ケルトの笛が響く森の奥の奇妙な祝祭。
きゃりーぱみゅぱみゅが7月15日(土)、東京・日比谷公園大音楽堂で『きゃりーぱみゅぱみゅ Special Live 2023 – Midnight Sun -』を開催した。2011年のデビュー以来、そのファッションと中田ヤスタカプロデュースのキャッチーかつ多彩な音楽性でKawaii文化のアイコンとして走り続けるきゃりーぱみゅぱみゅ。今回の公演は日比谷野外音楽堂開設100周年記念事業の一環で行われるもので、本人曰く「白夜の中で行われる楽しくて恐ろしいお祭り」をイメージしているという。
公演当日、まだ陽の落ち切らない日比谷公園大音楽堂の舞台は色とりどりの花で彩られていた。今回のステージでは日比谷公園に本店を構える日比谷花壇とのコラボレーションが実現。目にも鮮やかな花々は、フラワーロス問題への取り組みとして、サステナブルな背景を持つ生花や再利用された造花が使われている。最高気温は32度にも上った薄曇りのこの日だが、夕暮れを過ぎると風は涼しく、白夜にも似た眩い景色の中、舞台中央ではメイポールの花飾りから伸びたリボンが静かに揺れる。開演時間を過ぎると、やがて鳥の鳴き声と共に仮面を被ったブズーキ、フィドル、ホイッスル、バウロンといったケルトの楽隊が現れ、朗らかな序曲を奏で始めた。夏風に混ざる美しい音色に観客が手拍子で応える様は牧歌的であるけれど、聞くところによると今回の公演はあるホラー映画にもインスピレーションを受けているという。
仄かな妖しさを秘めた風景の中、やがて奇妙な仮面を被った4人組に連れられて、花嫁風の白いドレスとヴェールを纏ったきゃりーぱみゅぱみゅが登場。“良すた”の華やかなイントロを浴びながら厳かな足取りで花々の中を行進したきゃりーが舞台中央に辿り着き、仔羊の仮面の双子がそのヴェールを捲り上げると、たったそれだけの小さな変化が「祝祭」の幕開けを告げた。「Midnight Sunにようこそ!」“良すた”に続けて“チェリーボンボン”、“スキすぎてキレそう”を歌ったきゃりーは、観客への感謝と日比谷野音100周年への祝辞を甘やかな声で述べる。「こんなにカラフルな野音は見たことないでしょう?」と自慢する美しい舞台で繰り広げられる今公演は「人生最大のセレモニー」がテーマとのこと。声出しができることに触れると観客席からは野太い歓声が上がり、きゃりーは「野郎の声ばっかなんですけど……」と笑った。
MCを終えて“キミに100パーセント”、“きみのみかた”、“もんだいガール”と続けたきゃりー。舞台の上でドレスの裾を軽やかに翻し、指揮者の如く腕を振って観客を操る彼女は、細い指先から星が散るような「お人形みたいな女のコ」だ。それでもその身体に詰まった爆発的なエネルギーは歌声になって喉から溢れ出て、“ファッションモンスター”のコールを呼び込んで行く。「久しぶりの野音、みなさん気持ちはどうですかー?!楽しいねー!!」日没前の気温に「ヤバイヤバイ」と水分補給をするきゃりーは、観客へも「首を冷やしてね」など、気遣いを忘れない。ここで仮面のダンサーたちが自らの家族(という設定)であることを明かし、顔を全て覆う仮面を被った男女が父と母、仔羊頭の少女二人が双子の妹、そして自分は一家の「娘」と紹介する。また、きゃりーは今回のステージについて「森の奥で怪しいお祭りをやってるな?という気分で楽しんで欲しい」と語った。
そして「次は珍しい曲を」と歌い出したのは“すんごいオーラ”。ケルト音楽とのコラボが実現した今回は、選曲も民謡風のメロディを持つものが多い。続く“Unite Unite”では、ダンサーのいなくなった舞台でひとり満員の野音を揺らしながら「スーパースターになれたらいいのに」と夢見る声で歌うきゃりー。仔羊頭の双子と共にスタンドマイクで歌う“夏色フラワー”では、どこか憂いを秘めたメロウなヴォーカルが暮れかけた空に混じり、青春のひりつく匂いを連れてくる。日没が近くなって花々が光に彩られる頃、一度無人となった舞台には再びケルトの楽隊が登場。高らかな笛の音に誘われるように現れ、太鼓のリズムに合わせて白い靴先で輪を描き踊る「家族」たちのステップは夜を連れてくる。演奏の中にきゃりーの楽曲のフレーズを織り込んで、黄昏の都心の空へ響くフィドルとブズーキ。その音色がシンセベースの重低音に呑まれていくと、花冠を被り、白いドレスに巨大な青い花をあしらったきゃりーが歩み出る。“CANDY CANDY”、“にんじゃりばんばん”と定番曲が続く中、左右対称のステージではきゃりーだけが非対称の存在だ。続く“どどんぱ”では、陽が落ちてステージから光が溢れ、会場は重低音が響くクラブパーティーの様相となる。
歌い終えると観客を座らせ、「みんなと会えていない間にいろんなことがありました」と思い出を語り出すきゃりー。2023年には5年ぶりのワールドツアーが行われ、全国6都市を巡った。ツアータイトルの<POPPP>(プリンセス・オブ・ピンク・ぱみゅぱみゅ)には、「ピンクの可能性を探る」という意味が込められているという。「10代の頃はパステルピンクやビビッドピンクしか使いたくなかったけど、30代になったらくすんだピンクも良いかなと思うようになって、可能性の広がりを感じます」そう語る彼女は、今年の3月に結婚を発表。ファンに自らそのことを伝えるのは初めてかもしれないとのことで、客席から上がる冷やかしの声には「『Foo~!』とかやめて!(笑)」と照れる。また、Twitterで話題となった「原宿で靴底を落とした事件」にも触れ、その時に事務所まで靴底を届けてくれた方を今回のライブに招待していることを明かす。きゃりーの呼びかけに手を振って応えた親切な彼らには、観客からの温かい拍手が贈られた。
ライブも終盤。「次の曲はタオルを回して欲しい!」という呼びかけと共にスタートした“きらきらキラー”は、七色の輝きの中で「L.U.C.K」のコール&レスポンスが響く。“きゃりーANAN”ではペンライトの色切り替え機能を利用して、ステージを客席にまで拡張する。語尾にハートを飛ばして「大変よくできました」と観客を称え、“Super Scooter Happy”では、エアスクーターを空吹かし。4人の家族がスクーターに跨る仕草で舞台上を駆け回るのも妖しくカワイイ。続く“一心同体”ではまず観客と振り付けを確認。鏡を使ったMVが印象的な楽曲ということもあり、きゃりーと家族たちも左右対称なシンクロダンスで魅せる。赤いライトに沈み「こっちにおいで」と誘うきゃりーは、続けて光の花びらが散る中、ひとり舞台に残り“ゆめのはじまりんりん”を歌う。ステージから溢れる温かな光と揺れるペンライトの青。それは陽に揺れる青く透明な海の景色に似て、葉末の煌めきとビルの明かりをも背景に、イノセンスな歌声は甘く響く。そこから一転、“原宿いやほい”は生温い闇の中で蠢く重低音が観客の胸を擽り、振り上げる腕とコールが空気を揺さぶる。「次の曲が最後です!」という宣言には別れを惜しむ大合唱。それでもステージとペンライトの黄金の光が交錯する中、“最&高”で本編を締めくくった。
満場一致のアンコールに呼ばれ、民族衣装風の白いドレスに花束を携えて舞台へと戻ったきゃりーと家族たち。「最近は原宿デカリボン女のイメージとは違うことをすることも多い」と語るきゃりーは、これまで週刊誌に追われている時には“もんだいガール”のMVにパパラッチを出演させ、海で怪我をして8針縫った際には傷に顔を描いて「傷くん」と呼び、“一心同体”のMVに映しネガティブをポジティブに変えてきた。今公演では結婚を機にウエディング風の入場を行い、「これからもきゃりーにしかできないことをやりたい」と語った彼女。「炎上するときは炎上して、怒られたらすいませんって言う、そういう人生を歩んでいきたいと思います」その明るい言葉の裏には、ひとつの文化を背負い歩んだ12年間の重みと、ひとりのアーティストとしてステージに立つ足取りの強さが感じられた。アンコールで披露されたのは、1stシングル曲“つけまつける”と、フィナーレの定番曲“ちゃんちゃかちゃんちゃん”。ケルトの楽隊とダンサーたちを紹介しながら原点、変化、そして未来へ向かって歌い上げ、光の花畑のようなペンライトの輝きが夜空に散る中で、祝祭は幕を下ろした。「いつも心にファンタジーを!きゃりーぱみゅぱみゅでした!」
Text:安藤さやか
Photo:Aki Ishii
『祝・日比谷野音100周年 きゃりーぱみゅぱみゅ Special Live 2023 – Midnight Sun -』@日比谷公園大音楽堂 セットリスト
OP1. Blarney Pilgrim
OP2. John Ryan’s Polka
01. 良すた
02. チェリーボンボン
03. スキすぎてキレそう
04. キミに100パーセント
05. きみのみかた
06. もんだいガール
07. ファッションモンスター
08. すんごいオーラ
09. Unite Unite
10. 夏色フラワー
11. CANDY CANDY
12. にんじゃりばんばん
13. どどんぱ
14. きらきらキラー
15. きゃりーANAN
16. Super Scooter Happy
17. 一心同体
18. ゆめのはじまりんりん
19. 原宿いやほい
20. 最&高
ENCORE
01. つけまつける
02. ちゃんちゃかちゃんちゃん