■次の9曲目“解き放て”は、ノリが良くてグルーヴィなベースがすごく気持ちいい曲ですね。
古市 実はレコーディングはこの曲からスタートしたんです。
■流れ的にいくと、ここまで聴いてきた今までの曲とはまたちょっと違ったテイストの曲だなと感じたんですけど……?
古市 そうですよね。最初はこういう曲から始まっていって、どんどんとポップな感じになっていったんですよ。
■ポップな曲を歌う時とは歌い方も変わりますか?
古市 やっぱりちょっと気だるい感じというか、そういうのを出したいなと思って歌っていますね。
■ラストの“Windy Day”も古市さんが作詞・作曲された曲ですが、これはバイクで走っている情景を歌っているんですか?
古市 よくわかりましたね。(笑) バイクとは書いていないんですけど、イメージはバイクで走っている感じです。「向かい風のせい 涙にじんで」のとこでバイクだって気づいて欲しいなって。(笑)
■今作のアルバムを通してレコーディングで苦労した曲や工夫した曲はありますか?
古市 今作のレコーディングに関してはスムーズ過ぎて一切ストレスはなかったんですよ。ただ今回取り入れたというか、曲を作る時に意識したのが、一筆書きというか、一気にAメロからサビまで書けない曲は全部ボツにしたんです。
■えー!そうなんですか?!
古市 結局はそういう曲がいい曲になるのかなと思って。ぱっと出来た曲がいい曲ってよく聞くから、ぱっと出来た曲以外は今回は入れなかったんです。途中で止まって「さて、どうしよう……?」って曲は、そこで作るのを止めたんです。
■すごくシンプルな発想で作られたんですね。制作はいつ頃からスタートしたんですか?
古市 昨年の12月にリズムを録りましたね。確か2日間で録って、1月からはボーカルを録ったりしたんだけど、それも9日間かな。だから全部で11日間で終わった感じですね。
■すごいですね!
古市 そうですよね。自分もこの仕事をもう30何年間やってきているけど、今までで一番早かったですね。(笑)
■それは本当にすごいです。最初に言ったようにバンドのツアーもあって、書籍の発売もあっての多忙なスケジュールの中で、よく完成できましたよね。
古市 そうなんですよ。それはすごく大変だったんですけど、その方が僕の場合は順調にいくみたいですね。(笑)
■なるほど。気持ちが高ぶっている時の方がいいんですかね?ランナーズハイ的な感じで。(笑) ちなみにインプット的なものは普段からどうやっているんですか?
古市 普段音楽を聴く時は、仕込みという形では聴かないので、日常的にサブスクで新しい曲を聴いたりとか、レコード屋で知らないものを買って聴いたりとかしていますけどね。
■じゃあ割とご自身で曲を作る時は、「こういう感じの曲を取り込んで作ってみよう」とかではなくて、自然と自分の中から出てくるものを形にしていくという作業なんですかね?
古市 そうですね。極端に言うとこの60年生きてきた中で、今作に関しては前作を作った後のこの2年間にスポットを当てて作った感じです。
■この2年間で特に意識して聴いたのではなくて、日常的に聴いていた音楽の中で印象に残っている曲とかはありますか?
古市 なんだろうなぁ……。この2年間は別にアウトプットはしていないけど、日本の古いインストものの曲をよく聴いていたかな。フュージョンとか。自分でもそのうちインストアルバムとか、アルバムの1曲をインストにするとかもやってみたいんだよね。特に夏場によく聴いていた気がするなぁ。高中正義さんのアルバムとかね。
■邦楽の最新曲なんかは聴いたりしませんか?
古市 邦楽の新しいのは全然聴かないですね。古い曲は聴くんだけど。
■それはあえて聴かないようにしているとかですか?
古市 いや、ただ興味がないだけですね。(笑) でも、昨年末の紅白歌合戦でYOASOBIを聴いた時は、「すごい優れているなぁ。なるほどね」と思いましたよ。他のアーティストもたくさんいましたけど、圧倒的だなと思いました。
■5月からはソロバンドツアーが始まりますが、どんなライブになりそうでしょうか?
古市 EX THEATER ROPPONGIでやるライブは、いろいろなゲストが来てくれる盛大なパーティになるので、ゲストで来てくれた方も、お客さんもみんなハッピーになれるような空間にできたらいいなと思います。そのためにも僕が一番楽しまないといけないですね。
■今年もあっという間に1/4が過ぎましたが、今年中にやっておきたいことや、やり遂げたい目標を教えてください。
古市 もう仕事的には年内のスケジュールは決まってしまっているので、ソロでいえばこのアルバムもそうだし、この前本も出したのでそれを広めたいですね。意外と情報ってなかなか伝わらないんだよね。どんだけ一生懸命キャンペーンでアピールしても、「知らなかった」と言われることも多いからさ。(笑) 頑張って伝えていきたいですね。
■古市さんは俳優として演技もやられていますが、昔からやりたかったことの一つだったんですか?
古市 いや、全然ですよ。(笑)
■なにかきっかけがあったんでしょうか?
古市 ある監督が知り合いを通して、「作品にちょっとだけ出てほしい」ってオファーしてきたんです。よくロック好きの監督とかがカメオ的にちょっとミュージシャンを出したりするので、「いいっすよ!」って軽い気持ちで受けたら、台本が送られてきて見てみてびっくり!「えっ!こんなに出るの?嘘でしょ……?」ってくらい台詞があって。それが始まりでしたね。(笑)
■なるほど。(笑) それからいろいろな作品に出てみて、演技の魅力とか楽しさもわかってきた感じですか?
古市 いやぁ、俳優でどうこうしようとは思っていないし、まだ楽しめているところまではいってないですよ。いっぱいいっぱいで。(笑)
■最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
古市 これを読んでくれている人は僕よりきっと若い人が多いと思うから、歳をとっていくということはとても素晴らしいことだとお伝えしたいです。今作のアルバムは『Dance Dance Dance』というタイトルで、この歳でヨボヨボになっていくのではなく、軽やかに飛び立っていきたいという願いが込められているので、「歳とるのは怖くないよ」って教えたいですね。
■確かに還暦を迎えて集大成のアルバムのタイトルが『Dance Dance Dance』って、すごく攻めていますよね。
古市 そうですよね。この歳で酒も弱くなってはいるのかもしれないけど、全然まだまだ思っていたより飲めるし、飯も食えるし、ラーメンや天丼だってね。(笑)
■じゃあ還暦って言っても、全然まだ実感もない感じですか?
古市 どうしても自分が子供の頃の親戚の叔父さんの還暦を思い出すと、「あんなにおじいさんになったの?」って思うけど、実際はそうなんだもんね。もうそこにいるんだと思うと少し怖くはなりますけどね。(笑)
Interview & Text:土谷拓史
PROFILE
THE COLLECTORSのギタリストとして1987年『僕はコレクター』でメジャーデビュー。以来、THE COLLECTORSとして25枚のオリジナルアルバムをリリース。2017年3月1日に行われた初の日本武道館ワンマンライブも大成功を収め、2022年3月13日には2度目となる日本武道館公演『This is Mods』を開催。2023年には2度目となるクアトロマンスリーライブを1年間を通して開催し、全日程ソールドアウト。THE COLLECTORSの活動の傍ら、ソロとしても活動。1992年に1stアルバム『The many moods of KOTARO』をリリースして以来、5枚のアルバムをリリース。また、自身のGSバンド『KOTARO AND THE BIZZERE MEN』、加山雄三率いる『THE King ALL STARS』にギタリストとして参加しており、その他多くのアーティストと共演。近年では俳優としても活動し、NHK朝の連続テレビ小説『ひよっこ』に出演するなど、多岐に渡って活動。2024年5月30日に還暦を迎える。
https://columbia.jp/artist-info/furuichikotaro/
RELEASE
『Dance Dance Dance』

(CD)
CEG-73
¥3,300(tax in)

(LP)
COJA-9508
¥6,600(tax in)
コロムビア
5月15日 ON SALE