■そういった興奮する経験も音楽活動に活かされていくのかもしれないですね。『TOKYO HOLI』で初披露された新曲“何様のラプソディ”についてもお話を伺えればと思います。これはどんな経緯で作られた曲なんですか?
玉屋 どういう経緯だったっけ?(笑)
∴560∵ リリースするために作ったんだよね。3人体制になるタイミングで、「これからWiennersはどういう曲をやっていきたいか」みたいなところを話し合ったりしていて。そこで原点回帰というと大げさですけど、自分たちが持っていた初期衝動みたいなものに改めて注目したいという話があったんです。同時に、今だからできるアプローチもあるという話にもなって、その2つはポイントとしてあったと思います。
玉屋 あと原点回帰で言うと、早くて短くてすぐ終わっちゃう曲が俺らの必殺技みたいに思われつつあるんですけど、自分の中では逆なんです。今までAメロ、Bメロ、サビがあって、サビが3回くらいあって、なんなら落ちサビまである曲をやっていたWiennersの方が異常だったというか。早くて短い曲の方が、自分の中に当たり前にある血なんですよね。なので、当たり前だったものに戻った感じがあって。「ちゃんと曲にしなきゃいけない」っていう気持ちを取っ払って、自分の100%を発揮できることに全振りした方がいいと思ったんです。それこそ新しい体制になった時のこれからの話の中で、「自分たちの良さってなんだろう?」という話になった時、当たり前に俺たちが作ってきたファストコアやショートチューンだったら絶対に負けないだろうっていう感覚もありましたし。
■玉屋さんは楽曲提供も多く行っていますし、セオリー通りに作る経験を一通り積んだことで、自分のやりたいことや、得意なことがより鮮明に見えてきたというのもあるのでしょうか?
玉屋 そうですね。その経験があったからこそ原点に戻ってこれたんだと思います。同じことばかりをやっていても、深くはなっていかないと思うんですけど、ある程度セオリーを知った上で、「自分たちはこれだよね」って知ることができたというか。あと自分はお題を出されてそれに応えるのがめちゃくちゃ好きなんですよ。だから楽曲提供がすごく面白くて。逆にバンドで好きなことをやっていいって言われると、昔は何をしたらいいか分からなくなっていたんですよね。やりたいことが多すぎて、何も形にならないというか。でも楽曲提供であったり、いろんな経験を積んで帰ってきたら、自分のやりたいことを「パッ」と出せるようになっていたという。それも今回戻ってこれた理由だったのかなと思います。
■歌詞についてはいかがでしょうか?こちらも行き詰まることなく書いていったのでしょうか?
玉屋 そうですね。ずっと疑問なんですよ、誰かしらがずっと不幸じゃないですか。当たり前なんですけど。それが腹立つなと思うんですよね。ただ、ロシアとウクライナだったり、パレスチナだったり、いろいろなことがありますけど、そういうことを曲にするつもりもないんです。戦争する奴が悪いのか、自分の国を守る奴が悪いのか、とかじゃなくて、「そもそも俺は神様にこんだけ祈っているのに、これはないっしょ……」みたいな。半分冗談めかしているというか。やり場のない怒りがあるから、一個サンドバッグを作ったっていう感じですね。そんなサンドバッグがあったら、きっとみんなも殴ってくれるんじゃないかと思ったし、自分も殴りたいし。あとは「馬鹿」とか「ふざけんな」って、まだ言いたい。(笑) 「もう大人だし、そんなこと言ってないで……」とかじゃなくて、「まだ俺そういうこと言っていたい」みたいな気持ちにも素直になれた曲ですね。(笑)
■ある意味世界平和とも言い換えられるようなテーマを、こういったキャッチーな言葉や言い回しで曲にしているのは、やはりWiennersの凄さだなと思います。
玉屋 これをシリアスにやったら、誰も殴らないと思うんですよね。「そうだよね……」みたいな、神妙な感じで終わっちゃうと思う。そのバランスをすごく考えました。Wiennersでいろんな曲を作るようになって、真面目になりすぎると急にスケールが小さくなるような気がするというのを学んだんです。それに内容としては、本当に思ってることだし、本当にみんなに幸せになってほしいけど、世界平和を真面目に歌うんだったら、俺らよりももっと世界平和について深く考えている人たちがいるんですよ。だから、俺らはそれをある種映画みたいに見せたいというか。もちろん俺らが思っていることではあるんですけど、メッセージをメッセージとして出すんじゃなくて、フィクション作品として出すっていう感覚はすごくありますね。
■曲のメッセージと少し距離を置いて作品として作るというのは、それこそ楽曲提供とも似ているものがあるのかもしれないですね。
玉屋 そのノウハウは楽曲提供で学んだかもしれないです。言いたいことを伝えるのに、どう出すのが一番効果的なのかを考えられるようになったというか。今まではボールを投げるところまでしか想像ができなかったんですけど、誰かがキャッチした時にそのボールをどう見るかというところまで考えられるようになったのは、いろんな人の曲を作るようになったのが大きいかもしれないです。
■お二人はこの楽曲を最初に聴いた時や、歌詞を見た時、どんなことを感じましたか?
∴560∵ メッセージがどうというよりも、まずはサウンド面であったり、アレンジのアプローチについて「一周周って戻ってきたな」とは思いました。ずっと「違う展開に進んでいく曲をやっていこう」というのは自分からも言っていたし、シンプルにアガるなと思いました。バンドとしては、メンバーが抜けて久しぶりに出す曲であるということももちろん考えていたんです。Wiennersの曲を待ってくれている人たちにとっては期待するタイミングだと思うし、ファンとしては「この先のWiennersはどうなっていくんだろう?」って、不安になるくらいの人もいるかもしれない。次に出す曲はそういうものだと思っていたので、強いものを届けたいと思ったし、そう思っていたところにこの曲はすごくグッときましたね。
アサミサエ ほんとシンプルに、やっぱこの人(玉屋)天才なんだなって思いました。
玉屋 Wiennersっていつもそうなんですけど、平たく言うと曲で取り上げるテーマは何でもいいんですよ。バンドとして伝えたいことって特になくて、我々は音楽をやりたいだけなんです。何かを言いたいから曲を作るんじゃなくて、その曲をより強くするために自分のストックの中の思っていることを当てはめるっていう順序なんですよね。待っている人にどんなメッセージを届けるかよりも、どんな音を届けるかっていう。そっちの話をよくしていました。歌詞の話はしてないよね?
∴560∵ そうですね。ぶっちゃけ歌詞は「作った」って言って届いたもので聴いていたし、「こういうことを歌いたいんだ」みたいな説明も一切なく。(笑)
玉屋 大切なのはサウンドだし、「歌詞は書いてあるまんまですよ」っていう。でも歌詞を書くにあたってすごく気を付けているのは、メンバーが「そんなこと思ってねえよ」っていう状態にならないようにすること。それはバンドでやる上ですごく気を付けていますね。
■先ほども原点回帰という言葉も出ましたが、演奏面で原点回帰をした点や、逆に新しく取り入れた試みなどはありましたか?
∴560∵ 演奏面で言うと逆かもしれないです。というのは、演奏面の話をしたら原点は本当に空っぽすぎたので、そこはこの15年の経験をちゃんと活かせたかなと。(笑) 今年に入ってからWiennersの古い曲を改めて演奏し直してみたりしたんですけど、めちゃくちゃなことをしていたんだなと思って。(笑) そのめちゃくちゃさは面白かったと思うんですけど、今回はこれまでの経験を活かせたのかなと思います。
玉屋 そうですね。演奏に関してはそこまでこだわりはなかったですね。演奏よりも、どちらかというと曲を作る段階でのハーモニーであったりの方がこだわっていて。例えばサビは超王道のカノン進行なんですけど、テンションコードを入れていて、普通のカノン進行にはない響きを入れていたり、Aメロの叫んでいるところも、普通はパワーコードにしがちだと思うんですけど、ちゃんとこのコード進行でハーモニーも聴かせているっていう。そういうやるのは俺らしかいないっていう自負はあります。
■2曲目の“SUPER FUTURE”は、既存曲“FUTURE”のリミックスという形になるのでしょうか?
玉屋 なんなんですかね、これ。(笑)
∴560∵ リアレンジって言うんですかね。特に「こういうのをやろう」という話題になったわけではなく、特にリリースにも関係なく、「こんなのもやってます」みたいな感じで共有されたんですよね。(笑)
玉屋 打ち込みを覚えていくうちに、この曲を思いっきりディスコとかクラブサウンドにしたら、当時やろうとしたこととはまた別のアプローチになるんじゃないかと思って。今回の“SUPER FUTURE”は、昔の自分が作りたかったデモをちゃんと作ったらこうなったっていう感じですかね。バンドにドラマーがいないというのも相まって、いずれそういう状況のライブもあるかもしれないという想定で、「音源を先に作っておこう」みたいなノリというか。(笑) 今はあまりなくなりましたけど、昔は曲を作る時に何パターンも作っていたんです。それのもう一個のバージョンみたいな感じですかね。
■リリースされたもののリアレンジというよりは、デモの違うバージョンみたいな?
玉屋 そうですね。
■以前リミックスアルバムをリリースされた時は、曲名は「~Ver.」という形になっていたと思いますが、今回曲名ごと変えたのにはなにか理由があったのでしょうか?
玉屋 「SUPER」ってただ言いたかったんだろうな。(笑) これ、誰が言い始めたんだっけ?
∴560∵ あなたです!(笑)
玉屋 そうなんだ。
■(笑) 6月からはツアーが始まりますが、それに向けての意気込みなどを聞かせてください。
∴560∵ 久々にツアーできるのが楽しみですね。『TOKYO HOLI』は、好奇心から来るトライがたくさんあったので、そこでの予想以上だった手応えを持って全国に行きたいです。

アサミサエ 今回のツアーは“何様のラプソディ”による何様大行進ということで、なんか意外とみんな知らないと思うんですけど、神様って大きな声じゃないとやっぱ願い事も届かないんですよね。私は結構本気で切羽詰まった時は大きな声で神様にお願いするんですよ、天に向かって。それでなんとかなった経験が2回くらいあるんで。でも1人じゃ恥ずかしいじゃないですか。「神様ーっっ!!」とか言うの。だから今回のツアーでは、日々みんなの中に沸々と湧き出る願望を掲げ、みんなで大きな声で天高く歌い、叫び、そして晴れてみんなで幸せになりたいと思います。絶対になる。幸せに。
玉屋 まだ他人ごとですね。(笑) それこそシングルを出して、それを引っ提げてツアーをやるって、ある意味当たり前のルーティンじゃないですか。この前インドに行った時、同じ環境にずっといると考え方や行動の癖って知らないうちについているなと思ったんですよ。たった10日間でしたけど、当たり前だった、反射的な考え方の癖がなくなった気がして。入ってくる言葉も音も何もかもが違う分、考える癖も出てくるものも違うというか。なので、ツアーに対する考えも今は少し違っているんです。いい意味でひとつのライブが何個もあるみたいな感じになっている。今までそんなことはなかったんですけどね。でももう日本に戻って来て10日以上経っているので、多分また日本の癖になっちゃっているとは思うんですけど、でも違う癖で考えられた10日間があるだけで、考え方は変わってくるんだなと思いました。
■その10日間の経験があることによって、ライブの細かい部分や演奏の仕方にも変化が出てくるかもしれないですよね。
玉屋 そうですね。なので、3月にイベントをやって、3月末にお休みをいただいてインドに行くっていうのは、これから毎年やっていこうかなと。このツアーではインドの素晴らしさをお伝えできたら……。(笑)

■ツアーの趣旨が変わりましたね。(笑) 今のバンドのモードとしては、これからライブをガンガンやっていくという心意気ですか?
玉屋 そうですね。メンバー編成が変わったりしたことで、今後どうやっていくかは不透明な部分もあったんですけど、それがいろいろとまとまってきたなという感覚はあります。方向は定まっていると思っています。
Interview & Text:村上麗奈
PROFILE
2008 年、吉祥寺弁天通りにて結成。予測不可能な展開、奇想天外かつキャッチーなメロディーに人懐っこい男女ツインボーカル絡み合う、類を見ない独自の音楽で、子供から大人まで聴くもの全ての喜・怒・哀・楽を電撃的にロックする銀河系パンクバンド。2020年5月にアルバム『BURST POP ISLAND』をリリースし、日本コムビアよりメジャー進出。2021年10月「FACITON」(フジテレビ系 TV アニメ「デジモンゴーストゲーム」オープニング主題歌)を配信リリースし、東名阪ツアー『Welcome to the FACTION』を敢行。2022年6月8日に「SHINOBI TOP SECRET」(テレビ東京系テレビアニメ「ニンジャラ」エンディング主題歌)を配信リリース。7月20日に約2年ぶりとなるフルアルバム『TREASURE』を発売、7月26日より全国20箇所の2マンツアー「TREASURE TOUR 2022」を開催。2023年7月12日『TOP SPEED』(フジテレビ系 TV アニメ「逃走中 グレートミッション」エンディング主題歌)を配信リリース。2023年8月3日(木)にZepp Shinjuku にて過去最大キャパでのワンマンマンライブを実施。2024年3月21日(木)に渋谷WWWにてワンマンライブを開催。5月8日にデジタルシングル『何様のラプソディ』をリリースし、6月3日より全国ツアー『何様大行進2024』を敢行する。
Official HP:https://wienners.net
Twitter:https://twitter.com/wienners_wns
Instagram:https://www.instagram.com/wienners_official/
YouTube:https://www.youtube.com/Wienners_c
RELEASE
『何様のラプソディ』

デジタル配信シングル
http://wienners.lnk.to/rhapsody
日本コロムビア / No Big Deal Records
5月8日 ON SALE
LIVE
Wienners『何様大行進2024』
2024年6月03日(月) 下北沢SHELTER
2024年6月09日(日) 札幌SPiCE
2024年6月15日(土) 仙台 enn 3rd
2024年6月20日(木) 福岡LIVE HOUSE Op’s
2024年6月21日(金) 広島SECOND CRUTCH
2024年6月27日(木) 池下CLUB UPSET
2024年6月28日(金) 心斎橋LIVE HOUSE ANIMA
2024年7月04日(木) Spotify O-WEST