ナノ VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

■9曲目から10曲目にかけての「未来に向かって走り出す」感じが好きです。どちらもとてもいい曲ですよね。

ナノ “Circle of Stars”は一切闇の無い曲にしました。アルバムの最後に「自分が一番感謝を伝えたい人は誰だろう?」と考えた時、リスナーさんやファンのみなさんが浮かんだんです。自分のファンクラブの名前が「Circle of Stars」でして、ファンクラブ用の歌というわけではないけど、ファンには「これ私たちのための曲なのかな?」って思える感じが欲しくて。とにかくただただ「ありがとう」と歌詞を書きました。

■対して、1~7曲目はいつものナノさんらしい色を感じます。今作の大きなテーマは何ですか?

ナノ タイトルそのままなんですけど、『NOIXE(ノイズ)』は悪い意味でのノイズではなく、「いろんな音が合わさって完成するもの」だと思っています。このアルバムも自分の人生と同じように、バラバラな音が組み合わさって初めてメロディができています。曲はバラバラな音や楽器が組み合わさってできていますが、人生もそうですよね。このアルバムもいろんな音や経験や夢でできているものなので、テーマにとらわれず、ただただ自分がやりたいことや、納得するものしか入っていない自信が100%あります。過去も現在も未来もあるし、不安もナルシストな自分もいるし、大胆な自分もいれば、負けた自分もいるし……。包み隠さずいろんな部分が入っていると思います。

■私は今作を聴いて、「Fighter」なナノさんを一番強く感じました。

ナノ 自分の心は“Heart of Glass”みたいにガラスの心な部分もあるんですけど、ここまで10年間来れたってことは、強い方が勝っているからだと思うので、最終的には「Fighter」な自分が強いんじゃないかなと。

■“Heart of Glass”すごくいい曲でした。

ナノ “Heart of Glass”は、すっごくパーソナルなところから来ている曲です。そういう所を見せなくてもいいような内容なんですけど、逆に言うと、それがミュージシャンやっている醍醐味だと思います。自分の弱さを曝け出して曲にして、誰かの力に変えられる。ただ曝け出すところで終わっちゃうんじゃなくて、「もしかしたらどこかで誰かの力になるのかも」と思うと、全ての苦しみや弱さって意味があるんじゃないかなと思えるんです。

■自分の弱さが誰かのためになるのは、アーティストの特権みたいなところがありますよね。個人的には“FIGHT SONG”も好きでした。サッカーのチャント(応援歌)のような部分がカッコいいです。

ナノ “FIGHT SONG”は打ち合わせの時、「ものすごくパワフルでライブでみんなが盛り上がれるような曲が欲しい」という話をしました。作曲した堀江晶太さんは元々ボカロPからキャリアが始まっているんですけど、このあいだ話した時「この10年間で変わったことは、自分でバンドをやりだしたことで、ライブをやっていると曲も歌詞もライブを想定して書くようになってくる」と言っていたんです。

■わかります。多くのバンドがだんだん意識していくところでもありますよね。

ナノ ライブをやっていると、自然と楽曲にコール&レスポンスやコーラスを入れがちです。「みんなの声が聞きたい」っていう、こっちの願望なんですけどね。(笑) 今はコロナ禍でお客さんの声が聞けなくなったので、ただただまたみんなの声が聞きたい。曲の中に「無理やりでも歌わせるぞ」ってパートを作れば、「コロナが明けてライブで声が出せる時になったら、絶対にお客さんも歌ってくれるでしょ」という夢と希望を込めています。“FIGHT SONG”、“Let‘s Make Noise”、“A Nameless Color with __(アンダーバー)”には、お客さんが一緒に参加できる部分をわざと作りました。

■今からライブが楽しみですね。今作ではタイアップ曲として“Evolution(アニメ「真・進化の実~知らないうちに勝ち組人生~」OP)”と、“CATASTROPHE(アニメ「ヒューマンバグ大学 -不死学部不幸学科-」OP”が収録されていますが、コメディタッチのアニメ本編に対して、楽曲がとてもシリアスで意外な印象を受けました。

ナノ 一瞬ちぐはぐに思う感じが面白いなと思っています。「作品はコミカルなのに、曲だけマジでカッコイイ」ってほど面白いことはないと思うし、オイシイじゃないですか。(笑) あと、「進化の実」は2シーズン目なんですけど、スタッフさんから「今シーズンはちょっと大人っぽくカッコよさを演出したいから、カッコいい曲にしたい」という注文があったので、だからナノに声をかけてくれたのかな?というのがあったし、作品を観ていると曲が馴染んでくるんだろうなって思います。

■コメディアニメでもシリアスなOPテーマってありますよね。タイアップ曲は作品の資料をもとに作るのでしょうか?

ナノ 「こういう作品です、こういうキーワードを入れて欲しいです」というのがあり、そこから作っていきますが、タイアップとはいえ自分の楽曲なので、自身の過去や経験、込めたい思いを込めています。今回はホントにマッチしたというか、自分の2023年のキーワードが「進化」なので、1発目の曲としてはこれ以上ない曲です。

■これまでで一番苦労したアニメ系のタイアップソングは何ですか?

ナノ “No pain, No game(アニメ『BTOOOM!』OP)”は、自分にとって「これはガチで勝負しなきゃいけないな」と悩んだ曲です。作詞自体は1日で終わったのですが、自分は曲に相応しいアーティストになれるかどうかというステップアップになったので、いろんな方面から見ても“No pain, No game”は巨大なマイルストーンです。あと、“SAVIOR OF SONG”はコラボ曲だったので、どういうふうにぴったりな世界観の歌詞を書くかが難しかったです。“SAVIOR OF SONG”は2人で歌う世界なので、これまで自由に自分が歌いたいように歌詞を書いていたものを、Hiro(MY FIRST STORY)とのコラボとして作詞するとなった時の悩みがありました。

■話は変わって、今作のdisc2にはアニメソングの英訳カバーが収録されていますね。この選曲となった理由を教えてください。

ナノ 単純に海外のアニメファンが大好きな曲、かつ自分も大好きな曲たちです。英訳しているのは単に英訳が得意だからというわけじゃなくて、海外の人たちに日本詞の良さを伝えたいからです。こういう時は海外の人たちが喜んでくれる選曲じゃなきゃなと思っています。

■ナノさんの英訳カバーは「もしもこの曲が海外で作曲されていたら」というIF世界からやってきた感じがして面白いです。

ナノ 洋楽っぽく聴こえるかは、歌い方だけではなく歌詞も大きくて。直訳された英詞は邦楽っぽさが抜けきれない所があります。それを感じられるのはアメリカで生まれ育った特権だと思っているので、この曲を初めて聴いた人たちが邦楽だと知らずに聴けるかどうかというのを大事にしています。

■英詞と日本語詞で微妙に変わっている所を見つける楽しみもありますよね。“God knows…”でその変化に気づいた時には嬉しくなりました。

ナノ 歌詞は変わっていても意味は変えていないんですよ。同じものに対しても、英語と日本語で表現が違ったりするじゃないですか。そういうものはちゃんと表現したかったし、ネイティブな英語圏の人が読んでも変に思わないようにしています。あと、歌っていて気持ちいいというのも大事なので、難しいんですけど、歌った時の節回しが不自然じゃないかも大事です。英訳ってめちゃくちゃ難しいんですよ。

■今作では、幾つも「なるほど、こう訳すか!」という部分がありました。

ナノ 映画の字幕と一緒で、訳す人によって全然印象が変わるんです。全然セリフが違ったり、「自分だったら絶対そんな訳にしないな」とか思ったり。それについては、良くも悪くも「詞は詞」なんです。芸術に正解はないので、美しいものを美しいととらえるかは人それぞれじゃないですか。だから、自分が美しいと思えるものを表現したいというのがあります。

■カバーの際は原曲からアレンジを変えるのは何故ですか?

ナノ 変えるといっても大幅に変えているわけではなく、本人(原曲)へのリスペクトを保ちながらです。全く違うものになってはいけないタイプの曲もありますし。ちゃんと本家様の許可を頂いてのアレンジになっているので、そこは大事にしています。ただ、例えば“God knows…”はほぼほぼ原曲なんですけど、ちょっとナノらしいシンセ音をロック感を足すために入れちゃったりしています。“リライト”に関しては後藤正文さんがOKしてくれたみたいで、結構がっつりアレンジさせていただきました。

■“Rolling Star”はアレンジが重くてカッコよかったです。

ナノ “Rolling Star”では、洋楽パンクロックのアヴリル・ラヴィーンや、ケイティ・ペリーのような「ガールズなんだけど、日本人には無いロック魂」みたいなのを表現したくて。ライトよりロックンロールな感じで、中西航介さんと一緒に作りました。こうやってカバーすることによって「原曲マジ半端ねェ!」と思います。“深い森”なんて一番そう思いました。

■最後に2023年はどんな1年にしたいですか?

ナノ 今年は始まってからずっと楽しんでいる気がします。ライブもずっとやっていて、しばらくは続きますし、ようやくライブができるという喜びもあるし。あとはこのアルバムが完成したので、しばらくはこのアルバムを背負って、新たな自分、新たなパワーをみんなに届けていきたいので、栄養剤が増えたというか、出会いも増えて行くだろうなと思っています。「未来」をすごく感じています。楽しみです。

Interview & Text:安藤さやか

PROFILE
アメリカ・ニューヨーク州出身。卓越した歌唱力と、日本語と英語を使い分けるバイリンガルシンガー。2010年よりYouTubeなど動画サイトに洋楽等のカバー楽曲の投稿を始め、2012年3月にアルバム『nanoir』(ナノワール)でデビュー。これまでにアニメを中心に数々のタイアップを担当。国内ではZeppツアーを開催するなど、ライブ活動の幅を拡げ、2015年以降は、海外ワンマン公演やアメリカや国内外の音楽フェスに数多く出演。2020年には自身初となるベストアルバム『I』を発売し、同年には配信ライブを実施。日本のみならずアメリカやメキシコ・チリ・ブラジル・ペルーの他、台湾・シンガポール・インドネシアなどのアジアからフランス・ドイツ・イギリスなどヨーロッパまで多くの国のファンから視聴された。YouTubeのオリジナルコンテンツの総再生回数は1億回を超えている。その人気は留まる所を知らず、その歌声に、国境はない。
https://nanonano.me/

RELEASE
『NOIXE』

(2CD)
COCX-41945
¥4,400(tax in)

日本コロムビア
2月8日 ON SALE