TWEEDEES VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

■“ルーフトップ・ラプソディ”はアルバムの中でも、それこそすごく箱庭感の強い楽曲だと感じました。どんなイメージで制作された楽曲なんですか?

沖井 『国境のエミーリャ』っていうミニアルバムをデジタル配信でリリースしたんですけど、その際に「国境のエミーリャ」の作者の池田先生が書き下ろしてくださったイラストがあって。それはこの曲の配信シングルのジャケットにもなっているんですけど、そのイラストから得た印象を僕が音楽にしてみたっていう。これも頼まれてやったわけじゃなくて、押しかけBGMというか。(笑)

清浦 二次創作。(笑)

沖井 作品では1962年の日本で国境からの脱出みたいなことをやっている子が主人公だったりして、すごくシビアな環境に身をおいている女の子なんだけど、そんな子も普通の社会だったら恋をしたり、おしゃれをしてみたり、ダンスを踊ってみたりっていうのがあるはずなんだよなって思ったら、とても切なくなって。「じゃあもう躍らせてあげよう」って感覚でしたね。箱庭の中の箱庭ですよね。メタ構造です。だから今「すごく箱庭感が強い」っておっしゃっていただけたのは、私的にはよかったって感じです。ありがとうございます。

清浦 「絶対叶わない感じの曲にしたらいいんじゃないか」って言ったのも私なんですけど、ミニアルバムの方で主題歌的なものは作っていたので、“ルーフトップ・ラプソディ”はそれとは別のオムニバスのような感じにしたいなというのはあって。一聴すると夢見がちな女の子の曲に聴こえるし、「国境のエミーリャ」を知っている人が聴いたらすごく切なく感じてもらえるかなと思うので、一度に二度美味しい構造にはなっているんじゃないかなと。それは狙って書きました。

■「ユーレイデコ」のコラボソング“meta meta love”も収録されていますね。コラボソングなどはアルバムに入ることによって聴こえ方が変わったりもしますか?

沖井 どの曲もそうですね。それがアルバムの魔法だと僕は思うんですけど。“meta meta love”は番組の方から「コラボソングを書いてくれ」とお願いされたんですが、そのオーダーが「後期YMOの感じでお願いします」っていう直球のもので。YMOは大好きだからこそ難しいなと思ったんですが、非常に楽しく書かせていただきましたね。

清浦 サウンド的にはTWEEDEESとしても新境地になったと思っていて。かなりアルバムの中で粒立っていますよね。

沖井 僕はこの曲に関しては、新境地っていうのは自分ではわからなくて。

清浦 沖井さんはそもそもYMO大好きだし、当たり前のように自分のエッセンスの中に混ざっていると思うんですけど、いざアウトプットでこういうアプローチをしようっていうのはなかったんじゃないかな。少なくともTWEEDEESではなかった。

沖井 まぁ作編曲やっている人はなかなか「YMOっぽい曲を」って言われなきゃ、やろうと思わないじゃないですか。今この人が言ったように、自分の中にはブリティッシュロックとかソウルとかジャズとかYMOとか、いろいろな要素がまぜこぜになっているなと思うんですよ。それが後期YMOって声をかけていただいたおかげで、遠心分離機にかけられて抽出されたような気分ですね。

清浦 なんかもっといろいろ沖井さんに投げた方がいいんだなって気付きました。全然違う角度からこういうお題を出されると、こんなものが生まれてくるんだなって。

沖井 YMOって3人だから3声までしか重ねていないんですよ。だからこれもコーラスは3声で。多分4声とかにしていたらYMOぽくならないんですよね。みたいな感じで、制作は楽しかったです。(笑) これはマネージャーづてに聞いたんですけど、この曲を聴いたクラムボンのミトくんが「YMOじゃん」って言っていたって。(笑) 「そうなんだよ、よかった」って思いました。

清浦 いいんですか、それ。(笑) 

■(笑) “Day Dream”は先ほどシリアスさのある楽曲として挙げられていましたが、どんな制作だったんですか?

沖井 この曲、実は僕が書いたまったく別の歌詞があって。どっちが書くかじゃんけんしたりしたんですよね。(笑) じゃんけんで僕が勝ったにもかかわらず、この人の歌詞になったんですよ。「歌うのは私だ」と言われたら何も言えない。なので、歌詞に関しては僕は何も言えないですね。(笑) 曲に関して言うと、これはコロナがなければ多分できなかったと思います。さっきこの人が「沖井さんがこの3年暗い曲ばっかり書いていた」みたいなことを言っていましたけど、暗いというより、「シリアスかもしれないけれど強いものを書きたい」っていう気持ちはあって。ちゃんと自分でも大事に思っていけるような曲を書きたいなっていう、七転八倒はこの3年くらいあったんです。だからこの曲は結構作るのに時間がかかりましたね。曲のメロディーの組み立てだけに1年くらいかかっています。

清浦 最初に聴かされた時から、忘れていたくらい温められていた印象はありましたよね。(笑)

沖井 僕は最初からこの曲は絶対にアルバムに入れるべきだと思っていたから、「どの曲をやろうと思っているんだ」って聞かれた時に、「この曲は絶対入れる」って伝えたら「それどの曲?」みたいな。こんなに頑張って作っているのに……。(笑) 

清浦 沖井さんの中ではいろいろ考えたことがあったんでしょうけど、忘れた頃に「ぽっ」と出てきて、戸惑っていたところはありました。(笑) 本当にいい曲が今年の夏くらいにできて、「これは絶対に歌詞を書きたい」っていうのは、お互いに思っていて。2人しかいないのにメンバー内でコンペしてね。

沖井 全然コンペになってないよ……。(笑)

清浦 まぁ私が強奪しての作詞だったわけなんですけどね。(笑) でも素直な歌詞をはめたいなっていう気持ちもあったし、アルバム制作の最後の方で出来た曲でもあったので、普段は小難しいことを書きたがるひねくれた部分も多分にある2人ではありますが、ちゃんと素直に伝えられる歌詞になったんじゃないかなと思っています。

■そして最後の楽曲“Hello Hello”は他の曲よりも短くてコンパクトな楽曲ですよね。

沖井 この曲はお散歩がテーマになっているんですけど、お散歩をしていたら浮かんできたっていう感じです。元になるアイデアができたのは2年ぐらい前かもしれません。コロナのロックダウンで本当に散歩ぐらいしかできない時期があって、でもその時は春でぽかぽかしてきていたんですよ。まだマスクをしていない子供とかも時々公園にいたりして。そういうのって、コロナとか関係ない、あるべき日常の温かみじゃないですか。それを見て「いいなぁ」っていうのがそのまま「Hello, Hello」の歌詞と一緒にメロディーが出てきた感じです。ただ、僕はBメロを作るのが大変苦手で、これもBメロで苦労しまして。1回つまずくと作曲って結構大変で、Bメロを30も40も50も作るみたいな作業になったんです。それでもやっと納得がいくものができたのが今年の春だったかな。それでこの人に投げてみたら、僕が思い描いた情景とほぼ同じものを出してきてくださったので。

清浦 ここの歌詞は決め打ちで「Hello Helloがいい」っていう話もあったりしたので、そういうところを汲み取りながらでした。

■サードアルバムの時はすごくたくさん曲を作って、そこから10曲を選んだというお話も読みましたが、今回もそういう感じだったんですか?

沖井 今回もそこは何一つ変わっていないです。でもアルバムを出していない4年間で発表した曲が何曲もあって、それは4枚目のアルバムに入れようって思っていたので、「それをアルバムの中でどう配置して形にしていくか」っていうパズルの組み方が、いつもとは違ったのかなと思います。

清浦 そうですね。今まではアルバムのためにアルバムの曲を作っていたので。

沖井 Cymbalsの頃とかは、アルバムとアルバムの間にミニアルバムとか、マキシシングルを出して、「それもアルバムに入れてくださいね」とか言われたりもしていましたけど、「そういう風に作っていたんだよな」って思い出すところがあったのかもしれないですね。今までのTWEEDEESは、あんまりシングルは出してこなかったし、アルバムからシングルカットっていう感じだったので。でも今回「みんなアルバムってこういう風に作っているんだよな」と思いましたね。(笑) ただ出来上がったアルバムを聴き直して、既発曲がたくさん入っているからこそ、今までとは違った面白みがあるなって。まさにビートルズの『マジカル・ミステリー・ツアー』だなって思ったんですよ。あのアルバムも既発曲の集まりだったりするんですけど、そういうことかと。アルバム向けの曲だけで構成しようと思ったら、ああはならないよなって。アルバム向けの曲だけで作ったのが『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』だったりとかしたわけで。『サージェント・ペパーズ〜』ももちろんものすごいアルバムだけど、同じくらい僕は『マジカル・ミステリー・ツアー』が大好きなんですよ。期せずしてTWEEDEESにとっての『マジカル・ミステリー・ツアー』を作っているなって思いましたね。

清浦 いやぁ、でかいこと言っていますけど……。言ってることは分かるけど、よく自分の作品を『マジカル・ミステリー・ツアー』だなんて……。(笑)

沖井 そういう一般論ができてしまうぐらい、意味合いがはっきりしているというね。どうしてもビートルズ好き、YMO好きっていうのは、自分の作品をビートルズやYMOの歴史になぞらえてしまいますよね。(笑) なぞらえやすいストーリーになっているグループだから。

■清浦さんはこのアルバムはどういうものになったと感じていますか?

清浦 そうですね。今回はいろんなきっかけをいただいてできたアルバムだと思っているので、それがどう受け取られるのか、最初はちょっと心配もしていたんですよね。「TWEEDEESの色が薄まっているんじゃないか」とか。沖井さんはお題を出されたら喜んでやるから、どこまででも行けちゃうわけですよね、染まり方という意味では。でもこの手法で自分たちがやっている音楽って、どこで何をやっても強固なものではあるんだろうなと思って。私が歌って沖井さんが曲を作れば、結構どこにでも行けるんだなっていうのに気づけましたね。

沖井 例えば“meta meta love”とか、YMOっていうオーダーでも「YMOを取り入れたTWEEDEES」っていう枠からは、絶対に出ないようには気をつけたんですよ。メロディーとかは実は全くYMOじゃない。これをやったらTWEEDEESではなくなるという見えない線がどこかに絶対あって、それを飛び越えないようにっていうのは考えていました。TWEEDEESみたいじゃない曲っていうのも、多分我々2人でできるんですよね、おそらく。でもTWEEDEESというものがあって、それがわかっているからこそ我々2人がTWEEDEESを作れる。その領域っていうのはこういう風に広がることができるんだっていうのを表してくれたのが、今回の作品だなって思います。「大変に苦しみましたけどいい経験でした」って言えちゃう感じです。

Interview & Text:村上麗奈

PROFILE
清浦夏実と沖井礼二によるポップ・グループ。2015年結成。2015年3月18日、日本コロムビアより1stアルバム『The Sound Sounds.』リリース。同年11月3日、1stシングル『Winterʼs Day』をTOWER RECORDよりアナログ盤7インチ、日本コロムビアより配信でリリース。2016年7月20日、日本コロムビアより2ndアルバム『The Second Time Around』リリース。2017年6 月21日、ミニアルバム『à la mode』リリース。2018年10月、3rdアルバム『DELICIOUS.』リリース。小学館ゲッサン連載『国境のエミーリャ』(作 池田邦彦)にTWEEDEESが登場したことを記念し、同作からインスパイアを受け書き下ろした新曲を含む『境界線上に吹く風』e.p.を2021年8月12日に配信リリース。同年12月10日、ミニアルバム『国境のエミーリャ』配信リリース。高い音楽性とファッション性を持ちつつ等身大のフレンドリーなキャラクターで臨むステージングのライブにも定評がある。様々な面でポップス/ロックの「王道」を貫くTWEEDEESは世代を超えて時代の潮目となりつつある。
http://www.tweedees.tokyo/

RELEASE
『World Record』

【CD】
COCP-41930
¥3,300(tax in)

【LP】
COJA-9477
¥4,620(tax in)

日本コロムビア
12月3日 ON SALE