vistlip ONE MAN TOUR [Ship of Theseus]ライブレポート@Zepp Shinjuku

vistlipが航海を繰り広げながら完成させた “テセウスの船”の答え――「どんな悲しみが襲ってきてもvistlipが、俺が、ちゃんと幸せに書き換えてみせる」

2025年、vistlipは1月8日にリリースしたアルバム『THESEUS』を前途洋洋たるファクターとしてスタートを切った。そのファーストアクションとして行ったのが、ONE MAN TOUR [Ship of Theseus]。愛知~大阪公演を経て、1月18日にZepp Shinjukuへと辿り着いた。“テセウスの船”という名のパラドックスに準えた、vistlipのアイデンティティに問いかける旅。先2公演を通し、進化という形で少しずつ新たなパーツに置き換えながら進んできたことが垣間見られるこの“船”は、着実に完成に向かっているようだった。

”Port Dorothy”(SE)が流れだし、波打ち際を映していた映像はやがて甲板の先端を映し出した。そこへメンバーが1人ずつ乗船するように登場すると、ぐんぐんと風を切りながら進んでいくような“Mary Celeste”で「君」と「僕」が共に生きるための航海が始まった。背景には大きなビジョン、そして舵や錨、ロープや流木などで装飾されたステージをフレームにして繰り広げられるライブは、実にシアトリカル。しかしそれが現実味を帯びているのは、クリエイティブなアートワークを駆使したものではなく、自然の情景を映し出していた演出効果ゆえ。しかし、オープニングの晴れやかな展望から転じて“Dolly”、“Candy Sculpture”と続けば、ソリッドさに比例して陰りを見せるリアルへと一気に視界を向けはじめ、『EVE』にかけて会場は徐々に熱を帯びていった。「[Ship of Theseus]へ、ようこそ。――3本しかなかったけど、すごくいいツアーになったな、と。それが今日、確信に変わるんじゃないかと思っているので、最後までよろしくお願いします。今日を最高に楽しんでいきましょう。[智(Vo)]」ここから深部へと迫っていくようにして続いたのは、まさしく「人間」を主軸としたドラマ。

海(Gt)のアコースティックギターがスパニッシュ感を強める“Fairy God Mother”では、灰かぶりをモチーフとして自身の可能性を輝かせるチャンスを掴むための力を促す。その焦燥感は“the wonderland from LAB.”や“Which-Hunt”で見事なまでのアグレッシブさへと変換され、そのフロアの情景を見渡しながら智は壮観と言わんばかりの不敵な笑い声を発していた。「このツアー、いろんな曲をやってきましたけど……“ここ”は、どこでしょう?」と問いかけ、新宿の街並みを闇を纏ったベクトルで描いた“BLACK-TAIL”へ。さらに“Matrioshka”ではビジョンに映し出された新宿の街並みが行き交う人々のあらゆる「顔」を思い起こさせ、漂うやるせなさを智が吹くハーモニカの音色がさらに助長させた。“DIGEST -Independent Blue Film-”の疾走感が痛快ながらも、暗転からじっくりとスタートさせた“Fafrotzkies”の浮遊感に合わせて、客席に広がるスマートホンの灯りが幻想的な空気を生み出していく。そこから目覚めへと繋いだ“REM SLEEP”、彩りを纏っていく“Invisible”へとシリアスな気分が浮上していく展開も心地よい。そうさせるのは楽曲の特性だけではなく、この日の演奏からより強く感じられた臨場感でもあった。

Yuh(Gt)の味のある抜群なクリーンギターが炸裂した“REM SLEEP”、“Invisible”といった曲でもそれを感じられたのはもちろんのこと、バンドサウンドがよりダイレクトに感じられたアルバム『THESEUS』の楽曲を披露するにあたり、Tohya(Dr)の体を跳ね上げるようなドラムと瑠伊(Ba)の優しさの中に頼もしさすら感じさせるベースとがバンドの根幹を支える役目を十二分に担っていたことも特筆しておきたいところ。そして、ミクスチャーロックを最新の形で極めたといわんばかりの、vistlipの確実な武器である“Ceremony”からいよいよ“THESEUS”の物語はクライマックスへと突入していった。“HEART ch.”で瑠伊がYuhの元に笑顔で絡みに行くラフな一面もありながら、勢いを持って白熱していく終盤に一際突き刺さるものを感じられた“B.N.S.”。その理由は、この曲に込められた「嘘と矛盾」、つまり『THESEUS』の根源となるものがより鮮明に表現されていたからだろう。アッパーな”SIREN”を通して、“Parallax Pancakes”が内包するvistlipらしさ、さらにメンバーの個性的なプレイをありのままに形にしながらラストへと進めていく。

ビジョンに映し出された幻想的な街と港もだんだんと遠のいていく……すると“左目から零れ落ちる涙。”に合わせてエンドロールが流れ出す中、智は静かに口を開いた。「『THESEUS』を書いたきっかけの1つはファンの「痛み」だったりするんだけど、どんな悲しみが襲ってきてもvistlipが、俺が、ちゃんと幸せに書き換えてみせるので。これからも、vistlipをよろしくお願いします。本当ベタでダサいんだけど、この船を降りたくないから、みんなと乗っていたいから、俺たちはこうやって曲で示すしかないけど。俺たちのことを支えてくれると幸せが待っています、今思ってるそんな気持ちを……」こうして始まったのは、なんと「左目から零れ落ちる涙は悲しい涙」という一説を用いながら、先程智が言葉にしたことを歌詞に綴り、歌をプラスした“左目から零れ落ちる涙。”だった。アルバム収録時はインストゥルメンタルだったこの曲を、『THESEUS』を通じて伝えるべき1つの答えをこの場で完成させるためのエレメンツとしてサプライズ披露したのである。航海中に目にしたものは、果たして絶景ばかりだっただろうか? 希望を持って臨んだ航海も、時には現実に起こる出来事にその希望をズタズタにされることもあるかもしれない。その中で「船長」である智が乗組員たちに愛情の裏返しという手法をもって伝えたかったことはきっと、自分自身の中にある生命の火を絶やさないための、ほんの少しの生きる希望だったのだ。本編でアルバム『THESEUS』の世界に没入させたことに加え、このツアーのファイナル公演における見どころとしてかねてより囁かれていたのが、1月に誕生日を迎えたセンターライン(智&Tohya)のバースデーを祝うことだった。

アンコールで起こったそれは、見事に今回も期待を裏切らなかった……!まず、「ザ・マトリョーシカズ」(Vo.海 / Gt.Yuh / Ba.瑠伊 / Dr.三好氏)が余興としてアコースティックバージョンの“Matrioshka”を披露。「宴会芸が終わって、もっとすごい宴会芸がはじまるので(笑)」と十分に温められたステージで繰り広げたのは智とTohya……いや、とー子による恋愛劇。2010年頃の「びすとり学園」の映像を駆使したモノローグに続き、智ととー子によるオリジナルデュエットソング“ココロモトカノ”を披露したあと復縁を果たすという、とにかくトンデモ展開な一幕。(笑) 本編中とのギャップは大いにあったが、これも(これが)vistlipでもある。こうして、先ほどの映像にあった尖っていた頃を振り返り、「大人になった僕たちがこの場を盛り上げてあげよう!」と“DANCE IN THE DARK”と“偽善MASTER”を、さらにダブルアンコールに応えて“LION HEART”を披露してすべてのメニューが終了したのであった。終演後、毎年恒例の記念日ライブを七夕(7月7日)にZepp DiverCityにて開催することと、それまでのライブスケジュールが一挙に公開された。ステージの去り際に智が残した「絶対に、また会おうな」の約束は、そう遠くない未来で叶えられることとなる。

昨年に負けず劣らず、2025年も多くのライブを通して本質を変えることなく変わっていく自分たちの姿を知らしめていくことになるだろう。vistlipの「テセウスの船」において入れ替わる部品を例えるならば、アルバム『THESEUS』に収録されていたメンバーの個性を活かした曲だったといえよう。そして、今ツアー中にそれと合わせて披露したのは、曲の親和性からセレクトされたあらゆる年代の曲たち。これらが共存しても、十分に手応えを持って受け止めることができる。……ということは、このvistlipの「テセウスの船」における定義として大事なのは、その舵を取る者と、パーツの補填を「誰が」担うのかということ。それがvistlipである以上、vistlip以外の何者にもなり得ない。バンドにとって、これ以上に最強の唯一無二であれる答えが他にあるだろうか。そう強く感じさせてくれたのは、紛れもなくvistlipと船に乗り合わせていたすべての人たちだった。

Text:平井綾子
Photo:西槇太一

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vistlip ONE MAN TOUR [Ship of Theseus]@Zepp Shinjuku セットリスト
01. Port Dorothy(SE)
02. Mary Celeste
03. Dolly
04. Candy Sculpture
05. EVE
06. Fairy God Mother
07. the wonderland from LAB.
08. Which-Hunt
09. BLACK-TAIL
10. Matrioshka
11. DIGEST -Independent Blue Film-
12. Fafrotzkies
13. REM SLEEP
14. Invisible
15. Ceremony
16. HEART ch.
17. B.N.S.
18. SIREN
19. Parallax Pancakes
20. 左目から零れ落ちる涙。
センターライン(智&Tohya)コーナー

ENCORE
01. DANCE IN THE DARK
02. 偽善MASTER

W ENCORE
01. LION HEART

LIVE
■-vistlip ONE MAN LIVE [20250317]-
2025年3月17日(月) Spotify O-WEST
チケット料金:6,500円(税込・ドリンク代別途)
◇V.I.P. LiSTチケット先行予約受付
受付期間:2025年1月18日(土)21:00~2025年1月28日(火)23:59
詳細・受付URL:https://www.vistlip.net/posts/pages/ahlixy
◇MEMBERS LiSTチケット先行予約受付
受付期間:2025年2月8日(土)12:00~2025年2月12日(水)23:59
詳細・受付URL:https://www.vistlip.com/posts/pages/teiwky
◇一般発売:2025年2月22日(土)10:00〜
■以下公演の詳細は、後日発表
2025年4月14日(月) SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
2025年4月15日(火) SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
2025年5月14日(水) Spotify O-WEST
2025年5月15日(木) Spotify O-WEST
2025年6月3日(火) 名古屋 ElectricLadyLand
2025年6月4日(水) 名古屋 ElectricLadyLand
2025年6月7日(土) ESAKA MUSE
2025年6月8日(日) ESAKA MUSE
2025年6月16日(月) Spotify O-WEST
-vistlip 18th Anniversary ONE MAN LIVE-
2025年7月7日(月) Zepp DiverCity