柳田周作(Vo)、吉田喜一(Gt)、桐木岳貢(Ba)、黒川亮介(Dr)
あくまでも僕は自分のためじゃなくてファンのために曲を書きたい。
神はサイコロを振らないが2ndフルアルバム『心海』をリリース。 TBS系⽇曜劇場「ラストマン−全盲の捜査官−」挿⼊歌“修羅の巷”やアクションRPG『FREDERICA(フレデリカ)』主題歌“Division”をはじめとするタイアップ曲から、ポップスの正体を問う“Whatʼs a Pop?”、青春の無邪気な感情を描いた“キラキラ”、収録曲を俯瞰し、これまでの活動を振り返った際に浮かんだ思いを落とし込んだという“告白”まで、様々な毛色の全13曲が収録される今作。ファンやまだ見ぬリスナーに届けるという意思が色濃く感じられる今作について、神サイの4人に話を訊いた。
■20曲を収録した前作1stフルアルバム『事象の地平線』から約1年半ぶりのアルバムリリースとなります。制作を終えた今、どんな気持ちですか?
柳田 シンプルに十数曲収録するアルバムを1枚は作りたいと思っていたので、今回やっとシンプルな、それでいてコンセプチュアルなアルバムが作れて良かったなと思います。僕ら世代からすると、1曲目にインスト曲があるっていうのは、ロックアルバムとして1回はやりたいことだったんです。1stアルバムはリードトラックの詰め合わせみたいな感じだったので、感覚的にはベストアルバムに近かったんです。時代的にはアルバムを通して曲を聴く機会って減っていると思うんですけど、そんな中でコンセプトアルバムみたいなものを出したいという精神って、結構ロックだなと思いますね。
■改めて、今作のコンセプトについても聞かせてください。
柳田 “Into the deep”でぐっと深いところに潜っていって、“Whatʼs a Pop?”で「ポップスとはなんぞや」というのを歌い出すんです。ここで言うポップスは音楽ジャンルのポップではなくて、「人に伝えるためにはどうしたらいいんだ」とか、「伝わるとはどういうことなんだ」というのを掘り下げていくということで。そこから最終的に“夜間飛行”の最後で「I wanna be a Rockstar」って歌うんですけど、“Whatʼs a Pop?”から始まって、「I wanna be a Rockstar」で物語を完結させたいっていうコンセプトなんです。13曲目の“告白”は、“夜間飛行”までのひとつの物語を俯瞰で見て書いた、あとがき的な立ち位置にいる曲です。
■メンバーのみなさんとしては、今作の制作はどんな時間でしたか?
黒川 「人生だな」ってめっちゃ思いましたね。例えば“修羅の巷”の「無様にいこうぜ 愚か者と嘲笑われたって」っていう歌詞だったり、柳田の書く歌詞が自分の中に「スーッ」と入ってきたんです。それによって自分の中の殻が「ぱかっ」と外れる瞬間があって。曲を作っていく中で、どんどん自分が変わっていることを感じたので、「人生だな」と思いました。
■柳田さんの書く歌詞に共感できるという感覚なんですか?
黒川 そうですね。柳田の書く歌詞が自分の中に入ってくることは、“修羅の巷”以前だと、前作の“僕だけが失敗作みたいで”でもあって。不思議なことに、柳田は柳田自身のことを歌っているのに、メンバーの自分にも刺さることが多々あるので、それはやっていて面白いなと思いました。
吉田 ギターは結構チャレンジする曲が多かったと思います。どれだけ自分のエゴを出して、曲として成立させるかというところにチャレンジしたアルバムで。もちろんサウンドのことはチームで話し合うんですけど、音に個性を乗せる絶妙な塩梅が自分的には難しかったです。
■ギターのアプローチの多様さは、アルバムを通して印象に残った部分でした。
吉田 ギタリストのよくばりセットみたいな感じになっています。(笑) いろんなタイプのギターを弾いているので、歪んだレスポールで弾く曲もあれば、クリーンにラインの音だけで完結させた曲もあって。幅広い表現をいろいろと学べました。
桐木 自分もどんな曲にするかといったことにすごくフォーカスしていました。「ベースという役割で何ができるのか」というか。自分の中での明確なベースの役割を確立した感じでした。今まではドラムが心臓部分だと思っていたんですけど、本当はベースなのかなと思って。ベースひとつで良いものを壊してしまうこともできるし、めっちゃ磨き上げることもできるなと。ベースという楽器に結構向き合った制作だったと思います。
■柳田さんは改めて今回の制作を振り返ってみていかがでしたか?
柳田 僕はボーカリストとしてひたすら楽しめました。これだけいろんなジャンルのアプローチをしていく中で、いろんなプロデューサーさんやアレンジャーさんが協力してくれて、その数だけ違うディレクションがあって、自分にない表現を引き出してもらって。そこに追いつかなきゃいけないと思って、自分で表現を模索することも多かったです。それぞれ録ったスタジオも違えば、空間もマイクも違うし、喉の状態もテンション感も全く違うし。その時その時のリアルを「ギュッ」と保存できているので生々しいというか。リアルっていう言葉がすごくしっくりくる。例えば“Popcorn ‘n’ Magic!”は、このアルバムの最後の最後に録った曲なんです。自分の中ではデザートみたいな立ち位置だったので、本チャンもめちゃくちゃ小躍りしながら歌っていて。(笑) そうしたら、めちゃくちゃいいテイクが録れたんですよね。上手く歌おうとか、精細に気を使えば使うほど、なんか嘘っぽくなる。その時のテンション感で楽しくやれて、これこそ音楽だなと感じました。
■“Popcorn ‘n’ Magic!”と“キラキラ”は、アルバムの幅広さを象徴するような明るい2曲だと感じました。
柳田 “キラキラ”を作った当初は、「ここまで振り切って大丈夫かな?」っていう不安があったんです。でもライブでやると、お客さんがやたら楽しそうなので、作ってよかったなっていうか、間違っていなかったのかなと今は感じていて。やっぱり疾走感もあるし、いい意味で分かりやすい曲だし。分かりやすさって本当に大事だなと思うんです。フェスでは初めて出会う人も多いですし、神サイをどんなもんだと見に来る人たちもたくさんいて。その人と次はいつ会えるか分からないし、なんならそれが最初で最後かもしれないと思うと、その瞬間に絶対に心を鷲掴みにしないといけないなと思うんです。そうなった時に分かりやすさが入口にあることで、バンドに対する印象がガラッと変わると思っていて。神サイの4人って、すごく根は少年で、みんな無邪気な人間だなって僕は思うし、不器用で無邪気で、まっすぐだと思う。それをそのまま表すと“キラキラ”みたいなものが浮かんでくるんです。もちろん“スピリタス・レイク”みたいな大人な曲も似合うし、“僕にあって君にないもの”みたいなセクシーな曲もすごく似合うし、“修羅の巷”みたいな泥臭いロックも似合うんですけど、“キラキラ”みたいな、青春な曲もちゃんと似合うのがこの4人の面白いところというか。何をやっても自分たちの色にできているのかなと感じています。この間のRISING SUN ROCK FESTIVALの時、吉田は“キラキラ”を楽しみすぎて、ギターソロで気付いたらステージから転げ落ちていたよな。(笑)
吉田 RISING SUN ROCK FESTIVALはお客さんがめちゃくちゃグイグイな感じで、音楽を心底楽しんでいるのがすごく伝わってきたんですよね。時間も22時台で、みんな多分酒を飲んだりして最高潮で。柳田はそれまでに下に降りていたりして、すごくお客さんとの距離が近かったんです。僕はステージにいようと思ったんですけど、ギターソロになった瞬間、身体が勝手に前に行っていて。そのまま足場のないところに行こうとして落ちました。(笑)
柳田 しかもまぁまぁ高いんですよ。(笑) だからギターソロでノイズだけが鳴っているっていう。でもそのノイズすらも青春だったなと思いますね。俺からしたら「かっけえな!」って思った。そういうのすらも表現の一部になりうるというか。その生感みたいなのもライブバンドとして成立しているし。
■お怪我とかは大丈夫でしたか?
吉田 若干の怪我はありましたが、全然。ああいうのは大事にしたいなと思いました。
柳田 今年の夏フェスシーズンはトラブルもめっちゃ多くて。スナッピーが切れたり、俺もロッキンの時に1曲目でギターの音が出なくなったり、どうしようもない事件が多発して。でもそういうのでいちいち焦らなくなってきたんですよね。そのトラブルすらも楽しめるくらい余裕が出てきているし、ライブバンドとしても一歩一歩確実に成長していっているなと思います。フェスに行くとベテランの方たちのライブも見るんですけど、やっぱりすごいんですよ。演奏も非の打ちどころがなくて、カッコ良くて。ただ神サイの何が良いって、不完全な部分だと思うんです。あくまでも生であって、人間であって、不器用さがあって。それをお客さんと補い合ってひとつのライブ作品を作る。そういう感覚だから、お客さんもすごい母ちゃん目線というか。(笑) 「神サイ頑張れ!」みたいな、そんなまなざしを感じるんです。お互いが必要とし合っている、持ちつ持たれつの関係性がすごく素敵だなと思います。
■序盤の方にタイトルが挙がりましたが、ポップや創作について歌った“Whatʼs a Pop?”は、アルバムの中でも核になる楽曲だと思います。柳田さんにとってどんな曲になりましたか?
柳田 これは歌詞を見返すと俺っぽいなって思います。ソングライティングをしていく上で、やっぱり生みの苦しみはずっと付きまとうし、でもその苦しみを抜け出した先の、曲が生まれた瞬間の幸せって尋常じゃなくて。だから、苦しみだけではない、希望がたくさん散りばめられている詞になっています。でも結局2番でも、「これ以上歌詞なんか書けねえよ」みたいなことを歌っていて。でも報われたいと思いながら描き続けて、生まれた瞬間最初に聴かせたいのはファンだから、「真っ先に君に聴かせたい」って歌っていて。だから俺っぽいなというか、俺でしかないなというか。人間臭い部分がそのまま歌詞に出ていると思います。
■“Division”は特に声色の違いを感じる楽曲に仕上がっていますね。
柳田 そうですね。この曲はBUMPの藤くんになりきったつもりで歌いました。(笑) デモの段階からこういう歌い方だったんですけど、また新たな自分を開拓したいと思ったんです。自分の声のらしさみたいなところって、ぶっちゃけ言うと全くわかっていなくて。だから、ボーカリストとしてのキャラクターは自分では薄いと感じているんです。それを逆手にとって、自分らしさがないんだったら、全部吸収しちゃえばいいなと。物真似ではないですけど、いろんなものを吸収した上で、噛み砕いて自分のものにしていって、カラーリングを増やしていければ、いつか虹色みたいなものが自分の武器になるのかなっていう希望があるんです。だから、まずは藤くんみたいな歌い方で歌いたいと思って。
■曲を作るよりも先に歌い方を決めたんですね。
柳田 そうですね。自分のキャラクターは分からないんですけど、「ここが美味しいポイントだな」っていうのは何となくわかっていて。最近ってハイトーンボーカルがすごく多い気がするんですけど、自分の声はそれに逆行していてローの部分が味だと思うし、ネガティブな言い方をすれば、高音のきらっとした部分は自分の声には全く足りていないんです。なので、今回は低いところをメインの武器にしたような曲にしています。
■歌声はローを中心にしている一方で、楽器隊のサウンドの重心は高めであるというバランスが魅力だと感じました。それは意識していたんですか?
吉田 柳田からもらったデモが既にそういうテイストだったと思います。この曲、『FREDERICA(フレデリカ)』というRPGゲームの主題歌なんですけど、柳田はずっとRPGのゲームをやってきていて。だから、そういうこともやりたいんだろうなっていうのを暗に受け取って、こういうギターサウンドにしようかなみたいな。(笑) ゲームのテーマも受け取った、いい曲になったなって思います。
黒川 この曲は結構ライブでも映える曲だなと思います。シンガロングもあるし。あと、吉田のギターソロが良いですね。後ろで叩いていてテンションが上がるというか、メンバーの音に感化されて自分も上がっちゃいます。
柳田 大きく分けて、バンドとかアーティストって2種類いると思っていて。作品で全てを発揮する人と、作品に加えてライブがメインステージになる人。神サイは後者なんです。やっぱりライブを目的として作品を作っているので。 “Division”は今言ってくれたように、シンガロングが入っているんですけど、今フェスで披露しても、新しい曲なのでみんなまだ歌えないんです。ここから少しずつフェスやツアーを重ねていって、みんなが歌えるようになって、初めて曲が完成するんだろうなと思います。
■“僕にあって君にないもの”は⻲⽥誠治さんが編曲を担当しています。以前一緒に制作をした際は相性が良いとおっしゃっていましたが、今回はいかがでしたか?
柳田 亀田さんの現場は、なによりレコーディングが楽しいんですよ。空気作りがすごく上手な方だなと思います。神サイのレコーディングの現場って殺伐とする瞬間も多々あるんですけど、亀田さんとのレコーディングの時はずっと笑っているというか。シンプルに「音楽をやっているな」と思える状態のままレコーディングが続いていくので、それはミュージシャンとしてはすごくありがたいなと思います。
黒川 この曲と“修羅の巷”はせーので録ったんですよね。だから聴いていても生々しさを感じられるんじゃないかなと思います。
柳田 ライブに近いよね。グリッドに沿って緻密な計算をしている曲もたくさんある中で、“修羅の巷”と“僕にあって君にないもの”の2曲は、ライブの生っぽさとか温かみのある空気感みたいなのも出ているんじゃないかなと思います。「生きているな」という感じがすごくしますね。