じました。