2020年最注目女優が歌手デビュー!映画『ラストレター』主題歌に込めた真摯な気持ち
昨年は映画『天気の子』でヒロイン・天野陽菜役の声優に抜擢され、そのほかにも数々の映画やドラマに出演するなど飛躍のときを過ごした森七菜が、1月15日にシングル『カエルノウタ』で歌手デビューを果たす。本作は彼女も出演する1月17日公開の映画『ラストレター』主題歌。原作・脚本・監督を務めた岩井俊二が作詞、劇伴を手掛けた小林武史が作曲という豪華布陣にも目を奪われるが、一聴すれば数秒もしないうちに、憂いを帯びた個性的な歌声に引き込まれるはずだ。「私の歌声は賛否両論なんです」と語る彼女に、歌手としてインタビューさせてもらった。
■『ラストレター』では中学生の颯香役と、その母である裕里の高校生時代の二役を演じていますが、なぜ主題歌まで歌うことになったんですか?
森 私もよくわかってないんです。(笑) たぶんきっかけは岩井さんに歌声を聴いてもらったことだと思うんですけど、撮影中にご飯を食べに行った帰りに、ホテルにくっついているカラオケ屋さんに行ったんですよ。そのとき「私の歌声は賛否両論なんです」と言って歌ったんですけど、岩井さんが「賛だよ!賛!」と言ってくださって。
■それで「主題歌を歌わないか?」と言われたんですか?
森 そういうことを言われたわけではないんです。そのカラオケから1年経った頃に、今回のカップリング曲にも入っている“返事はいらない”を歌ってみてと言われて、次に“カエルノウタ”を渡されて、これも歌ってみてと言われて。よくわからないまま歌っていたら、小林さんと岩井さんが「これ主題歌だからさぁ」と言っているのを聞いて、「え!マジですか!?」って。だから、いつの間にか決まっていて、私も詳しい経緯は知らないんです。
■レコーディングで呼ばれたわけじゃないんですか?
森 小林さんのスタジオで録ったんですけど、なんのために録っているのか、いまいちよくわからずに、あやふやなまま歌っていたんです。まさか主題歌になるとは思っていなかったので、そういう意味では緊張しなくてよかったですけど。(笑)
■そのとき録ったものが音源になったんですか?
森 いちおう改めてレコーディングはしたんですけど、いつのを使っているのか私にはわからないので、そのときの声が使われているかもしれないです。
■そうだったんですね。最初のカラオケでは何を歌ったんですか?
森 “ぼくたちの失敗”を歌いました。
■森田童子さんの?
森 そうです。そのあとに岩井さんから斉藤由貴さんの“卒業”をリクエストされて歌いました。それは直前に斉藤由貴さんと共演させていただいた話をしたから、そういう流れになったんだと思いますけど。
■“ぼくたちの失敗”も、“卒業”も、森さんの世代の曲ではないと思うんですけど、どこで知ったんですか?
森 みんな知っている曲じゃないんですか?
■そんなこともないと思いますけど。(笑)
森 何度もテレビで流れている曲だから、みんな知っているものだと思っていました。でも、“ぼくたちの失敗”は『リップヴァンウィンクルの花嫁』(岩井による小説および映画)にハマっていた時期があって、映画のなかで黒木華さんが歌われていたので、歌ってみました。
■ちなみに普段はどういう音楽を聴いているんですか?
森 昔の曲も聴きますし、KANA-BOONさんとかRADWIMPSさんとか最近の曲も聴きます。カラオケの十八番は“ゲレンデがとけるほど恋したい”です。
■広瀬香美さんの?めちゃくちゃ難しい曲ですよね?
森 はい、難しいです。(笑) でも、歌い上げたときにすっごい気持ちいいんですよ。ひとりでカラオケに行ったときは、だいたい歌いますね。
■それはぜひ聴いてみたいです。もともと歌や楽器の経験はあったんですか?
森 楽器は何個かやっていました。音楽部に入っていたので、ドラムとか、ベースとか。あとピアノも習っていました。でも、全部ちょろちょろくらいで、いまも覚えているものはほとんどなくて。音楽に触れてなかったわけではない、という感じです。
■十分触れてきていると思いますよ。主題歌を歌うと知って、岩井さんや小林さんと何か話したんですか?
森 いや、しなかったです。
■言われるがまま歌って?
森 そうですね。でも、やりたかったので、「やったー!」と思っていました。
■曲についての説明はあったんですか?
森 “カエルノウタ”はけっこう複雑な歌詞だったので、岩井さんに「どういう意味が込められているのでしょうか?」と質問しました。いくつかパターンがあって、ひとつは『ラストレター』的視点。それとカエルが出てくるグリム童話(『かえるの王さま』)があるんですけど、それ的視点。それから社会的視点みたいなものもあって。その3つがあるなかで、やっぱり今回は主題歌なので『ラストレター』的視点で歌いました。
■そんなにいろんな意味が込められた歌詞だったんですね。
森 そうなんです。どの視点からでもうなづける意味がついていて、本当に無限の可能性を秘めた歌を託していただいたんだなと思っています。
■僕は映画を見て、颯香から(母・未咲を亡くした従姉妹の)鮎美への気持ちなのか、裕里から(想いを寄せる)乙坂への気持ちなのかなと思ったんです。
森 歌声的には、颯香を演じる私を選んでもらったので、それを活かせたらいいなとは思っていたんですけど、颯香からの気持ちという感じで歌ったわけではなくて。岩井さん的には、未咲に対する鮎美や乙坂さんからの気持ちを多く書かれていたので、それを誰よりもフラットに見られる立場の私が歌うというか。誰にでも感情移入できるのが私しかいなかったから、岩井さんは私に託してくださったのかなと思います。
■“カエルノウタ”を聴いた人には、どんな感想を言われたらうれしいですか?
森 もっと『ラストレター』が好きになった、と言ってもらえるのがいちばんうれしいです。そのために歌ったところもあるので。この“カエルノウタ”が『ラストレター』の魅力をより深めてくれたらいいなって。それが私の使命なのかなと思います。
■カップリング曲についてもお聞きしたいんですけど、2曲ともカバーですよね。小泉今日子の“あなたに会えてよかった”と、荒井由実の“返事はいらない”。なぜこの2曲が選ばれたんですか?
森 “あなたに会えてよかった”は、たぶん大人たちが話し合って、私に合いそうな曲を選んでくださったんだと思います。“返事はいらない”のほうは、岩井さんが『ラストレター』の執筆中に聴かれていたそうなんです。それを私が歌わせていただきました。
■“あなたに会えてよかった”も小林武史さんが作曲した歌ですけど、どう歌ってほしいと言われたんですか?
森 小林さんや岩井さんから、こうしてほしいとかはなくて。ただ、小泉さんがお父様のことを想って作詞されたそうなので、私もそんな気持ちで歌いたいなと思って、お母さんのこととかを想いながら歌いました。あと、去年も、一昨年も、たくさんの方々に出会って、たくさん密にご一緒させていただいたので、本当にすべての方に向かって歌いました。
■映画のストーリーとも、すごくリンクしている歌だなと思ったんです。映画ができるよりも前の歌だから、そんなわけないんですけど、天国の未咲から乙坂へのアンサーみたいで。
森 確かに。そこもリンクできますよね。「サヨナラさえ 上手に言えなかった」とか。
■僕が勝手に解釈しているだけですけど。
森 でも、そうやって考えてもらうことで曲が完成するというか。考えてもらえなかったり、聴いてもらえなかったりしたら、曲が死んでしまうので、それはすごくうれしいです。
■そう言ってもらえると僕もうれしいです。森さんのバージョンは、小泉さんが歌った原曲よりも、いい意味で少し暗い雰囲気があると思うんです。
森 私の歌声的に、どうしてもそうなっちゃうのかもしれないですね。なかなか明るく歌えないというか、ゆっくりのほうが歌いやすいというか。テンポ自体も原曲より遅くなっていますし。みなさん、小泉さんの“あなたに会えてよかった”の印象が強いと思うので、私なりの“あなたに会えてよかった”を歌うぞとか、小泉さんを超えるぞとか、そんなことは一切考えず、純粋に誰かに向けてのありがとうの気持ちだけなので、比較されるとちょっと辛いです。(笑)