KIGO-綺語- VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

気持ちがカラッポ状態で触れた時ほど、さりげないひと言ひと言が胸にグッと響くし、そういう曲たちがKIGO-綺語- には多いです。

KIGO=綺語=真実に背いて巧みに飾った言葉(美辞麗句)。という意味を持つ名前をユニット名に冠した、男女クリエーターユニットのKIGO-綺語- (以下 KIGO)。メンバーは、帆保健太郎(Gt&Vo)と瑞季あおい(Pf&Vo)。2人は帆保健太郎がリーダーを担ったナーサリーライムの元メンバー。同バンドの解散後、帆保健太郎はサンサーラブコールズに所属しながら、瑞季あおいと共に「あおい&ほぼけん」としても活動。2021年11月より「あおい&ほぼけん」を「KIGO-綺語- 」へと改名。サンサーラブコールズの解散後、帆保健太郎はKIGOの活動を本格的にしていく。現在までに、『Say something』『toriko』と、2枚のデジタルシングルをリリース。そして12月14日には最新デジタルシングル『取捨』をリリース。同曲の魅力について、帆保健太郎が語ってくれた。

■以前、帆保さんとはサンサーラブコールズの取材でお会いしました。あの時は確かベーシストでしたよね?

帆保 そうです。もともと僕は自ら立ち上げたナーサリーライムというバンドでは、ヴォーカルとギターをやっていました。その時のバンドのメンバーにいたのが、今の相方のあおいなんです。ナーサリーライムの解散と共に、僕は誘われていたサンサーラブコールズというバンドにベーシストとして加入しました。僕自身、高校時代からずっと楽曲制作を行っていたこともあって、自作の曲を届けたい思いも持っていました。実はサンサーラブコールズの活動と平行して、あおいとも「あおい&ほぼけん」というユニットとして活動をし始めたんです。きっかけはナーサリーライムとして活動していた頃から懇意にしていたライブハウスの店長が、「あおいちゃんは歌が上手いから弾き語りでもやってみたら?」と声をかけてくれたことでした。でも彼女は曲が作れなかったので、自分の曲を発表したかった僕は、「ならば」と、あおいのために楽曲を作り、それを届けるために「あおい&ほぼけん」を立ち上げた感じです。

■サンサーラブコールズ時代に、もう一つユニット活動もやっていたんですね。

帆保 そうなんです。でも後にサンサーラブコールズも解散してしまい、僕自身ずっと「自分の曲を自分で歌いたい」という欲求も強く持っていたことから、あおいに「2人ともがっつり歌うユニットを作ろう」という話をして、KIGOの活動をより本格化していきました。

■帆保さんは自分で歌いたい欲求が高まってきていたわけですね。

帆保 自分の作った楽曲を、自分の中から生まれた言葉で、自分自身で歌いたい気持ちへと次第になっていきました。それをしたくて、ボイストレーニングにも2、3年前から通うようになりました。ただ、「あおい&ほぼけん」時代も、KIGOとなった今も、すべての楽曲は僕が書いていますけど、たとえ僕自身の思いを書いた曲でも、「これはあおいが歌った方が映えるな」とか、「男性目線だけど、女性が歌った方が良さが伝わる」と思った場合は、あおいが歌いますし、「これは自分自身で伝えたい」と思えば自分で歌うようにして、曲によってそこのバランスはいろいろと取っています。

■デジタルシングルとしてリリースした『Say something』は、女性ヴォーカルだからこそ映える楽曲になっていますよね。

帆保 あの曲はまさにそう。やはりメロウで美しい楽曲は、あおいの歌声の方が似合いますからね。逆に、強さを抱いた曲調や、ラップを軸に据えた曲は、自分が歌った方が映えると思っていて。その辺のキャラ分けも考えて、『取捨』のように、お互いの歌声を1曲の中で活かすスタイルも取っています。男女ユニットだからこその魅力は、今後もいろんな形で伝えていくつもりです。

■KIGOの特色の一つとしてあるのが、楽曲がとてもコンパクトですよね。2分前後で完結している楽曲も結構ありますよね?

帆保 あえて長い曲を作らないようにしています。僕はHIP HOPが好きなんですけど、海外のラッパーの人たちは、1分半くらいで完結する曲とかをどんどんリリースしているんです。僕もそうだし、今の若い子たちって、長い曲よりも短い曲の方を好む傾向が強いんですよね。Tik Tokから楽曲が流行る理由は、まさにそこだと思っていて。だから短くてもいいなという理由から、そうしています。

■あえて長くはしていなかったんですね。

帆保 そしてもう一つの理由が、Tik Tokから見える傾向も反映してのことでした。人気Tik Tokerの中には、サビ歌だけを次々とアップして、そこで高い評価を得た曲だけをフル尺にして改めて発表する人たちも増えています。それって正論というか……。もちろん1曲入魂の姿勢は、それはそれでとても良いとは思っていますけど、サビだけの曲を次々と発表して、そこで反響の高い曲だけをフル尺にしていった方が効率がいいじゃないですか。KIGOとしても、来年からそういうことをTik Tok上でやってみようかと構想もしています。理屈としては同じことで、1コーラスが本当に人の心を惹きつけるものでさえあれば、その曲は短くてもたくさんの人から支持を得ていける。それもあって、KIGOではそういう曲たちを多く作っています。最新曲の“取捨”も、まさしくそのスタイルですからね。

■“取捨”を聴きながら感じていたのが、「メッセージ性をとても大切にしているな」ということでした。

帆保 “取捨”は自分の心境の変化を的確に描き現した楽曲になりましたから。“Say Something”と“toriko”は、一つの大きな失恋体験の視点を変えて生まれた曲たちなんです。以前の僕は、一つの失恋に捕らわれているあまり、そこでの経験をいろんな視点から切り取っては、次々と歌にしていったんです。そうして続けていく中で、いつまでも失恋に捕らわれている自分が嫌になってきたんです。そんな時期にHIP HOPの魅力にハマったことも大きかったです。

■その時にHIP HOPにハマったんですね。

帆保 海外のラッパーたちは、失恋のさめざめとした気持ちを歌にする人なんか、少なくとも僕自身が聴いてきた中にはいなかったし、それよりも「俺は稼いでるぜ」「俺はすげぇんだぜ」「俺はこんな最悪な環境からのし上がってきたぜ」など、自分自身のことを自慢げに歌っている内容が本当に多かったんです。その影響もあって、一度「一体、自分とはどういう人間なんだ?」ということを考えて、そこからいろんな題材を考えるようになりました。ちょうど創作上での心境の変化が出始めた時期に、僕の父親が大きめの病気に罹ってしまって。あの時に、「父親はあと何回、健康な状態で僕のライブを観に来てくれるだろう……?」と考えるようになって、近しい人のそういった経験もあったからこそ、その時に僕は思ったんですよね。「本当に大切なことを目の前にした時、僕は何を取捨選択していくのか……」と。

■だから“取捨”の歌詞に、「それでも命に限りがあるから 震えるこの手を伸ばし続けるよ」と書いたわけですね。

帆保 そうです。“取捨”は初めて恋愛のことではなく、自分自身が思っている大切なことについて書いた曲で。そういう一つの転機になった楽曲だからこそ、“Say something”、“toriko”に続く配信シングルとして“取捨”を選んだわけです。KIGOの表現の方針にしているのが、「誰もが心の内に飼っている、目を背けたくなるような等身大の自分を描き出すこと」で。“取捨”もまた、そこをしっかりと描き出した楽曲になりました。