林 和希 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

みなさんの人生にいつだって寄り添えるような、色褪せない音楽にしたい。

2023年から本格的に始動したDOBERMAN INFINITYのKAZUKI改め、林 和希のソロプロジェクト。全曲作詞・作曲を林 和希が自ら進行し、表題曲“東京”は地元を出て東京で夢を追う道を選んだ一人の男の今も心の中で色褪せずに輝く地元での温かい思い出や、情景への溢れる思いを描いた一曲。“Sorry”は8年前に発表した曲にリアレンジを加え、よりメロウなR&Bバラードに仕上げた。今回は幼少期からR&Bに影響を受け育った林 和希ならではの「極上のR&B」を存分に堪能できるファーストシングル『東京』の制作について語ってもらった。

■ソロプロジェクトとしてのファーストシングルの表題曲“東京”ですが、どんな思いがあってこのタイトルにされたのでしょうか?

 “東京”は今の自分の目線で描いた楽曲になっています。地元を離れてから気づいたら10年以上が経っていて、振り返ると地元にいた頃のあの時の感覚がなくなっていることにも気づきました。でも今とはまた違った輝かしさや飾らない魅力がいまだに僕の心の中には残り続けています。当時の感覚やそういう時代は二度と戻ってくることはないけれど、戻って来なくても心を温めてくれる瞬間があります。この曲を聴いて、みなさんにもある大切な思い出が蘇ってくれたら嬉しいです。

■恋愛だけに寄せたメッセージではなかったんですね。

 そうですね。でも失恋した方には恋愛ソングとして心に刺さってくれたらいいなと思います。自分が大切にしていたもの、自分を大切にしてくれた人、大切だったけれどなくなってしまったいろんなものを思い浮かべてもらえたらいいなと思います。

■“東京”を漢字表記にしているのにも何か理由があるんですか?

 確かに「TOKYO」と英語表記にした方がおしゃれですよね。でもその感じが僕にはしっくりこなかったんですよね。東京は今大人になった僕が住んでいる街です。感じる人にとってはやっぱりどこか冷たさを持っているような街の印象を表現した時に、今の“東京”の漢字表記が一番しっくりときました。でも実は最初は迷いましたけどね。ちょっと渋すぎるかなって。(笑)

■上京する前に持っていた無くしてしまった感覚を思い出せるような楽曲に……と話していらっしゃいましたが、「あの感覚無くしてしまったな」と感じる瞬間はどんな時でしょうか?

 たくさんありますね。例えば自分が生まれ育った街の仲間や元恋人、その時一緒にいてくれた親から見ると、こっちで生きている自分の顔つきは当時とは全然違って見えるんだろうなと思います。車の中から東京の景色を見ても、「もともと華やかに見えていて、目指していた東京だったけれど、ここで生きる代わりに自分が大事にしていたものや、譲れなかったものが今はなくなってしまったな……」と思うことがあるんです。ライブやツアーを開催して、いろんな輝かしい時間を過ごした帰りなんかは、特にそう感じることが多いです。“東京”の中にも似たシーンを描いています。もう二度と戻れない時を考えた時に、すごい温かい時代があったなという事実が今の自分にとってどこか寂しくもあり、灯になっています。そういう気持ちを込めながら“東京”を制作しました。

■“東京”をどんな人にどんな曲として聴いてほしいですか?

 生きていく中で孤独を感じたり、迷ったり、不安になることってたくさんあると思うんですけど、そんな時でも与えてもらった愛や温もり、一緒に眺めた景色を思い出してほしいと思います。自分の曲もそういう支えになるような楽曲になってほしいと思っています。例えばライブに来てくれた人がその一夜を「あの時本当に楽しかったな」と思える。そんな思い出になってくれたらいいなと思っています。そのライブで披露する“東京”が、この先のみなさんの人生で辛い時もそっと心を温めてくれたら嬉しいです。

■“東京”は和希さんが全て一から制作されたんですか?

 まずビートを僕が打ち込んで、コード進行とかをSWING-Oさんと一緒に探りながら制作した楽曲になっています。SWING-Oさんは僕の好きなサウンドもよくわかってくれているので、制作している時間は本当に楽しいし、すごく信頼できる方です。

■SWING-Oさんのように信頼できる方との出会いは、東京に来てよかったなと思える出来事の一つでもあるんでしょうか?

 もちろんそうです。“東京”には無くなってしまったものへの哀愁を込めてはいるんですが、東京に来たことをネガティブに捉えたかったわけじゃないんです。ここに来たことで得られたものもたくさんあるし、無くなったけど残り続けるものもあると思っています。決して後悔ではなく、遠い素敵な思い出として噛み締めています。

■カップリング曲の“Show me what you got”は、1月26日に先行配信されていますが、先行配信にしたことに理由があるんでしょうか?

 ツアーがあるので、そのツアーでみんなと一緒に盛り上がれる楽曲が欲しいと思って先行配信にしました。ツアーに参加してくれるみなさんには、ぜひ先に聴いていてもらえたら嬉しいです。

■確かに“Show me what you got”は今作の3曲の中でも特にノレる楽曲だと思います。

 そうですよね。この曲はサウンドから作った楽曲になっているんですけど、僕の作る曲の中では特にノリやすい楽曲だと思います。とはいえ、DOBERMAN INFINITYとしてリリースしているようなアップテンポな楽曲ではないんですけどね。(笑)

■“Show me what you got”は特にメロディにこだわった楽曲になっている感じですか?

 僕の中ではR&Bっていうジャンルは、わかりやすくぶち上がるサウンドっていうのが厳しいんです。ダンスができないので、「パリピ〜!」っていうサウンドの表現がなかなか難しいんですよね。なので、僕の中でできる精一杯のアガる楽曲が“Show me what you got”なんです。弾むようなリズムと首が動くようなサウンドを作りたいと思っていたので、それが達成できていたら嬉しいですね。ファンの方たちも音にノッてくれたらいいなと思っています。

■“Show me what you got”の聴きどころはどこでしょうか?

 一つ自信を持って言えるのは音ですね。最初はトラックがあって、音に合わせて意味が通じない宇宙語で作るんです。英語みたいな発音の、でも言葉になっていないような言葉で歌ってみる。その最初に口からでた音が正直に歌いたい音そのものになります。それに日本語を当てはめて歌詞を制作するというのが僕のやり方なんです。かなり大変な作業なんですが、そこを妥協すると自分の好きなフロウが完成しないので、音をパズルにして全部納得いくまで日本語で当てはめていきました。小さい子音の音とか、3文字に聞こえるけど実は5文字で発音している部分とか、全部時間をかけて日本語の歌詞に当てはめて制作していきました。音の部分は一番こだわった部分でもあるので、ぜひ注目して聴いてほしいなと思います。でも制作期間自体はかなり短かく実際は3日で完成させました。

■3日で制作していたなんて全然想像がつかなかったです。(笑)

 僕の頭の中ではシーンが決まっていたので、早く完成させられましたね。自分も楽しみながらノリながら制作できた楽曲になってます。

■“Sorry”は8年前に制作したソロ曲をリメイクして今回のシングルに収録されると伺いましたが、リメイク前と後ではどんな違いが生まれていますか?

 今作に“Sorry”を収録しようと思ったのは、“東京”の制作中のことです。その時は何度も歌詞を書き直していて、“東京”の制作がかなり難航していました。そんな時に、制作していたホテルの窓からふと見た景色が本当に綺麗で、「“Sorry“を歌いたい」と思ったんです。8年前に制作した“Sorry”を歌っていた時の感覚、つまり東京に出てきたばかりの時の感覚と、今の僕の感覚をセットにして表現できるんじゃないかとも思ったので、今回のシングルに収録することを決めました。もう一度SWING-Oさんにお願いして、より歌が前に出るようにリメイクしてもらいました。トラックもすごく良くなったと思います。当時の“Sorry”と聴き比べてもらったら全然違うと思います。声も今よりすごく若いですし。(笑)

■声が若いとおっしゃっていましたけど、年齢だけじゃなく経験値の差もあったりするんでしょうか?

 きっとありますね。当時の歌はなんか必死でした。自分で自分をアピールしていた感じがあって、今となってはちょっと恥ずかしいですよね。(笑) でも今は寄り添うことを大事にしているので、そこが大きな違いになっていると思います。実際の声はそこまで変化はないんですが、心境や歌い方の違いが大きいと思います。

■ファンの方たちの反応で、「こんなに謙虚で歌が上手い人いない!」というコメントをよく見ているので、歌い方の変化がファンの方たちにも伝わっているのかもしれませんよね。

 いや、それは嬉しいんですけど、「どうしてそんなふうに思ってもらえるんだろう?」ってもう不思議で……。全然そんなに謙虚な人間じゃないんですよ。(笑)