東京初期衝動 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

東京初期衝動『えんど・おぶ・ざ・わーるど』

しーなちゃん(Vo&Gt)、希(まれ)(Gt)、あさか(Ba)、なお(Dr)

丸くなったというか、母性みたいなものが生まれてきた。

「女は女優」という言い方があるけれど、彼女たちの多面性には驚きを超えて、しみじみと感動を覚える。「下北に住んでる男の彼女にこっそりウンコを塗るぜ」(“下北沢性獣襲来”)と毒を吐いたかと思えば、「前髪も気にしないで走った あなたのためだけに」(“マァルイツキ”)とピュアな乙女心を覗かせたりと、ジェットコースター級のエモーションで聴く者を虜にする。
そんなバラエティに富んだ楽曲を収めた東京初期衝動の2ndアルバム『えんど・おぶ・ざ・わーるど』は、パンクもポップもガレージもバラードも飲み込み、抜群のメロディセンスに磨きをかけた最高傑作に仕上がった。 
歯に衣着せぬ最強のフロントガール、しーなちゃん(Vo&Gt)の発言も話題を呼び、何かと誤解を招きそうな危うさを秘めているけれど、それらもすべて個性極まる音楽へと昇華した、無二のカッコ良さなのだ。メンバー4人に話を聞いた。

2021年12月24日のライブ(渋谷チェルシーホテル)

■昨年のクリスマスイブにワクチン接種証明持参、マスク着用の観客のみ限定の通常ライブを決行しましたよね。ああいう形式のライブをやろうと思った経緯から聞いてもいいですか?

しーな 誰もやっていないから、とっととやりたいなと。(笑) 多分、みんなやりづらいだろうけど、私たちなら何をやっても言われないじゃないですか。キャラ的に?

 うん、イメージ的に。

しーな 他のバンドがやっても叩かれそうなことも、私たちがやっても周りは「またか」と思うだけだろうから。

あさか みんな優しいんや。(笑)

■実際に通常ライブをやった感触はどうでしたか?

しーな めっちゃ楽しかった!
 
希 2年前に戻ったみたいで感動しました。始まった瞬間「ワーッ!」とみんなが前に来てくれて、それが嬉しかったです。

あさか 自分がワチャワチャしていたライブにコロナ前はよく行っていたので、自分がステージ側に立ってやるのは経験したことがなかったから。みんな可愛かったです。(笑)

しーな あさかはコロナ禍になってからバンドに入りましたからね。

なお コロナ禍になってできないのはしょうがないと思っていたけど、いざ普通のライブをやったら意外と感動して泣いちゃいました。コロナ禍で何もできないライブは嫌だったんだな、という感情にそこで気づきました。

■なるほど。では今作の話に移りたいんですが、作品をリリースして、東名阪ワンマンツアー3本を終えたばかりです。ライブで新曲をやった感触はいかがですか?

あさか 曲は作ってもライブでどんなノリ方をしてくれるのか、いまいちわからない状態だったけど、1本1本やるうちに「みんなこの曲が好きなんかな?」って。曲が育っているのを実感しました。東京は一番受け入れ体制があった気がしますね。

なお “マァルイツキ”であさかちゃんがダンスの動画を作ったら、みんなもやってくれたから。それは新たな発見でした。

■バンド側から提示すれば、お客さんは反応してくれますからね。

しーな それは思った。ああいうのは楽しいなと。銀杏BOYZのライブに行っていた時、みんな黙って観ている感じだったけど、コロナ禍だからこそ、ああいう盛り上がり方もいいんじゃないかと。こっちのテンションも上がりますからね。あれ(ダンスの振付)、私の元カレが作ったんですよ。

■えっ、そうなんですか?

しーな ほんとに。全裸で踊らせたんですよ。それがメンバーみんなのツボに入って、元カレが全裸で踊ったものをお客さんも踊っているという。笑いが止まらなかったです。(笑)

希 お客さんも楽しそうだけど、新作の曲は自分でも弾いていて楽しい曲が多いですね。今までは速くて、まっすぐみたいな感じだったけど、今回はテンポが変わったりするから、弾いていても楽しいんです。

しーな 私も早く青春パンクから脱却したいと思っていたんで、いいアルバムになったんじゃないかと。トキョショキの新しい感じが開けていけているのかなって。昔からのファンにとっては、それが良いことか悪いことかわからないけど、ずっと同じことをやっていても仕方がないので。トキョショキらしさを残しつつ、新しい何かができていればいいなと。

■まさにトキョショキらしさがありつつ、新しい扉を開いた作品だと思います。「青春パンクから脱却したい」という気持ちはあったんですか?

しーな 青春パンクって括りがダサい。銀杏BOYZ、オナニーマシーンなど、いわゆる青春パンクと言われる音楽を私は青春パンクだとは思っていなくて、素敵な音楽だなって思っているんです。だから私も素敵なポップでパンクでキュートなカテゴリーに入れて欲しいです。

あさか 私は第三者の目線でトキョショキを観ていたことがあるけど、私も青春パンクとは思っていなくて。しーなちゃんが言っていた、銀杏BOYZとか素敵な音楽の一つみたいな。

■今作は前作1stアルバム『SWEET 17 MONSTERS』を超えた素晴らしい作品だと思います。結成から今作まで、すべての要素を網羅した集大成的な一枚に仕上がりましたね。いかがですか?

しーな 1stアルバムはどのバンドも絶対いいじゃないですか。だから、前作に負けずにパンチがあって、でもポップで、音もカッコいい。その3つを揃えて、1stアルバムを超えようという気持ちはありました。

■「1stアルバムに絶対負けたくない」という気持ちは伝わってきました。その上で、新しい要素も盛り込まれたバラエティ感もあります。それは意図的なものですか?結果的にそうなったんですか?

しーな 女って情緒不安定じゃないですか?ホルモンバランス的に。

希 ホルモンバランス的に。(笑)

■それはしーなさん個人のこと?

しーな いや、このバンド全員ですよ。みんなの情緒不安定さが出たのかもしれない。

全員 ははははは。(苦笑)

しーな 今は「ピュアピュアでかわいい曲を作るぞ!」という時もあれば、「アイツらを黙らせろ」(「腐革命前夜」)って不気味なことを言っている曲もあるし。女子しかできないアルバムって感じですね。

■今作を聴いて、1stアルバムと決定的に違うところは、キュートさ、可愛げ、ラブリー感など、女性性がストレートに出てきた部分なんですよ。

しーな そう!多分。“流星”とかもかわいい声で歌いたかったけど、歌えなくて、ちょっと暗い感じの声になったんです。あの時はかわいいものができなかったんですよ。でも今回はかわいいものを作れるようになったというか……それは自分の中の変化ですね。周りにも言われるんですよ、「何か宗教に入った?」、「女の子らしくなったよね?大丈夫?」って。(笑) それは自分でも思いますね、女の子っぽくなったなと。気持ちが悪いんだけど。(笑)

■ええ、それが作品にも如実に出るようになりましたね。

しーな それはメンバー全員だと思う。「ガール」の部分が出てきたから。昔はみんなトゲトゲしていたんですよ。“マァルイツキ”みたいな曲はできなかったし、作れなかった。あさかが入ったことで、尖りがなくなって、女の子女の子するようになったというか。

あさか ははははは。(笑)

しーな 雰囲気が柔らかくなったんです。トキョショキはどなり散らしてばかりだったけど、今回でそれが変われたんじゃないかと。

■今作を聴いた後に過去作を全部聴き返すと、全然違うなと改めて感じました。1stアルバムってこんなに暗かったんだなと。

しーな すごいわかります!でもその暗さがいいと言う人もいますからね。知り合いに言われましたもん、「今は自分のことをすごく可愛いと思っているみたいで、嫌だ!」って。(笑)

■あさかさんが加入して、バンド全体の雰囲気が柔らかくなったのはなぜですか?

しーな あさかが入って、今までしなかった恋バナをするようになりましたね。

あさか ほとんど聞かされているだけですよ。(笑)

しーな 前のメンバーの時は恋バナ禁止みたいな空気があったから。

希 いや、聞かされてたよ。

全員 ははははは。(笑)

しーな ほんとに?あさかが入ってからだと思うな。みんなが恋バナするようになったのは。あさかに負けないように、張り合っているのかな?

あさか 何を?モテを?(笑)

 しーなが「百戦錬磨センパイと呼びなさい」みたいな。「私はモテるぞ!」って。

しーな うん、あさかが入って、女性としてカッコいい部分を見せたいじゃないですか。だから、「百戦錬磨センパイと呼びなさい」と。あさかが入って、トキョショキはほんとに変わりましたね。

なお 丸くなったと思いますね。ヘンな人が寄って来るじゃないですか、くだらないイベンターとか。

■(笑)

なお 昔はそういうものに立ち向かわなきゃいけなかったから。

しーな 確かにね。すっごく気を張っていたと思います。「あたいに触れたらヤケドするよ!」って。