■中でも一番時間がかかったのはどの曲でしたか？
真一 いしだあゆみさんの“ブルーライト・ヨコハマ”は、かなり歌入れに時間をかけましたね。というのも、アルバム収録曲の中で一番最初に歌入れに取りかかったのがこの曲だったので、当時はキー設定から歌い方の表情の付け方も含め、いろいろなテイクを試みながら、何が一番映える歌い方なのかなど、いろいろと試していきました。結果、それを時間をかけてやったことで、このアルバムを通しての表現方法の方向性が見えてきたので、そこからはどんどん歌入れやそれに伴う楽曲のアレンジも進めやすくなりました。
■アレンジは最初から作り込んだ形だったのでしょうか？
真一 最初の歌入れの時点で、それなりには完成させていましたね。その上で、似合う歌い方を探しながら、アレンジもよい形に変えていった形でした。
松川 いろんなアレンジを試していく中で、なかなか視点が定まらなくなった時、「こういう時はヴォーカルとピアノだけの原点に戻ろう」と。
■とくにアレンジ面で苦労した楽曲もよければ教えてください。
真一 先にアレンジの方向性が一番見えていた楽曲をあげると、それは美空ひばりさんの“真っ赤な太陽”でした。この楽曲は、最初から「歌とピアノで真正面からガチンコで真剣勝負しよう」と決めて向かった結果、自分たちの予想以上に良い楽曲に仕上がりました。一番アレンジ面で苦労したのは、“イミテイション・ゴールド”ですね。アレンジの方向性を決めるためにと、いろんなリズムを試したり、さまざまな音を入れてみたり、それこそEDM的なアレンジも試してみたりと、試せば試すほど方向性が見えなくなっていって……。結果、さっき松川が言った「原点に戻ろう」という姿勢に立ち返り、歌とピアノだけというシンプルなアレンジに落ち着きました。
■“イミテイション・ゴールド”の歌詞は、とんでもなく早熟ですよね。
松川 山口百恵さんというビッグスターがあの楽曲を10代で歌っていたという。僕らはリアルタイムでその時代のことがわからないからこそ、“イミテイション・ゴールド”を通して、「あの頃はそういう女性の人たちもいたのかな？」と想像を巡らせてしまいますね。
■“真っ赤な太陽”は、かなり嬉しいインパクトを与えてくれますね。
真一 “真っ赤な太陽”はとてもインパクトの強い曲ですし、今回のカバーアルバムの核となる楽曲なので、松川ジェットを象徴する曲として1曲目に持ってきました。その次に“人魚”に続く流れのインパクトもそうですが、この冒頭2曲で、松川ジェットが描き出す世界観が一気に見えて、そこから松川ジェットの世界観へとどんどんのめり込んでいけると思います。
■完成した今回のアルバムについて、今、どんな手応えを覚えていますか？
真一 最初に想像していたよりも、数倍素晴らしい作品ができたと自負しています。
松川 確かに思っていた以上に良い作品ができたなというのが第一印象ですね。自分らの予想を上回る化学反応が生まれた作品ですし、「これが松川ジェットです」という判子を一つ押せたようなアルバムになりましたね。
■今後もこのシリーズは続けていくのでしょうか？
松川 もともとカバー曲を演奏することから始まったデュオなので、カバー曲を演奏することも、形にしていくことにも抵抗も違和感もないんですけど、今回は女性楽曲のカバー作品だったこともあり、次は男性楽曲をカバーするのか、いろんな楽曲をまとめあげるのか…現状は未知数なんですけど、このアルバムを作り終えた時、ふっと「松川ジェットとしてのオリジナル曲も作ってみたいな」と思ったんですよね。
真一 この感覚を持ってオリジナル曲ができるのはいいよね。すでに今の松川ジェット自体が、独自性のある音楽を形作れていると思えているからこそ、今のやり方をオリジナル曲へ落とし込んでも新鮮な楽曲として成立すると自分でも思えるし、ぜひ挑戦してみたいですね。
■オリジナル曲も郷愁を呼び起こす、どこか”いなたさ”や”昭和の臭い”のする楽曲になりそうでしょうか？
松川 そうなるかも知れないです。これも構想として思い浮かべていることですが、松川ジェットとして、ディナーショーをやってみても似合うのかなと思っていて。むしろ、LACCO TOWERではやらないことを松川ジェットでやるのはぜんぜん有りだなと思っています。もちろん、ライブハウスでやるのだって有りですし、枠にとらわれず、いろんな表現のスタイルを取っていくのも良いですよね。
■楽しみにしています。最後に、改めてアルバム『彼女の出来事』について、ひと言ずつお願いします。
真一 僕らは唯一無二の音楽ができたと思っているので、松川ジェットのアルバム「彼女の出来事」を聴いていただき、原曲を知っている方は聴き比べを、知らない方は原曲にも触れもらって、その違いを楽しんでみてください。
松川 松川ジェットという新しいユニットの門出の一枚になりました。LACCO TOWERファンはもちろん。LACCO TOWERは知らないけど楽曲は知っているという方など、世代を超えていろんな方々にこのアルバムを伝えたいなと思っていますし、こういうアーティストがいることにぜひ気付いてもらえたらなと思います。
Interview & Text：長澤智典
PROFILE
LACCO TOWERの松川ケイスケ（Vo）と真一ジェット（Key）による2人組ユニット。2008年、真一ジェットがLACCO TOWER加入前に、松川から声を掛け、カバーユニットとして不定期にライブ活動を行う。2018年より本格的にライブ活動を始める。2021年7月「松川ジェット」として、カバーアルバム『彼女の出来事』でメジャーデビュー。
https://columbia.jp/artist-info/matsukawa-jet/
RELEASE
『彼女の出来事』
COCP-41501
￥3,300（tax in）
日本コロムビア
7月28日 ON SALE
