TAEYO VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

結構寄り添った気でいるというか。今までで一番分かりやすく、聴きやすくしたつもり。

TAEYOがメジャーセカンドアルバム『Sky Grey』をリリース。1stアルバムから約1年ぶりのアルバムとなる今作は、多くの楽曲のデモを石垣島で制作したという。それまでと雰囲気を変えた広がりのあるサウンドと、メロディックなボーカリゼーションは、TAEYOの今年の気分や状態を色濃く反映した作品となっており、同時に聴き心地のいい楽曲の揃ったアルバムとなっている。
今回のインタビューでは、その制作期間で感じたことや、リリックに込めた思い、アーティストとしての最近のスタンスなどをTAEYO本人にたっぷりと訊いた。

■前作のアルバム『Pale Blue Dot』のリリースから1年と少しですが、今回のアルバムリリースまでの期間はTAEYOさんにとってどういう期間でしたか?

TAEYO アーティストとしてのというよりは、1人の人間としていろんなことを整理していた時期でした。今年の1月に石垣島でデモを作っていて、東京に戻って来てから自分のことをいろいろと整理していて。そうしたら精神的に不安定になってきちゃったので、今年の前半はそんなに効率的に制作できていなくて……。石垣でいいデモは出来たんですけど、東京に帰ってきたら都会の空気とかいろんな差にやられたりしたんですよね。実際、外出することもあんまりなくなって、同じ人としか会わなくて。クラブとかにも行かなくなったし、結構家にこもっていた時期ですね。それで夏くらいから段々少しずつ元気が出てきて、それから制作していったっていう感じです。

■制作する間に結構浮き沈みがあったんですね。それはご自身から見て本作の作風にも影響していると感じますか?

TAEYO そうですね。タイトルの「Grey」っていう言葉もそういうモヤモヤした感じを表しているというか。楽曲にしても、元から今までで一番歌詞が聴こえるように作ろうという気はあったんですけど、不安定だったことによって、もっと裸になる部分がいっぱい出てきた作品でもあります。

■石垣島に行ったというのは、アルバムを作るために行ったんですか?

TAEYO そうですね。『Pale Blue Dot』と同じ作り方してもなぁっていうのがあって。『Pale Blue Dot』みたいな自分のやりたいことや、できることの質を高めてやっていくのはいくらでもできると思ったので、それよりも別の方向に変えてやってみたくて。それはプロデューサーのstarRoとか制作に入ってくれた人たちも同じ意見だったので、「1回制作環境を変えてやってもいいな」っていう感じでした。

■石垣島で制作をしてみていかがでしたか?

TAEYO なんか良かったですよ。starRoは海外とかいろんな拠点で制作する意味とか、その価値観をめっちゃわかっている人なんですけど、石垣に行ってそれをすごく体感できました。2週間くらいいたんですけど、現地のものを食べて、飲んで、細胞単位で順応して出てくるものから作るっていうやり方をしたのは初めてで。今回はたまたま石垣だったんですけど、めっちゃ合っていました。結構完璧でしたね。

■石垣島に行った時点では、アルバムについてのビジョンはどういうものがあったんですか?

TAEYO さっき言ったように『Pale Blue Dot』とは別のことをするっていうのと、『Pale Blue Dot』はすごくいい仕上がりだったんですけど、ちょっとヘビーだったんですよね。サウンドも尖っているし、普段何気なく聴けるものではあんまりなかった。だからサブスクの再生回数とかが回る要因にはならなくて。今回はサブスクを回してみたいなっていうところで、とにかく何回も聴きたくなるような、気持ちいいフレーズだけがずっと繰り返されているみたいなのを目指したくて。普段聴いているような、「USとかUKのポップスとかR&B、ヒップホップとかが混ざったプレイリストにも入れられるような曲を作ろう」っていう感じでした。制作方法もフロウだけ2、3時間くらいずっと歌詞をいれずに録っていって、いいフロウだけを後から切り取ってサンプルにするみたいな感じでした。それが結構効率的で、石垣でデモが20曲近くできて。でも東京に帰ってきたら歌詞が書けなくなっちゃったので大変でしたね。2月くらいから最近までずっと歌詞を書いていたっていう感じです。

■歌詞を書いていく作業はどういうとっかかりから書いていったんですか?

TAEYO starRoとやっている曲は、全部石垣で作ったデモからできた曲なんですけど、石垣にいる間にたまたま気絶しちゃった日があって。“Pass Out”とか“Wake Up”は、それからできた曲でしたね。あとは石垣にいる間に楽曲のテーマとか、曲の色のイメージをメモしていたので、なんとなくそこから考えて書いていきました。でも東京に帰ってきてからはアップダウンがあったので、それをそのまま書いているのが多いかもしれないですね。「モヤっとする」とか、「失う」とか。そういう精神の不安定さがなかったらこの歌詞は書けていなかったと思います。でもそれもそのまま書くって言っても結構時間がかかって。この言葉をカッコ良くするのって難しいじゃないですか、ビートがカッコ良かったとしても。何回も書き直して、録ってみて、それでも気持ち悪かったらまた録り直すみたいなのをずっとやっていました。でもいい意味でひっかかりのあるワードが欲しかったので、それは上手くできたかなと思っています。 

■歌詞に向き合う時間も長かったんですね。

TAEYO そうですね。今までで一番時間がかかっちゃいましたね。自分が納得するまでも時間がかかったし、周りにいる友達とかにも聴かせたてみたりとかして、何回も反応を見て作り直したりもしましたね。

■例えば“Slide”や“Motivation”の歌詞と“Same Tat”の歌詞は、性質が違うような印象を受けたのですが、それはいかがですか?

TAEYO starRoとの曲以外は割りと最近作った曲なので、だからかもしれないですね。作り方も違ったので。“Dive”と“Same Tat”に関しては、Droittteっていう人と作っていて。最初アルバムに入れる予定ではなかったんですけど、ビートを聴いて家でじっとしてる時に、すっごいスパークした日があって。バーッと歌詞を書いて、“Dive”と“Same Tat”両方の歌詞がすぐに書けたんですよね。それで「これめっちゃ良い曲になるから録りたいです」ってすぐ連絡して、勢いで録ったんですけど、そこからめっちゃブラッシュアップしていって。じっくりと時間をかけて高めていきました。“Dive”とかはわざとこの感じにしているというか、ちょっとヒップホップシーンに投げてみようかなっていう感じで。「みんなこういう曲好きだろうな」って思って作った感じです。

■CELSIOR COUPEさんとの“All For You Ⅱ”は、『Pale Blue Dot』に収録された“All For You”の続編として書かれたものなんですか?

TAEYO いや、後付けですね。CELSIOR COUPEとは結構会っていて、曲を作らなくてもスタジオに一緒に遊びに行ったりして、話を聞いてもらったりもしていたんです。この人はジムのトレーナーの資格も持っているから、そういうアドバイスとかももらっていたんですけど、「曲を作ってみよう」って言って、やりたいノリで一緒にビートから作っていって。曲的にあんまり日本語で歌う曲じゃないなって思ったので、デモの段階で「All For You」っていう言葉をつけていたら、もうそれしかハマらないなと思えてきて。(笑) 前の“All For You”もCELSIOR COUPEとの曲だし、もうこれでいいか」って作った感じです。アルバムのイントロ的な感じで聴いてくれたらいいかなと。

■そうだったんですね。6曲目の“Sky Grey”はアルバムタイトルにもなっていますが、アルバムの中心となるような楽曲ですか?

TAEYO そうですね。最初はこのタイトルじゃなくて、アルバムのタイトルを『Sky Grey』に決めてから、この曲も同じタイトルにしようと思ったんです。これが一番このアルバムを象徴しているかなと思って。作った時にすごい気に入ったんですよ。“Sky Grey”は特に「なんだかモヤっとする」っていうワードが一番最近のムードとか今年の感じとか、このアルバムにハマったかなと思います。特別な曲っていうわけじゃないんですけど、言いたいことも言っているし、曲の構成も結構気に入っていますね。

■「モヤっとする」っていうのは、具体的にどういうものに対してっていうのがあるんですか?

TAEYO いや、具体的なものはないです。もう全部ですね。ずっとモヤモヤしていたなって。今までの人生で、あんまりそういう年はなかったので。コロナの時とかも大変でしたけど、ここまで落ち込んだ1年はなかったので、あえて言うならそれですかね。今までで一番ヘコんでた。いろんな業界だろうが、政治だろうが、経済だろうが、どこを見ていても同じような問題がめっちゃ起きていたし、戦争のこともそうですし。「なんか違くね?」みたいなことがすごく多くて。「なんかズレてない?」みたいな。みんなめっちゃ嘘をついているし。でも「なんだかモヤっとする」っていうのは、単純に言葉として面白いからっていうのもあります。このメロディにハマる言葉をずっと探していたんですけど、starRoに引き出されてやっと出たっていう感じでした。

■歌詞を書いていく段階でもstarRoさんとやりとりすることは多かったんですか?

TAEYO そうですね。「こうした方がいい」とかは言われていないですけど、僕の正解が定まっていなかったので、書いている段階では結構いろいろと相談しましたね。「これってどうですかね?」って。

■特に「この部分は引き出してもらったな」という部分は他にもありますか?

TAEYO でも「なんだかモヤっとする」かもな。でも“Let Go”っていう曲が一番時間がかかっているんです。僕がいつも一緒にいる友達に、“Let Go”の歌詞の入っていないデモを聴かせたら、めっちゃ泣いていて。なんかそういうのが初めてで、これは中途半端な歌詞を書いたらデモを越えられないなと思って、ずっと歌詞が書けなかったんです。書いても書いても納得いかなくて、段々この曲が嫌いになってきちゃって……。「この曲、アルバムに入れられるのかな……?」って思っていたんですけど、本当にめちゃくちゃ落ち込んだ時に書けたんですよね。それでstarRoのところで歌入れした時にもすごい感動してくれて。その友達も「デモを越えた」って言ってくれていたし。これはstarRoにずっと付き合ってもらっていましたね。フックの「まだまだまだまだかな」とか、ハマる日本語がずっとなくて。「これどうですか?」って聞いた時に、「絶対いいよ!」って言ってくれて。何回も書き直して良かったです。レコーディングもめっちゃバッチリだったので、すごく気に入っている曲です。

■“Same Tat”は、以前の活動名を彷彿とさせるようなリリックもありますね。

TAEYO “Same Tat”は「同じタトゥー」っていう意味なんですけど、フックのリフレインがビートを聴いた時に浮かんで、そこから書き始めました。今まで結構抽象的な表現が多かったんですけど、なるべく分かりやすいように、誰にでも伝わるように自分の話もちゃんと書いているっていう感じです。