「まだ10年。でも、もう10年。」──ナノが歌う思い出、現在、そして未来。
ナノが2月8日にニューアルバム『NOIXE』をリリース。クールで激情的な歌声と“洋楽っぽく歌ってみた。”シリーズで2010年代のネットを盛り上げたナノは、2022年でデビュー10周年。今作にはアニメ「真・進化の実~知らないうちに勝ち組人生~」「ヒューマンバグ大学 -不死学部不幸学科-」の主題歌や、DEMONDICE、KIHOW(MYTH & ROID)らとのコラボソング、盟友__(アンダーバー)がデビュー10周年を祝福するナンバーに、アニメソングの英語カバーも含まれる。今回のインタビューでは、アルバム制作やレコーディングの裏話、コラボアーティストたちとの出会い、楽曲に対する想いが語られた。
■ナノさんのニューアルバム『NOIXE』は、「あの頃のインターネットを最高にしてくれた人たちが集まってる!」という作品だと思います。ナノさんもデビュー10周年ですね。10年前と一番変わったことはなんですか?
ナノ 音楽をやって学んだことや、経験したことに代わるものはなくて、超えるものも無くて。人間として強くなれたことが一番かなと思います。音楽が無かったら未だにドン底のよわよわ人間で……悩んでいる時や疲れている時、苦しんでいる時に音楽と出会い、自分から音楽が始まって、こうして強くなれたことが有難いと思っています。
■逆に変わらない部分はなにかありますか?
ナノ それも全く同じで、人間としてはとくになにも変わっていません。10年前に目指していたもの、大切にしていたものは変わらずだし……。だからすごく変な感じです。気持ち悪いです。(笑) 10年という節目に立って、変わっていないものと変わったことが混在していて、どっちなんだろう?」という感じですね。20年後になったらきっと変わるんだろうけど、10年って意外と短いような感じがします。子どもの成長で言ったら「10歳になった」ってくらいで、まだ大人になったわけでもないし。ナノの音楽もまだ10歳なので、「ここから大人になっていくんだな」という感じです。
■「まだ10年」ですか?「もう10年」ですか?
ナノ まだ10年。でも、もう10年。(笑) でもまだ10年には感じないかもしれないですね。好きな事をずっとやってきているので、辛いだけじゃないというのが大きいかもしれません。
■ナノさんは音楽のために来日されましたが、海外と日本とでは何が違うんですか?
ナノ 小さい時から音楽が好きだったんですけど、歌手という職業に気付いて魅力を感じたのが邦楽やアニソンだったんです。歌手を選んだのは、人前に立って人を楽しませることが好きだったからで、歌は武器ですが、歌うためではありませんでした。それに海外って、アメリカとかは特にそうなんですけど、歌手は「歌を歌うための職業」なんですね。だけど日本って、歌手がいろんなことをやるじゃないですか。その方がいろんな人を楽しませられて、かつ自分の性にも合っているなと感じて、自然と日本でやりたいと思うようになりましたね。
■つまり「邦楽の音楽性に惹かれて来日した」というよりも、「歌手という職業をやるために日本に来た」という感じですか?
ナノ 海外では歌手のことを「シンガー」とか「ミュージシャン」と呼びますが、「アーティスト」とは呼ばないんですよ。でも日本では、芸術をやる人は誰でも「アーティスト」になるじゃないですか。それってすごく素敵だと思います。アメリカはその点が厳しくて、全てを歌につぎ込んで、相当なレベルじゃないと勝負できないし……だけど日本だと、もうちょっと自分らしく好きな事ができます。それこそアニソンなら、全世界に発信できるじゃないですか。それってすごく強いなって。アニソンは自分にとって欠かせない道でした。
■人生を変えた1曲ってありますか?
ナノ こういう曲めちゃくちゃカッコいいなって思ったのは、1曲に限らないんですけど、アニメ「名探偵コナン」の曲が大きいです。いわゆる「ザ・アニソン」じゃなくて、普通のバンドやグループが曲を歌っているというのが目から鱗でした。「名探偵コナン」に出会っていなかったら、ちょっと違う人生になっていたかもしれないですね。
■今作の中にも1曲「名探偵コナン」の主題歌“TRUTH〜A Great Detective of Love〜”が入っていますね。
ナノ あれは夢のコラボでした。自分は「名探偵コナン」の初期からのファンなんですけど、カバーのお話を頂いた時は信じられなかったです。この音源はアルバム用に制作したのではなく、TWO-MIXのトリビュートアルバムで歌唱したものを自分のアルバムにも収録しています。
■そういえば、先ほどの「ミュージシャンとアーティスト」の話にもつながりますが、この“TRUTH〜A Great Detective of Love〜”も、声優の高山みなみさんが作曲されているんですよね。
ナノ そうなんです。ホントに嬉しいことなんですけど、TWO-MIXの永野椎菜さんが(ナノ歌唱の)“TRUTH〜A Great Detective of Love〜”の出来を直接絶賛してくれて……。椎菜さんはいい人なんですけど、すごく面白い人なんです。みんな椎菜さんのTwitterフォローすべき。(笑)
■今作ではたくさんのアーティストとコラボされていますが、この顔ぶれはどうやって決定したのでしょうか?
ナノ 「とにかく自分が一緒にやりたい人、リスペクトがある人」です。ぶっちゃけ言うと、いろんな方面からお誘いする方法はあるんです。変な話、例えば「この人と一緒にやれば沢山の人に聴いてもらえるんじゃないか?」とか。でも今回はホントに自分がリスペクトしていて、「ホントかっこいいな」と思える人とやりたいなって思いました。過去にコラボしたことがある人もいればニューフェイスもいるし、両方がいるからこそ、10周年の深みがあるアルバムになったかなって。
■ヴォーカル参加のDEMONDICEさんとKIHOWさんは(アルバム音源としては)初コラボですよね?
ナノ DEMONDICEさんと初めてご一緒したのは、ハワイでの日本のカルチャーイベントみたいなところでした。お恥ずかしながら自分はその時に初めてDEMONDICEさんのことを知ったのですが、ぶったまげたのはサイン会の列がえげつない長さになっていたことで……。(笑) DEMONDICEさんはネットで活動している「今」の人なんですよ。自分は10年前からやっているから、ちょっと「前」の感じがして。なので、DEMONDICEさんを見て「今っぽい!」と思いました。
■人気ですよね、DEMONDICEさん。
ナノ DEMONDICEさんとのコラボは、今までの自分の「正しい」という概念を変えてくれました。「今の人たちってこういうものを楽しんで聴いてるんだ」とか、「もうちょっと研究しなきゃダメだな」とか。今は何が流行っていて、若い世代が何を好きなのか、もうちょっと視野を広げないとダメだなって、冷たい水をぶっかけられたような気持ちです。それプラスDEMONDICEさん本人もめちゃくちゃカッコいいし。自分はラップとロックがすごく合うと思っていたんですが、DEMONDICEさんに声をかけてみたら「私もラップとロックを融合させたものをやりたいと思っていたんですよ!」って、コラボを快諾してくれました。
■KIHOWさんとのコラボはいかがでしたか?
ナノ KIHOWさん本人の個性やアーティスト性、全てが唯一無二で、本人にしかできない、なれない物を感じました。そういう人こそ一緒にやってみたいって思うんですよね。「彼女じゃないとこの曲は成り立たない」っていうようなものを作りたいと思っていました。プライベートでもすごく仲が良くて、ただただ嬉しいコラボになりました。
■プライベートでのお2人はどんな感じなんですか?
ナノ お互いに割りと似ていてすごく人見知りだったりもするので、気を遣わずに連絡できるというか……。KIHOWさんは10年以上前にニコニコ動画で“magenta”を聴いてファンになったと言ってくれて、すごく驚きました。日本国内でのアニメイベントのステージでコラボしたり、海外でご一緒したり、接点がいろいろとあるんですよね。ご飯も一緒に行くし。ただKIHOWさんはめちゃくちゃホラー映画が好きなので、そこだけは避けて通っています。(笑)
■ホラー映画が好きな方って「一緒に観よう!」って誘ってきますよね。(笑) 今回のアルバムでは“We Are The Vanguard with DEMONDICE”で、DEMONDICEさんがラップ詞を書かれていますが、お2人でご一緒に作詞されたのでしょうか?
ナノ 最初に自分が作詞をしてテーマを決めて、後からDEMONDICEさんにテーマを伝えて、「お任せします!」って言いました。ラップ詞は一切ノータッチで、よっぽどな言葉が入っていなければNGを出すつもりは無かったのですが、DEMONDICEさんはレコーディング当日に「タクシーの中で仕上げてきました!」って。(笑) それを聴いてみたら、良い意味で「どうしよう……!」ってなっちゃって。最高で完璧な仕上がりになりました。リテイクはナシです。
■ナノさんの楽曲制作は詞が先ですか?曲が先ですか?
ナノ ほとんどが曲先行です。曲って作曲家さんの魂も入っているものだと思うんです。自分が作詞・作曲する場合だと歌詞からになるんですけど、誰かに曲を提供していただく場合、100%「こうしてください」と指定するのは窮屈だと感じます。曲から作曲家さんの魂を汲み取って、自分の世界観に融合するのがすごく気持ちいいので、それをいつも大事にしています。それで作曲家さんの意図と全然外れていることもあるかもしれないけど、答え合わせはしません。(笑)
■答え合わせしてみて全然違ったら怖いですもんね。(笑) 今作も曲が先にできていった感じですか?
ナノ 今回は事前に「こういう曲をやりたい。アルバムのテーマはこんな感じで、この曲はぜひこういう世界観を……」と、お願いしてデモを作成していただき、ほぼそのままでした。作家さんの魂が込められた、そのままになります。“We Are The Vanguard with DEMONDICE ”は、仮歌入りのほとんど完成状態で来たので、「えっ?このまま出せるんじゃ?」と。(笑) でも、どうやったらナノとDEMONDICEがこの曲をより良いものにできるのかという時、そこは「歌詞」で表現できるなって思いました。
■今作の制作で苦労したことなど、印象的な出来事はありましたか?
ナノ 一番苦労したのは歌かもしれないですね。10曲目の“Circle of Stars”は、ぶっちゃけ言うと、自分が得意としないジャンルというか、こういう爽やかなJ-POPっぽい曲ってあまり今まで歌ってこなかったんです。そこの表現ですごく悩みました。優しく、でも自分らしく、という所をすごく悩み、レコーディング当日にはマネージャーに「すごく緊張しています……自信ないです」って言いました。(笑)
■そんなにですか!?
ナノ 作曲のSUNNYさんにも「10年間歌ってきましたけど、アマチュアみたいに扱ってください!」って、ボーカルディレクションをお願いして。歌に対する初心を思い出して挑めたので、新たなナノが出て来たというか、そういう気付きはありました。
■8~10曲目の流れが、“光のナノ”という感じですごく好きです。__(アンダーバー)さんとコラボした9曲目の“A Nameless Color with __(アンダーバー)”にはセリフが入っていますが、どなたのアイデアだったのでしょうか?
ナノ もともと作曲してくれた蝶々Pさんのデモにはセリフは入っていなくて、最初はただの空白でした。この“A Nameless Color with __(アンダーバー)”という曲は、10年以上前に__(アンダーバー)さんとコラボした“第一次ジブン戦争”をリスペクトしていて、ラップ部分のメロディをそのまんま持ってきたら、パーフェクトにハマったんです。だから歌詞だけ変えて入れたら、奇跡のパズルが完成した感じでした。
■この曲は、歌詞も「ネットに音楽を投稿して時代を切り開いた人たちの歌」みたいな感じで胸アツです!
ナノ まさにその通りですよね。「この界隈」の思い出や、__(アンダーバー)さんとの出会いへの感謝の気持ちを込めた歌詞なので、家で聴いていて、恥ずかしいんですけど、気付いたらボロボロ涙が出ていました。このアルバムの中でいちばん思い出の涙がぽろぽろする曲です。古いアルバムを見て、「ああ、マジで最高……!」って思っているような曲なんだけど、未来へ向けて進んでいる感覚も入れました。