そもそも流れている音楽自体を、殺しや盗みを働く場面を想定して作っているわけではない。そういう曲たちが物語を通して使われることで、ぜんぜん違った解釈を持って聴こえてくる。その解釈を僕自身も楽しんでいました。
11月25日より、Netflixにて世界配信になるアニメ「スーパー・クルックス」。「スーパー・クルックス」とは、ジョニー・ボルトにスカウトされた超能力を持つヴィランたちが、最後の強盗に挑むクライムアクション。コミック界の伝説的存在であるマーク・ミラーとアーティストのレイニル・ユーによる同名のグラフィック・ノベルを原作とし、「キャロル&チューズデイ」の堀元宣が監督を務め、世界的に高い評価を得るボンズが制作を手がけた作品だ。同作品のテーマ曲と劇伴を担当しているのが、世界を舞台に活動している音楽家のTOWA TEI。彼の作り上げた楽曲を収録した「スーパー・クルックス」のサウンド・トラック盤『SUPER CROOKS (SOUNDTRACK FROM THE NETFLIX SERIES)』が、11月27日にリリース。同作品の魅力について話を伺った。
■TOWA TEIさんが劇伴を手がけるのは2作目になりますよね?
TOWA TEI 1曲だけの提供など、細かい形での接点はいくつかありましたけど、劇伴も含め全編へ関わったのは、松本人志監督の撮った映画「大日本人」以来になります。
■「大日本人」で関わって以降、あまり劇伴に積極的でなかったのにも、TOWA TEIさんなりの理由があるともお聞きしました。
TOWA TEI 多くの方々が僕という個性を中心に据えるのではなく、その作品の背景に似合う、いわゆる劇伴らしい音楽を求めてきた。もちろん作品として作る以上、それは当たり前のことかも知れません。だとすれば、世の中には劇伴を得意とする音楽家の方も多くいますし、そういう方に頼んだほうが良いかも知れない。僕がその作品の音楽を彩る意味を持てないのに携わることも、僕自身が信念を曲げてまで劇伴らしい音楽を作る理由が見当たらないこともあり、今まではそういうお話が来てもお断りし続けてきました。
■今回「スーパー・クルックス」の劇伴を引き受けた理由を教えてください。
TOWA TEI 一番は「スーパー・クルックス」を手がけた堀元宣監督の熱意に動かされたこと。堀監督は、僕が今まで作り上げてきた音楽についてとても詳しい方であり、「この場面には、このアルバムのこの曲がピッタリとハマる」など、僕にオファーしてきた段階で、すでに作品の中で使用したい楽曲のイメージを具体化していました。堀監督の中で作品と音楽との掛け合わせがはっきり見えていたことや、僕自身が『FLASH』以降のアルバムの原盤を保持していたことから、「そこまで場面ごとに使いたい楽曲が具体化しているのなら、僕の既存曲の中から似合う楽曲を自由に使ってください」とお伝えしました。その上で「作品として必要な音楽があるなら、それを作りましょう」と提案して。結果、既存曲の中から32曲を用い、今回「スーパー・クルックス」用に新曲を10曲作りました。
■そうだったんですね。
TOWA TEI 僕自身に関していえば、最初から新曲を40曲作るのではなく、必要な10曲へ深く集中できたことで、より曲の世界観を追求できた分、そこは良かったなと思っています。
■『SUPER CROOKS (SOUNDTRACK FROM THE NETFLIX SERIES)』へ収録した曲たちを聴いていて感じたのが、作品を彩る曲たち…ではありますが、普段のTOWA TEIさんのアルバム曲たちと同じように、1曲1曲が意味を持ち、深みを備えた曲として作り上げられていることでした。
TOWA TEI 僕自身「劇伴だから」という気持ちで作ってはいないし、あくまでもTOWA TEIという名前で出す以上は、僕の色が見える曲たちを作りあげています。もちろん、劇伴としての役割も担う以上、その場面に似合う音楽も作りました。たとえば、主人公のジョニー・ボルトが子供の時、自分の特殊能力に目覚めるシーンに似合う音楽が欲しいとリクエストを受けて作ったのが“AWAKENING”。名画に囲まれた家が立つ島に住む大悪党バスタードの姿からイメージして“BASTARD”を制作。そのバスタードが住む、苔が生えた島へ降り立つ時の音楽として“MOSS COVERED ROOTS”を作るなど、自分なりの解釈のもとで曲たちを作っています。
■書き下ろした曲たちの特徴としてあるのが、“JOHNNY”“KASEY”と題した、2人の登場人物をモチーフにした楽曲。その曲を軸に据えた上で、“KASEY REPRISE”のようにアレンジを変えた音楽から、他の楽曲の中へ“JOHNNY”や“KASEY”のテーマ曲のフレーズを巧みに盛り込むという作り方などもしていますよね。
TOWA TEI いろんな曲の中へ“JOHNNY”や”“KASEY”の印象深いメロディーや、音の要素を組み込んだりもしました。それぞれ印象深いメロディーを軸に据えていることで、楽曲のモチーフとして、いろんな風に広げやすかった面はありました。本当ならもっと広げた楽曲も作れたのですが、最初にいくつか作った楽曲を堀監督へ提示したところ、「これで大丈夫です」ということで、アルバムへ収録した曲だけで結果的には落ち着きましたが。(笑)
■既発曲の“ALPHA”と“SUGAR”を作品に収録したのは、「スーパー・クルックス」のテーマ曲という理由もあってでしょうか?
TOWA TEI そうです。最初に堀監督と打ち合わせをした時から、監督から「オープニングで“ALPHA”が流れたらカッコいい。エンディングテーマとして“SUGAR”が似合いそう」というお話を伺っていたので、「じゃあ、そのまま使いましょう」ということになり、リマスターした上でアニメでも使用し、作品にも収録しています。CD盤に同じく既発曲の“BROCANTE”と“RADIO (EDIT)”を入れたのにも理由があります。
■そこ、とても興味があります。
TOWA TEI “ALPHA”と“SUGAR”もそうですが、アニメの中で流れる既発曲の中から代表する楽曲を選んで入れようということで、“BROCANTE”と“RADIO (EDIT)”も選んだわけですけど、“BROCANTE”は、7インチ盤にしか収録していない音源であり、“RADIO (EDIT)”は、ビデオ用のエディット曲という、両方とも未CD化曲だったことから、既発曲を代表して選ばせてもらい収録しました。
■アニメの中では、新曲や選び抜いたTOWA TEIさんの楽曲を丸々使うのではなく、場面に合わせて巧みにエディットして使っている形ですよね?
TOWA TEI そうです。そこに関しては堀監督に一任しています。ただし、まだ線画でセリフがテロップで入っている未完成状態でしたが、絵と音のハマりは確認させてもらい、僕の方からも曲の使い方についての提案もさせていただきました。堀監督自身は、なるべく原曲のままに楽曲を使ってくれようとしてくださいましたが、アニメの中の会話をしている場面の背景で歌物の楽曲が流れていると、その歌が会話を邪魔してしまうという場面がありました。そこは、「この場面、歌声だけ抜いて曲のみを使ってください」とお願いをし、会話を生かす形にしてもらっています。
■そういうアドバイスもなさっていたんですね。
TOWA TEI 作品を彩る音楽である以上、その楽曲の一部のみを取り上げて使うのは当然のことだし、場面に合わせて、エコーを足して曲を終わらせたり、バシッと切ってしまうなんてことも当たり前に出てきます。それが嫌とかではなく、そこは僕自身も「こういう形で使われたのか」と楽しんでいたところで、あくまでもアニメのために音楽を提供した以上、そこは「ご自由に使ってください」という意識でした。